StudyMed医師国家試験

胆囊は「作る」臓器ではない―貯めて、濃くして、送り出す小さな袋の解剖と生理

第99回医師国家試験 D問題 第44問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第44問

胆囊について誤っているのはどれか。

  1. a.胆囊動脈は右肝動脈から分枝する。
  2. b.肝床部では漿膜を欠く。
  3. c.粘膜筋板を欠く。
  4. d.コレシストキニンで収縮する。
  5. e.胆汁酸を分泌する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胆囊の解剖と生理を横断的に問う一般問題で、誤っている記述を1つ選ぶ形式だ。着眼点は2つ。1つは壁構造や血管支配といった解剖の基本事項、もう1つは胆囊が「何をする臓器なのか」という機能の正確な理解だよ。まず、胆囊の役割をひと言でいうと何だろう。
医学生医学生
胆汁を作って十二指腸に出す臓器……でしょうか。
ドクタードクター
そこが今回いちばん大事な落とし穴だね。胆汁を作っているのは肝細胞なんだ。胆囊は、肝臓から流れてきた胆汁をいったん貯め、水と電解質を吸収して数倍から10倍程度に濃縮し、食事に合わせて十二指腸へ送り出す。つまり「作る臓器」ではなく「貯めて濃くして出す臓器」なんだ。
医学生医学生
あ、生理学の講義で、胆汁酸はコレステロールから肝臓で合成されると習いました。胆汁酸を分泌するという記述が誤りですね。
ドクタードクター
正解。一次胆汁酸であるコール酸やケノデオキシコール酸は肝細胞でコレステロールから合成され、グリシンやタウリンと抱合されて毛細胆管へ分泌される。胆囊の上皮が分泌するのは主に粘液だ。では、残りの記述がなぜ正しいのかも確認しておこう。まず胆囊動脈の起始はどうかな。
医学生医学生
腹腔動脈から総肝動脈、固有肝動脈と進んで、右肝動脈から胆囊動脈が出るんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。胆囊動脈は胆囊管・総肝管・肝下縁で囲まれるCalot三角の中を走ることが多い。胆囊摘出術ではこの三角を展開して、胆囊動脈と胆囊管を確実に見極めてから切離するんだ。ただ、左肝動脈や上腸間膜動脈由来の副右肝動脈から出るなど破格も少なくないから、術中は油断できない。
医学生医学生
外科の臨床実習で腹腔鏡下胆囊摘出術を見学したとき、執刀医の先生がCalot三角をかなり時間をかけて剥離していました。
ドクタードクター
胆管損傷を防ぐための最重要ステップだからね。次は壁構造だ。胃や腸の壁と比べて、胆囊壁には何が欠けているかな。
医学生医学生
組織学で習った気がします……粘膜筋板がない、でしたっけ。でも消化管の仲間なのに、本当にないんですか。
ドクタードクター
疑問に思うのは自然だね。でも本当にないんだ。消化管は粘膜(粘膜筋板を含む)、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という層構造をもつけれど、胆囊壁は粘膜、固有筋層、漿膜下層、漿膜からなり、粘膜筋板と粘膜下層を欠く。しかも固有筋層は薄くて筋束の間に隙間がある。
医学生医学生
肝臓にくっついている面はどうなっているんでしょう。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。腹腔に面した部分は漿膜に覆われているけれど、肝床部には漿膜がなく、疎な結合組織を介して直接肝実質と接している。だから肝床部では漿膜を欠くという記述も正しい。
医学生医学生
層が少なくて、しかも肝臓側にはバリアがない。病理の講義で、胆囊癌は早くから肝臓に浸潤しやすいと聞いたのはそのせいですか。
ドクタードクター
まさにそれが臨床的な意味だ。粘膜から深部へ、そして肝床部から肝臓へと癌が進展しやすく、胆囊癌の予後が不良な一因になっている。また、粘膜上皮が筋層内まで入り込んだRokitansky-Aschoff洞ができやすいのもこの構造ゆえで、胆囊腺筋腫症の特徴的な所見になる。最後はコレシストキニンだ。
医学生医学生
十二指腸のI細胞から出て胆囊を収縮させるホルモンですよね。CBTの勉強でセクレチンと一緒に覚えました。
ドクタードクター
よく整理できているね。コレシストキニンは脂肪酸やアミノ酸が十二指腸に入ると分泌され、胆囊を収縮させると同時にOddi括約筋を弛緩させて胆汁を排出させる。膵酵素の分泌も促進する。迷走神経刺激も胆囊収縮を促すよ。
医学生医学生
脂っこい食事のあとに胆石発作が起きやすいのも、それで説明できそうです。
ドクタードクター
その通り。胆囊が強く収縮すると、結石が頸部や胆囊管に嵌頓しやすくなるからね。発展として、胆汁酸の腸肝循環も押さえておこう。胆汁酸の約95%は回腸末端で再吸収されて門脈経由で肝臓に戻る。回腸切除後などではこの循環が破綻し、胆汁酸の喪失による下痢や脂肪吸収障害が起こる。胆汁の流れを「肝臓で作る→胆囊で貯めて濃縮→十二指腸へ排出→回腸で回収」という一連の流れで理解すると、病態も覚えやすいよ。
医学生医学生
臓器ごとに「作る」「貯める」「回収する」の役割を分けて考えるのがポイントですね。

まとめ

胆囊は肝臓で作られた胆汁を貯蔵・濃縮し、コレシストキニンや迷走神経の刺激で収縮して十二指腸へ排出する臓器であり、胆汁酸を合成・分泌するのは肝細胞です。胆囊動脈は通常右肝動脈から分枝してCalot三角内を走り、胆囊摘出術ではこの三角での確実な同定が胆管損傷予防の要となります。胆囊壁は粘膜筋板と粘膜下層を欠き、肝床部では漿膜もないため、胆囊癌が早期から深部や肝臓へ浸潤しやすく、Rokitansky-Aschoff洞の形成にも関わります。さらに胆汁酸は回腸末端で再吸収される腸肝循環をもち、回腸切除後の下痢や脂肪吸収障害の理解につながります。臓器の構造と機能を正確に区別しておくことは、胆石症や胆囊癌といった臨床病態を理解する土台になります。

解答・解説

正解はeです

胆囊の解剖(血管支配・壁構造)と生理(収縮の調節・機能)を横断的に問う一般問題で、「誤っているもの」を1つ選ぶ。

考え方

胆囊の役割は、肝臓で作られた胆汁を一時的に貯え、濃縮し、食事に合わせて十二指腸へ送り出すことである。胆汁そのもの(胆汁酸、ビリルビン、コレステロール、リン脂質など)を作るのは肝細胞であり、胆囊は「作る臓器」ではなく「貯めて濃くして出す臓器」である。この機能の区別ができていれば、胆汁酸を分泌するという記述が誤りだと判断できる。 残りの選択肢は、胆囊動脈の起始(右肝動脈)、壁構造の特徴(粘膜筋板・粘膜下層を欠く、肝床部では漿膜を欠く)、収縮の調節(コレシストキニン)といった、胆囊の基本事項である。特に壁構造の特徴は、胆囊癌が早期から周囲へ広がりやすい理由として臨床的にも重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  胆囊動脈は右肝動脈から分枝する。

    記述は正しい。血流は腹部大動脈 → 腹腔動脈 → 総肝動脈 → 固有肝動脈 → 右肝動脈・左肝動脈と分かれ、胆囊動脈は通常、右肝動脈から分枝する。胆囊動脈は、胆囊管・総肝管・肝下縁で囲まれるCalot三角(胆囊三角)の中を走ることが多く、胆囊摘出術ではこの三角を展開して胆囊動脈と胆囊管を確実に同定してから切離する。なお、左肝動脈や固有肝動脈、上腸間膜動脈由来の副右肝動脈などから起始する破格も少なくないため、手術時には注意が必要である。

  2. ×b.  肝床部では漿膜を欠く。

    記述は正しい。胆囊は肝下面の胆囊窩(肝床)に接して付着しており、腹腔に面する部分は漿膜(腹膜)に覆われるが、肝臓に接する肝床部には漿膜がなく、疎な結合組織を介して直接肝実質と接する。このため胆囊癌や胆囊の炎症は肝床部から肝臓へ直接波及しやすい。

  3. ×c.  粘膜筋板を欠く。

    記述は正しい。胃や腸管の壁は粘膜(粘膜筋板を含む)・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層・漿膜の層構造をもつが、胆囊壁は粘膜・固有筋層・漿膜下層・漿膜からなり、粘膜筋板と粘膜下層を欠く。固有筋層も薄く、筋束の間に隙間がある。このため癌が粘膜から容易に深部へ進展しやすく、胆囊癌の予後が不良となる一因となっている。また、粘膜上皮が筋層内や漿膜下層まで入り込んだRokitansky-Aschoff洞(RAS)が形成されやすく、胆囊腺筋腫症の特徴的な所見となる。

  4. ×d.  コレシストキニンで収縮する。

    記述は正しい。コレシストキニン(CCK)は、脂肪酸やアミノ酸が十二指腸・空腸に入ると、その粘膜にあるI細胞から分泌される消化管ホルモンである。胆囊平滑筋を収縮させると同時にOddi括約筋を弛緩させ、胆汁を十二指腸へ排出させる。さらに膵腺房細胞からの消化酵素分泌も促進する。副交感神経(迷走神経)刺激も胆囊収縮を促す。脂肪の多い食事の後に胆石発作(胆石疝痛)が起こりやすいのは、CCKによる胆囊収縮で結石が胆囊頸部や胆囊管に嵌頓しやすくなるためである。

  5. ○e.  胆汁酸を分泌する。

    記述は誤りであり、これが正解である。胆汁酸はコレステロールを原料として肝細胞で合成され(一次胆汁酸: コール酸、ケノデオキシコール酸)、グリシンやタウリンと抱合されて毛細胆管へ分泌される。胆囊は胆汁酸を合成・分泌せず、肝から送られてきた胆汁を貯め、粘膜上皮が水と電解質(Na+、Cl-など)を吸収することで胆汁を数倍〜10倍程度に濃縮する。胆囊上皮が分泌するのは主に粘液(ムチン)である。

胆囊の解剖

・肝下面の胆囊窩に位置する洋梨形の囊状臓器で、容量は約30〜50 mL。底部・体部・頸部に分けられ、頸部から胆囊管が出て総肝管と合流し総胆管となる。 ・動脈: 通常は右肝動脈から胆囊動脈が分枝する。静脈は主に肝床部から直接肝内へ、あるいは門脈枝へ還流する。 ・Calot三角(胆囊三角): 胆囊管・総肝管・肝下縁で囲まれる領域で、胆囊動脈が走る。腹腔鏡下胆囊摘出術での胆管損傷を避けるための重要な指標である。

胆囊壁の層構造(消化管との比較)

消化管: 粘膜(上皮・粘膜固有層・粘膜筋板)→ 粘膜下層 → 固有筋層 → 漿膜下層 → 漿膜 胆囊: 粘膜(上皮・粘膜固有層)→ 固有筋層 → 漿膜下層 → 漿膜(肝床部では漿膜なし) 粘膜筋板・粘膜下層がなく、固有筋層も薄いため、胆囊癌は早期に漿膜下層や肝へ浸潤しやすい。

胆汁の生成と腸肝循環

・胆汁は肝細胞と胆管上皮から1日約500〜1,000 mL分泌される。 ・胆汁酸は脂肪をミセル化して消化・吸収を助ける。腸内細菌により一次胆汁酸は二次胆汁酸(デオキシコール酸、リトコール酸)に変換される。 ・胆汁酸の大部分(約95%)は回腸末端で再吸収され、門脈を経て肝へ戻る(腸肝循環)。回腸切除後などではこの循環が破綻し、胆汁酸の喪失による下痢や脂肪吸収障害が起こる。

胆囊収縮・弛緩の調節

収縮: コレシストキニン、迷走神経(副交感神経) 弛緩・貯留: 交感神経、空腹時(Oddi括約筋が閉じて胆汁が胆囊へ流入する)

POINT

・胆汁酸を合成・分泌するのは肝細胞であり、胆囊は胆汁を貯蔵・濃縮・排出する臓器である ・胆囊動脈は右肝動脈の枝(Calot三角内を走行) ・胆囊壁は粘膜筋板と粘膜下層を欠き、肝床部では漿膜も欠く → 胆囊癌は深部・肝へ浸潤しやすい ・コレシストキニン(十二指腸I細胞由来)は胆囊を収縮させ、Oddi括約筋を弛緩させる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。