StudyMed医師国家試験

膵管が太くなるとき―「詰まり」が示す膵体部癌のサイン

第100回医師国家試験 B問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第31問

膵管の拡張を伴うのはどれか。

  1. a.輪状膵
  2. b.急性膵炎
  3. c.膵体部癌
  4. d.膵内分泌腫瘍
  5. e.漿液性囊胞性膵腫瘍

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、膵管の拡張を伴う疾患を選ぶ問題だ。考え方の軸は単純で、「膵管が太くなるのは、どこかで膵液の流れがせき止められたとき」。その原因が膵管そのものにあるのか、それとも膵管とは関係のない場所にあるのかを、選択肢ごとに見分けていこう。
医学生医学生
川がせき止められると上流があふれるイメージでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれ。膵管が狭くなったり詰まったりすると、その上流側、つまり膵尾側の主膵管が拡張する。原因は大きく3つに分けられる。膵管を狭める病変、膵管の中で粘液が大量に作られて内側から押し広げる病変、そして乳頭部付近での通過障害だ。
医学生医学生
1つ目は膵癌や慢性膵炎、2つ目はIPMN、3つ目は乳頭部癌や総胆管結石の嵌頓ですね。消化器内科の講義でもそう整理していました。
ドクタードクター
よく整理できているね。では選択肢の中で、膵管そのものを巻き込む病変はどれかな。
医学生医学生
膵体部癌だと思います。膵癌の多くは膵管上皮から発生するんでしたよね。
ドクタードクター
正解。膵癌の大部分は浸潤性膵管癌で、腫瘍が主膵管を巻き込んで狭窄・閉塞させる。体部の癌なら、体部から尾部にかけて膵管が拡張し、閉塞が長く続くと尾側の膵実質は萎縮してくる。
医学生医学生
でも体部癌は黄疸が出にくいと聞きました。膵頭部癌とどう違うんでしょう。
ドクタードクター
いい疑問だね。総胆管は膵頭部を通っているから、頭部癌では胆管も圧迫されて閉塞性黄疸が出やすい。主膵管と総胆管がそろって拡張するdouble duct signも有名だ。一方、体部癌は胆管から離れているので黄疸が出にくく、背部痛や体重減少、新たに出現したり急に悪化したりする糖尿病で見つかることが多い。そのぶん発見が遅れやすいんだ。
医学生医学生
急性膵炎も膵臓の病気なので、膵管が拡張しそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこは間違えやすいところだね。急性膵炎の主体は膵実質と膵周囲の炎症で、画像ではびまん性の腫大、膵周囲脂肪の混濁、液体貯留、重症なら造影不良域がみられる。主膵管の拡張は典型的ではない。膵管拡張や膵石が目立つのは、炎症を繰り返して線維化が進んだ慢性膵炎のほうだ。
医学生医学生
急性と慢性で画像の特徴がはっきり違うんですね。
ドクタードクター
そう。臨床的に大事なのは、膵管拡張を伴う急性膵炎をみたら、背景に膵癌やIPMNが隠れていないかを疑うこと。膵炎の原因が腫瘍による膵管の閉塞、ということがあるからね。
医学生医学生
膵内分泌腫瘍はどうでしょう。腫瘍なら膵管を圧迫しそうですが。
ドクタードクター
膵神経内分泌腫瘍は、境界明瞭な充実性腫瘤として膨張性に発育し、血流が豊富で造影早期に濃く染まるのが特徴だ。膵管を浸潤性に巻き込むことは少ないので、通常は膵管拡張を伴わない。インスリノーマなら低血糖、ガストリノーマなら難治性の消化性潰瘍といったホルモン症状で見つかることもある。
医学生医学生
漿液性囊胞腫瘍は、病理の講義でスポンジ状の小さな囊胞の集まりとして見た覚えがあります。
ドクタードクター
よく覚えているね。中年女性に多く、蜂巣状の構造で、中心に星芒状の瘢痕や石灰化を伴うことがある。膵管とは交通しないので膵管拡張はなく、ほとんどが良性だ。囊胞性膵腫瘍で膵管と交通して拡張を来すのはIPMNだから、ここは対比で覚えておこう。
医学生医学生
輪状膵は新生児のダブルバブルサインで習いました。問題は十二指腸の狭窄なんですよね。
ドクタードクター
その通り。腹側膵原基の回転異常で膵組織が十二指腸下行脚をリング状に取り囲む先天奇形で、困るのは十二指腸の通過障害だ。主膵管の拡張を来す疾患ではない。
医学生医学生
膵管が拡張していたら「詰まり」か「粘液」かを考え、腫瘍なら膵管上皮由来かどうかで分ける、という流れですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での注意点を。膵癌は早期発見が難しい癌の代表だけれど、腫瘤がはっきり見えなくても、主膵管の限局的な狭窄とその尾側の拡張が最初の手がかりになることがある。健診の腹部超音波で膵管拡張を指摘されたら、CTやMRCP、超音波内視鏡で精査につなげることが大切だよ。

まとめ

主膵管の拡張は、膵管の狭窄・閉塞、膵管内での粘液産生、乳頭部での通過障害によって、その上流側に生じる所見です。膵体部癌を含む浸潤性膵管癌は膵管上皮から発生して主膵管を巻き込むため、狭窄部より尾側の膵管拡張を来し、膵頭部癌では総胆管拡張を伴うdouble duct signもみられます。急性膵炎は膵実質と周囲の炎症が主体で膵管拡張は典型的でなく、膵神経内分泌腫瘍は膨張性発育の多血性腫瘤、漿液性囊胞腫瘍は膵管と交通しない蜂巣状腫瘍、輪状膵は十二指腸狭窄を来す先天奇形で、いずれも通常は膵管拡張を伴いません。腫瘤が見えなくても限局的な膵管狭窄と尾側の拡張は膵癌の早期の手がかりになり得るため、画像で膵管拡張を見たら原因を突き止める姿勢が、予後不良な膵癌の早期発見につながります。

解答・解説

正解はcです

主膵管の拡張は、膵管のどこかで膵液の流れが妨げられたときに、その上流側(膵尾側)に起こる所見である。原因は大きく次の3つに分けて考えるとよい。 (1) 膵管そのものを狭くしたり詰まらせたりする病変(浸潤性膵管癌、膵石、慢性膵炎による膵管の狭窄など) (2) 膵管内に粘液が大量に作られ、膵管が内側から押し広げられる病変(膵管内乳頭粘液性腫瘍〈IPMN〉) (3) 乳頭部付近での通過障害(十二指腸乳頭部癌、総胆管結石の乳頭部嵌頓など) 本問の選択肢をこの視点で見ると、膵管上皮から発生して膵管を直接巻き込む浸潤性膵管癌(膵体部癌)が、狭窄部より尾側の膵管拡張を来す代表的な疾患である。それ以外は、十二指腸側の問題である先天奇形、膵実質と膵周囲の炎症が主体の急性炎症、膵管と交通せずに膨張性に発育する腫瘍であり、原則として膵管拡張を伴わない。 画像検査で膵腫瘤がはっきり見えなくても、主膵管の限局性の狭窄とその尾側の拡張が膵癌の最初の手がかりになることがあり、臨床的にも重要な所見である。

選択肢考察

  1. ×a.  輪状膵

    輪状膵は、胎生期に腹側膵原基が十二指腸の周りを正常に回転できず、膵組織がリング状に十二指腸下行脚を取り囲んでしまう先天奇形である。問題となるのは十二指腸の狭窄・閉塞であり、新生児期の胆汁性嘔吐や、腹部X線でのダブルバブルサイン(拡張した胃と十二指腸球部の2つのガス像)として見つかることが多い。成人で偶然見つかることもある。膵管の走行異常を伴うことはあるが、主膵管の拡張を来す疾患ではない。

  2. ×b.  急性膵炎

    急性膵炎では膵酵素が膵内で活性化して自己消化が起こり、画像上は膵のびまん性腫大、膵周囲の脂肪組織の混濁(境界の不明瞭化)、液体貯留、重症例では膵実質の造影不良域(壊死)がみられる。主体は膵実質と膵周囲の炎症であり、主膵管の拡張は典型的な所見ではない。膵管の拡張や不整、膵石が目立つのは、炎症が長期に繰り返されて線維化が進んだ慢性膵炎である。なお、膵管の拡張を伴う急性膵炎をみたときは、背景に膵癌やIPMNが隠れていないかを疑う。

  3. ○c.  膵体部癌

    膵癌の大部分は膵管上皮から発生する浸潤性膵管癌である。腫瘍が主膵管を巻き込んで狭窄・閉塞させるため、膵液が流れにくくなり、狭窄部より上流(膵尾側)の主膵管が拡張する。膵体部の癌であれば体部から尾部にかけての膵管拡張がみられ、閉塞が長く続くと尾側の膵実質は萎縮する。一方、総胆管は膵頭部を通るため、体部癌では膵頭部癌と異なり閉塞性黄疸を来しにくく、発見が遅れやすい。膵頭部癌では主膵管と総胆管の両方が拡張する所見(double duct sign)がみられることがある。

  4. ×d.  膵内分泌腫瘍

    膵内分泌腫瘍(現在は膵神経内分泌腫瘍〈pancreatic neuroendocrine neoplasm; PanNEN〉と呼ぶ)は、膵管上皮ではなく内分泌細胞の性質をもつ細胞から生じる腫瘍である。境界明瞭な充実性腫瘤として膨張性に発育し、血流が豊富なため造影早期相で濃く染まるのが特徴である。膵管を浸潤性に巻き込むことは少なく、通常は膵管拡張を伴わない。インスリノーマ(低血糖)、ガストリノーマ(難治性消化性潰瘍)などホルモン過剰症状で見つかるものと、無症状で偶然見つかる非機能性のものがある。

  5. ×e.  漿液性囊胞性膵腫瘍

    漿液性囊胞腫瘍(serous cystic neoplasm; SCN)は、グリコーゲンを豊富に含む細胞が漿液をためた小さな囊胞を多数つくる腫瘍で、中年女性に多い。画像では小囊胞が集まった蜂巣状(スポンジ状)の構造を示し、中心に星芒状の瘢痕や石灰化を伴うことがある。膵管との交通はなく、膵管拡張を来さない。ほとんどが良性である。囊胞性膵腫瘍のうち、膵管と交通し粘液による膵管拡張を来すのはIPMNである。

膵管拡張を来す主な病態

・浸潤性膵管癌: 狭窄部より尾側の主膵管拡張。膵頭部癌では総胆管拡張も伴いうる(double duct sign)。 ・慢性膵炎: 主膵管の不整な拡張と狭窄の混在、分枝膵管の拡張、膵石(膵内の石灰化)。 ・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN): 膵管内で粘液を産生し、膵管が拡張する。主膵管型、分枝型、混合型に分けられる。主膵管型では乳頭部の開大と粘液の排出が内視鏡でみられることがある(いわゆる「魚の目」様所見)。 ・乳頭部病変(十二指腸乳頭部癌など): 膵管と胆管の両方の拡張を来しうる。

囊胞性膵腫瘍の比較

・IPMN: 高齢男性に多い。膵頭部に多い。膵管と交通し、ぶどうの房状の多房性囊胞。膵管拡張あり。 ・粘液性囊胞腫瘍(MCN): ほぼ中年女性。膵体尾部に多い。厚い被膜に覆われた夏みかん(オレンジ)様の構造。卵巣様間質が特徴。通常は膵管と交通しない。 ・漿液性囊胞腫瘍(SCN): 中高年女性に多い。小囊胞が集まった蜂巣状構造と中心瘢痕。膵管と交通せず、ほぼ良性。 ・充実性偽乳頭状腫瘍(SPN): 若年女性に多い。充実部と出血・壊死による囊胞部が混在する。

膵体尾部癌の臨床的特徴

黄疸が出にくいため、背部痛、体重減少、新規発症や急な悪化を示す糖尿病などで見つかることが多く、発見時に進行していることが多い。

POINT

・膵管拡張は「膵管の閉塞・狭窄」または「膵管内の粘液産生」で起こる。 ・膵癌(浸潤性膵管癌)は狭窄部より尾側の主膵管拡張を来す。膵頭部癌では胆管拡張も伴う(double duct sign)。 ・慢性膵炎は膵管拡張・膵石を来すが、急性膵炎では通常みられない。 ・囊胞性膵腫瘍で膵管と交通し膵管拡張を来すのはIPMN。SCN・MCNは通常交通しない。 ・膵神経内分泌腫瘍は境界明瞭な多血性腫瘤で、通常膵管拡張を来さない。 ・輪状膵は十二指腸狭窄(ダブルバブルサイン)を来す先天奇形。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。