胆管と膵管が同じ高さで止まるとき―ERCPのdouble duct signが指す膵頭部癌
第99回医師国家試験 G問題 第29問
国試問題にチャレンジ
60歳の女性。1週前から上腹部痛が出現したため来院した。腹部は平坦であるが,心窩部に圧痛を認める。血液生化学所見:総ビリルビン1.4mg/dL,AST 65U/L,ALT 75U/L,ALP 1,250U/L(基準260以下),γ-GTP 450U/L(基準8~50)。CA19-9 265U/mL(基準37以下)。ERCP写真(A,B)を示す。 考えられるのはどれか。

- a.肝門部胆管癌
- b.胆囊癌
- c.総胆管癌
- d.膵頭部癌
- e.十二指腸乳頭部癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ALP・γ-GTP優位の上昇は胆汁うっ滞を示し、CA19-9高値があれば膵・胆道系悪性腫瘍を疑います。ERCPで膵内の下部胆管狭窄と膵頭部での主膵管途絶が同時にみられるdouble duct signは、両管がともに走行する膵頭部の病変、すなわち膵頭部癌を強く示唆します。肝門部胆管癌や胆嚢癌では狭窄が上部胆管にあり、下部胆管癌は通常膵管を侵さず、乳頭部癌では胆管・膵管がびまん性に拡張する点で区別できます。膵頭部癌は閉塞性黄疸やCourvoisier徴候で発見されることがあり、黄疸が明らかになる前に胆道系酵素の上昇が先行することもあります。閉塞部位の「高さ」と「膵管病変の有無」で鑑別する考え方は、閉塞性黄疸の診療全般に役立つ基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・60歳女性、1週前からの上腹部痛、心窩部圧痛 ・総ビリルビン1.4mg/dLとほぼ正常上限付近で、明らかな黄疸にはまだ至っていない ・ALP 1,250U/L、γ-GTP 450U/Lと胆道系酵素が著明に上昇(胆汁のうっ滞を示す) ・AST 65U/L、ALT 75U/Lと肝細胞由来の逸脱酵素も軽度上昇(胆汁うっ滞に伴う二次的な肝障害) ・CA19-9 265U/mLと高値
診断へのプロセス
胆道系酵素優位の上昇は、胆管のどこかに通過障害がある「閉塞性(胆汁うっ滞型)」のパターンである。ビリルビンの上昇がまだ軽いことから、胆管の閉塞は完全ではないか、発症早期の段階と考えられる。CA19-9は膵癌で最も高率に上昇する腫瘍マーカーであり、胆道癌でも上昇するが、膵・胆道系悪性腫瘍を強く疑わせる。 ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)では、膵内を走行する下部胆管に狭窄があり、同時に主膵管が膵頭部で途絶している。胆管と膵管の双方が膵頭部の同じ高さで障害される所見(double duct sign)は、両者が共に通る膵頭部に病変があることを示し、膵頭部癌が胆管を外から巻き込み、膵管を閉塞させていると解釈できる。
鑑別の考え方
閉塞性の胆汁うっ滞をきたす悪性疾患は、狭窄の「部位」と「膵管が侵されているか」で整理できる。肝門部・胆嚢の病変なら狭窄はもっと肝臓側にあり、胆管自体の癌であれば通常は膵管に異常をきたさない。乳頭部癌では胆管・膵管が出口で塞がれるため、両者が全長にわたって拡張するのが典型である。下部胆管狭窄と主膵管途絶が同時にみられる本例は、膵頭部癌が最も考えやすい。
選択肢考察
- ×a. 肝門部胆管癌
肝門部胆管癌は左右肝管の合流部付近に発生し、狭窄はERCP上で胆管の上端(肝臓側)にみられる。本例の狭窄は膵内の下部胆管であり、部位が合わない。また胆管癌が膵管を途絶させることはない。肝門部の閉塞では、左右の肝内胆管が分断されて拡張するのが特徴である。
- ×b. 胆囊癌
胆嚢癌が進展して胆管を圧排・浸潤する場合、狭窄は胆嚢管の合流部付近から肝門部にかけての中〜上部胆管に生じることが多い。本例の狭窄部位は下部胆管で、さらに主膵管の途絶も伴っており、胆嚢癌では説明できない。
- ×c. 総胆管癌
下部の総胆管癌でも膵内胆管の狭窄は生じうるが、胆管の内腔から発生する腫瘍であるため、主膵管の途絶は通常きたさない。本例では主膵管の途絶があること、CA19-9が高値であることから、膵頭部癌がより考えやすい。
- ○d. 膵頭部癌
膵頭部には総胆管の下部(膵内胆管)と主膵管がともに走行している。膵頭部に発生した癌は主膵管を閉塞させると同時に、隣接する膵内胆管を外側から圧排・浸潤して狭窄させる。ERCPで下部胆管の狭窄と主膵管の途絶が同時にみられること(double duct sign)、胆道系酵素優位の上昇、CA19-9高値はいずれも膵頭部癌に合致する。黄疸は膵頭部癌の代表的な初発症状であり、本例のように胆道系酵素の上昇が先行する段階で発見されることもある。
- ×e. 十二指腸乳頭部癌
十二指腸乳頭部癌は胆管と膵管の共通の出口(Vater乳頭)に発生するため、両管とも出口で閉塞し、総胆管と主膵管がいずれも全長にわたってびまん性に拡張するのが典型である。下部胆管の途中に限局した狭窄や、膵頭部での主膵管の途絶という本例の所見とは合わない。また乳頭部の腫瘍は十二指腸内視鏡で乳頭の腫大・露出腫瘤として直接観察できる。
膵癌の概要
膵癌の大部分は膵管上皮から発生する浸潤性膵管癌で、膵頭部に最も多い。危険因子は喫煙、糖尿病、慢性膵炎、家族歴、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)などである。早期発見が難しく、診断時に切除不能であることが多い予後不良の癌である。
症状と部位
・膵頭部癌:閉塞性黄疸、無痛性に腫大した胆嚢を触知すること(Courvoisier徴候)、灰白色便、皮膚瘙痒感 ・膵体尾部癌:黄疸をきたしにくく、腹痛・背部痛・体重減少で見つかることが多く、進行例が多い ・新たな糖尿病の発症や、既存の糖尿病の急な悪化が契機となることもある
検査
・腫瘍マーカー:CA19-9が代表的(膵癌で高率に上昇するが、胆管炎・胆汁うっ滞でも上昇し、Lewis抗原陰性者では上昇しない)。CEA、DUPAN-2、SPan-1なども用いる。 ・画像:造影CT(乏血性の腫瘤として描出)、MRCP、超音波内視鏡(EUS)。組織診断にはEUS下穿刺吸引(EUS-FNA)が用いられる。ERCPは膵液細胞診や、胆道ドレナージ(ステント留置)にも用いられる。
閉塞性黄疸の原因部位の整理
・肝門部:肝門部胆管癌、胆嚢癌の浸潤 → 肝内胆管のみ拡張、胆嚢は腫大しない ・中〜下部胆管:胆管癌、膵頭部癌 → 肝内・肝外胆管の拡張、胆嚢腫大 ・乳頭部:乳頭部癌、総胆管結石の嵌頓 → 総胆管と主膵管のびまん性拡張 ・膵頭部癌では「胆管狭窄+主膵管途絶(double duct sign)」が特徴的
治療
切除可能例では膵頭十二指腸切除術に術前・術後の化学療法を組み合わせる。切除不能例では化学療法(FOLFIRINOX療法、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法など)を行い、黄疸に対しては胆道ステントでドレナージを行う。
POINT
・胆道系酵素(ALP、γ-GTP)優位の上昇 → 胆汁うっ滞・胆道閉塞を考える ・CA19-9高値 → 膵癌(胆道癌でも上昇) ・ERCPで下部胆管狭窄+主膵管途絶(double duct sign) → 膵頭部癌 ・乳頭部癌 → 総胆管・主膵管ともにびまん性拡張 ・肝門部胆管癌・胆嚢癌 → 狭窄は上部胆管、膵管は正常
