膝の「どこに刺すか」には理由がある―膝蓋上包を狙う関節穿刺の解剖学
第99回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
右膝関節部の図を示す。 関節腔の穿刺部位で適切なのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
膝関節穿刺は、関節液が最もたまりやすい膝蓋上包を、膝蓋骨の外側上方(上縁の1〜2cm近位、外側縁付近)から膝伸展位で狙うのが標準的な第一選択です。膝蓋骨の真上には大腿四頭筋腱、真下には膝蓋腱と膝蓋下脂肪体があり正中からの刺入は避け、内側上方は内側広筋が厚く、内側下方は関節裂隙に近く軟骨や半月板を傷つけやすいという理由で劣ります。最も注意すべき合併症は医原性の化膿性関節炎であり、厳重な清潔操作が欠かせません。採取した関節液の性状や白血球数、結晶、培養は、化膿性関節炎・結晶誘発性関節炎・関節内骨折などの鑑別に直結します。穿刺部位を暗記ではなく解剖から理解しておくと、膝以外の関節穿刺や関節内注射にも応用できます。
解答・解説
正解はaです
※この問題は、厚生労働省の発表により採点対象から除外されています。
図の読み取り
図は右膝を前方から見たもので、中央に膝蓋骨があり、向かって左が外側、右が内側である。①は膝蓋骨の外側上方、②は膝蓋骨の真上(正中の上方)、③は膝蓋骨の内側上方、④は膝蓋骨の内側下方、⑤は膝蓋骨の真下(正中の下方)に位置している。
考え方
膝関節穿刺は、関節内に貯留した液(関節水腫や関節血腫)を採取して性状を調べる診断目的と、排液して内圧を下げ疼痛を和らげる治療目的、さらにステロイドやヒアルロン酸を関節内に注入する目的で行われる。安全で確実な穿刺部位を選ぶには、次の3点を考えるとよい。 1. 液が最も多くたまる場所であること:膝関節腔は膝蓋骨の上方へ大きく袋状に広がっており、これを膝蓋上包(膝蓋上嚢)という。関節液が増えると液はまずここに集まるため、ここを狙うと少量の貯留でも吸引しやすい。 2. 途中に厚い腱・筋・脂肪体がないこと:膝蓋骨の真上には大腿四頭筋腱、真下には膝蓋腱と膝蓋下脂肪体(Hoffa脂肪体)があり、正中からの刺入はこれらを貫くことになり関節腔に届きにくい。内側上方は内側広筋の膨らみが厚い。 3. 関節軟骨や半月板を傷つけにくいこと:関節裂隙付近で深く刺すと、針先が軟骨面や半月板に当たりやすい。 これらを満たすのが膝蓋骨外側上縁の近位(膝蓋骨上縁から1~2cm程度上、外側縁のやや外)から膝蓋上包へ刺入する方法で、標準的な第一選択の穿刺部位とされる。仰臥位で膝を伸展させ、大腿四頭筋を弛緩させた状態で、膝蓋骨を外側へ軽く押し出すか、膝蓋上包を上から圧迫して液を集めると、膝蓋骨の裏面と大腿骨の間に向かって針を進めやすくなる。したがって①が最も適切である。
採点について
本問は、医学的内容としては問題として適切であるが、必修問題として出題するのは妥当でないとして、採点対象から除外された。関節穿刺の具体的な刺入部位は専門的手技に近い知識であり、すべての医師に求める必修の基本事項としては水準が高いと判断されたと考えられる。
選択肢考察
- ○a. ①
膝蓋骨の外側上方であり、膝蓋上包を穿刺する標準的な部位である。膝蓋上包は関節腔のうち液が最もたまりやすい部分で、外側からは大腿四頭筋腱や内側広筋の厚い部分を避けて、薄い軟部組織を通して関節腔に到達できる。関節軟骨や半月板からも離れているため損傷の危険が小さい。膝伸展位で膝蓋骨上縁の1~2cm近位、外側縁付近から、膝蓋骨の後面に向けてやや内下方へ刺入する。
- ×b. ②
膝蓋骨の真上の正中部である。ここには大腿四頭筋腱が走っており、穿刺すると太く硬い腱を貫くことになる。腱を損傷するおそれがあるうえ、関節腔に到達しにくく、関節液の吸引部位としては適さない。
- ×c. ③
膝蓋骨の内側上方で、膝蓋上包に届く位置ではあり、実臨床で用いられることもある。しかしこの部位には内側広筋の筋腹が厚く張り出しており、筋を貫く距離が長くなるため、外側上方からの穿刺に比べて確実性に劣る。標準的な第一選択の部位とはいえない。
- ×d. ④
膝蓋骨の内側下方で、関節鏡の前内側刺入部(ポータル)に近い位置である。貯留液が少ない場合や関節内注射で膝屈曲位から刺入することもあるが、関節裂隙に近く、深く刺すと関節軟骨や内側半月板に針先が当たりやすい。また膝蓋下脂肪体に入り吸引しにくいことがある。関節液の排液を目的とした標準的部位としては①が優先される。
- ×e. ⑤
膝蓋骨の真下の正中部である。ここには膝蓋腱があり、その深部には膝蓋下脂肪体(Hoffa脂肪体)が存在する。刺入すると腱を損傷するおそれがあり、脂肪体に針先が入って関節液を吸引しにくい。穿刺部位として適さない。
関節穿刺の目的と適応
・診断:関節液を採取し、外観(色調・混濁・粘稠度)、白血球数、結晶の有無、グラム染色・培養などを調べる。化膿性関節炎、痛風・偽痛風(結晶誘発性関節炎)、関節リウマチ、変形性関節症、外傷による関節血症などの鑑別に役立つ。 ・治療:関節水腫や関節血腫を排液して内圧を下げ、疼痛や可動域制限を軽減する。薬剤(ステロイド、ヒアルロン酸など)を関節内に注入する。
関節液所見のおおまかな目安
・正常:淡黄色透明で粘稠度が高く、白血球は200/μL未満程度。 ・非炎症性(変形性関節症など):淡黄色透明、白血球は2,000/μL未満程度。 ・炎症性(関節リウマチ、痛風・偽痛風など):黄色でやや混濁し、粘稠度が低下、白血球は2,000/μL以上。痛風では尿酸ナトリウム結晶(針状、負の複屈折)、偽痛風ではピロリン酸カルシウム結晶(菱形~棒状、弱い正の複屈折)がみられる。 ・化膿性:黄白色~膿性で強く混濁し、白血球は著増(しばしば50,000/μL以上)で好中球優位。培養で起炎菌を同定する。 ・血性:外傷後の関節血症。脂肪滴が浮いていれば骨折(関節内骨折)を疑う。靱帯損傷(前十字靱帯損傷など)でも関節血症となる。
手技の要点と注意
・膝伸展位・仰臥位で大腿四頭筋を弛緩させる。 ・皮膚を広く十分に消毒し、清潔操作で行う。不潔な操作は医原性の化膿性関節炎を招くため、最も注意すべき合併症である。 ・穿刺部位の皮膚に感染巣(蜂窩織炎など)がある場合は、そこから刺入してはならない。 ・穿刺後は穿刺部を圧迫し、当日の入浴は控えさせるなど感染予防に配慮する。
膝関節周囲の解剖
・膝蓋上包:大腿四頭筋腱の深部で大腿骨前面との間にある大きな滑液包で、通常は膝関節腔と交通している。関節液が増えるとここが膨らみ、膝蓋跳動(膝蓋骨を押すと浮いた膝蓋骨が大腿骨に当たる感触)が出現する。 ・膝蓋骨の上方正中には大腿四頭筋腱、下方正中には膝蓋腱とその深部の膝蓋下脂肪体がある。
POINT
・膝関節穿刺の第一選択は、膝蓋骨の外側上方から膝蓋上包を狙う部位である。 ・膝蓋上包は関節液が最もたまりやすく、膝伸展位で穿刺する。 ・膝蓋骨の真上(大腿四頭筋腱)と真下(膝蓋腱・膝蓋下脂肪体)の正中からの穿刺は避ける。 ・関節穿刺で最も注意すべき合併症は感染(化膿性関節炎)であり、厳重な清潔操作が必要である。 ・本問は必修問題としては妥当でないとして採点対象から除外された。
