StudyMed医師国家試験

集めた論文をうのみにしない―EBMの5ステップと「批判的吟味」

第100回医師国家試験 E問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第100回 E問題 第22問

根拠に基づいた医療〈EBM〉を実践する過程で□に相当するのはどれか。 患者の問題の定式化 ↓ 文献情報の収集 ↓ □ ↓ 患者への適用

第100回 E問題 第22問の問題画像
  1. a.アウトカムの設定
  2. b.自分の経験
  3. c.動物実験による確認
  4. d.患者満足度の推察
  5. e.文献の批判的吟味

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、根拠に基づいた医療、つまりEBMの実践手順を問う問題だ。流れ図の空欄は「文献を集めた後、患者に使う前」に入るステップ。ここで何をすべきかを考えてみよう。
医学生医学生
文献を集めたら、それを患者さんに当てはめればいいように思ってしまいます。
ドクタードクター
そう考えがちだけど、そこが落とし穴なんだ。まずEBMの定義から確認しよう。EBMは、手に入る最良の研究結果を、医師の臨床的専門技能、患者の価値観や希望、そして患者の臨床状況と統合して、目の前の患者の方針を決める考え方だ。論文の結果をそのまま当てはめることではないんだよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義でEBMは5つのステップで習いましたが、順番があやふやです。
ドクタードクター
整理しよう。第1が問題の定式化、第2が文献などの情報収集、第3が批判的吟味、第4が患者への適用、第5がその過程と結果の評価、つまり振り返りだ。この図は第1から第4までを示しているね。
医学生医学生
ということは、空欄は第3段階の文献の批判的吟味ですね。
ドクタードクター
正解。集めた論文が本当に信頼できるのか、自分の患者に役立つのかを評価するステップだ。では他の選択肢も見ておこう。アウトカムの設定はどうかな。
医学生医学生
アウトカムも大事そうですけど……PICOのOでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。治療の疑問ならPICO、つまり患者、介入、比較対照、アウトカムの4要素で臨床上の疑問を具体化する。病因や危険因子ならInterventionの代わりにExposureを使うPECOだ。アウトカムは第1段階で決めておくもので、それがないと文献検索もできない。文献を集めた後に設定するものではないんだ。
医学生医学生
自分の経験はどうでしょう。臨床実習で、ベテランの先生の経験的な判断に助けられる場面も多かったです。
ドクタードクター
医師の経験や専門技能はEBMの大切な構成要素で、第4段階の適用で活かされる。ただ、文献の質を評価する段階で個人の経験だけに頼ると、EBMが乗り越えようとした経験依存の医療に戻ってしまう。だから空欄には入らない。
医学生医学生
動物実験による確認は、明らかに臨床の流れから外れていますね。
ドクタードクター
そうだね。EBMは臨床現場で目の前の患者の問題を解く手順で、自分で動物実験をする過程はない。しかも動物の結果はヒトにそのまま当てはまるとは限らず、エビデンスの階層でも低く位置づけられる。
医学生医学生
患者満足度の推察も、患者さんの価値観を重視するならEBMの一部に思えます。
ドクタードクター
価値観や希望の尊重は確かに重要だ。ただそれは第4段階で、患者と話し合って意向を確認する形で考慮するもの。医師が満足度を推し量ることとも違うし、文献収集の直後に行うことでもない。
医学生医学生
批判的吟味では、具体的にどこを見ればいいんでしょうか。CBTの疫学問題で出てきたNNTとか関係ありますか。
ドクタードクター
大いに関係あるよ。大きく3つの観点がある。1つ目は妥当性で、ランダム化や盲検化がされているか、追跡率は十分か、交絡やバイアスは制御されているか。2つ目は重要性で、相対リスク減少やNNT、信頼区間から、効果が臨床的に意味のある大きさかを判断する。3つ目は適用可能性で、研究の対象患者が自分の患者と似ているかを見る。
医学生医学生
エビデンスレベルでは、ランダム化比較試験のメタアナリシスが一番上でしたよね。
ドクタードクター
そう。その下にランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、コホート研究、症例対照研究、症例報告、専門家の意見と続く。ただ、レベルの高い研究デザインでも質が低ければ信頼できないし、対象が違えば当てはまらない。だからこそ一つ一つの論文を吟味する必要があるんだ。そして適用した後は、第5段階で結果を振り返り、次の診療に活かす。この循環を回すことがEBMの実践だよ。

まとめ

EBMの実践は、問題の定式化(PICO/PECO)、情報収集、批判的吟味、患者への適用、評価の5段階で進み、文献収集と患者への適用の間に入るのは文献の批判的吟味です。批判的吟味では、研究方法の妥当性(ランダム化・盲検化・追跡率・バイアスの制御)、結果の重要性(相対リスク減少・NNT・信頼区間)、自分の患者への適用可能性を評価します。アウトカムの設定は第1段階に含まれ、医師の経験や患者の価値観は第4段階でエビデンスと統合される要素であって、吟味の代わりにはなりません。EBMは論文の結果を機械的に当てはめることではなく、最良のエビデンスと専門技能、患者の意向を統合して個別の判断を下す考え方であり、その手順を理解することは生涯にわたって医学知識を更新し続けるための基盤となります。

解答・解説

正解はeです

根拠に基づいた医療(evidence-based medicine:EBM)の実践手順を問う問題である。 EBMとは、入手できる最良の研究結果(エビデンス)を、医師の臨床的専門技能と、患者の価値観・希望、さらに患者の臨床状況と統合して、目の前の患者の診療方針を決める考え方である。その実践は一般に次の5段階で整理される。 第1段階:患者の問題の定式化(PICOまたはPECOの形で臨床上の疑問を具体化する) 第2段階:問題解決に役立つ情報(文献)の収集 第3段階:得られた情報の批判的吟味 第4段階:吟味した情報を患者に適用できるか判断し、適用する 第5段階:一連の過程とその結果の評価(振り返り) 設問の流れ図は第1〜4段階を示しており、「文献情報の収集」と「患者への適用」の間に入るのは第3段階の「文献の批判的吟味」である。集めた文献をそのまま信じるのではなく、研究デザインの妥当性や結果の信頼性・重要性を評価してから使う、という点がEBMの核心である。

選択肢考察

  1. ×a.  アウトカムの設定

    アウトカム(治療や曝露の結果として評価する指標。死亡、再発、症状改善など)は、第1段階の問題の定式化で決めておく要素である。定式化ではPICO(P:patient 患者、I:intervention 介入、C:comparison 比較対照、O:outcome 結果)の4要素を明確にし、それに基づいて文献を検索する。文献収集の後に設定するものではないため、□には当てはまらない。

  2. ×b.  自分の経験

    医師の臨床経験・専門技能はEBMを構成する要素の一つであり、第4段階で得られたエビデンスを目の前の患者に適用する際に活かされる。しかし、文献収集の次の段階で必要なのは文献そのものの質を客観的に評価することであり、個人の経験だけに基づいて判断することはEBMが克服しようとした経験依存の医療に戻ることになる。□には当てはまらない。

  3. ×c.  動物実験による確認

    EBMは臨床現場で目の前の患者の問題を解決する手順であり、自ら動物実験を行って確認する過程は含まれない。また、動物実験の結果はヒトにそのまま当てはまるとは限らず、エビデンスレベルの階層でもヒトを対象とした臨床研究(ランダム化比較試験やそのメタアナリシスなど)より低く位置づけられる。□には当てはまらない。

  4. ×d.  患者満足度の推察

    患者の価値観や希望はEBMの重要な構成要素であるが、それを考慮するのは第4段階の患者への適用の場面であり、医師が満足度を推測することではなく、患者と話し合って意向を確認することが求められる。文献収集の直後に行うのは文献の質の評価であり、□には当てはまらない。

  5. ○e.  文献の批判的吟味

    EBMの第3段階にあたる。集めた文献について、(1)研究方法が妥当か(ランダム化・盲検化の有無、追跡率、交絡やバイアスの制御など)、(2)結果は臨床的に意味のある大きさか(相対リスク減少、NNT:治療必要数、信頼区間など)、(3)自分の患者に当てはめられるか(対象患者の背景の類似性など)、という観点で評価する。この吟味を経て初めて、第4段階の患者への適用に進むことができる。□に相当する。

EBMの5つのステップ

1. 問題の定式化(PICO/PECO) 2. 情報収集(PubMed・コクランライブラリー・診療ガイドラインなどを検索) 3. 批判的吟味(妥当性・重要性・適用可能性の評価) 4. 患者への適用(エビデンス、臨床的専門技能、患者の価値観、臨床状況を統合して判断) 5. 評価(1〜4の過程と患者の転帰を振り返る)

PICOとPECO

治療の疑問ではPICO(Patient, Intervention, Comparison, Outcome)、病因・危険因子の疑問ではPECO(Patient, Exposure, Comparison, Outcome)を用いる。

エビデンスレベルのおおまかな階層(高い順)

ランダム化比較試験のシステマティックレビュー・メタアナリシス → ランダム化比較試験 → 非ランダム化比較試験 → コホート研究 → 症例対照研究 → 症例集積・症例報告 → 専門家の意見(基礎研究・動物実験は臨床的エビデンスとしては最も低く扱われる)

EBMの誤解

EBMは文献の結果を機械的に当てはめることではない。エビデンスはあくまで判断材料の一つであり、患者の価値観や医師の専門技能と統合して個別の意思決定を行う点が重要である。

POINT

・EBMの流れ:問題の定式化 → 情報収集 → 批判的吟味 → 患者への適用 → 評価 ・アウトカムの設定は第1段階(PICOのO)に含まれる。 ・臨床経験や患者の価値観は第4段階の適用で統合する要素であり、批判的吟味の代わりにはならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。