StudyMed医師国家試験

痛む眼、痛まない眼―知覚神経の地図で解く眼疾患の見分け方

第100回医師国家試験 G問題 第77問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第77問

眼痛を伴うのはどれか。

  1. a.結膜下出血
  2. b.虹彩毛様体炎
  3. c.硝子体出血
  4. d.裂孔原性網膜剝離
  5. e.網膜中心動脈閉塞症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、眼の病気を「痛みがあるかどうか」で整理できるかを問う問題だ。丸暗記に頼らず、眼のどこに痛みを感じる神経が通っているかという解剖から考えると、一気に見通しがよくなるよ。
医学生医学生
眼の知覚は三叉神経の第1枝、眼神経でしたよね。解剖学の講義で覚えました。
ドクタードクター
その通り。眼神経の知覚枝は角膜・結膜・虹彩・毛様体・強膜といった前眼部に豊富に分布している。一方で、網膜や硝子体には痛覚を伝える神経がないんだ。
医学生医学生
網膜は光を感じる神経組織なのに、痛みは感じないんですか。ちょっと意外です。
ドクタードクター
そこが面白いところで、網膜は視覚の受容器ではあっても痛覚の受容器はもたない。だから網膜や硝子体が主座の病気は、どれほど視力が落ちても原則として痛くない。この原則で選択肢を見てみよう。網膜剝離はどうかな。
医学生医学生
網膜が剝がれるなんて相当痛そうに思えますけど、原則どおりなら無痛ですね。
ドクタードクター
正解。裂孔原性網膜剝離は、網膜の穴から液化した硝子体が網膜の下に入り込んで剝がれる病気だ。前ぶれとして飛蚊症が急に増えたり、暗い所で光が走って見える光視症が出たりして、進むとカーテンがかかったような視野欠損になる。痛くないから受診が遅れやすいのが怖いところなんだ。
医学生医学生
硝子体出血も同じ理屈で無痛ですね。眼科実習で、糖尿病網膜症の患者さんが「急に墨を流したように見えにくくなった」と話していました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。硝子体出血も硝子体自体に知覚神経がないので痛まない。少量なら飛蚊症、大量なら急な霧視や視力低下になる。ただし、血管新生緑内障を合併して眼圧が上がった場合は、その眼圧上昇で痛むことがある、という例外は覚えておこう。
医学生医学生
網膜中心動脈閉塞症も網膜の病気なので痛くない、と。CBTでcherry-red spotが出てきました。
ドクタードクター
そう。片眼の突然の著しい視力低下が主症状で、痛みはない。網膜は虚血にとても弱く短時間で不可逆的な障害になるから、眼科の緊急疾患だ。巨細胞性動脈炎が原因なら頭痛やこめかみの痛みを伴うことはあるけれど、それは眼そのものの痛みではないね。
医学生医学生
残るは前眼部の2つですね。結膜下出血は前眼部だし真っ赤になるので、痛そうな気がしますが……。
ドクタードクター
そこがひっかけだ。前眼部の病気でも、痛むかどうかは病態次第。炎症や急激な眼圧上昇があれば痛むけれど、結膜下出血は結膜の下の細い血管が破れて血がたまっただけで、炎症も眼圧上昇もない。見た目は派手でも痛みや視力低下はなく、人に指摘されて気づくことが多い。通常1〜2週間で自然に吸収されるよ。
医学生医学生
となると、虹彩毛様体炎が正解ですね。虹彩と毛様体には知覚神経が多く、そこに炎症が起きるから痛むと。
ドクタードクター
その通り。さらに炎症刺激で毛様体筋や瞳孔括約筋がけいれんするので、鈍い眼痛に加えて、光で瞳孔が縮むときに痛む羞明が特徴的だ。角膜の縁を取り囲む毛様充血や霧視も伴う。細隙灯顕微鏡では前房の炎症細胞やフレア、角膜後面沈着物がみられ、虹彩後癒着が起きると瞳孔が不整形になる。
医学生医学生
治療はステロイド点眼でしょうか。
ドクタードクター
基本はステロイド点眼と散瞳薬点眼だ。散瞳薬は虹彩の癒着を防ぎ、毛様体筋のけいれんをゆるめて痛みも和らげる。原因検索も大切で、日本ではサルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病が三大ぶどう膜炎。HLA-B27関連の強直性脊椎炎に合併する前部ぶどう膜炎もあるよ。
医学生医学生
痛む眼の病気としては、ほかに急性閉塞隅角緑内障や角膜炎もありますよね。
ドクタードクター
よく挙げられたね。急性緑内障発作は激しい眼痛に頭痛や悪心・嘔吐を伴い、内科的な病気と間違われることもある。角膜は知覚神経が最も密な組織の一つだから、角膜炎や角膜びらんは強く痛む。視神経炎の眼球運動時痛も特徴的だ。逆に、白内障や開放隅角緑内障はゆっくり進んで痛みがない。もう一つ、充血の見分けも臨床で役立つ。結膜炎の結膜充血は眼球の奥側ほど強く鮮紅色、毛様充血は角膜輪部ほど強く紫がかった赤で、痛みを伴う疾患に多い。結膜下出血は拡張ではなく出血なので、境界のはっきりした赤い斑になる。
医学生医学生
痛みと充血のパターンを組み合わせれば、救急外来でもかなり絞り込めそうです。
ドクタードクター
そう、問診と視診だけでも緊急度の見当がつく。そして「痛くない=軽い」ではないことも忘れずに。網膜剝離や網膜動脈閉塞のように、無痛でも急いで眼科につなぐべき病気があるんだ。

まとめ

眼の知覚は三叉神経第1枝が担い、角膜・結膜・虹彩・毛様体・強膜などの前眼部に豊富に分布する一方、網膜と硝子体には痛覚を伝える神経がありません。そのため網膜剝離、硝子体出血、網膜中心動脈閉塞症は視力が大きく障害されても原則として無痛で、前眼部でも炎症や眼圧上昇を欠く結膜下出血は痛みを伴いません。虹彩毛様体炎は知覚神経の豊富な部位の炎症に毛様体筋のけいれんが加わり、眼痛・羞明・毛様充血・霧視を生じ、ステロイド点眼と散瞳薬で治療します。眼痛を伴う疾患には急性閉塞隅角緑内障、角膜炎、強膜炎、視神経炎なども含まれ、充血の型と組み合わせると鑑別が進めやすくなります。痛みの有無を解剖から理解しつつ、無痛でも緊急性の高い網膜疾患を見逃さない姿勢が臨床では重要です。

解答・解説

正解はbです

眼の疾患を「痛みがあるか・ないか」で整理できるかを問う問題である。 眼痛の有無は、病変の部位と知覚神経の分布で考えると理解しやすい。眼の知覚は三叉神経第1枝(眼神経)が担い、角膜・結膜・虹彩・毛様体・強膜などの前眼部には豊富に分布している。一方、網膜や硝子体には痛覚を伝える知覚神経がない。したがって、網膜・硝子体を主座とする疾患(網膜剝離、硝子体出血、網膜血管閉塞など)は、どれほど視力が障害されても原則として痛みを伴わない。 前眼部の疾患でも、眼痛を生じるかどうかは病態による。炎症(虹彩毛様体炎、角膜炎など)や急激な眼圧上昇(急性閉塞隅角緑内障)では強い痛みが出るが、結膜下の血管が破れて血液がたまるだけの結膜下出血では、炎症も眼圧上昇もないため痛みはほとんどない。 以上から、選択肢の中で眼痛を伴う代表的疾患は虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)である。

選択肢考察

  1. ×a.  結膜下出血

    誤り。結膜下出血は、球結膜(白目を覆う結膜)の下にある細い血管が破綻し、結膜と強膜の間に血液がたまった状態である。見た目は真っ赤で派手だが、痛みや視力低下はなく、鏡を見て、あるいは周囲の人に指摘されて初めて気づくことが多い。軽い異物感を訴える程度である。原因は外傷、手術後、急性出血性結膜炎(エンテロウイルス70型、コクサッキーウイルスA24変異型などによる)、いきみ・咳などの静脈圧上昇、高血圧、抗凝固薬内服などがあるが、原因不明の特発性が多い。通常1〜2週間程度で自然に吸収され、治療は不要である。

  2. ○b.  虹彩毛様体炎

    正解。虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)は、虹彩と毛様体に炎症が起こる疾患である。虹彩と毛様体は三叉神経の知覚枝が豊富に分布する部位であり、炎症によって眼痛が生じる。さらに炎症刺激による毛様体筋・瞳孔括約筋のけいれんが加わり、鈍い眼痛や、光が入って瞳孔が収縮するときに痛む羞明(まぶしさ)が特徴的である。そのほか、角膜輪部を取り囲む毛様充血、霧視、視力低下を伴う。細隙灯顕微鏡では前房内の炎症細胞・フレア、角膜後面沈着物がみられ、虹彩後癒着を生じると瞳孔が不整形になる。なお、虹彩炎と毛様体炎は理論上は区別できるが、両者は解剖学的に連続しており血流も共通するため、実際にはほぼ同時に炎症を起こすことが多く、まとめて虹彩毛様体炎として扱う。治療は副腎皮質ステロイド点眼と、癒着予防・疼痛緩和のための散瞳薬点眼が基本である。

  3. ×c.  硝子体出血

    誤り。硝子体には知覚神経がないため、硝子体出血そのものでは痛みを生じない。少量の出血では飛蚊症(黒い点や煙のようなものが視野に浮いて見える)として自覚し、大量出血では急激な霧視・視力低下をきたす。原因としては増殖糖尿病網膜症、網膜静脈分枝閉塞症、網膜裂孔(後部硝子体剝離に伴う網膜血管の破綻)、外傷、加齢黄斑変性などが代表的である。ただし、血管新生緑内障などを合併して眼圧が上昇した場合には、その眼圧上昇によって痛みが出ることがある。

  4. ×d.  裂孔原性網膜剝離

    誤り。網膜には痛覚を伝える知覚神経が存在しないため、網膜剝離は痛みを伴わない。裂孔原性網膜剝離は、網膜に生じた裂孔(穴)から液化した硝子体が網膜下に入り込み、神経網膜が網膜色素上皮から剝がれる病態である。前駆症状として、後部硝子体剝離や網膜裂孔に伴う飛蚊症の急な増加や、硝子体が網膜を牽引することによる光視症(暗いところで光が走って見える)がみられ、剝離が進むと視野欠損(カーテンがかかったように見える)、黄斑部に及ぶと視力低下をきたす。無痛であるため受診が遅れやすい点に注意が必要である。

  5. ×e.  網膜中心動脈閉塞症

    誤り。網膜中心動脈閉塞症は、塞栓や血栓によって網膜中心動脈が詰まり、網膜内層が虚血に陥る疾患である。片眼の突然の著しい視力低下(光覚弁〜手動弁程度になることも多い)が主症状で、痛みは伴わない。眼底では網膜の乳白色混濁と、黄斑部の桜実紅斑(cherry-red spot:中心窩は網膜が薄く、その下の脈絡膜の赤色が透見される)が特徴である。網膜は虚血に非常に弱く、発症から短時間で不可逆的障害に陥るため、眼科的緊急疾患として扱われる。なお、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)が原因の場合は頭痛やこめかみの痛みを伴うことがあるが、これは眼そのものの痛みではない。

眼痛の有無による眼疾患の整理

・眼痛を伴う主な疾患:虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)、急性閉塞隅角緑内障(急激な眼圧上昇による激しい眼痛・頭痛・悪心嘔吐)、角膜炎・角膜潰瘍・角膜びらん(角膜は知覚神経が最も密な組織の一つ)、強膜炎、眼内炎、視神経炎(眼球運動時痛が特徴)、眼窩蜂巣炎、麦粒腫など。 ・眼痛を伴わない主な疾患:結膜下出血、硝子体出血、網膜剝離、網膜中心動脈閉塞症・網膜静脈閉塞症、白内障、原発開放隅角緑内障(慢性に進行し自覚症状に乏しい)、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症など。

充血の種類

・結膜充血:結膜の表層血管の拡張。円蓋部(眼球の奥側)ほど強く、鮮紅色。結膜炎でみられる。 ・毛様充血:角膜輪部周囲の深層血管の拡張。輪部ほど強く、紫がかった赤色。虹彩毛様体炎、角膜炎、急性緑内障発作など、痛みを伴う疾患でみられやすい。 ・結膜下出血は血管の拡張ではなく出血であり、境界明瞭な赤い斑として見える点で充血と区別される。

ぶどう膜炎の原因

ぶどう膜は虹彩・毛様体・脈絡膜からなる。わが国の三大ぶどう膜炎はサルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病である。前部ぶどう膜炎は強直性脊椎炎などのHLA-B27関連疾患に合併することもある。

POINT

・網膜・硝子体には知覚神経がなく、網膜剝離・硝子体出血・網膜動脈閉塞症は無痛性である。 ・眼痛を伴う代表疾患:虹彩毛様体炎、急性閉塞隅角緑内障、角膜炎・角膜潰瘍、強膜炎、視神経炎(眼球運動時痛)。 ・虹彩毛様体炎:眼痛・羞明・毛様充血・霧視、前房細胞・フレア、虹彩後癒着。治療はステロイド点眼+散瞳薬。 ・結膜下出血:痛み・視力障害なし、自然吸収。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。