キーワードの「すり替え」を見抜け―小児の消化器・代謝疾患と所見の正しい結び付け
第100回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
疾患と症候の組合せで正しいのはどれか。
- a.肥厚性幽門狭窄症 ―― 高クロール血症
- b.Wilson病 ―― 人形様顔貌
- c.腸重積症 ―― string sign
- d.乳糖不耐症 ―― 白色便性下痢
- e.Gilbert症候群 ―― 高間接型ビリルビン血症
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
Gilbert症候群はUGT1A1の活性低下によりビリルビンのグルクロン酸抱合が不十分となる体質性黄疸で、溶血や肝障害を伴わない軽度の高間接型ビリルビン血症を示し、予後良好で治療は不要です。肥厚性幽門狭窄症は胃酸喪失による低クロール性低カリウム性代謝性アルカローシスと造影でのstring sign、腸重積症は超音波のtarget signや注腸のカニ爪様陰影欠損が特徴です。人形様顔貌は糖原病I型、白色便性下痢はロタウイルス胃腸炎の所見であり、乳糖不耐症は便pH低下を伴う酸臭のある発酵性下痢を示します。この種の組合せ問題では他疾患のキーワードを入れ替えた選択肢が多いため、病態から所見を導く理解が誤りを見抜く鍵になります。体質性黄疸を間接型・直接型で整理しておくことは、健診で見つかる軽度黄疸の評価にも役立ちます。
解答・解説
正解はeです
小児期にみられる代表的な消化器・代謝疾患について、それぞれを特徴づける検査所見や身体所見(いわゆる「キーワード」)を正しく結び付けられるかを問う問題である。 本問の選択肢には、別の疾患の所見を入れ替えた「すり替え」が多く含まれている。たとえば string sign は腸重積症ではなく肥厚性幽門狭窄症の造影所見であり、人形様顔貌は Wilson 病ではなく糖原病の顔貌、白色便性下痢は乳糖不耐症ではなくロタウイルス腸炎の特徴である。また、肥厚性幽門狭窄症の電解質異常は「高」ではなく「低」クロール血症である。 解き方としては、各疾患の病態(何が障害されて、どのような結果が生じるか)から所見を導けるかを一つずつ確認するとよい。Gilbert 症候群は、肝細胞でビリルビンをグルクロン酸抱合する酵素の活性が生まれつき低いため、抱合前のビリルビン(間接型)が血中に増える疾患であり、「高間接型ビリルビン血症」という組合せは病態から素直に導ける。
選択肢考察
- ×a. 肥厚性幽門狭窄症 ―― 高クロール血症
誤り。肥厚性幽門狭窄症では幽門筋が肥厚して胃の出口が狭くなり、胆汁を含まない噴水状の嘔吐を繰り返す。嘔吐によって胃酸(HCl)と H+ が失われるため、血清クロールは低下し、低クロール性の代謝性アルカローシスとなる。さらに腎で Na+ を保持する代わりに K+ が排泄されるため低カリウム血症も合併しやすい(低クロール性低カリウム性代謝性アルカローシス)。高クロール血症は、下痢による重炭酸喪失や尿細管性アシドーシスなど、アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシスでみられる所見であり、本症とは逆である。
- ×b. Wilson病 ―― 人形様顔貌
誤り。人形様顔貌(doll face)は糖原病、特に I 型(von Gierke 病)の特徴である。頬や体幹に皮下脂肪が多くつき、丸くふっくらした顔つきになることからこう呼ばれ、低身長・肝腫大・空腹時低血糖を伴う。Wilson 病は銅輸送を担う ATP7B 遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝の銅代謝異常症で、銅が胆汁中へ排泄されず肝に蓄積し、のちに脳・角膜・腎などにも沈着する。学童期以降に肝障害(慢性肝炎・肝硬変・劇症肝炎)、溶血発作、あるいは構音障害・振戦・精神症状などの神経症状で発症し、Kayser-Fleischer 角膜輪、血清セルロプラスミン低値、尿中銅排泄増加が特徴である。人形様顔貌はみられない。
- ×c. 腸重積症 ―― string sign
誤り。string sign は肥厚性幽門狭窄症で上部消化管造影を行った際に、狭く引き伸ばされた幽門管を造影剤が細い糸のように通過する像を指す(なお Crohn 病で狭窄した回腸末端にも同名の所見がある)。腸重積症では、腹部超音波の短軸像で重なった腸管が同心円状にみえる target sign(doughnut sign)、長軸像の pseudokidney sign、注腸造影で先進部が蟹の爪のように見えるカニ爪様陰影欠損(crab claw sign)が特徴的である。臨床的には間欠的啼泣(腹痛)、嘔吐、イチゴゼリー状の粘血便が三主徴として知られる。
- ×d. 乳糖不耐症 ―― 白色便性下痢
誤り。乳糖不耐症では小腸粘膜のラクターゼが不足し、乳糖が分解・吸収されないまま大腸に達する。大腸で腸内細菌が乳糖を発酵させて乳酸などの有機酸やガスを生じるため、酸っぱい臭いのある泡立った水様下痢(発酵性下痢)となり、便の pH は低下し、還元糖が陽性になる。腹部膨満や放屁の増加も伴う。白色便性下痢(白色〜クリーム色の水様便)は、冬季に乳幼児に流行するロタウイルス胃腸炎の特徴的な所見であり、乳糖不耐症の所見ではない。なお、ウイルス性胃腸炎の後に一過性の二次性乳糖不耐症を起こし、下痢が遷延することはある。
- ○e. Gilbert症候群 ―― 高間接型ビリルビン血症
正しい組合せである。Gilbert 症候群は、ビリルビンをグルクロン酸抱合する酵素 UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)の遺伝子多型により酵素活性が正常の約 30% 程度に低下し、肝細胞へのビリルビン取り込みの低下も関与するとされる体質性黄疸である。抱合されない間接型(非抱合型)ビリルビンが軽度に上昇するが、溶血はなく、肝機能検査や肝組織は正常である。総ビリルビンは通常 5 mg/dL 未満で、絶食・感染・疲労・ストレスなどで上昇しやすい。予後は良好で治療は不要である。
体質性黄疸の整理
・間接型(非抱合型)ビリルビン優位 Crigler-Najjar 症候群 I 型:UGT1A1 活性がほぼ欠損。新生児期から高度の黄疸をきたし、核黄疸の危険が高い。フェノバルビタールは無効。 Crigler-Najjar 症候群 II 型:UGT1A1 活性が高度に低下。黄疸は中等度で、フェノバルビタール(酵素誘導)により低下する。 Gilbert 症候群:UGT1A1 活性が軽度に低下。最も頻度が高く(人口の数 % 程度)、軽度の変動する黄疸のみで予後良好。 ・直接型(抱合型)ビリルビン優位 Dubin-Johnson 症候群:毛細胆管へ抱合型ビリルビンを排出する輸送体 MRP2 の異常。肝は黒色調で、肝細胞内に褐色色素が沈着する。 Rotor 症候群:肝細胞への取り込み・再取り込みの障害(OATP1B1/1B3 の欠損)。肝の色素沈着はない。
本問に登場する他疾患の要点
・肥厚性幽門狭窄症:生後 2〜8 週頃の男児(特に第 1 子)に多い。非胆汁性の噴水状嘔吐、右上腹部のオリーブ様腫瘤、低クロール性低カリウム性代謝性アルカローシス。診断は腹部超音波で幽門筋の肥厚(厚さ 4 mm 以上程度)と幽門管の延長を確認する。治療は脱水・電解質補正後の粘膜外幽門筋切開術(Ramstedt 手術)、あるいはアトロピン療法。 ・腸重積症:生後 6 か月〜2 歳頃に多い。多くは回腸末端が結腸へ入り込む回腸結腸型。発症早期で全身状態が保たれていれば、造影剤や空気を用いた高圧浣腸で整復する。 ・糖原病 I 型:グルコース-6-ホスファターゼの欠損。空腹時低血糖、肝腫大、人形様顔貌、高乳酸血症・高尿酸血症・高脂血症。 ・Wilson 病:ATP7B 異常による銅蓄積。治療は D-ペニシラミンなどのキレート薬、亜鉛製剤、銅制限食。 ・ロタウイルス胃腸炎:乳幼児の冬季〜春先の嘔吐・下痢症。白色〜クリーム色の水様便が特徴で、脱水やけいれん、脳症を起こすことがある。ワクチンは定期接種化されている。
POINT
・Gilbert 症候群:UGT1A1 活性低下による軽度の高間接型ビリルビン血症。溶血なし、肝機能正常、予後良好。 ・肥厚性幽門狭窄症:低クロール性低カリウム性代謝性アルカローシス、造影で string sign、オリーブ様腫瘤。 ・腸重積症:超音波で target sign(doughnut sign)、注腸でカニ爪様陰影欠損、イチゴゼリー状粘血便。 ・人形様顔貌は糖原病(特に I 型)。Wilson 病は Kayser-Fleischer 角膜輪・セルロプラスミン低値。 ・白色便性下痢はロタウイルス。乳糖不耐症は酸臭のある発酵性下痢(便 pH 低下)。
