StudyMed医師国家試験

カリウムを「捨てる薬」と「守る薬」―集合管で読み解く薬剤性低カリウム血症

第100回医師国家試験 B問題 第60問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第60問

低カリウム血症をきたさないのはどれか。

  1. a.甘草
  2. b.スピロノラクトン
  3. c.ループ利尿薬
  4. d.サイアザイド系利尿薬
  5. e.副腎皮質ステロイド薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、薬剤による低カリウム血症を整理する問題だ。丸暗記で臨むと迷いやすいけれど、腎臓のどこでK+の排泄量が決まっているかを押さえれば、一つの原理ですっきり解ける。まず、尿中に出るK+の量を最終的に決めているのはどこだと思う?
医学生医学生
生理学の講義では、濾過されたKの大部分は近位尿細管で再吸収されると習いました。だから近位尿細管でしょうか。
ドクタードクター
再吸収の量としては近位尿細管とHenleループが大部分を担うね。ただ、最終的な排泄量を調節しているのは皮質集合管、特に主細胞での分泌なんだ。主細胞では上皮型Naチャネル(ENaC)からNa+が取り込まれて管腔側が負に傾き、その電位差を駆動力にしてK+がROMKなどのKチャネルから管腔へ分泌される。
医学生医学生
Naを取り込むほどKが出ていく、という交換のような関係ですね。
ドクタードクター
そのイメージでいい。そしてK+分泌を強める因子は大きく二つ。一つはアルドステロン、つまりミネラルコルチコイド受容体(MR)を介する作用の増強。もう一つは集合管へ届くNa+と尿流量の増加だ。この二つの軸で選択肢を分類してみよう。まず甘草はどうかな。
医学生医学生
漢方実習で、芍薬甘草湯を飲んでいた高齢者が脱力で入院した症例を聞きました。偽性アルドステロン症ですよね。
ドクタードクター
その通り。甘草の成分グリチルリチンの代謝物は、集合管にある11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)を阻害する。この酵素は本来、コルチゾールを不活性なコルチゾンに変えて、MRがコルチゾールに刺激されないよう守っている。それが阻害されると、大量にあるコルチゾールがMRを刺激して、アルドステロン過剰のような状態になるんだ。
医学生医学生
なら、アルドステロンの値も高くなるんでしょうか。
ドクタードクター
そこが原発性アルドステロン症との違いで、よく問われるポイントだ。MRが勝手に刺激されて体液量が増えるから、レニンもアルドステロンもむしろ抑制されて低値になる。低カリウム血症、代謝性アルカローシス、高血圧、浮腫がそろい、低カリウム性ミオパチーでCK上昇から見つかることもある。
医学生医学生
副腎皮質ステロイド薬も同じMRの軸で考えればいいですか。
ドクタードクター
そうだね。ステロイドは主にグルココルチコイド作用を目的に使うけれど、ヒドロコルチゾンはミネラルコルチコイド作用が比較的強く、プレドニゾロンにも弱いながらある。大量投与では11β-HSD2の不活化が追いつかずMRが刺激されることもある。だから低カリウム血症や浮腫、高血圧をきたしうる。一方、デキサメタゾンやベタメタゾンはミネラルコルチコイド作用がほとんどない。
医学生医学生
次はもう一つの軸、Na負荷ですね。ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬が当てはまりそうです。
ドクタードクター
正解。ループ利尿薬はHenleループ太い上行脚のNa+-K+-2Cl-共輸送体を、サイアザイド系は遠位曲尿細管のNa+-Cl-共輸送体を阻害する。どちらも上流でNaを再吸収させないので、集合管へ大量のNa+と水が届き、K+分泌が増える。さらに体液量が減るとレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が亢進して、アルドステロンの軸からもK+排泄が上乗せされるんだ。
医学生医学生
二つの軸が両方とも動くわけですね。残ったスピロノラクトンは、MRを遮断する側だから逆向きになる……。
ドクタードクター
そう、それが正解だ。スピロノラクトンはMRに競合的に結合してアルドステロン作用を遮断する。主細胞のENaCやNa+/K+-ATPaseの働きが弱まり、Na+再吸収もK+分泌も減るから、K+は体内に保持される。だからカリウム保持性利尿薬と呼ばれ、低カリウム血症どころか高カリウム血症の原因になるんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、心不全の患者さんにフロセミドとスピロノラクトンが一緒に処方されていたのは、Kのバランスをとる意味もあったんですね。
ドクタードクター
よく気づいたね。心不全では予後改善効果も期待して使われるけれど、ループ利尿薬によるK喪失を打ち消す役割もある。ただし、腎機能障害がある人やACE阻害薬・ARB、K製剤を併用している人では高カリウム血症に注意が必要だ。また抗アンドロゲン作用による女性化乳房や月経異常も知られていて、より選択性の高いエプレレノンではこれらが少ない。
医学生医学生
低カリウム血症そのものが臨床で怖いのはどんな場面ですか。
ドクタードクター
代表的なのは、ジギタリスを使っている患者だ。低カリウム血症があるとジギタリス中毒による不整脈が起こりやすくなる。サイアザイド系は降圧薬として長期に使われるので、定期的な血清K値の確認が欠かせないし、高尿酸血症や高血糖、低ナトリウム血症などの代謝性副作用にも目を配りたい。それから、利尿薬以外にもインスリンやβ2刺激薬はKを細胞内に移動させて低カリウム血症を起こすから、薬歴を見るときは「腎から失う」のか「細胞内へ移る」のかも区別しておこう。
医学生医学生
逆に高カリウム血症を起こす薬としては、スピロノラクトンのほかにACE阻害薬やARB、ST合剤なども覚えておきます。
ドクタードクター
いいね。ST合剤のトリメトプリムはENaCを阻害するから、スピロノラクトンと同じく集合管でK+分泌を減らす。結局どの薬も、集合管主細胞のNa取り込みとK分泌を強めるのか弱めるのかで説明できるんだ。

まとめ

尿中K+排泄は主に皮質集合管の主細胞で調節され、アルドステロン(ミネラルコルチコイド)作用の増強と、集合管へ届くNa+・尿流量の増加によって促進されます。甘草は11β-HSD2阻害によりコルチゾールがMRを刺激する偽性アルドステロン症(レニン・アルドステロンはともに低値)を、ミネラルコルチコイド作用をもつ副腎皮質ステロイド薬もMR刺激を介して低カリウム血症をきたします。ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬は、集合管へのNa負荷増加とRAA系亢進によりK+排泄を増やします。これに対しスピロノラクトンはMR拮抗薬(カリウム保持性利尿薬)でK+分泌を抑えるため低カリウム血症はきたさず、腎機能障害やACE阻害薬・ARB併用時にはむしろ高カリウム血症に注意が必要です。「集合管でK+分泌を強めるか弱めるか」という一つの原理で考えると、電解質異常をきたす薬剤を体系的に整理でき、日常の処方管理にも直結します。

解答・解説

正解はbです

薬剤性の低カリウム血症を考えるときは、腎臓でK+がどこで、どのように排泄されるかを押さえておくと整理しやすい。

腎でのK+排泄の主な調節部位

糸球体で濾過されたK+の大部分は近位尿細管とHenleループで再吸収され、尿中に出るK+の量は主に皮質集合管(および接合尿細管)の主細胞での分泌によって決まる。主細胞では、管腔側の上皮型Naチャネル(ENaC)からNa+が取り込まれて管腔内が負に傾き、その電位差を駆動力としてK+がKチャネル(ROMKなど)から管腔へ分泌される。この過程を強める因子は大きく二つある。 1. アルドステロン(ミネラルコルチコイド)作用の増強:ミネラルコルチコイド受容体(MR)を介してENaCとNa+/K+-ATPaseを増やし、K+分泌を促進する。 2. 集合管へ届くNa+と尿流量の増加:上流でNa再吸収が阻害されると、集合管でのNa+再吸収とK+分泌が増える。

選択肢の位置づけ

・ミネラルコルチコイド作用を強めるもの:甘草(偽性アルドステロン症)、副腎皮質ステロイド薬(特にミネラルコルチコイド作用をもつもの) ・集合管へのNa負荷と尿流量を増やすもの:ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬(さらに体液量減少によるRAA系亢進も加わる) ・ミネラルコルチコイド作用を遮断するもの:スピロノラクトン(抗アルドステロン薬) したがって、前4者はK+排泄を増やして低カリウム血症を来しうるが、スピロノラクトンはK+排泄を抑える「カリウム保持性利尿薬」であり、むしろ高カリウム血症の原因となる。

選択肢考察

  1. ×a.  甘草

    甘草は多くの漢方薬(芍薬甘草湯、葛根湯、小青竜湯など)に含まれる生薬で、有効成分グリチルリチンは肝疾患治療薬としても用いられる。グリチルリチンの代謝物であるグリチルレチン酸は、腎集合管などに存在する11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)を阻害する。この酵素は通常、コルチゾールを受容体に結合しにくいコルチゾンへ変換して、MRをコルチゾールから守っている。阻害されるとコルチゾールがMRを直接刺激し、アルドステロン過剰と同様の状態になる。これを偽性アルドステロン症と呼び、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、高血圧、浮腫を呈する。アルドステロンとレニンはいずれも抑制されて低値となる点が原発性アルドステロン症との違いである。複数の漢方薬の併用や高齢者で起こりやすく、低カリウム性ミオパチー(脱力、CK上昇)で発見されることもある。

  2. ○b.  スピロノラクトン

    スピロノラクトンはMRに競合的に結合してアルドステロンの作用を遮断する抗アルドステロン薬(MR拮抗薬)である。集合管主細胞でのENaCとNa+/K+-ATPaseの作用が弱まり、Na+再吸収とK+分泌がともに低下するため、K+は体内に保持される(カリウム保持性利尿薬)。そのため低カリウム血症は来さず、逆に高カリウム血症を起こすことがある。特に腎機能障害、ACE阻害薬・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)やK製剤との併用時には注意が必要である。ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬によるK喪失を打ち消す目的で併用されることもある。このほか、抗アンドロゲン作用による女性化乳房、月経異常なども副作用として知られる(より選択性の高いエプレレノンではこれらが少ない)。

  3. ×c.  ループ利尿薬

    フロセミドなどのループ利尿薬は、Henleループの太い上行脚にあるNa+-K+-2Cl-共輸送体(NKCC2)を阻害し、強力なNa利尿を起こす。その結果、下流の集合管へ大量のNa+と水が届いてK+分泌が促進される。さらに体液量が減少することでRAA系が亢進し、アルドステロンによるK+分泌の増加が加わる。これらにより低カリウム血症を高頻度に来し、代謝性アルカローシスも伴いやすい。ジギタリス使用中の患者では、低カリウム血症によりジギタリス中毒(不整脈)が起こりやすくなるため注意を要する。

  4. ×d.  サイアザイド系利尿薬

    サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジドなど)やサイアザイド類似薬(インダパミドなど)は、遠位曲尿細管のNa+-Cl-共輸送体(NCC)を阻害する。ループ利尿薬と同様に、集合管へのNa+負荷と尿流量の増加、体液量減少に伴うRAA系の亢進によってK+分泌が増え、低カリウム血症を来しうる。降圧薬として長期に使用されることが多いため、定期的な血清K値の確認が必要である。そのほかの代謝性副作用として、高尿酸血症、高血糖、低ナトリウム血症、高カルシウム血症(尿中Ca排泄の低下による)が知られる。

  5. ×e.  副腎皮質ステロイド薬

    副腎皮質ステロイド薬は主にグルココルチコイド作用を目的に用いられるが、薬剤によってはミネラルコルチコイド作用も併せもつ。ヒドロコルチゾン(コルチゾール)はミネラルコルチコイド作用が比較的強く、プレドニゾロンも弱いながらこの作用をもつ。また大量投与時には11β-HSD2による不活化が追いつかず、MRが刺激される。これらによって集合管でのNa+再吸収とK+分泌が亢進し、低カリウム血症、Na・水貯留(浮腫、高血圧)を来しうる。なお、デキサメタゾンやベタメタゾンはミネラルコルチコイド作用がほとんどない。副腎不全の補充療法で用いるフルドロコルチゾンは、強いミネラルコルチコイド作用をもつ薬剤である。

低カリウム血症の主な原因の整理

・摂取不足:飢餓、神経性やせ症など(単独では起こりにくく、他の要因と重なることが多い) ・細胞内への移行:インスリン投与、β2刺激薬、アルカローシス、低カリウム性周期性四肢麻痺(甲状腺中毒症に伴うものを含む) ・腎からの喪失  ミネラルコルチコイド作用の過剰:原発性アルドステロン症、Cushing症候群、偽性アルドステロン症(甘草)、腎血管性高血圧、Liddle症候群  利尿薬:ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬  尿細管疾患:Bartter症候群、Gitelman症候群、尿細管性アシドーシス(1型・2型)  その他:低マグネシウム血症、アムホテリシンBなど ・腎外からの喪失:下痢、下剤の乱用(嘔吐では胃液からのK喪失よりも、代謝性アルカローシスと体液量減少に伴う腎からの喪失が主因)

高カリウム血症を来しうる主な薬剤

カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン、エプレレノン、トリアムテレン)、ACE阻害薬、ARB、直接的レニン阻害薬、NSAIDs、β遮断薬、ST合剤(トリメトプリムがENaCを阻害)、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)、ヘパリン、ジギタリス中毒など。

ステロイドの作用比(ヒドロコルチゾンを1とした目安)

・ヒドロコルチゾン:糖質作用1、鉱質作用1 ・プレドニゾロン:糖質作用4、鉱質作用0.8 ・デキサメタゾン、ベタメタゾン:糖質作用25程度、鉱質作用はほぼ0 ・フルドロコルチゾン:糖質作用10程度、鉱質作用は非常に強い(100倍以上)

POINT

・K+排泄は主に集合管主細胞で調節され、アルドステロン作用と集合管へのNa負荷・尿流量で増える。 ・低カリウム血症を来す薬剤:ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、甘草(偽性アルドステロン症)、ミネラルコルチコイド作用をもつステロイド、β2刺激薬、インスリンなど。 ・スピロノラクトンはMR拮抗薬(カリウム保持性利尿薬)で、高カリウム血症を来しうる。 ・甘草による偽性アルドステロン症は11β-HSD2阻害が機序で、レニン・アルドステロンはともに低値となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。