「全数」か「定点」か―5類移行で変わった新型コロナの届出ルール
第120回医師国家試験 F問題 第17問
国試問題にチャレンジ
感染症発生動向調査で全数把握の対象でないのはどれか。
- a.結核
- b.A型肝炎
- c.エボラ出血熱
- d.腸管出血性大腸菌感染症
- e.新型コロナウイルス感染症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
感染症発生動向調査には、診断したすべての医師が届け出る全数把握と、指定された定点医療機関が患者数を定期的に報告する定点把握の2つの方式があります。1〜4類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症はすべて全数把握であり、定点把握の対象は5類感染症の一部に限られます。結核(2類)、A型肝炎(4類)、エボラ出血熱(1類)、腸管出血性大腸菌感染症(3類)はいずれも全数把握ですが、新型コロナウイルス感染症は2023年5月8日に5類へ移行して定点把握となったため、全数把握の対象ではありません。疾患の類型と把握方法の対応を整理しておくことは、国試対策だけでなく、臨床で届出義務を正しく果たし地域の感染対策に貢献するための基本となります。
解答・解説
正解はeです
感染症発生動向調査は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づいて、感染症の発生状況を集めて分析し、その結果を国民や医療機関に還元する仕組みである。情報の集め方には大きく分けて2種類ある。
全数把握
診断したすべての医師に届出義務があり、患者を1例残らず把握する方式である。対象は1類〜4類感染症の全疾患、5類感染症のうち全数把握対象と定められた疾患、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症である。1〜4類と新型インフルエンザ等感染症は診断後「直ちに」届け出る。5類全数把握疾患は原則7日以内だが、麻疹・風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに届け出ることとされている。
定点把握
都道府県があらかじめ指定した医療機関(定点医療機関)だけが、患者数を週単位または月単位で報告する方式である。患者数が多く、1例ごとに把握する必要性は低いが流行の動向をみたい疾患(インフルエンザ、感染性胃腸炎、手足口病など)が対象となる。対象はすべて5類感染症である。
解き方
したがって「全数把握の対象でない」疾患とは「5類感染症のうち定点把握の疾患」を探すことに等しい。各選択肢の類型を思い出せば、1〜4類に属する結核、A型肝炎、エボラ出血熱、腸管出血性大腸菌感染症はすべて全数把握であり、2023年5月に5類定点把握疾患へ移行した新型コロナウイルス感染症だけが該当する。
選択肢考察
- ×a. 結核
結核は2類感染症である。2類には結核のほか、急性灰白髄炎(ポリオ)、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)が含まれる。診断した医師は直ちに保健所へ届け出る義務があり、全数把握の対象である。結核では患者の届出をもとに保健所が接触者健診や服薬支援(DOTS:直接服薬確認療法)を行うため、全数の把握が不可欠である。
- ×b. A型肝炎
A型肝炎は4類感染症である。4類は動物や飲食物などを介してヒトに感染する疾患(E型肝炎、狂犬病、マラリア、デング熱、日本脳炎など)で、ヒトからヒトへの感染はまれなものが中心である。4類はすべて全数把握であり、診断後直ちに届け出る。なお、B型肝炎・C型肝炎などのウイルス性肝炎(A型・E型を除く)は5類全数把握であり、A型・E型と類型が異なる点に注意する。
- ×c. エボラ出血熱
エボラ出血熱は1類感染症である。1類は感染力・重篤性ともに最も危険性が高い疾患群で、エボラ出血熱のほか、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱の7疾患が該当する。全数把握の対象であり、診断後直ちに届け出る。原則として第一種感染症指定医療機関などへの入院措置がとられる。
- ×d. 腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌(EHEC、O157など)感染症は3類感染症である。3類にはほかにコレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフスが含まれ、いずれも飲食物を介して集団発生を起こしうるため、特定の職業(飲食物を扱う業務など)への就業制限の対象となる。全数把握の対象で、診断後直ちに届け出る。症状のない保菌者(無症状病原体保有者)も届出の対象となる。
- ○e. 新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、流行初期には指定感染症、その後は新型インフルエンザ等感染症に位置づけられ、全数把握が行われていた。2023年5月8日に5類感染症へ移行し、同時に定点把握の対象疾患となった。現在は定点医療機関からの週単位の患者数報告により流行状況を追跡しており、全数把握の対象ではない。したがって本選択肢が正解である。
感染症法の類型と把握方法の整理
・1類感染症:エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱。全数把握・直ちに届出。 ・2類感染症:結核、ポリオ、ジフテリア、SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)。全数把握・直ちに届出。 ・3類感染症:コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス。全数把握・直ちに届出。 ・4類感染症:A型肝炎、E型肝炎、狂犬病、マラリア、デング熱、日本脳炎、つつが虫病、レジオネラ症など多数。全数把握・直ちに届出。 ・5類感染症(全数把握):後天性免疫不全症候群(AIDS)、梅毒、麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症、劇症型溶血性レンサ球菌感染症、百日咳、ウイルス性肝炎(A型・E型を除く)など。原則7日以内に届出(麻疹・風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに)。 ・5類感染症(定点把握):インフルエンザ(鳥インフルエンザ・新型インフルエンザ等感染症を除く)、新型コロナウイルス感染症、感染性胃腸炎、手足口病、ヘルパンギーナ、RSウイルス感染症、流行性耳下腺炎、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症など。
定点の種類
定点には小児科定点、インフルエンザ・COVID-19などの呼吸器感染症の定点、眼科定点、性感染症定点、基幹定点(患者を300人以上収容する病院などの比較的大きな病院)などがあり、疾患ごとに報告する定点が決まっている。
類型ごとの主な措置
1類は入院勧告・就業制限・消毒など、2類は入院勧告・就業制限など、3類は就業制限、4類は媒介動物の駆除や消毒などが主な措置であり、5類は発生動向の把握と情報提供が中心である。
POINT
・全数把握:1〜4類の全疾患、5類の一部、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症。 ・定点把握:5類感染症の一部のみ(インフルエンザ、COVID-19、感染性胃腸炎など)。 ・COVID-19は2023年5月8日に5類へ移行し、定点把握となった。 ・結核=2類、A型肝炎=4類、エボラ出血熱=1類、腸管出血性大腸菌感染症=3類(いずれも全数把握)。
