StudyMed医師国家試験

免疫細胞そのものが腫瘍になると―慢性リンパ性白血病が「免疫不全」と「自己免疫」を同時に起こす理由

第100回医師国家試験 B問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第38問

免疫異常を合併しやすいのはどれか。

  1. a.急性骨髄性白血病
  2. b.急性骨髄単球性白血病
  3. c.急性リンパ性白血病
  4. d.慢性骨髄性白血病
  5. e.慢性リンパ性白血病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、白血病の病型ごとの特徴のうち「免疫異常」に注目する問題だ。ポイントは、白血病で感染しやすくなる理由を2種類に分けて考えること。正常な造血が抑えられて好中球が減るから感染しやすい、というのはほとんどの白血病に共通する話だね。この問題が聞いているのは、それとは別の「免疫そのものの異常」なんだ。
医学生医学生
白血病はどれも感染しやすいので、全部当てはまる気がしてしまいました。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だよ。でも、腫瘍化した細胞が免疫系の担い手そのものだったらどうなるか、と考えてみてほしい。抗体を作る細胞が腫瘍になったら、何が起こりそうかな。
医学生医学生
抗体を作るのはB細胞なので、B細胞の腫瘍だと抗体の産生がおかしくなりそうです。
ドクタードクター
その発想が正解への近道だ。答えは慢性リンパ性白血病。成熟した小型のBリンパ球が単クローン性に増える病気だよ。腫瘍性のB細胞が増える一方で、正常なB細胞やT細胞の働きが乱れる。その結果、正常な抗体が減る低γグロブリン血症と、自分の赤血球や血小板に対する自己抗体の産生、という一見正反対の現象が同時に起こるんだ。
医学生医学生
免疫が弱くなるのに自己抗体はできる、というのが少し不思議です。
ドクタードクター
免疫の「量」と「調節」は別物だと考えるとわかりやすい。正常な抗体は足りないのに、自己と非自己を見分けるブレーキが壊れているので、自己を攻撃する抗体は作られてしまう。代表的な合併症は自己免疫性溶血性貧血で、温式のIgG型が主体、直接Coombs試験が陽性になる。ほかに免疫性血小板減少症や赤芽球癆もある。
医学生医学生
臨床実習で血液内科を回ったとき、CLLの患者さんが肺炎で入院していて、指導医の先生が免疫グロブリンの値を確認していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそこが臨床のポイント。低γグロブリン血症による細菌感染症や帯状疱疹の反復は、CLLの主要な死因の一つなんだ。では、ほかの選択肢も確認しておこう。急性骨髄性白血病はどうだろう。
医学生医学生
芽球が骨髄を占めて好中球が減るので感染しやすいですが、それは造血抑制の結果ですね。
ドクタードクター
その通り。重症感染、貧血、出血が主症状で、急性前骨髄球性白血病ではDICが問題になる。でも自己抗体や免疫グロブリン異常を特徴的に伴うわけではない。急性骨髄単球性白血病も急性骨髄性白血病の一病型で、単球系の性格から歯肉腫脹や皮膚浸潤、リゾチーム上昇が特徴だけれど、免疫異常は特徴ではないよ。
医学生医学生
急性リンパ性白血病はリンパ系なので、CLLと同じように免疫異常が起こりそうに思えます。
ドクタードクター
いい引っかかり方だね。急性リンパ性白血病で増えるのはリンパ芽球、つまり抗体を作る段階まで成熟していない未熟な細胞なんだ。主な病態は正常造血の抑制と、中枢神経浸潤やリンパ節腫脹などの臓器浸潤。成熟B細胞が増えるCLLとは、そこが決定的に違う。
医学生医学生
慢性骨髄性白血病は、CBTの勉強でPhiladelphia染色体とBCR::ABL1を覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。t(9;22)によるBCR::ABL1がチロシンキナーゼを恒常的に活性化して、顆粒球系が各成熟段階で増える骨髄増殖性腫瘍だ。白血球増加、好塩基球増加、脾腫、NAPスコア低値が特徴で、慢性期は顆粒球の機能もおおむね保たれているから、免疫異常を特徴とはしない。
医学生医学生
つまり、腫瘍細胞が成熟した免疫細胞かどうかがカギなんですね。
ドクタードクター
その理解でいい。最後にCLLの周辺知識も押さえておこう。欧米では成人白血病で最も多いけれど、日本では白血病全体の数%程度と少なく、高齢者に多い。末梢血では小型の成熟リンパ球が増え、塗抹で細胞が潰れたsmudge cellがみられる。表面マーカーはCD5、CD19、CD23が陽性だ。
医学生医学生
CD5陽性というと、病理の講義でマントル細胞リンパ腫との鑑別が出てきた気がします。
ドクタードクター
鋭いね。どちらもCD5陽性だけれど、CLLはCD23陽性、マントル細胞リンパ腫は通常CD23陰性でcyclin D1陽性という違いがある。臨床で大事なのは、CLLの患者さんに貧血や血小板減少が出たとき、それが骨髄浸潤によるのか自己免疫性なのかを見極めること。病期判定や治療方針が変わるからね。また、多くは緩徐に進行して無症状なら経過観察になるけれど、一部は悪性度の高いリンパ腫に転化するRichter症候群を起こすことも覚えておこう。

まとめ

白血病ではどの病型でも正常造血の抑制によって感染しやすくなりますが、腫瘍細胞そのものが免疫系の構成要素であることに由来する免疫異常を特徴的に合併するのは慢性リンパ性白血病(CLL)です。CLLは成熟Bリンパ球の単クローン性増殖で、正常抗体が減る低γグロブリン血症による易感染性と、自己免疫性溶血性貧血(温式IgG型、直接Coombs試験陽性)や免疫性血小板減少症、赤芽球癆などの自己免疫性合併症が同時に起こりうる点が大きな特徴です。急性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病の易感染性は主に造血抑制によるもので、免疫異常を特徴とはしません。CLLはCD5・CD19・CD23陽性、smudge cellが手がかりで、日本では少なく高齢者に多い疾患です。感染しやすさの「理由」を造血抑制と免疫異常に分けて考える視点は、血液疾患の合併症管理を理解するうえで役立ちます。

解答・解説

正解はeです

白血病のうち、自己免疫疾患や免疫グロブリンの異常といった「免疫異常」を病態の一部として合併しやすい病型はどれかを問う問題である。 白血病はいずれも正常な造血を障害するため、好中球減少などによる易感染性は多くの病型に共通してみられる。しかし本問で問われているのは、そうした造血抑制の結果としての感染しやすさではなく、腫瘍化した細胞そのものが免疫系の構成要素であることに由来する免疫の異常である。 慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)は、成熟した小型の B リンパ球がクローン性に増殖する疾患である。B 細胞は本来、抗体(免疫グロブリン)を作る細胞であるため、その腫瘍性増殖によって正常な B 細胞・T 細胞の機能が乱れ、①正常な抗体産生が低下する低γグロブリン血症(易感染性の主因)と、②自己の赤血球や血小板に対する自己抗体が作られる自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)や免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia:ITP)、赤芽球癆などの自己免疫性合併症が生じやすい。この「免疫不全と自己免疫が同時に起こる」点が CLL の大きな特徴である。 したがって、免疫異常を合併しやすい白血病として CLL を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  急性骨髄性白血病

    誤り。急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)は骨髄系の幼若な芽球が増殖し、正常造血が抑制される疾患である。好中球減少による重症感染症、貧血、血小板減少による出血が主な症状であり、急性前骨髄球性白血病(M3)では播種性血管内凝固(DIC)を合併しやすい。易感染性は造血抑制と化学療法によるもので、自己抗体の産生や免疫グロブリン異常といった免疫異常を特徴的に合併する疾患ではない。

  2. ×b.  急性骨髄単球性白血病

    誤り。急性骨髄単球性白血病は AML の一病型(FAB 分類の M4)で、顆粒球系と単球系の両方への分化を示す芽球が増殖する。単球系の性格を持つため、歯肉腫脹や皮膚浸潤などの髄外浸潤を起こしやすく、血清・尿中リゾチームが上昇する点が特徴である。ただし自己免疫性合併症や免疫グロブリン異常を特徴的に伴う病型ではない。

  3. ×c.  急性リンパ性白血病

    誤り。急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)はリンパ系の幼若な芽球(リンパ芽球)が増殖する疾患で、小児白血病の大部分を占める。リンパ系の腫瘍ではあるが、増殖するのは抗体を産生する段階に達していない未熟な細胞であり、主な病態は正常造血の抑制(感染・貧血・出血)と中枢神経浸潤・リンパ節腫脹などの臓器浸潤である。自己免疫性溶血性貧血などの免疫異常を特徴的に合併する疾患ではない。

  4. ×d.  慢性骨髄性白血病

    誤り。慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia:CML)は、造血幹細胞に t(9;22) 転座(Philadelphia 染色体)が生じて BCR::ABL1 融合遺伝子ができ、その恒常的に活性化したチロシンキナーゼによって顆粒球系細胞が各成熟段階で増加する骨髄増殖性腫瘍である。白血球増加、好塩基球増加、脾腫、好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコア低値が特徴で、慢性期では正常の顆粒球機能もおおむね保たれている。免疫異常を特徴的に合併する疾患ではない。

  5. ○e.  慢性リンパ性白血病

    正しい。CLL は成熟 B リンパ球の腫瘍性増殖であり、正常な免疫系の調節が破綻する。そのため、正常な抗体産生が低下する低γグロブリン血症による細菌感染症の反復と、自己抗体による自己免疫性溶血性貧血(温式、IgG 型が主体で直接 Coombs 試験陽性)、免疫性血小板減少症、赤芽球癆などを合併しやすい。自己免疫性合併症は経過中に数 % から 1 割前後の患者に起こるとされ、治療薬(フルダラビンなどのプリンアナログ)が AIHA の誘因になることもある。

慢性リンパ性白血病(CLL)の概要

・疫学:欧米では成人白血病の中で最も多いが、日本では白血病全体の数 % 程度と少ない。高齢者に多い。 ・診断:末梢血で単クローン性の B リンパ球が 5,000/μL 以上持続して増加する。細胞は小型の成熟リンパ球で、塗抹標本では壊れやすい細胞が潰れた smudge cell(くずれ細胞)がみられる。表面マーカーは CD5 陽性、CD19 陽性、CD23 陽性で、CD20 と表面免疫グロブリンの発現は弱く、軽鎖は κ または λ の一方に偏る(単クローン性)。 ・症状:初期は無症状で、健診の白血球増加で見つかることが多い。進行するとリンパ節腫脹、肝脾腫、貧血、血小板減少が現れる。 ・病期分類:Rai 分類、Binet 分類が用いられる。貧血や血小板減少が自己免疫性か骨髄浸潤によるものかの区別は、病期判定や治療方針に関わる。 ・経過と治療:多くは緩徐に進行し、早期で無症状なら無治療経過観察とする。治療適応があれば BTK(Bruton チロシンキナーゼ)阻害薬、BCL-2 阻害薬ベネトクラクスと抗 CD20 抗体の併用などが用いられる。一部はびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫などの悪性度の高いリンパ腫へ転化する(Richter 症候群)。

CLL に伴う免疫異常のまとめ

・免疫不全:低γグロブリン血症、T 細胞機能異常 → 細菌感染症や帯状疱疹などを反復しやすく、感染症は主要な死因である。 ・自己免疫:自己免疫性溶血性貧血、免疫性血小板減少症、赤芽球癆、まれに自己免疫性顆粒球減少症。

参考:他の造血器腫瘍と免疫異常

・多発性骨髄腫:単クローン性免疫グロブリン(M 蛋白)が増える一方、正常免疫グロブリンは低下して易感染性となる。 ・悪性リンパ腫(特に B 細胞性)でも AIHA などの自己免疫現象を伴うことがある。

POINT

・慢性リンパ性白血病(CLL)=成熟 B リンパ球の単クローン性増殖。 ・CLL は「低γグロブリン血症による易感染性」と「自己免疫性溶血性貧血・免疫性血小板減少症などの自己免疫」を合併しやすい。 ・表面マーカー CD5+・CD19+・CD23+、塗抹で smudge cell。日本では少なく、高齢者に多い。 ・急性白血病や CML の易感染性は主に正常造血の抑制によるもので、免疫異常を特徴とはしない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。