「予定できる大出血」だけが貯められる―自己血輸血と前置胎盤
第100回医師国家試験 G問題 第109問
国試問題にチャレンジ
自己血輸血の適応となるのはどれか。
- a.常位胎盤早期剝離
- b.前置胎盤
- c.子宮破裂
- d.頸管裂傷
- e.弛緩出血
対話形式の解説
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ドクターまとめ
自己血輸血は患者自身の血液を用いるため、輸血後感染症、同種抗体の産生、輸血後GVHDといった同種血輸血のリスクを回避できます。最も一般的な貯血式は手術の数週間前から採血・保存するため、大量出血が予想され、かつ日程を決められる待機的手術であることが前提です。前置胎盤は分娩前に超音波で診断でき予定帝王切開となるうえ、子宮下部の収縮不良や癒着胎盤により大量出血が見込まれるため、産科における代表的な適応となります。一方、常位胎盤早期剝離、子宮破裂、頸管裂傷、弛緩出血は突発的で予測できないため、事前の貯血はできません。「出血量の多さ」ではなく「出血を予定できるか」という視点は、輸血の準備や手術計画を考えるうえで臨床的にも重要です。
解答・解説
正解はbです
自己血輸血とは
自己血輸血とは、患者自身の血液をあらかじめ確保しておき、手術時などに本人へ戻す輸血法である。他人の血液(同種血)を使わないため、輸血後感染症(肝炎ウイルス・HIVなど)、同種抗体の産生(不規則抗体による溶血性副作用)、輸血後移植片対宿主病(GVHD)といった同種血輸血に伴うリスクを避けられる。
適応を考える鍵
自己血輸血のうち最も一般的な貯血式自己血輸血は、手術の数週間前から数回に分けて採血・保存しておく方法である。そのため適応となるのは、(1) 輸血が必要になるほどの出血が見込まれ、(2) その手術(分娩)の日程があらかじめ決められる待機的な状況で、(3) 患者の全身状態が採血に耐えられる場合である。 本問の選択肢はいずれも分娩時の大量出血の原因となる産科疾患であるが、「事前に診断でき、計画的に帝王切開を予定できるもの」はどれかを考えればよい。前置胎盤は妊娠中の経腟超音波検査で分娩前に診断でき、予定帝王切開で娩出するため、術前に貯血を行う時間的余裕がある。一方、常位胎盤早期剝離、子宮破裂、頸管裂傷、弛緩出血はいずれも突発的に発症し発症時期を予測できないため、前もって自己血を貯めておくことができない。
選択肢考察
- ×a. 常位胎盤早期剝離
正常な位置(子宮体部)に付着した胎盤が、胎児娩出より前に子宮壁から剝がれる疾患である。主に妊娠後半期や分娩中に突然発症し、発症を事前に予測することはできない。発症すれば胎児機能不全や播種性血管内凝固(DIC)を来しやすく、直ちに急速遂娩が求められる緊急疾患であり、計画的に貯血する余地がないため適応とならない。
- ○b. 前置胎盤
胎盤が子宮下部に付着し、内子宮口を覆う、あるいは内子宮口にかかる状態である。妊娠中の経腟超音波検査で分娩前に診断できるため、分娩様式は予定帝王切開とされ、その日程を前もって決められる。子宮下部は収縮力が弱く胎盤剝離面からの出血が止まりにくいこと、癒着胎盤を合併することがあることなどから術中の大量出血が予想され、輸血の準備が必要になる。予測できる大量出血+待機的手術という自己血輸血の条件を満たし、産科領域で貯血式自己血輸血の有用性が認められている代表的な病態である。
- ×c. 子宮破裂
妊娠中または分娩中に子宮壁が裂ける病態で、帝王切開や子宮筋腫核出術の既往、過強陣痛、子宮収縮薬の不適切な使用などが危険因子となる。危険因子はあっても発症の時期は予測できず、発症すれば母体の出血性ショックと胎児の急激な状態悪化を来す緊急事態であるため、事前に自己血を準備することはできない。
- ×d. 頸管裂傷
分娩の際に子宮頸管が裂ける産道損傷で、急速遂娩や子宮口全開大前の努責などを契機に生じる。分娩時に突然起こるもので事前に予測できないため、貯血の準備ができず適応とならない。治療は裂傷部の縫合による止血が基本である。
- ×e. 弛緩出血
胎盤娩出後に子宮筋の収縮が不十分なため、胎盤剝離面からの出血が止まらない状態である。多胎妊娠や羊水過多による子宮の過伸展、遷延分娩などが危険因子となるが、実際に起こるかどうか、いつ起こるかを予測することはできず、分娩直後に急激に発症する。そのため前もって自己血を貯めておくことはできない。治療は子宮マッサージ・子宮収縮薬投与などである。
自己血輸血の種類
・貯血式:手術前に数回採血して保存し、術中・術後に戻す。最も広く行われる方法で、待機的手術が前提となる。 ・希釈式:麻酔導入後、手術開始直前に採血し、代わりに輸液で循環血液量を補って血液を薄めた状態で手術を行う。失われる赤血球量を減らし、採取した血液は術中・術後に戻す。 ・回収式:術中・術後に出血した血液を吸引・回収し、洗浄などの処理をして戻す。
貯血式自己血輸血の一般的な条件
・輸血を要する程度の出血が予想される待機的手術であること ・採血に耐えられる全身状態で、貧血が高度でないこと(採血前のヘモグロビン値に基準が設けられている) ・菌血症など、細菌感染が疑われる状態では原則として行わない(保存中に細菌が増殖するおそれがあるため) ・採血時には鉄剤投与を併用し、必要に応じてエリスロポエチン製剤を用いることがある
産科の大量出血と自己血輸血
産科出血の多くは予測困難で突発的に起こるため、自己血輸血の適応になるものは限られる。事前に大量出血が予想でき、分娩日を決めて帝王切開を行える前置胎盤(とくに癒着胎盤の合併が疑われる例)が代表的な適応である。妊婦からの採血は母体の貧血や胎児への影響に配慮し、胎児心拍をモニタリングしながら慎重に行われる。
POINT
・自己血輸血(貯血式)の適応:大量出血が予想され、かつ日程を決めて行える待機的手術 ・前置胎盤は分娩前に超音波で診断でき、予定帝王切開となるため自己血輸血の適応となる ・常位胎盤早期剝離、子宮破裂、頸管裂傷、弛緩出血は突発的に起こり予測不能であるため、事前貯血はできない ・自己血輸血の利点:感染症、同種免疫、輸血後GVHDなど同種血輸血の副作用を回避できる
