首の痛いしこりの「犯人」は頭皮にいた―所属リンパ節から読み解く化膿性リンパ節炎
第99回医師国家試験 C問題 第9問
国試問題にチャレンジ
20歳の女性。首の痛みを訴えて来院した。3日前から左側頸部に持続的な痛みを感じるようになった。体温36.8℃。脈拍76/分,整。左頸部に径1cmのリンパ節を2個触知し,圧痛がある。甲状腺は触知しない。左後頭部の髪の生え際に径1.5cmの発赤,腫脹がみられ,毛包に分泌物が付着している。口腔内に異常所見はない。腋窩と鼠径部とにリンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常はなく,腹部に肝・脾を触知しない。 頸部リンパ節腫脹の原因として最も考えられるのはどれか。
- a.アレルギー性
- b.ウイルス性
- c.化膿性
- d.結核性
- e.腫瘍性
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
有痛性で急性に腫大した局所のリンパ節を見たら、そのリンパ節の所属領域に感染巣がないかを探すことが基本です。後頭部の頭皮のリンパは後頭リンパ節から後頸部リンパ節へ流れるため、同側の生え際に膿を伴う毛包炎・癤があれば、黄色ブドウ球菌などによる急性化膿性リンパ節炎と判断できます。結核性や腫瘍性のリンパ節腫脹は無痛性で緩徐に大きくなるのが原則であり、ウイルス性では発熱や咽頭所見、全身のリンパ節腫脹、発疹などを伴うことが多い点で鑑別します。圧痛・経過・硬さ・分布・所属領域という視点でリンパ節を評価する習慣は、見逃しやすい原発巣の発見と、悪性疾患の適切な拾い上げの両方につながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・20歳女性、3日前からの左側頸部の持続痛(急性の経過) ・体温36.8℃で発熱はなく、全身状態は保たれている ・左頸部に径1cmのリンパ節を2個触知し、圧痛を伴う ・左後頭部の髪の生え際に径1.5cmの発赤・腫脹があり、毛包に分泌物(膿)が付着している ・口腔内に異常なし、腋窩・鼠径部のリンパ節腫脹なし、肝脾腫なし
診断へのプロセス
リンパ節腫脹を評価するときは、(1)局所性か全身性か、(2)圧痛の有無、(3)硬さ・可動性・大きさ、(4)経過の速さ、(5)そのリンパ節が受け持つ領域(所属領域)に原因となる病変があるか、を確認する。 本例では腫大は左頸部に限局し、腋窩・鼠径部には腫大がなく、肝脾腫もないので、全身性の疾患(伝染性単核球症、悪性リンパ腫、白血病など)よりも局所の病変を考える。数日の経過で出現し圧痛を伴うことは、リンパ節内で急性炎症が起きていること(反応性リンパ節炎)を示唆する。 さらに、同側の後頭部の髪の生え際に、毛包を中心とした発赤・腫脹と膿性分泌物がある。後頭部の頭皮のリンパは後頭リンパ節を経て後頸部(副神経沿い)のリンパ節へ流れるため、この病変は左頸部リンパ節の所属領域にある。毛包に細菌(主に黄色ブドウ球菌)が感染して生じる毛包炎〜癤(せつ、いわゆる「おでき」)が原発巣で、そこから細菌や炎症性物質がリンパ流に乗って所属リンパ節に達し、急性化膿性リンパ節炎を起こしたと考えるのが最も自然である。
設問の考え方
「局所の急性化膿性病変」+「その所属領域の有痛性リンパ節腫脹」という組み合わせを読み取れれば、原因は化膿性(細菌感染)と判断できる。無痛性・慢性経過・硬いリンパ節といった結核や腫瘍を示唆する所見がないことも確認しておく。
選択肢考察
- ×a. アレルギー性
アレルギー性の皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎など)では、瘙痒を伴う湿疹病変が広がり、皮膚病性リンパ節症として所属リンパ節が腫れることがある。しかし本例の皮膚病変は毛包に一致した径1.5cmの限局性の発赤・腫脹で、膿性分泌物を伴っており、瘙痒や湿疹の記載もない。アトピー性皮膚炎に細菌の二次感染が加わった可能性は理論上あるが、その場合もリンパ節腫脹を起こしているのは細菌感染であり、アレルギー性とは言えない。
- ×b. ウイルス性
ウイルス感染によるリンパ節腫脹も圧痛を伴うことがあるが、伝染性単核球症(EBウイルス)なら発熱・咽頭炎・扁桃の白苔・全身のリンパ節腫脹・肝脾腫を、風疹なら発疹と後頭部・耳介後部のリンパ節腫脹を伴うのが典型である。本例は無熱で、口腔内に異常がなく、腫脹は片側頸部に限局している。皮膚のウイルス感染症としては単純ヘルペスが考えられるが、その場合は紅斑の上に小水疱が集簇するのが特徴で、毛包からの膿性分泌物という所見とは合わない。
- ○c. 化膿性
後頭部の髪の生え際に、毛包を中心とした発赤・腫脹と膿性分泌物という急性の化膿性炎症(毛包炎〜癤)がある。その所属リンパ節にあたる同側頸部のリンパ節が数日の経過で腫大し、圧痛を伴っている。原発巣から細菌がリンパ流で運ばれて起きた急性化膿性リンパ節炎と考えるのが最も合理的である。起炎菌は黄色ブドウ球菌が最も多い。
- ×d. 結核性
頸部リンパ節結核(かつて「瘰癧(るいれき)」と呼ばれた)は数週〜数か月かけてゆっくり腫大し、通常は圧痛に乏しい。進行すると複数のリンパ節が癒着して塊になり、乾酪壊死(チーズ状の壊死)から自壊して瘻孔を作ることもある。本例は3日という急性の経過で圧痛があり、急性炎症を伴う皮膚病変がリンパ節の所属領域にあるので、結核性は考えにくい。
- ×e. 腫瘍性
悪性リンパ腫や癌のリンパ節転移では、リンパ節は通常無痛性で、弾性硬〜石様硬に触れ、週〜月の単位で徐々に大きくなる。悪性リンパ腫では全身のリンパ節腫脹や肝脾腫、発熱・盗汗・体重減少(B症状)を伴うこともある。本例は急性発症で圧痛があり、所属領域に化膿性病変という明らかな原因があることから、腫瘍性は否定的である。
リンパ節腫脹の鑑別の要点
・圧痛あり、急性の経過、軟らかく可動性良好 → 反応性(感染・炎症)を考える ・圧痛なし、硬い、周囲と癒着して可動性不良、徐々に増大 → 悪性腫瘍(癌の転移、悪性リンパ腫)を考える ・無痛性で緩徐に腫大し、癒着・自壊・瘻孔形成 → 結核性を考える ・全身性の腫脹+肝脾腫 → 伝染性単核球症、悪性リンパ腫、白血病、膠原病(SLEなど)などの全身疾患を考える ・一般に径1cmを超えるリンパ節は有意な腫大とみなし、径2cmを超えるものや鎖骨上窩のリンパ節腫脹は悪性を強く疑って精査する
頭頸部の主なリンパ流
・後頭部の頭皮 → 後頭リンパ節 → 後頸部(副神経沿い)リンパ節 ・耳介・側頭部 → 耳介前・耳介後リンパ節 ・顔面・口腔 → 顎下・オトガイ下リンパ節 → 深頸リンパ節 ・咽頭・扁桃 → 上内深頸リンパ節(顎二腹筋リンパ節) 腫大したリンパ節を見たら、その所属領域の皮膚・粘膜に原発巣がないかを必ず探す。
毛包炎と癤・癰
・毛包炎:毛包の入口付近に限局した浅い化膿性炎症で、中心に毛が貫く小さな膿疱ができる ・癤:毛包炎が毛包の深部や周囲の組織まで広がり、有痛性の紅色結節となって膿栓を形成したもの ・癰(よう):隣り合う複数の毛包に癤が生じて融合したもので、項部や背部に好発し、発熱など全身症状を伴いやすい ・起炎菌の大部分は黄色ブドウ球菌である。治療は清潔の保持と抗菌薬(外用・内服)で、膿瘍化していれば切開排膿を行う。
POINT
・有痛性で急性に腫大した局所のリンパ節を見たら、所属領域の感染巣を探す ・所属領域に膿性分泌物を伴う毛包炎・癤があり、同側のリンパ節に圧痛がある → 化膿性リンパ節炎 ・結核性や腫瘍性のリンパ節腫脹は無痛性で、ゆっくり大きくなるのが原則 ・後頭部の頭皮のリンパは後頭リンパ節から後頸部リンパ節へ流れる
