「繰り返す」激しい回転―めまい疾患は性状と時間経過で見抜く
第100回医師国家試験 G問題 第75問
国試問題にチャレンジ
強い回転性めまいを反復するのはどれか。
- a.Ménière病
- b.前庭神経炎
- c.薬剤性平衡障害〈中毒性平衡障害〉
- d.聴神経腫瘍
- e.基底核出血
対話形式の解説
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ドクターまとめ
めまいを起こす疾患は「回転性か浮動性か」という性状と、「単発か反復か、急性か緩徐進行か」という時間経過の2軸で整理すると鑑別しやすくなります。強い回転性めまいの発作を反復し、一側の低音域主体の感音難聴・耳鳴・耳閉感が発作に一致して変動するのは、内リンパ水腫を病態とするMénière病です。前庭神経炎は激しい回転性めまいが数日続くものの原則として反復せず難聴を伴わず、聴神経腫瘍や両側性の薬剤性前庭障害は緩徐に進行するため前庭代償が働き、強い回転感は乏しくなります。基底核(被殻)出血は片麻痺や感覚障害が主症状であり、中枢性の回転性めまいではむしろ小脳・脳幹病変を考えます。症状の質と経過を丁寧に問診する姿勢は、めまい診療で正しい診断にたどり着くための基本です。
解答・解説
正解はaです
本問は、めまいを起こす疾患を「めまいの性状(回転性か浮動性か)」と「時間経過(単発か反復か、急性か緩徐進行か)」の二つの軸で整理できるかを問うている。 回転性めまいは、主に内耳(半規管・耳石器)や前庭神経など、末梢前庭系が急に左右不均衡になったときに生じる。次に経過をみると、 ・一回の発作が数日続いてその後は改善していく単発型(例: 前庭神経炎) ・短時間〜数時間の発作を何度も繰り返す反復型(例: Ménière病、良性発作性頭位めまい症) ・徐々に進行し、脳の代償(前庭代償)が並行して働くため強い回転感を自覚しにくい緩徐進行型(例: 聴神経腫瘍、薬剤による両側前庭障害) に分けられる。 選択肢の中で「強い回転性めまいの発作を反復する」ことを最大の特徴とするのは、内リンパ水腫を病態とするMénière病である。発作には難聴・耳鳴・耳閉感といった蝸牛症状が伴い、それらが発作に一致して変動する点も診断上重要である。
選択肢考察
- ○a. Ménière病
内耳の内リンパ腔が過剰に拡張する内リンパ水腫を基盤とし、10分程度から数時間続く回転性めまい発作を繰り返すのが特徴である。発作には悪心・嘔吐を伴い、一側性の低音域主体の感音難聴、耳鳴、耳閉感が発作に一致して悪化・改善を繰り返す(変動する)。発作を重ねるにつれて難聴は進行・固定化していく傾向がある。「反復する回転性めまい+変動する蝸牛症状」がMénière病の診断の鍵である。
- ×b. 前庭神経炎
前庭神経の炎症(ウイルス感染が疑われ、先行する上気道感染がみられることがある)により、突然激しい回転性めまいが起こり、悪心・嘔吐を伴って数日間持続する。その後は前庭代償によって数日〜数週で軽快し、ふらつきがしばらく残ることはあっても、同様の激しい発作を繰り返すことはまれである。蝸牛は障害されないため難聴・耳鳴を伴わない点もMénière病との鑑別点となる。
- ×c. 薬剤性平衡障害〈中毒性平衡障害〉
ストレプトマイシンやゲンタマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬、抗悪性腫瘍薬(シスプラチンなど)といった内耳毒性をもつ薬剤で生じる。多くは両側の前庭が同時に徐々に障害されるため、左右差が生じにくく、強い回転性めまいを反復することは一般的でない。主な症状は、体動時や頭を動かしたときのふらつき、暗所や閉眼時に悪化する平衡障害(Romberg徴候陽性)、歩行時に視界が揺れて見える動揺視(Dandy症状)などである。
- ×d. 聴神経腫瘍
内耳道内の前庭神経(多くは下前庭神経)のSchwann細胞から発生する良性腫瘍(前庭神経鞘腫)である。腫瘍の増大は緩徐で前庭機能も徐々に低下するため、脳による代償が追いつき、強い回転性めまいを自覚することは少ない。症状は一側性の進行性感音難聴や耳鳴が中心で、めまいがあっても浮動感やふらつき程度であることが多い。一側性の感音難聴では本症を見逃さないよう、MRIでの評価が重要である。
- ×e. 基底核出血
大脳基底核の出血では被殻出血が最も多い。近くを走行する内包が障害されるため、対側の片麻痺・感覚障害、共同偏視(病側を向く)などが主症状となる。前庭系の中枢は主に脳幹・小脳にあり、基底核は平衡の中枢経路の主体ではないため、強い回転性めまいを生じにくい。また出血は一回の発症で起こる病態であり、めまい発作を反復するものではない。回転性めまいを起こしうる中枢病変としては、小脳や脳幹の梗塞・出血が重要である。
Ménière病の概要
・病態: 内リンパ水腫。内リンパの産生・吸収のバランスが崩れて内リンパ腔が拡張する。 ・症状: 回転性めまい発作の反復、発作に伴って変動する一側の感音難聴(初期は低音域が主体)、耳鳴、耳閉感。 ・誘因: 精神的・身体的ストレス、睡眠不足、過労などが関与するとされる。 ・検査: 純音聴力検査(低音障害型感音難聴)、グリセロールテストや蝸電図(内リンパ水腫の推定)、造影MRIによる内リンパ水腫の画像評価。 ・治療: 生活指導(ストレス軽減、十分な睡眠、有酸素運動、水分摂取など)、発作時の対症療法(制吐薬、抗めまい薬など)、浸透圧利尿薬(イソソルビド)など。難治例では中耳加圧治療、内リンパ嚢開放術、選択的前庭破壊(ゲンタマイシン鼓室内注入、前庭神経切断術)などが検討される。
めまいを伴う主な疾患の経過の違い
・良性発作性頭位めまい症(BPPV): 頭位変換で誘発される1分以内の回転性めまいを反復。難聴なし。 ・Ménière病: 10分程度〜数時間の回転性めまい発作を反復。変動する難聴・耳鳴あり。 ・前庭神経炎: 激しい回転性めまいが数日持続し、原則として単発。難聴なし。 ・めまいを伴う突発性難聴: 急性の高度難聴に回転性めまいを伴うが、通常は単発。 ・聴神経腫瘍: 緩徐進行の一側性感音難聴が主体。めまいは軽度。 ・薬剤性(両側)前庭障害: 持続的なふらつき、動揺視。回転感は乏しい。
POINT
・強い回転性めまいを「反復」し、難聴・耳鳴・耳閉感が発作と一緒に変動する → Ménière病(内リンパ水腫)。 ・前庭神経炎は激しい回転性めまいが数日続くが、原則として反復せず難聴もない。 ・聴神経腫瘍や両側性の薬剤性前庭障害は緩徐に進行し、前庭代償のため強い回転感は乏しい。 ・基底核(被殻)出血は片麻痺・感覚障害が主症状。中枢性の回転性めまいは小脳・脳幹病変を考える。
