喉の奥の「しつこい違和感」―下咽頭癌は切ったあと、どう食べる道を取り戻すか
第99回医師国家試験 A問題 第13問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。咽頭の違和感と嚥下痛とを訴えて来院した。喉頭内視鏡写真を別に示す。生検の結果は分化型扁平上皮癌であった。 この患者で正しいのはどれか。

- a.発症にEBウイルスが関与する。
- b.頸部リンパ節転移はまれである。
- c.放射線治療は無効である。
- d.輪状咽頭筋切除術を行う。
- e.腫瘍摘出後,再建手術が必要である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
下咽頭は喉頭の後方から食道入口部へ続く部位で、梨状陥凹・輪状後部・後壁に分かれ、ここに生じる癌のほとんどは扁平上皮癌です。下咽頭癌は飲酒・喫煙を主な危険因子とする高齢男性に多い癌で、初期症状に乏しく、頸部リンパ節転移の頻度が高いため進行して見つかることが少なくありません。扁平上皮癌なので放射線・化学放射線療法は有効ですが、喉頭に接する進行例では咽頭喉頭頸部食道摘出術と頸部郭清術を行い、遊離空腸などで食物の通り道を再建します。EBウイルスは上咽頭癌、HPVは中咽頭癌と関連し、輪状咽頭筋切断術は嚥下障害に対する機能手術である点も区別しておきましょう。食道癌の重複に注意して評価することも含め、部位ごとの特徴を整理することが頭頸部癌全体の理解につながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・65歳の男性で、咽頭の違和感と嚥下痛を訴えている。高齢男性の咽喉頭の持続する違和感・嚥下時痛は、頭頸部癌を念頭に置くべき症状である。 ・喉頭内視鏡写真:声門(声帯のすき間)の後方、披裂部から輪状後部にかけての下咽頭領域に、表面が不整で白色調の顆粒状・乳頭状を呈する隆起性腫瘤を認める。境界は不明瞭で、周囲へ浸潤性に広がっている。 ・生検:分化型扁平上皮癌。
診断へのプロセス
下咽頭は、喉頭の後方から周囲を取り囲み食道入口部へ続く部位で、梨状陥凹、輪状後部、後壁の3亜部位に分けられる。内視鏡でこの領域に不整な腫瘤があり、組織が扁平上皮癌であることから、下咽頭癌と診断できる。
設問の考え方
下咽頭癌の特徴として、(1) 飲酒・喫煙が主な危険因子で高齢男性に多い(輪状後部癌は鉄欠乏性貧血のある女性に多いとされてきた)、(2) 初期症状に乏しく進行して見つかりやすい、(3) リンパ流が豊富で頸部リンパ節転移の頻度が高く、頸部腫瘤が初発症状となることもある、(4) 扁平上皮癌であり放射線・化学療法が有効である、(5) 進行例では喉頭・下咽頭・頸部食道を切除し、失われた食物の通り道を遊離空腸などで再建する必要がある、という点を押さえれば各選択肢を判断できる。
選択肢考察
- ×a. 発症にEBウイルスが関与する。
EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)の関与が知られているのは上咽頭癌(鼻咽頭癌)であり、とくに未分化癌・低分化型の病型で関連が強い。上咽頭癌は中国南部や東南アジアに多い。下咽頭癌の主な危険因子は飲酒と喫煙で、アルコール代謝に関わるALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)の活性が低い人の飲酒は特に危険性を高める。なお中咽頭癌ではヒトパピローマウイルス(HPV)の関与が重要である。
- ×b. 頸部リンパ節転移はまれである。
下咽頭はリンパ管網が豊富で、下咽頭癌は頭頸部癌の中でも頸部リンパ節転移の頻度が特に高い。初診時にすでに頸部リンパ節転移を認める例が多く(半数以上とされる)、頸部腫瘤を主訴に受診して発見されることもある。このため治療では原発巣の切除とともに頸部郭清術を行うのが一般的である。
- ×c. 放射線治療は無効である。
扁平上皮癌は放射線感受性があり、下咽頭癌でも放射線治療は有効である。早期癌では放射線単独や化学放射線療法(シスプラチンなどを併用)で根治をめざし、喉頭を温存できることがある。進行癌でも、喉頭温存を目的とした化学放射線療法や、手術後の再発予防を目的とした術後照射が行われる。
- ×d. 輪状咽頭筋切除術を行う。
輪状咽頭筋は食道入口部を締める上部食道括約筋の主体である。輪状咽頭筋切断(切除)術は、この筋が十分に弛緩せず食塊が通過しにくい嚥下障害(脳血管障害後の球麻痺や輪状咽頭筋弛緩不全など)に対して、食道入口部を開きやすくする目的で行う機能改善手術であり、癌の根治手術ではない。
- ○e. 腫瘍摘出後,再建手術が必要である。
本例のように喉頭に接して広がる下咽頭癌を手術する場合、腫瘍を安全域をつけて切除するために、喉頭・下咽頭・頸部食道を一塊に摘出する咽頭喉頭頸部食道摘出術を行うことが多い。切除後は食物の通り道が失われるため、遊離空腸移植(微小血管吻合で頸部の血管とつなぐ)による再建が標準的に行われ、欠損の大きさや部位によって前腕皮弁、大胸筋皮弁などの皮弁や胃管挙上も用いられる。喉頭を摘出した場合は永久気管孔となり、発声は食道発声や電気式人工喉頭、シャント発声などで代用する。
下咽頭の解剖と亜部位
下咽頭は、舌骨の高さ(喉頭蓋谷の底部)から輪状軟骨下縁の高さまでの咽頭で、下方は頸部食道に続く。次の3亜部位に分けられる。 ・梨状陥凹:喉頭の両側にあるくぼみ。下咽頭癌の発生部位として最も多い。 ・輪状後部:輪状軟骨の後方で、食道入口部に接する部位。 ・後壁:咽頭の後壁。
下咽頭癌の概要
・組織型:ほとんどが扁平上皮癌である。 ・疫学:高齢男性に多く、危険因子は飲酒と喫煙である。食道癌との重複(同時性・異時性)が多く、上部消化管内視鏡による食道の検索が必要である。輪状後部癌は鉄欠乏性貧血に舌炎・嚥下障害を伴うPlummer-Vinson症候群との関連が知られ、女性に多いとされる。 ・症状:咽頭違和感、嚥下時痛、嚥下障害、耳への放散痛、嗄声(喉頭浸潤や反回神経麻痺による)、頸部腫瘤。初期は無症状のことが多く、進行癌で見つかることが多い。 ・診断:喉頭内視鏡(NBIなどの画像強調観察を含む)、生検、CT・MRIやPET-CTによる進展範囲とリンパ節転移の評価。 ・予後:頭頸部癌の中では不良な部類である。
治療
・早期癌:放射線治療(化学放射線療法)、あるいは経口的切除術などで喉頭を温存した治療。 ・進行癌:咽頭喉頭頸部食道摘出術+頸部郭清術+遊離空腸などによる再建、または喉頭温存をめざした化学放射線療法。術後に再発リスクが高い場合は術後(化学)放射線療法を追加する。
咽頭癌の部位別の特徴
・上咽頭癌:EBウイルス関連、未分化癌が多い、鼻閉・耳閉感(滲出性中耳炎)・脳神経症状、放射線感受性が高く化学放射線療法が中心。 ・中咽頭癌:HPV関連の増加、扁桃・舌根に多い。HPV陽性例は予後が比較的良好。 ・下咽頭癌:飲酒・喫煙、梨状陥凹に多い、頸部リンパ節転移が多い、食道癌の重複が多い。
POINT
・下咽頭癌:高齢男性、飲酒・喫煙、扁平上皮癌、梨状陥凹に最多。 ・頸部リンパ節転移の頻度が高く、初診時に進行していることが多い。食道癌の重複に注意する。 ・扁平上皮癌なので放射線(化学放射線)療法は有効。 ・手術は咽頭喉頭頸部食道摘出術+頸部郭清術を行い、遊離空腸などで再建する。 ・EBウイルスは上咽頭癌、HPVは中咽頭癌と関連。輪状咽頭筋切断術は嚥下障害に対する機能手術。
