StudyMed医師国家試験

下がりきらないhCGが告げるもの―奇胎後の肺結節と「切らずに治す」侵入奇胎

第99回医師国家試験 A問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第99回 A問題 第40問

22歳の女性。未経産。胞状奇胎娩出後の管理目的で来院した。8週前に胞状奇胎(妊娠9週)と診断され,子宮内容除去術を受けた。腟分泌物は血性,少量。子宮体部は軽度腫大し,付属器は触知しない。基礎体温は1相性。尿中hCG値1,600mIU/mL。経腟超音波写真(A)を示す。胸部エックス線写真で右下肺野に径15mmの結節陰影を1個認める。頭部CTと腹部CTとに異常を認めない。奇胎娩出から8週間の尿中hCG値の推移(B)を示す。 治療として最も適切なのはどれか。

第99回 A問題 第40問の問題画像
  1. a.子宮病巣摘出術
  2. b.単純子宮全摘術
  3. c.肺病巣摘出術
  4. d.放射線治療
  5. e.化学療法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胞状奇胎の娩出後にフォローしている患者さんの治療方針を考える問題だ。注目してほしいのは2点。hCGの推移のグラフがどんな形をしているか、そして肺に見つかった結節をどう解釈するか。まずはhCGのグラフから読み取れることを教えてくれるかな。
医学生医学生
最初は下がっているのに、途中から再び上がっていますね。8週で1,600mIU/mLは、かなり高い印象です。
ドクタードクター
その通り。奇胎娩出後はhCGを定期的に測って、きちんと下がっていくかを追いかける。わが国の取扱い規約では、娩出後5週で1,000mIU/mL、8週で100mIU/mL、20週でカットオフ値という判別線があって、これを一度でも上回れば経過非順調型と考える。今回は8週で判別線を大きく超え、しかも再上昇している。
医学生医学生
産婦人科の講義で習った存続絨毛症ですね。奇胎組織がまだどこかに残って増えている、ということでしょうか。
ドクタードクター
そう。存続絨毛症は、病理診断はついていないけれどhCGが下がらない、あるいは再上昇する状態のことだ。基礎体温が1相性なのも、hCG高値が続いて排卵が戻っていないことと整合する。では、病巣はどこにあると考える?
医学生医学生
経腟超音波で子宮の中に小さな嚢胞が集まったような病変があって、筋層との境目がはっきりしません。それに肺の結節……肺転移ですか。
ドクタードクター
いい読みだね。筋層との境界が不明瞭というのは、奇胎の絨毛が子宮筋層に入り込んでいることを示唆する。そこで問題になるのが、これが侵入奇胎なのか絨毛癌なのか、という鑑別だ。組織が取れない状況では、絨毛癌診断スコアを使って臨床的に判断する。
医学生医学生
絨毛癌は転移しやすい悪性腫瘍なので、肺転移があるなら絨毛癌を疑うべきではないですか。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。侵入奇胎も肺や腟に転移することがある。スコアでは、先行妊娠が胞状奇胎であること、娩出からの期間が短いこと、肺の病巣が小さく単発であること、hCGがそれほど極端に高くないことなどが侵入奇胎寄りの要素になる。今回はまさにそれに当てはまるから、肺転移を伴う臨床的侵入奇胎と判断できる。
医学生医学生
なるほど、転移の有無ではなく、転移の性状や経過全体で判断するんですね。では治療は、子宮と肺の病巣をそれぞれ取ればよいのでしょうか。
ドクタードクター
そこで考えてほしいのが、侵入奇胎の性質だ。侵入奇胎は抗癌薬への感受性がきわめて高く、転移があっても化学療法だけでほぼ治癒が期待できる。だから正解は化学療法。通常はメトトレキサートかアクチノマイシンDの単剤療法から始めて、hCGを指標に効果を判定する。
医学生医学生
単剤で治るというのは意外です。病理実習で見た固形癌のイメージだと、手術が中心だと思っていました。
ドクタードクター
絨毛性疾患は固形腫瘍の中でも特に化学療法がよく効く代表例なんだ。では、ほかの選択肢がなぜ適さないか確認しよう。まず子宮の病巣だけを摘出する方法はどうかな。
医学生医学生
筋層に入り込んでいるなら、取り残しが出そうです。それに肺に転移があるので、子宮だけ処置しても足りませんね。
ドクタードクター
その通り。しかも筋層が脆くなった部分を操作すると、大出血や子宮穿孔の危険もある。単純子宮全摘術も同じで、肺の病変は残るうえ、22歳の未経産の女性の妊孕性を失わせてしまう。化学療法で治る見込みが高いのに、初回治療で子宮を取る理由はないんだ。
医学生医学生
肺の結節だけを切除するのも、子宮の病変とhCGが制御できていない段階では意味がない、ということですね。
ドクタードクター
そう。肺病巣の切除が検討されるのは、化学療法で子宮病変が制御できたのに、薬剤に抵抗する肺病巣が孤立して残るような場合に限られる。放射線治療も絨毛性疾患では主役ではなく、主に絨毛癌の脳転移などに化学療法と組み合わせて使う程度だ。今回は頭部CTに異常がないし、子宮や肺への照射は妊孕性や肺機能を損なうおそれがある。
医学生医学生
手術や放射線は、薬が効かない病巣や出血、脳転移への補助的な位置づけ、と整理しておきます。
ドクタードクター
いいまとめだ。発展として、絨毛性疾患の全体像も押さえよう。全胞状奇胎は父親由来の染色体のみをもつ雄核発生で、部分胞状奇胎より続発症のリスクが高い。絨毛癌は絨毛構造を欠く異型栄養膜細胞の腫瘍で、奇胎だけでなく正期産や流産の後にも起こりうる。高リスク例ではEMA/CO療法などの多剤併用療法を行う。
医学生医学生
単剤療法が効かなかったときも、多剤併用に切り替えるんですよね。
ドクタードクター
そうだね。それから臨床で大事なのが、奇胎後のフォロー中は避妊を指導すること。妊娠するとhCGが上がって、病気の再燃と区別できなくなってしまうからだ。hCGがカットオフ値未満になった後も、化学療法を数コース追加し、その後もしばらく経過を追う。
医学生医学生
臨床実習で産婦人科を回ったとき、奇胎後の患者さんがhCGの値をとても気にされていたのを思い出しました。数字の意味をきちんと説明できるようにしたいです。
ドクタードクター
それは大切な姿勢だね。hCGはこの病気の腫瘍マーカーであり、治療効果の物差しでもある。グラフの形を読めることが、診断にも治療にも直結するんだ。

まとめ

胞状奇胎の娩出後にhCGが判別線(5週1,000mIU/mL、8週100mIU/mL、20週カットオフ値)を上回ったり再上昇したりする場合は存続絨毛症を考え、画像で病巣を検索します。先行妊娠が奇胎で潜伏期間が短く、肺転移が小さく単発であれば、絨毛癌診断スコアから臨床的侵入奇胎と判断されます。侵入奇胎は抗癌薬への感受性がきわめて高く、肺転移があってもメトトレキサートやアクチノマイシンDの単剤化学療法で治癒が期待でき、若年女性では子宮を温存して妊孕性を守ることができます。子宮全摘や転移巣切除、放射線治療は、薬剤抵抗性の病巣や制御困難な出血、脳転移などに対する補助的な治療と位置づけられます。hCGの推移を読み、侵入奇胎と絨毛癌を見分けて全身療法を選ぶ流れは、絨毛性疾患の管理の基本です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・22歳、未経産。8週前に胞状奇胎(妊娠9週)に対して子宮内容除去術を受けている。 ・現在も少量の血性帯下があり、子宮体部は軽度腫大している。基礎体温は1相性で、排卵が回復していない(hCG高値の持続を示唆する)。 ・尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は奇胎娩出後8週の時点で1,600mIU/mLと高値である。推移のグラフ(B)では、いったん低下したhCGが途中(娩出後4週前後)から再上昇に転じている。 ・経腟超音波(A)では、子宮内に小嚢胞状の不均一な病変があり、子宮筋層との境界がはっきりしない。筋層内への病変の進展を示唆する像である。 ・胸部エックス線写真で右下肺野に径15mmの結節影が1個あり、肺転移が疑われる。頭部・腹部CTに異常はない。

診断へのプロセス

胞状奇胎の娩出後は、hCGを定期的に測定して正常化するかを追跡する。わが国の絨毛性疾患取扱い規約では、娩出後5週で1,000mIU/mL、8週で100mIU/mL、20週でカットオフ値という判別線を設け、これを一度でも上回る場合を経過非順調型とする。本例は8週で1,600mIU/mLと判別線を大きく超えており、しかも再上昇しているため、存続絨毛症(奇胎娩出後もhCGが下がりきらない、あるいは再上昇する状態)に該当する。 存続絨毛症では、病理組織が得られない状況で臨床所見から侵入奇胎と絨毛癌を区別するために絨毛癌診断スコアを用いる。本例は、先行妊娠が胞状奇胎、娩出からの期間が短い(6か月未満)、原発巣は子宮体部、肺転移巣が小さく(20mm未満)単発、hCG値もさほど高くない、といった点から、スコアは低く臨床的侵入奇胎(肺転移を伴う)と判断される。超音波で筋層との境界が不明瞭な点も、奇胎組織が筋層へ侵入している侵入奇胎として矛盾しない。

治療方針の考え方

侵入奇胎は抗癌薬に対する感受性がきわめて高く、肺などへの転移があっても化学療法単独でほぼ治癒が期待できる。第一選択はメトトレキサート(MTX)またはアクチノマイシンD(ActD)の単剤療法であり、hCGを指標に効果を判定する。したがって、局所治療(手術・放射線)ではなく、全身に作用する化学療法が最も適切である。また患者は22歳の未経産で、妊孕性(将来妊娠できる能力)の温存が重要な点も治療選択に影響する。

選択肢考察

  1. ×a.  子宮病巣摘出術

    侵入奇胎の病変は子宮筋層内に入り込んでおり、超音波でも筋層との境界が不明瞭である。すでに子宮内容除去術を受けたうえで病変が残存・増大していることから、病巣だけを取り除こうとしても取り残しが生じやすく、筋層が脆弱になった部位を操作すれば大出血や子宮穿孔の危険も高い。さらに肺転移が存在する以上、子宮の局所処置だけでは全身の病勢を制御できない。化学療法で十分に治癒が見込めるため適応はない。

  2. ×b.  単純子宮全摘術

    子宮を摘出すれば妊孕性が失われるが、本例は22歳の未経産であり、機能温存を最優先すべきである。侵入奇胎は化学療法の奏効率が非常に高いため、初回治療として子宮全摘を選ぶ理由はない。また子宮を摘出しても肺転移は残るので、それだけで治癒には至らない。子宮全摘が考慮されるのは、化学療法抵抗性の病巣が子宮に限局している場合、制御困難な子宮出血がある場合、挙児希望がない場合などに限られる。

  3. ×c.  肺病巣摘出術

    侵入奇胎の肺転移巣は化学療法によく反応し、多くは消失する。原発巣である子宮病変とhCGが制御されていない段階で肺の結節だけを切除しても意味がなく、他の微小病変も残る。肺病巣の切除が検討されるのは、化学療法によって子宮病変が制御されたにもかかわらず、薬剤抵抗性の肺病巣が孤立して残存するような場合である。

  4. ×d.  放射線治療

    絨毛性疾患の治療の中心は化学療法であり、放射線治療は主役ではない。放射線治療が用いられるのは主に絨毛癌の脳転移などで、化学療法と組み合わせて行われる。本例は頭部CTに異常がなく、また子宮や肺への照射は妊孕性や肺機能を損なうおそれがあり、化学療法で治癒が期待できる侵入奇胎に選択する治療ではない。

  5. ○e.  化学療法

    hCGの再上昇と肺転移を伴う臨床的侵入奇胎であり、全身療法である化学療法が第一選択となる。侵入奇胎(および低リスクの絨毛性腫瘍)は抗癌薬への感受性が非常に高く、転移があっても化学療法単独でほぼ全例の寛解が期待でき、子宮を温存できるため妊孕性も保たれる。通常はMTXまたはActDの単剤療法から開始し、hCGがカットオフ値未満になった後も数コース追加する。単剤に抵抗性を示す場合は、他剤への変更やエトポシド・MTX・ActDなどを組み合わせた多剤併用療法(EMA/CO療法など)に切り替える。

絨毛性疾患の分類(わが国の取扱い規約に基づく整理)

・胞状奇胎:全胞状奇胎(父親由来の染色体のみ、雄核発生)と部分胞状奇胎(3倍体が多い)。全胞状奇胎の方が続発症のリスクが高い。 ・侵入奇胎:奇胎の絨毛が子宮筋層内や血管内に侵入したもの。肺や腟などへ転移することがあるが、絨毛構造を保つ。 ・絨毛癌:絨毛構造を欠く異型栄養膜細胞の悪性腫瘍。血行性に肺・脳・肝などへ転移しやすい。先行妊娠は胞状奇胎に限らず、正期産や流産の後にも発生する。 ・存続絨毛症:病理学的診断はつかないが、奇胎後などにhCGが下がらない、または再上昇する状態。奇胎後hCG存続症、臨床的侵入奇胎、臨床的絨毛癌に分けられる。

奇胎娩出後の管理

・hCGを1〜2週ごとに測定し、正常化後も一定期間(半年程度)追跡する。 ・判別線(5週で1,000mIU/mL、8週で100mIU/mL、20週でカットオフ値)を超えるものを経過非順調型とし、存続絨毛症を疑って画像検査(経腟超音波、胸部エックス線・CT、頭部・腹部CTなど)で病巣を検索する。 ・追跡期間中は妊娠によるhCG上昇と区別できなくなるため、避妊を指導する。

絨毛癌診断スコア

先行妊娠の種類、先行妊娠からの潜伏期間、原発病巣の部位、転移部位、肺転移巣の大きさ・大小不同性・個数、hCG値、基礎体温などを点数化し、合計点が低ければ臨床的侵入奇胎、高ければ臨床的絨毛癌と判定する。先行妊娠が胞状奇胎で潜伏期間が短く、肺転移が小さく少数であれば侵入奇胎寄りとなる。

治療

・侵入奇胎・低リスク例:MTXまたはActDの単剤療法が基本。 ・絨毛癌・高リスク例:EMA/CO療法(エトポシド、MTX、ActD、シクロホスファミド、ビンクリスチン)などの多剤併用療法。 ・手術(子宮全摘、転移巣切除)や放射線治療は、薬剤抵抗性病巣、制御困難な出血、脳転移などに対する補助的な位置づけである。

POINT

・胞状奇胎娩出後にhCGが判別線を超える、または再上昇すれば存続絨毛症を考える。 ・先行妊娠が奇胎、潜伏期間が短い、肺転移が小さく少数なら臨床的侵入奇胎と判断する(絨毛癌診断スコア)。 ・侵入奇胎は転移があっても化学療法(MTXまたはActD単剤)で治癒が期待でき、第一選択は化学療法である。 ・若年・未経産では妊孕性温存を重視し、子宮全摘は初回治療にしない。 ・手術や放射線は薬剤抵抗例・出血・脳転移などに限った補助的治療である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。