StudyMed医師国家試験

赤ちゃんの背中の大きな赤いこぶ―血管性腫瘍が「血小板を食べる」Kasabach-Merritt現象

第100回医師国家試験 F問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第100回 F問題 第8問

11か月の乳児。生後2か月のとき上背部に紅色結節が生じ,次第に大きくなった。この腫瘤以外に皮膚病変はない。発達にも異常はない。背部腫瘤の写真を別に示す。 異常がみられるのはどれか。

第100回 F問題 第8問の問題画像
  1. a.脳波
  2. b.眼圧
  3. c.呼吸数
  4. d.血小板数
  5. e.血清クレアチニン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳児の背中にできた大きな血管性の腫瘤に、どんな全身的な異常が隠れているかを考える問題だ。ポイントは「乳児期に出現して増大する単発の大きな血管性腫瘤」という像から、どの合併症を連想できるか。まず写真の印象から聞いてみよう。
医学生医学生
赤紫色で境界がはっきりしない、大きめの腫瘤ですね。いちご状血管腫かなと最初は思いました。
ドクタードクター
いい出発点だね。周囲に毛細血管の拡張を伴う、盛り上がった赤紫色の腫瘤で、血管性の腫瘍であることはまず間違いない。では、国家試験で「乳児の大きな血管性腫瘤」と来たら、どんな病態がセットで問われると思う?
医学生医学生
小児科の講義で、巨大血管腫に血小板減少が合併するKasabach-Merritt症候群というのを習った記憶があります。
ドクタードクター
そう、それが今回の核心だ。今はKasabach-Merritt現象と呼ばれることが多い。腫瘤の中の異常な血管内皮に血小板が捕捉されて活性化・消費され、著しい血小板減少が起こる。同時に凝固因子やフィブリノゲンも使われてしまうので、DICに似た消費性凝固障害を伴うんだ。
医学生医学生
腫瘍の中で血小板が使い果たされてしまう、というイメージですね。だから異常が出る検査は血小板数ということですか。
ドクタードクター
その通り。数万/μL以下まで下がることも珍しくなく、フィブリノゲン低下やFDP・Dダイマー上昇も伴う。臨床的には腫瘤が急に大きく硬くなって赤紫色に変わり、紫斑や出血傾向が出てくるのがサインだ。では、ほかの選択肢を見ていこう。脳波と眼圧はどうかな。
医学生医学生
どちらもSturge-Weber症候群を連想します。顔のポートワイン母斑に脳の血管腫を伴って、てんかんや緑内障が出る病気でしたよね。
ドクタードクター
よく整理できているね。Sturge-Weber症候群は三叉神経第1枝領域の毛細血管奇形に脳軟膜の血管腫と眼病変を伴い、脳波異常や眼圧上昇が問題になる。ただ今回は病変が背中の単発の腫瘤だけで、顔面に病変はなく、発達も正常だ。中枢神経や眼の合併症を疑う根拠がない。
医学生医学生
呼吸数はどうでしょう。大きな血管病変だと心臓に負担がかかりそうな気もします。
ドクタードクター
鋭いね。動静脈シャントの多い巨大な血管病変、たとえば乳児の肝血管腫などでは高拍出性心不全から多呼吸をきたすことがある。また頸部のリンパ管奇形なら気道を圧迫して呼吸障害を起こしうる。でも今回は背部の病変で、心不全や気道圧迫を示す記載もない。呼吸数は本問の主眼ではないんだ。
医学生医学生
血清クレアチニンは、腎臓や筋肉の病気を示す所見がないので関係なさそうですね。
ドクタードクター
そうだね。背部の血管性腫瘤と腎機能を直接結びつける理由はない。つまり、この病態で全身に響いてくるのは凝固・血小板系だ、と押さえておけばいい。
医学生医学生
乳児の血管病変は、どの合併症とセットになるかで覚えるとよさそうですね。顔ならSturge-Weber、巨大シャントなら心不全、頸部リンパ管奇形なら気道、大きな血管性腫瘍なら血小板減少、と。
ドクタードクター
まさにその整理が大事。ここで発展知識をひとつ。昔はKasabach-Merritt現象は巨大ないちご状血管腫に起こるとされていたけれど、現在では主にカポジ肉腫様血管内皮腫や房状血管腫といった別の血管性腫瘍に合併し、普通の乳児血管腫にはほとんど起こらないことがわかっている。
医学生医学生
いちご状血管腫は自然に小さくなることが多くて、治療はプロプラノロールの内服でしたよね。皮膚科の実習で外来の子を見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。乳児血管腫は生後まもなく出現して増大し、多くは学童期までに退縮していく。一方、Kasabach-Merritt現象は重症になると腫瘤内出血や消化管出血、頭蓋内出血で命に関わることもあり、ステロイドやシロリムス、ビンクリスチンなどの薬物療法、塞栓術や切除が検討される。
医学生医学生
血小板が少ないなら、血小板輸血をすればいいのではないですか。
ドクタードクター
そこが臨床での落とし穴だ。輸血した血小板も腫瘍内で捕捉されてしまうので効果が乏しく、かえって腫瘤の増大を招くことがある。だから血小板輸血は活動性出血や手術時などに限って使うのが基本だ。乳児の血管性腫瘤が急に硬く大きくなり紫斑が出てきたら、すぐ血算と凝固検査を確認する、という習慣をつけておこう。

まとめ

乳児期に出現して増大する大きな血管性腫瘤では、腫瘍内で血小板が捕捉・消費されて高度の血小板減少をきたすKasabach-Merritt現象を念頭に置く必要があり、フィブリノゲン低下やFDP・Dダイマー上昇などDIC様の消費性凝固障害を伴います。脳波異常や眼圧上昇は顔面のポートワイン母斑を伴うSturge-Weber症候群、多呼吸は巨大動静脈シャントによる心不全や頸部リンパ管奇形による気道圧迫で問題となり、病変の部位と種類から合併症を区別することが大切です。現在の知見では、この現象の背景は主にカポジ肉腫様血管内皮腫や房状血管腫であり、通常の乳児血管腫ではまれとされます。治療はステロイドやシロリムスなどの薬物療法が中心で、血小板輸血は腫瘍内捕捉のため効果が乏しく限定的に用います。血管病変ごとに「どの臓器・検査に異常が出るか」を対応づけて理解することは、小児の皮膚病変を診る際の重要な基礎になります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・11か月の乳児で、生後2か月ごろに上背部へ紅色の結節が出現し、その後しだいに増大している。 ・皮膚病変はこの腫瘤だけで、ほかに母斑や多発する血管病変はない。 ・精神運動発達は正常である。 ・写真では、上背部に赤紫色で境界がやや不明瞭な大きな血管性腫瘤があり、周囲に毛細血管の拡張を伴っている。

診断へのプロセス

乳児期早期に出現して増大する単発の大型の血管性腫瘤であり、血管腫・血管性腫瘍の範疇に入る。国家試験では、乳児の巨大な血管性腫瘤に血小板減少と消費性凝固障害が合併する病態を Kasabach-Merritt 症候群(現在は Kasabach-Merritt 現象と呼ばれることが多い)として問うのが定番である。本例は発達が正常で、顔面の三叉神経領域の毛細血管奇形(ポートワイン母斑)もないため、神経・眼症状を伴う Sturge-Weber 症候群は考えにくい。したがって、この腫瘤に伴う全身的な異常として最も問題になるのは凝固・血小板系である。

設問の考え方

Kasabach-Merritt 現象では、腫瘤内の異常な血管内皮に血小板が捕捉・活性化されて消費され、著しい血小板減少が起こる。同時に凝固因子やフィブリノゲンも消費され、播種性血管内凝固(DIC)に似た凝固異常を呈する。したがって検査で異常を示すのは血小板数である。ほかの選択肢は、別の血管病変や別の臓器障害を想定した項目であり、本例の臨床像とは結びつかない。

選択肢考察

  1. ×a.  脳波

    脳波異常(てんかん性放電)が問題となる血管病変としては、顔面の三叉神経第1枝領域のポートワイン母斑に脳軟膜の血管腫を伴う Sturge-Weber 症候群が代表的である。本例は病変が上背部の単発腫瘤で、発達も正常であり、中枢神経病変を示唆する所見はないため、脳波異常は想定しない。

  2. ×b.  眼圧

    眼圧上昇(緑内障)も Sturge-Weber 症候群でみられる合併症で、顔面、とくに眼瞼周囲のポートワイン母斑を伴う例に多い。背部の腫瘤のみで顔面病変のない本例では、眼圧異常は考えにくい。

  3. ×c.  呼吸数

    動静脈シャントの多い巨大血管病変では高拍出性心不全を起こして多呼吸をきたすことがあり、頸部の嚢胞性リンパ管腫(リンパ管奇形)では気道の圧迫で呼吸障害を起こしうる。しかし本例は背部の病変であり、心不全や気道圧迫を示す所見の記載もなく、発育も正常であることから、呼吸数の異常は本問の主眼ではない。

  4. ○d.  血小板数

    乳児の巨大な血管性腫瘤に伴う Kasabach-Merritt 現象では、腫瘤内で血小板が捕捉・消費され、しばしば数万/μL以下にまで低下する高度の血小板減少をきたす。凝固因子の消費も加わって、フィブリノゲン低下や FDP・Dダイマー上昇などの DIC 様の凝固異常を伴い、腫瘤の急速な増大・硬化や紫斑、出血傾向がみられる。したがって異常を示すのは血小板数である。

  5. ×e.  血清クレアチニン

    血清クレアチニンは腎機能障害や筋量の変化を反映する指標である。本例には腎疾患や筋疾患を示す所見はなく、背部の血管性腫瘤とも直接の関係はないため、異常は想定されない。

Kasabach-Merritt 現象(症候群)

・乳児期の大きな血管性腫瘍に、高度の血小板減少と消費性凝固障害(低フィブリノゲン血症、FDP・Dダイマー上昇など)が合併する病態である。 ・機序:腫瘍内の異常血管で血小板が捕捉・活性化され、凝固因子も局所で消費される。 ・臨床像:腫瘤が急速に増大・硬化し、赤紫色に変化する。紫斑や出血傾向を伴い、重症例では腫瘤内出血、消化管出血、頭蓋内出血などで生命に関わることがある。 ・背景となる腫瘍:かつては乳児血管腫(いちご状血管腫)の巨大なものに起こるとされていたが、現在では主にカポジ肉腫様血管内皮腫(kaposiform hemangioendothelioma)や房状血管腫(tufted angioma)に合併し、通常の乳児血管腫にはほとんど起こらないことがわかっている。 ・治療:ステロイド、シロリムス(mTOR阻害薬)、ビンクリスチンなどの薬物療法、塞栓術や切除が行われる。血小板輸血は腫瘍内での捕捉により効果が乏しく、腫瘤の増大を招くことがあるため、活動性出血や手術時などに限って用いる。

乳児の血管病変と合併症の整理

・Sturge-Weber 症候群:顔面のポートワイン母斑+脳軟膜の血管腫+眼病変。てんかん(脳波異常)、知的障害、片麻痺、緑内障(眼圧上昇)をきたす。 ・巨大な動静脈シャントを伴う病変(肝血管腫など):高拍出性心不全。 ・頸部のリンパ管奇形(嚢胞性リンパ管腫):気道圧迫による呼吸障害。 ・Klippel-Trenaunay 症候群:四肢の毛細血管奇形、静脈瘤、患肢の骨・軟部組織の過成長。 ・乳児血管腫(いちご状血管腫):生後まもなく出現して増大し、多くは学童期までに自然退縮する。治療の第一選択はプロプラノロール内服である。

POINT

・乳児の巨大な血管性腫瘤+血小板減少+消費性凝固障害=Kasabach-Merritt 現象。 ・異常が出る検査は血小板数(加えてフィブリノゲン低下、FDP・Dダイマー上昇)。 ・脳波異常・眼圧上昇は顔面ポートワイン母斑を伴う Sturge-Weber 症候群の特徴であり、区別する。 ・現在は、Kasabach-Merritt 現象の背景はカポジ肉腫様血管内皮腫や房状血管腫であり、通常の乳児血管腫ではまれとされる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。