「何を」「どれだけ」入れるか―Baxterの公式で読み解く熱傷ショックの初期輸液
第120回医師国家試験 C問題 第71問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,70~72の問いに答えよ。 77歳の女性。熱傷のため救急車で搬入された。 現病歴:本日,自宅の風呂場から叫び声が聞こえ,息子が様子を見に行った。熱湯に患者の下半身がつかり,身動きがとれなくなっているところを発見され,なんとか浴槽から引きずり出された。息子が救急車を要請した。 既往歴:軽度認知症を指摘されている。高血圧症と糖尿病で降圧薬,血糖降下薬を内服している。 生活歴:息子と2人暮らし。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:意識レベルはJCSⅠ-2,GCS14(E4V4M6)。身長154cm,体重50kg。体温36.8℃。心拍数108/分,整。血圧104/52mmHg。呼吸数22/分。SpO2 94%(room air)。眼瞼結膜に貧血を認めない。甲状腺と頸部リンパ節とを触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。陰部,両側下肢から足底にかけてⅢ度熱傷を認める。虐待を疑うような徴候,身体所見は認めない。警察に報告し,事件性はないと判断された。熱傷範囲を示す。 検査所見:血液所見:赤血球486万,Hb 15.3g/dL,Ht 47%,白血球29,760(桿状核好中球1%,分葉核好中球92%,好酸球0%,好塩基球0%,単球5%,リンパ球2%),血小板27万,PT-INR 0.9(基準0.9~1.1)。血液生化学所見:総蛋白6.1g/dL,アルブミン3.3g/dL,総ビリルビン2.0mg/dL,AST 77U/L,ALT 27U/L,LD 350U/L(基準124~222),ALP 75U/L(基準38~113),γ-GT 15U/L(基準9~32),アミラーゼ93U/L(基準44~132),CK 250U/L(基準41~153),尿素窒素37mg/dL,クレアチニン1.0mg/dL,血糖280mg/dL,HbA1c 8.3%(基準4.9~6.0),総コレステロール237mg/dL,Na 145mEq/L,K 4.5mEq/L,Cl 103mEq/L。CRP 9.6mg/dL。
初期輸液をBaxterの公式(最初の24時間の輸液量=4(mL)×体重(kg)×熱傷面積(%))に沿って開始することとした。 初期輸液として適切なのはどれか。 Na+ (mEq/L) K+ (mEq/L) Cl- (mEq/L) L-lactate- (mEq/L) 24時間の 輸液量 a 220 0 220 0 7,400 mL b 220 0 220 0 10,000 mL c 130 4 109 28 7,400 mL d 130 4 109 28 10,000 mL e 40 35 40 0 10,000 mL

- a.
- b.
- c.
- d.
- e.
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
広範囲熱傷の受傷早期は、毛細血管透過性亢進で血漿成分が失われる熱傷ショックが主病態であり、初期輸液には細胞外液とほぼ等張の乳酸リンゲル液(Na 130、K 4、Cl 109、乳酸28mEq/L)などのリンゲル液を用います。量はBaxterの公式(4mL×体重kg×熱傷面積%)で見積もり、本例では4×50×37=7,400mLとなり、半量を受傷から8時間、残り半量を次の16時間で投与します。高張食塩液は高Na血症の危険があり、Kを含む低張の維持液は血管内に留まりにくく高K血症のおそれもあるため、ショック期の初期輸液には適しません。公式は目安にすぎず、成人では尿量0.5mL/kg/時程度を指標に速度を調整し、過剰輸液(fluid creep)による肺水腫やコンパートメント症候群を避けることが重要です。「何を・どれだけ・どの速さで」入れるかを病態から考える姿勢は、熱傷に限らずあらゆるショックの輸液管理の基本となります。
解答・解説
正解はcです
前提となる病態
本例は77歳女性、体重50kg、陰部と両下肢のⅢ度熱傷で、9の法則から熱傷面積は18%×2+1%=37%である。頻脈、相対的な血圧低下、血液濃縮(Ht 47%)、BUN上昇がみられ、毛細血管透過性の亢進による循環血液量減少(熱傷ショック)が進行しつつある。成人ではおおむね熱傷面積15~20%以上で、熱傷ショックを防ぐための計画的な初期輸液が必要になる。
設問の考え方
初期輸液を選ぶには、「何を(輸液の種類)」と「どれだけ(輸液量)」の2点を判断する。 1. 輸液の種類 熱傷ショックで失われるのは、主にNaを含む細胞外液(血漿成分)である。したがって補うのは、細胞外液とほぼ等張の晶質液、すなわちリンゲル液(乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液)が基本となる。選択肢の組成は次のように読み取れる。 ・Na 220、Cl 220、K・乳酸 0: 約1.3%の食塩水に相当する高張食塩液。 ・Na 130、K 4、Cl 109、乳酸 28: 乳酸リンゲル液(細胞外液補充液)の組成。 ・Na 40、K 35、Cl 40、乳酸 0: Naが少なくKを多く含む維持液(いわゆる3号液型)。 2. 輸液量(Baxterの公式) 最初の24時間の輸液量=4mL×体重(kg)×熱傷面積(%) =4×50×37 =7,400mL このうち半量(3,700mL)を受傷から最初の8時間で、残りの半量(3,700mL)を続く16時間で投与する。時間の起点は来院時ではなく受傷時刻である点に注意する。 したがって、乳酸リンゲル液を24時間で7,400mL投与する組み合わせが適切である。
選択肢考察
- ×a.
誤り。Na 220mEq/L・Cl 220mEq/Lは約1.3%の高張食塩液であり、輸液量7,400mLはBaxterの公式どおりだが、輸液の種類が不適切である。高張食塩液は低ナトリウム血症の補正や頭蓋内圧亢進(脳浮腫)への対策に用いられるもので、これを大量に投与すると高ナトリウム血症や高クロール性代謝性アシドーシスを招く。本例はすでにNa 145mEq/Lと上限付近にある。かつて輸液総量を減らす目的で高張乳酸加食塩液(HLS)が熱傷に用いられたこともあるが、高Na血症などの合併症から一般的ではなく、Baxterの公式は等張のリンゲル液を前提とした計算式である。
- ×b.
誤り。aと同じ約1.3%の高張食塩液であり、種類が不適切である。さらに輸液量10,000mLは、Baxterの公式による計算値(4×50×37=7,400mL)を大きく上回る。高張液を過量に投与すれば、高度の高ナトリウム血症をきたす危険がある。
- ○c.
正しい。Na 130、K 4、Cl 109、乳酸 28mEq/Lは乳酸リンゲル液の組成であり、細胞外液とほぼ等張で、熱傷で失われる血漿成分の補充に適している。含まれる乳酸は肝臓で代謝されて重炭酸イオンとなり、循環不全で生じやすい代謝性アシドーシスを緩和する。輸液量はBaxterの公式どおり4mL×50kg×37%=7,400mLであり、種類・量とも適切である。実際の投与では、最初の8時間で3,700mL、次の16時間で3,700mLを目安とし、尿量(成人で0.5mL/kg/時程度、本例では約25mL/時以上)を指標に投与速度を調整する。
- ×d.
誤り。輸液の種類は乳酸リンゲル液で適切だが、10,000mLはBaxterの公式による7,400mLを約2,600mL上回り過量である。過剰輸液は、熱傷創や非熱傷部の浮腫の増悪、肺水腫、腹部コンパートメント症候群、四肢のコンパートメント症候群などを引き起こす(fluid creepと呼ばれる問題)。とくに高齢で心予備能が低い本例では、過剰輸液の弊害を受けやすい。
- ×e.
誤り。Na 40、K 35、Cl 40mEq/Lは、Naが少なくKを含む維持液(3号液型)の組成である。維持液は1日の水分・電解質の必要量を補うための低張な輸液で、投与した水分の多くが細胞内へ移動するため、血管内容量を保つ力が弱い。熱傷ショック期に大量投与すると、循環血液量が回復しないうえに低ナトリウム血症や脳浮腫を招く。また、熱傷では組織崩壊によりKが血中へ放出されるため、K 35mEq/Lの液を大量投与すると高カリウム血症の危険がある。輸液量10,000mLも計算値より多い。
熱傷の初期輸液の公式
・Baxter(Parkland)の公式: 最初の24時間で乳酸リンゲル液 4mL×体重(kg)×熱傷面積(%)。半量を受傷後8時間で、残り半量を次の16時間で投与する。 ・修正Brookeの公式: 成人で2mL×体重(kg)×熱傷面積(%)の乳酸リンゲル液。 ・熱傷面積はⅡ度とⅢ度の合計で算出し、Ⅰ度は含めない。 ・近年は過剰輸液(fluid creep)の弊害が重視され、公式はあくまで開始時の目安とし、尿量を主な指標として投与速度を調節することが強調されている。尿量の目標は成人でおおむね0.5mL/kg/時(30~50mL/時程度)、小児で1mL/kg/時程度である。 ・小児では体重当たりの必要量が多く、低血糖を起こしやすいため、ブドウ糖を含む維持輸液を併用する。
主な輸液製剤の組成(mEq/L)
・生理食塩液: Na 154、Cl 154。 ・乳酸リンゲル液: Na 130、K 4、Ca 3、Cl 109、乳酸 28。 ・酢酸リンゲル液: 乳酸の代わりに酢酸を含む。酢酸は肝臓以外(筋肉など)でも代謝される。 ・1号液(開始液): Kを含まない低張液。病態不明時の初期に用いる。 ・3号液(維持液): Na 35~40、K 20程度を含む低張液。1日の維持量の補給用。
熱傷の経過と輸液
・ショック期(受傷後約48時間): 毛細血管透過性亢進による血漿漏出。等張晶質液による十分な輸液が必要。受傷後24時間以降、血管透過性がある程度改善してからは、膠質液(アルブミン製剤)の投与を考慮する。 ・リフィリング期(受傷後2~3日以降): 間質に貯留した水分が血管内へ戻り、尿量が増加する。この時期に輸液を減らさないと肺水腫・心不全をきたす。
熱傷患者の初期対応の要点
気道熱傷の評価と気道確保、輸液路の確保と初期輸液、尿道カテーテル留置による尿量測定、保温(低体温予防)、疼痛管理、全周性Ⅲ度熱傷に対する減張切開の検討、破傷風予防、専門施設への搬送判断が挙げられる。
POINT
・広範囲熱傷の初期輸液は、等張の細胞外液補充液(乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液)を用いる。 ・Baxterの公式: 24時間輸液量=4mL×体重(kg)×熱傷面積(%)。本例は4×50×37=7,400mL。 ・半量を受傷後8時間、残り半量を次の16時間で投与する。起点は受傷時刻である。 ・公式は目安であり、尿量0.5mL/kg/時(成人)を指標に調節する。過剰輸液はコンパートメント症候群や肺水腫を招く。 ・高張食塩液や維持液(3号液)は熱傷ショック期の初期輸液に適さない。 ・乳酸リンゲル液の組成: Na 130、K 4、Ca 3、Cl 109、乳酸 28mEq/L。
