StudyMed医師国家試験

肺の炎症に「火消し」を―薬剤性肺炎の治療は原因薬の中止とステロイド

第100回医師国家試験 G問題 第115問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第115問

薬剤性肺炎の治療として適切なのはどれか。

  1. a.抗菌薬
  2. b.利尿薬
  3. c.ACE阻害薬
  4. d.ロイコトリエン拮抗薬
  5. e.副腎皮質ステロイド薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、薬剤性肺炎の治療を問うシンプルな問題だ。シンプルだからこそ、「この病気の本態は何か」を押さえているかが試される。肺炎という名前に引っ張られず、何が肺で起きているのかを考えてみよう。
医学生医学生
肺炎と聞くと、つい細菌感染を思い浮かべて抗菌薬を選びたくなります。
ドクタードクター
その連想はとても自然だね。でも薬剤性肺炎の中心は間質性肺炎で、病原体による感染ではない。薬そのものや代謝物が肺胞上皮や血管内皮を直接傷つける細胞傷害性の機序と、薬に対するアレルギー・免疫反応による機序の2つがあって、どちらも本態は「肺の炎症」なんだ。
医学生医学生
呼吸器内科の講義で、抗がん薬やアミオダロンが原因になると習いました。
ドクタードクター
その2つは代表的な細胞傷害性の原因薬だね。ほかにもメトトレキサート、インターフェロン、小柴胡湯のような漢方薬、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬など、あらゆる薬が原因になりうる。では、炎症が本態だとしたら、治療はどう考える?
医学生医学生
まず原因を断つために薬をやめて、それでも炎症が強ければ抑える薬を使う、ということでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれが二本柱だ。第一は疑わしい薬をただちに中止すること。軽症ならそれだけで改善することもある。そして中等症以上や呼吸不全を伴う場合には、強力な抗炎症・免疫抑制作用をもつ副腎皮質ステロイド薬を使う。これが正解だね。重症例ではメチルプレドニゾロンの大量静注、いわゆるステロイドパルス療法を行い、その後プレドニゾロン内服に切り替えて漸減していく。
医学生医学生
では抗菌薬は、感染ではない以上、効かないということですね。
ドクタードクター
そう、治療効果はない。それどころか、ミノサイクリンやペニシリン系、セフェム系、ニューキノロン系などの抗菌薬自体が、好酸球性肺炎や過敏性肺炎型の薬剤性肺障害の原因薬として知られている。不用意に加えると、原因薬を増やしてしまうおそれがあるんだ。ただ実臨床では、発熱と浸潤影だけでは感染性肺炎と区別がつかない段階もある。そういうときは培養やβ-Dグルカンなどで感染症を否定しながら、一時的に併用することはあるよ。
医学生医学生
利尿薬は、画像ですりガラス影が出るなら肺水腫と似ているから、という引っかけでしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。両側のすりガラス影は心原性肺水腫でも見られるから、心エコーやBNPでの鑑別は大切だ。でも薬剤性肺炎は間質の炎症であって、水分過剰の病態ではないから、利尿薬は治療にならない。ちなみにヒドロクロロチアジドのような利尿薬も、まれに肺障害の原因になる。
医学生医学生
ACE阻害薬は、循環器の講義で空咳の副作用を覚えました。治療どころか、呼吸器症状を起こす側の薬ですよね。
ドクタードクター
その通り。ACE阻害薬はブラジキニンの分解を妨げるので乾性咳嗽が高頻度に起こり、まれに血管性浮腫もある。肺の炎症を抑える作用はなく、薬剤性肺障害の原因薬としての報告もある。
医学生医学生
ロイコトリエン拮抗薬は抗炎症作用があるので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのはわかるよ。ただ、モンテルカストやプランルカストは気管支喘息やアレルギー性鼻炎で気道の炎症や収縮を抑える薬で、間質の炎症を抑える効果は乏しい。むしろ好酸球性肺炎や、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の顕在化との関連が報告されている。結局、ステロイド以外の4つはどれも、それ自体が肺障害の原因薬になりうるという共通点があるんだ。
医学生医学生
なるほど。「疑わしい薬は増やさず、やめる」が大原則なんですね。
ドクタードクター
いいまとめだ。発展知識として、診断の進め方も押さえておこう。薬の投与歴、発熱・乾性咳嗽・呼吸困難、CTでのすりガラス影や浸潤影、KL-6やSP-Dの上昇がそろい、感染症や心不全、原疾患の悪化を除外して診断する。薬剤リンパ球刺激試験は参考にはなるが偽陽性・偽陰性があり、再投与で確かめるチャレンジテストは危険なので原則行わない。
医学生医学生
ステロイドを使えば、どのタイプでも良くなるんですか。
ドクタードクター
そこは病型によって違う。過敏性肺炎型、好酸球性肺炎型、器質化肺炎型はステロイドへの反応がよい一方、びまん性肺胞傷害型は反応が乏しく予後不良だ。高齢、既存の間質性肺炎、喫煙歴などは危険因子だから、そういう患者さんに原因となりうる薬を使うときは、咳や息切れの出現に注意して早めに画像を確認することが大切だよ。
医学生医学生
臨床実習で抗がん薬治療中の患者さんを担当したら、新しい咳や息切れを軽く見ないようにします。

まとめ

薬剤性肺炎(薬剤性肺障害)は、薬による直接の細胞傷害やアレルギー・免疫反応によって生じる肺の炎症で、間質性肺炎が中心です。感染症ではないため、治療の基本は原因薬の中止と、中等症以上や呼吸不全例での副腎皮質ステロイド薬(重症ではステロイドパルス療法)による炎症の抑制となります。抗菌薬、利尿薬、ACE阻害薬、ロイコトリエン拮抗薬はいずれも治療効果がないうえ、それ自体が肺障害の原因薬となりうるため、安易に追加すべきではありません。病型によってステロイドへの反応は異なり、びまん性肺胞傷害型は予後不良である点も重要です。あらゆる薬が肺障害を起こしうることを意識し、薬物治療中の新たな呼吸器症状を早期に拾い上げる姿勢は、どの診療科でも求められます。

解答・解説

正解はeです

薬剤性肺炎(薬剤性肺障害、薬剤性肺臓炎とも呼ぶ)は、投与された薬によって肺に生じる障害の総称であり、中心となるのは間質性肺炎である。発症の機序は大きく二つに分けて考える。一つは薬そのものや代謝物が肺胞上皮・血管内皮を直接傷害する細胞傷害性の機序(抗がん薬、アミオダロンなど)、もう一つは薬に対するアレルギー・免疫反応による機序(過敏性肺炎型や好酸球性肺炎型など)である。いずれも本態は細菌などの病原体による感染ではなく、肺の炎症である。 したがって治療の基本は、(1) 疑わしい薬をただちに中止すること、(2) 炎症が強い、あるいは呼吸不全がある場合に副腎皮質ステロイド薬で炎症を抑えること、の二本柱となる。軽症であれば原因薬の中止だけで改善することもあるが、選択肢の中で「治療」として用いる薬物は副腎皮質ステロイド薬である。重症例ではメチルプレドニゾロンの大量静注(ステロイドパルス療法)を行い、その後プレドニゾロンの内服へ移行して漸減する。 一方、他の選択肢の薬はいずれもそれ自体が薬剤性肺障害の原因薬となりうるものであり、治療として新たに加えるのは不適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  抗菌薬

    薬剤性肺炎は病原体による感染ではないため、抗菌薬に治療効果はない。むしろ抗菌薬(ミノサイクリン、ペニシリン系、セフェム系、ニューキノロン系など)は薬剤性肺障害、特に好酸球性肺炎や過敏性肺炎型の原因薬として知られており、不用意な追加は病態を悪化させうる。ただし臨床の場では、発熱・肺浸潤影から感染性肺炎との区別がつかない段階で、培養やβ-Dグルカンなどで感染症を否定しながら一時的に併用することはある。

  2. ×b.  利尿薬

    利尿薬は心原性肺水腫など体液過剰の病態に用いる薬である。薬剤性肺炎は肺の間質の炎症が本態であり、水分過剰による病態ではないので、利尿薬は治療にならない。画像で両側にすりガラス影が出る点は心不全による肺水腫と似ることがあり、鑑別として心エコーやBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)の測定が役立つ。なお利尿薬(ヒドロクロロチアジドなど)自体も、まれに肺障害の原因となる。

  3. ×c.  ACE阻害薬

    アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は高血圧や心不全に用いる薬であり、肺の炎症を抑える作用はない。ACE阻害薬はブラジキニンの分解を妨げるため、副作用として乾性咳嗽(空咳)が高頻度に起こり、まれに血管性浮腫もみられる。薬剤性肺障害の原因薬としての報告もあるため、治療として加える薬ではない。

  4. ×d.  ロイコトリエン拮抗薬

    ロイコトリエン拮抗薬(モンテルカスト、プランルカストなど)は、気管支喘息やアレルギー性鼻炎で気道の炎症・収縮を抑える薬である。薬剤性肺炎の間質の炎症を抑える効果は乏しく、治療薬として位置づけられていない。むしろ好酸球性肺炎や、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の顕在化との関連が報告されており、これ自体も肺障害の原因薬となりうる。

  5. ○e.  副腎皮質ステロイド薬

    薬剤性肺炎の本態は、薬による直接傷害やアレルギー反応によって生じた肺の炎症である。副腎皮質ステロイド薬は強力な抗炎症・免疫抑制作用をもち、原因薬の中止だけで改善しない例や、中等症以上・呼吸不全を伴う例で用いる。重症例ではメチルプレドニゾロン500〜1,000mg/日を3日間静注するステロイドパルス療法を行い、その後プレドニゾロン内服で漸減する。過敏性肺炎型や好酸球性肺炎型、器質化肺炎型はステロイドへの反応がよい一方、びまん性肺胞傷害(DAD)型は反応が乏しく予後不良である。

薬剤性肺障害の概要

・定義: 薬の投与中に起こった呼吸器系の障害のうち、薬と関連があるもの。間質性肺炎が最も多く重要である。 ・原因薬: 抗がん薬(ブレオマイシン、ゲフィチニブなどのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬など)、抗リウマチ薬(メトトレキサート、金製剤)、アミオダロン、インターフェロン、漢方薬(小柴胡湯など)、抗菌薬、解熱鎮痛薬など。あらゆる薬が原因となりうる。 ・危険因子: 高齢、既存の間質性肺炎・肺線維症、喫煙歴、肺手術後、腎障害など。日本人ではEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による間質性肺炎の頻度が高いことが知られている。

診断のポイント

・原因となる薬の摂取歴があること(投与開始から数週〜数か月での発症が多いが、時期はさまざま)。 ・発熱、乾性咳嗽、呼吸困難、低酸素血症。 ・胸部CTですりガラス影や浸潤影。 ・血液検査でKL-6、SP-Dの上昇、好酸球増多を伴うこともある。 ・感染症、心不全、原疾患の悪化など他の原因を除外する。 ・薬剤リンパ球刺激試験(DLST)は参考になるが、偽陽性・偽陰性がある。 ・原因薬の中止で改善することが診断の裏づけとなる。再投与試験(チャレンジテスト)は危険なため原則として行わない。

治療

1. 原因薬の中止(最も重要) 2. 中等症以上や呼吸不全を伴う場合は副腎皮質ステロイド薬(重症ではステロイドパルス療法) 3. 低酸素血症には酸素療法、必要に応じて人工呼吸管理

POINT

・薬剤性肺炎は感染症ではなく、薬による直接傷害やアレルギー反応による肺の炎症である。 ・治療は原因薬の中止が第一で、必要に応じて副腎皮質ステロイド薬を用いる(重症ではパルス療法)。 ・抗菌薬などを新たに加えることは原因薬を増やすことになり得るため、治療としては不適切である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。