StudyMed医師国家試験

「筋」の字にだまされるな―筋性防御は運動器ではなくお腹のサイン

第100回医師国家試験 E問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第100回 E問題 第20問

筋骨格系の診察でないのはどれか。

  1. a.肢位
  2. b.筋性防御
  3. c.関節可動域
  4. d.脊柱の運動性
  5. e.徒手筋力テスト

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、運動器の診察でどんな項目を評価するかを問う問題だ。用語の字面ではなく、その所見がどの臓器系の病態を映しているのかで判断することがポイントになる。まず、運動器の診察はどんな流れで進めるか、思い出してみよう。
医学生医学生
整形外科の実習では、視診、触診、関節可動域、筋力、神経学的所見の順に診るように言われました。
ドクタードクター
いい流れだね。視診で肢位や変形、腫脹、筋萎縮を見て、触診で圧痛や熱感を確かめ、関節可動域を測り、脊柱を評価し、徒手筋力テストで筋力を見る。必要に応じて反射や感覚、誘発テストを加える。この流れの中に入っていない項目が答えだ。
医学生医学生
そうなると、筋性防御が浮いて見えます。でも「筋」がつくので、筋肉の診察のような気もして少し迷いました。
ドクタードクター
そこが出題者の狙いだね。筋性防御は、腹部を触診したときに腹壁の筋が反射的に硬くなる現象だ。腹腔内の炎症が壁側腹膜に及ぶと、その刺激が肋間神経や腰神経を介して腹壁筋の緊張を高める。筋が反応してはいるけれど、評価しているのは腹膜の炎症なんだ。
医学生医学生
消化器外科の実習で、虫垂炎の患者さんの右下腹部を押したら硬く抵抗があって、それが腹膜刺激症状だと教わりました。
ドクタードクター
まさにそれ。反跳痛、つまりBlumberg徴候と並ぶ腹膜刺激症状の代表で、急性虫垂炎、消化管穿孔、胆嚢炎などによる腹膜炎を示唆する。だから筋骨格系の診察ではなく、腹部の診察項目で、これが正解になる。ではほかの項目も確認しよう。肢位を見る意味は分かるかな。
医学生医学生
患者さんがとっている姿勢のことですよね。骨折や脱臼で特徴的な形になるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。大腿骨頸部骨折では患肢が短縮・外旋位、股関節後方脱臼では屈曲・内転・内旋位をとる。痛みを避ける逃避肢位や、神経麻痺による下垂手・下垂足も肢位の観察で分かる。部屋に入った瞬間から診察は始まっているんだ。
医学生医学生
関節可動域は、ゴニオメーターで角度を測るものですね。自動と他動を両方測る理由がいまひとつ分かっていません。
ドクタードクター
大事なところだね。自分で動かせないのに他人が動かすと動くなら、関節は動くのに力が出ていない、つまり筋力低下や腱断裂、神経麻痺を考える。どちらでも動かないなら、関節そのものの拘縮や強直が疑わしい。差を見ることで原因の場所が絞れるんだ。
医学生医学生
脊柱の運動性は、前屈で指が床にどれだけ届くかを見る、あれですか。
ドクタードクター
そう、指床間距離だね。前屈・後屈・側屈・回旋を評価し、強直性脊椎炎ではSchober試験で腰椎の前屈の伸びを測る。腰痛疾患や側弯症の評価にも欠かせない。
医学生医学生
徒手筋力テストは0から5の6段階で、3が重力に抗して全可動域を動かせる、でしたよね。CBTでよく出ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。2は重力を除けば全可動域を動かせる、4はある程度の抵抗に抗せる、5が正常だ。3が境目になるから、そこを基準に覚えておくと判定しやすい。どの筋が弱いかを調べることで、障害された神経根の高さを推定するのにも役立つよ。
医学生医学生
名前に「筋」が入っていても、何の病態を見ているかで分類すべきなんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床的な注意点も。腹膜刺激症状には、筋性防御や反跳痛のほか、汎発性腹膜炎で腹壁全体が板のように硬くなる板状硬、咳や踵落としでの痛みの増強もある。壁側腹膜は体性神経支配で痛みの場所がはっきりするから、所見の部位から炎症の場所を推定できる。一方で高齢者やステロイド使用中の人では所見が乏しくなることがあるから、所見が弱いからといって安心しすぎないことも大切だ。

まとめ

運動器(筋骨格系)の診察は、視診での肢位・変形の観察、触診、関節可動域の測定、脊柱の運動性の評価、徒手筋力テストによる筋力評価、神経学的評価や誘発テストという流れで進めます。筋性防御は「筋」の字を含みますが、腹腔内の炎症が壁側腹膜に及んだ際に腹壁筋が反射的に緊張する腹膜刺激症状であり、腹部の診察所見です。関節可動域は自動と他動の差から原因部位を推定でき、徒手筋力テストは0〜5の6段階で3(重力に抗して全可動域)が基準になります。所見を名称ではなく、どの臓器系の病態を反映するかで整理する習慣は、身体診察を体系的に理解するうえで重要です。

解答・解説

正解はbです

筋骨格系(骨・関節・筋・脊柱など運動器)の診察で何を評価するかを問う問題である。 運動器の診察は、おおむね「視診(肢位・変形・腫脹・筋萎縮の観察)→触診(圧痛・熱感・腫脹)→関節可動域の測定→脊柱の評価→筋力評価(徒手筋力テスト)→神経学的評価や誘発テスト」という流れで進む。選択肢のうち、肢位、関節可動域、脊柱の運動性、徒手筋力テストはいずれもこの流れの中に組み込まれた運動器診察の基本項目である。 一方、筋性防御は「筋」という字を含むが、腹部を触診したときに腹壁の筋が反射的に硬くなる現象であり、腹膜の炎症を示す腹部の診察所見である。名称に惑わされず、どの臓器系の病態を反映する所見かで判断することが正解への鍵となる。

選択肢考察

  1. ×a.  肢位

    肢位とは、患者が安静時や診察時にとっている四肢・体幹の姿勢のことで、運動器診察の最初に視診で確認する項目である。疾患によって特徴的な肢位をとることが多く、たとえば股関節後方脱臼では患肢が屈曲・内転・内旋位をとり、大腿骨頸部骨折では短縮・外旋位をとる。また、疼痛を避けるための逃避肢位や、神経麻痺に伴う下垂手・下垂足なども肢位の観察でとらえられる。したがって筋骨格系の診察に含まれる。

  2. ○b.  筋性防御

    筋性防御(defense musculaire)は、腹腔内の炎症が壁側腹膜に及んだとき、その刺激が肋間神経や腰神経を介して反射的に腹壁筋の緊張を高め、触診した手に硬い抵抗として感じられる所見である。反跳痛(Blumberg徴候)などと並ぶ腹膜刺激症状の一つで、急性虫垂炎、消化管穿孔、胆嚢炎などに伴う腹膜炎を示唆する。筋の反応として現れるが、評価対象は腹膜・腹腔内臓器の病態であり、腹部の診察項目である。よって筋骨格系の診察ではなく、本問の正解となる。

  3. ×c.  関節可動域

    関節可動域(range of motion:ROM)は、四肢関節や脊柱がどこまで動くかを角度計(ゴニオメーター)などで測る代表的な運動器診察項目である。患者が自分で動かす自動可動域と、検者が動かす他動可動域を区別して測定し、両者の差から筋力低下や腱断裂、関節自体の拘縮・強直などを鑑別する手がかりが得られる。筋骨格系の診察に含まれる。

  4. ×d.  脊柱の運動性

    脊柱は多数の椎骨と椎間関節・椎間板からなる関節の複合体であり、前屈・後屈・側屈・回旋の各方向の動きを評価する。前屈時の指床間距離(FFD)や、強直性脊椎炎で用いられるSchober試験などが代表的で、腰痛疾患、脊椎炎、脊柱側弯症などの評価に用いられる。脊柱の運動性の評価は筋骨格系の診察項目である。

  5. ×e.  徒手筋力テスト

    徒手筋力テスト(manual muscle testing:MMT)は、検者が手で抵抗を加えて個々の筋や筋群の筋力を評価する方法である。0(筋収縮なし)、1(収縮はあるが関節は動かない)、2(重力を除けば全可動域を動かせる)、3(重力に抗して全可動域を動かせる)、4(ある程度の抵抗に抗して動かせる)、5(正常)の6段階で判定する。筋力低下の有無と程度、障害されている神経髄節の推定に役立ち、筋骨格系診察の基本項目である。

運動器診察の主な流れ

1. 視診:肢位、変形(内反・外反など)、腫脹、発赤、筋萎縮、左右差、歩容 2. 触診:圧痛の部位、熱感、腫脹・関節液貯留、轢音 3. 関節可動域(ROM):自動・他動の両方を測定し、左右で比較する 4. 脊柱の評価:アライメント(側弯・後弯)、運動性(前屈・後屈・側屈・回旋)、叩打痛 5. 筋力:徒手筋力テスト(MMT)0〜5の6段階 6. 神経学的評価:感覚、深部腱反射、病的反射 7. 誘発テスト:SLR(下肢伸展挙上)テスト、Lachmanテスト、McMurrayテストなど 8. 計測:四肢長、周径

腹膜刺激症状

腹腔内の炎症が壁側腹膜に達したときにみられる所見の総称で、筋性防御、反跳痛(Blumberg徴候)、筋強直(板状硬:汎発性腹膜炎で腹壁全体が板のように硬くなる状態)、咳嗽試験や踵落とし試験での疼痛増強などがある。壁側腹膜は体性神経支配のため痛みの局在が明瞭であり、所見の部位から炎症の部位を推定できる。

POINT

・肢位、関節可動域、脊柱の運動性、徒手筋力テストは運動器診察の基本項目である。 ・筋性防御は腹膜刺激症状であり、腹部の診察所見である(「筋」の字に惑わされない)。 ・MMTは0〜5の6段階で、3は「重力に抗して全可動域を動かせる」が基準となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。