「大きさ」が運命を分ける―大腸腺腫と腺腫‐癌連関の基本
第100回医師国家試験 B問題 第35問
国試問題にチャレンジ
大腸腺腫について正しいのはどれか。
- a.30歳代に発見されることが多い。
- b.上行結腸に発生することが多い。
- c.大きなものほど癌の合併が多い。
- d.粘血便を伴うことが多い。
- e.有茎性のものが多い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
大腸腺腫は大腸粘膜上皮から生じる良性腫瘍で、APC、KRAS、TP53などの遺伝子変異が段階的に蓄積する腺腫‐癌連関を通じて大腸癌の主要な前癌病変となります。そのため腺腫は大きいほど、また絨毛成分が多く異型度が高いほど癌を合併しやすく、1〜2cmで約1割、2cm超では数十%に達します。好発は50〜70歳代、伝統的にはS状結腸・直腸に多く、形態は無茎性や平坦なものが主体で、大部分は無症状のまま便潜血検査や内視鏡で発見されます。若年で多発する場合は家族性大腸腺腫症を疑い、通常はおおむね6mm以上の腺腫が内視鏡的切除の適応です。腺腫の性質を理解することは、検診や内視鏡治療による大腸癌予防の考え方そのものにつながります。
解答・解説
正解はcです
大腸腺腫は、大腸粘膜の上皮細胞が異常に増殖してできる良性の腫瘍(上皮性腫瘍)で、大腸ポリープの中で最も多い。多くの大腸癌は、腺腫が時間をかけて大きくなり、その一部が癌に変わる経路(腺腫‐癌連関 adenoma-carcinoma sequence)で発生すると考えられている。この経路では、APC遺伝子の変異で腺腫ができ、KRAS遺伝子やTP53遺伝子などの変異が段階的に加わることで癌に進む。 本問では、大腸腺腫の疫学(好発年齢・好発部位)、形態、症状、癌化との関係を整理しておくことが求められる。 ・好発年齢: 年齢とともに増え、中高年(おおむね50歳以降)に多い。 ・好発部位: 伝統的にS状結腸と直腸に多いとされる。 ・形態: 茎のない(無茎性・広基性)もの、平坦なものが多く、茎をもつ有茎性のものは少数である。 ・症状: 大部分は無症状で、便潜血検査や大腸内視鏡検査で偶然見つかる。 ・癌化: 腺腫が大きいほど、また絨毛成分が多いほど、異型度が高いほど、内部に癌を含む頻度が高い。 このうち「大きさと癌合併率」の関係は、内視鏡で見つかった腺腫を切除するかどうかを判断する根拠にもなる重要な知識である。
選択肢考察
- ×a. 30歳代に発見されることが多い。
大腸腺腫は加齢とともに頻度が上がり、50~70歳代に発見されることが多い。30歳代で多数の腺腫がみられる場合は、APC遺伝子の生殖細胞系列変異による家族性大腸腺腫症(大腸に100個以上の腺腫が多発し、放置すればほぼ全例で大腸癌を発生する常染色体顕性遺伝の疾患)などの遺伝性疾患を考える必要がある。
- ×b. 上行結腸に発生することが多い。
大腸腺腫は大腸のどこにでも発生するが、S状結腸と直腸に多いとされ、大腸癌の好発部位と同様の分布をとる。上行結腸が最も多いわけではない。なお、盲腸・上行結腸などの右側結腸には、平坦で見つけにくい鋸歯状病変(無茎性鋸歯状病変 SSL)が多く、これも癌化の経路となる点は知っておくとよい。
- ○c. 大きなものほど癌の合併が多い。
腺腫は大きくなるにつれて遺伝子変異が蓄積し、異型度が高くなり、内部に癌を含む頻度が高くなる。1cm未満の腺腫では癌を含むことはまれだが、1~2cmでは約1割、2cmを超えると数十%と、大きさとともに癌合併率は明らかに上昇する。このため内視鏡で見つかった腺腫は、おおむね6mm以上のものが切除の適応とされる(5mm以下でも平坦・陥凹型で癌との区別が難しいものは切除を考慮する)。大きさのほか、絨毛成分が多い(絨毛腺腫)、異型度が高い、陥凹を伴う、といった特徴も癌の合併を示唆する。
- ×d. 粘血便を伴うことが多い。
大腸腺腫の大部分は無症状であり、便潜血検査陽性をきっかけにした内視鏡検査や、検診の内視鏡検査で偶然見つかることが多い。大きな腺腫では表面からの出血で血便を生じることがあり、絨毛腺腫では粘液を多く分泌して粘液便(まれに大量の粘液分泌による低カリウム血症)を来すこともあるが、粘血便を伴うことが多いとはいえない。粘血便が典型的なのは潰瘍性大腸炎、細菌性赤痢、アメーバ赤痢などの炎症性疾患や、進行大腸癌である。
- ×e. 有茎性のものが多い。
大腸腺腫の形態は、茎のない無茎性(広基性)のもの、平坦に隆起する表面型のもの(表面隆起型・平坦型など)が多く、はっきりした茎をもつ有茎性のものは少数である。有茎性のポリープは、S状結腸など腸管の動きが大きい部位で、腸の蠕動によって粘膜が引っ張られて茎が形成されたものが多い。
大腸ポリープの分類
・腫瘍性: 腺腫(管状腺腫、管状絨毛腺腫、絨毛腺腫)、鋸歯状病変(無茎性鋸歯状病変 SSL、伝統的鋸歯状腺腫 TSA)、癌 ・非腫瘍性: 過形成性ポリープ、炎症性ポリープ、過誤腫性ポリープ(若年性ポリープ、Peutz-Jeghers型ポリープ) 腺腫の組織型では管状腺腫が最も多く、絨毛成分が多いほど癌化しやすい。
大腸ポリープの肉眼形態(山田分類)
I型: 隆起の立ち上がりがなだらかで境界不明瞭 II型: 立ち上がりが明瞭でくびれがない III型: くびれがあるが茎がない(亜有茎性) IV型: 明らかな茎がある(有茎性) 大腸では、無茎性(Is)、亜有茎性(Isp)、有茎性(Ip)、表面型(IIa、IIb、IIc)という分類もよく用いられる。
腺腫の治療
内視鏡的切除が基本である。小さな病変にはコールドスネアポリペクトミー、有茎性病変にはホットスネアによるポリペクトミー、平坦な病変には粘膜下層に液体を注入して持ち上げてから切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)、大きな病変には内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が選択される。切除した病変は病理組織学的に評価し、癌が含まれていた場合は深達度や脈管侵襲などから追加の外科手術の必要性を判断する。
遺伝性の腺腫性疾患
家族性大腸腺腫症(APC遺伝子): 若年から100個以上の腺腫が多発し、予防的大腸全摘が行われる。胃・十二指腸病変、デスモイド腫瘍、骨腫などを伴うことがある。
POINT
・大腸腺腫は大腸癌の主要な前癌病変(腺腫‐癌連関: APC → KRAS → TP53)。 ・好発: 50~70歳代、S状結腸・直腸。 ・形態は無茎性(広基性)・平坦なものが多く、有茎性は少数。 ・大部分は無症状。便潜血検査や内視鏡で発見される。 ・大きいほど、絨毛成分が多いほど、異型度が高いほど癌を合併しやすい。 ・おおむね6mm以上の腺腫は内視鏡的切除の適応。 ・若年で多発する腺腫をみたら家族性大腸腺腫症を疑う。
