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潜血3+なのに赤血球がいない―試験紙と顕微鏡のズレが語る「溶血」のサイン

第119回医師国家試験 C問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第10問

尿所見で,潜血3+,沈渣に赤血球1~4/HPFを示すのはどれか。

  1. a.腎梗塞
  2. b.膀胱癌
  3. c.尿路結石
  4. d.自己免疫性溶血性貧血
  5. e.膜性増殖性糸球体腎炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、尿検査の2つの結果が食い違うときに何を考えるかという問題だ。カギは、試験紙の潜血反応と尿沈渣が、それぞれ「何を見ている検査なのか」を理解すること。そこが分かれば答えは自然に出てくるよ。
医学生医学生
潜血が3+なら、普通に血尿だと思ってしまいます。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるね。でも沈渣の赤血球1〜4/HPFはどう評価する?
医学生医学生
血尿の定義は沈渣で赤血球5個以上/HPFだったので、基準範囲内です。あれ、矛盾していますね。
ドクタードクター
そう、その矛盾がこの問題の核心だ。試験紙の潜血反応は、ヘモグロビンのヘムがもつペルオキシダーゼ様活性で試薬を発色させる検査なんだ。つまり見ているのは「ヘム」であって、赤血球という細胞そのものではない。
医学生医学生
ということは、赤血球が壊れて中のヘモグロビンが尿に溶けていても陽性になるわけですね。
ドクタードクター
その通り。一方の沈渣は、遠心して沈んだ成分を顕微鏡で見て、形のある赤血球を数える検査だ。だから「潜血強陽性なのに沈渣の赤血球は正常」なら、ヘムが赤血球の形をとらずに尿中にある、つまりヘモグロビン尿かミオグロビン尿を考える。
医学生医学生
ヘモグロビン尿は溶血ですよね。生理学の講義で、ハプトグロビンが遊離ヘモグロビンを回収すると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。血管内溶血でヘモグロビンが大量に出ると、ハプトグロビンの結合能を超えた分が糸球体でろ過されて尿に出る。選択肢のうち、出血ではなく溶血でこれが起こるのは自己免疫性溶血性貧血だ。これが正解になる。
医学生医学生
でも血液内科の実習で、温式のAIHAは脾臓で壊される血管外溶血が中心だと教わりました。ヘモグロビン尿は出るんでしょうか。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。確かに温式では血管外溶血が主体だけど、急激な溶血発作ではヘモグロビン尿を来しうる。寒冷凝集素症や発作性寒冷ヘモグロビン尿症のように補体が関わる冷式AIHAでは、血管内溶血によるヘモグロビン尿がより典型的だ。この問題は「溶血によるヘモグロビン尿」を意図していると考えればいい。
医学生医学生
では残りの選択肢は、どれも本物の出血ということですか。
ドクタードクター
そう。腎梗塞は腎組織の虚血壊死から出血し、側腹部痛とLDの著明な上昇が特徴だ。膀胱癌は腫瘍表面からの出血で、典型的には無症候性肉眼的血尿として見つかる。尿路結石は結石が粘膜を傷つけて出血し、疝痛発作と血尿の組み合わせが典型だね。どれも沈渣で赤血球が増える。
医学生医学生
膜性増殖性糸球体腎炎も、糸球体から赤血球が漏れるので沈渣に出てくるんですね。病理実習で基底膜の二重化像を見ました。
ドクタードクター
そうだね。糸球体性の血尿では、変形赤血球や赤血球円柱が見られるのが特徴で、蛋白尿や低補体血症も伴いやすい。泌尿器科的な出血だと形の揃った赤血球になるから、沈渣の形態から出血源の見当もつけられる。
医学生医学生
解離を見たら溶血か筋崩壊、一致していたら尿路のどこかからの出血、という整理ですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、ヘモグロビン尿とミオグロビン尿の見分け方も押さえよう。どちらも遠心後の上清が赤いままだけど、ヘモグロビン尿では血清も赤みを帯び、ハプトグロビン低下、LD上昇、間接ビリルビン上昇を伴う。ミオグロビンは分子量が小さく速やかに尿へ出るので血清は着色しにくく、CKが著明に上がる。
医学生医学生
救急外来で横紋筋融解症の患者さんが真っ黒っぽい尿をしていたのを思い出しました。あれもこの解離が出るんですね。
ドクタードクター
そう、まさにその例だ。最後に臨床での注意点。ヘモグロビン尿を来す疾患には、PNH、不適合輸血、行軍ヘモグロビン尿症、破砕赤血球症候群、G6PD欠損症の溶血発作などもある。また、低比重尿やアルカリ尿で採尿後に赤血球が壊れたり、次亜塩素酸などの酸化剤が混入したりしても潜血と沈渣は解離するし、逆にビタミンCの大量摂取では偽陰性になる。検査の原理を知っていれば、こうした落とし穴にも気づけるよ。

まとめ

尿試験紙の潜血反応はヘムのペルオキシダーゼ様活性を検出するため、赤血球だけでなく遊離ヘモグロビンやミオグロビンにも反応します。一方、尿沈渣は形のある赤血球を数える検査で、血尿は赤血球5個以上/HPFと定義されるため、「潜血強陽性・沈渣赤血球正常」という解離はヘモグロビン尿(血管内溶血)かミオグロビン尿(横紋筋融解症)を示唆します。選択肢では自己免疫性溶血性貧血がこれに当たり、特に冷式や急激な溶血発作で血管内溶血によるヘモグロビン尿を来します。腎梗塞・膀胱癌・尿路結石・糸球体腎炎は尿路への出血なので沈渣でも赤血球が増え、糸球体性なら変形赤血球や赤血球円柱が手がかりになります。検査が何を測っているかという原理を理解することが、結果の矛盾から病態を読み解く力につながります。

解答・解説

正解はdです

所見の読み方

尿試験紙の潜血反応は、ヘモグロビンのヘム(鉄を含む色素部分)がもつペルオキシダーゼ様活性を利用して、試薬の発色をみる検査である。したがって、赤血球そのものだけでなく、尿中に溶けている遊離ヘモグロビンや、同じくヘムをもつミオグロビンにも反応する。 一方、尿沈渣は尿を遠心分離して沈んだ成分を顕微鏡で観察する検査であり、形をもった赤血球を直接数える。血尿(顕微鏡的血尿)は一般に沈渣で赤血球5個以上/HPF(強拡大400倍の1視野)と定義され、1〜4/HPFは基準範囲内である。

解離が意味すること

本問の「潜血3+なのに沈渣の赤血球は正常範囲」という組み合わせは、尿中のヘム色素が赤血球の形では存在していない、すなわち赤血球が尿路へ出血しているのではなく、ヘモグロビン尿またはミオグロビン尿である可能性を示す。 ・ヘモグロビン尿:血管内溶血で血中に放出されたヘモグロビンがハプトグロビンの結合能を超え、糸球体でろ過されて尿に出る。 ・ミオグロビン尿:横紋筋融解症などで筋肉から放出されたミオグロビンが尿に出る。 腎臓や尿路からの出血(腎梗塞、膀胱癌、尿路結石、糸球体腎炎など)では、尿中に赤血球そのものが出てくるため、潜血陽性とともに沈渣でも赤血球が増加する。

選択肢の絞り込み

選択肢のうち、出血ではなく溶血によって尿中にヘモグロビンが出る病態は自己免疫性溶血性貧血だけである。 なお、潜血と沈渣が解離する原因としては、低比重尿やアルカリ尿で採尿後に赤血球が壊れる場合や、次亜塩素酸などの酸化剤の混入による偽陽性もあり、実臨床ではこれらも考慮する。

選択肢考察

  1. ×a.  腎梗塞

    腎梗塞は、心房細動などによる血栓塞栓や腎動脈解離で腎動脈が閉塞し、腎組織が虚血壊死に陥る疾患である。壊死した組織から尿中へ出血するため、潜血陽性とともに沈渣でも赤血球が増加する(血尿)。側腹部痛、血清LD(乳酸脱水素酵素)の著明な上昇が特徴で、造影CTでくさび状の造影不良域として描出される。

  2. ×b.  膀胱癌

    膀胱癌(大部分は尿路上皮癌)は、腫瘍表面から出血して血尿を来す。典型的には痛みを伴わない肉眼的血尿(無症候性肉眼的血尿)で発見され、潜血陽性に加えて沈渣で多数の赤血球が見られる。高齢者、喫煙歴のある人の血尿では必ず鑑別に挙げる。

  3. ×c.  尿路結石

    尿路結石では、結石が尿管などの粘膜を傷つけて出血するため、肉眼的または顕微鏡的血尿を来し、潜血陽性とともに沈渣で赤血球が増加する。片側の激しい側腹部痛(疝痛発作)と血尿の組み合わせが典型である。

  4. ○d.  自己免疫性溶血性貧血

    自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は、赤血球に対する自己抗体によって赤血球が破壊される疾患である。溶血が血管内で起こると、遊離ヘモグロビンがハプトグロビンの結合能を超えて血中に増え、糸球体でろ過されてヘモグロビン尿となる。このヘモグロビンが試験紙の潜血反応を陽性にする一方、尿中に赤血球そのものはほとんど出ないため、沈渣の赤血球は正常範囲にとどまる。本問の解離所見に合致する。なお、温式AIHAでは主に脾臓などでの血管外溶血が中心だが、急激な溶血発作ではヘモグロビン尿を来しうる。寒冷凝集素症や発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)など補体が関与する冷式AIHAでは、血管内溶血によるヘモグロビン尿がより典型的である。

  5. ×e.  膜性増殖性糸球体腎炎

    膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は、メサンギウム細胞の増殖と糸球体基底膜の二重化(二重化像)を特徴とする糸球体腎炎で、低補体血症を伴うことが多い。糸球体の炎症で毛細血管壁が傷み、赤血球が尿中へ漏れ出るため、蛋白尿に加えて血尿を来し、沈渣でも赤血球が増加する。糸球体由来の血尿では、変形赤血球や赤血球円柱が見られるのが特徴である。

血尿・ヘモグロビン尿・ミオグロビン尿の鑑別

・血尿:尿路への出血。潜血陽性、沈渣で赤血球増加(5個以上/HPF)。遠心分離すると赤血球が沈み、上清は透明になる。 ・ヘモグロビン尿:血管内溶血。潜血陽性、沈渣の赤血球は増えない。遠心後も上清が赤色のまま。血清も赤色を帯び、ハプトグロビン低下、LD上昇、間接ビリルビン上昇を伴う。 ・ミオグロビン尿:横紋筋融解症など。潜血陽性、沈渣の赤血球は増えない。遠心後も上清は赤褐色だが、ミオグロビンは分子量が小さく速やかに尿へ排泄されるため血清は着色しにくい。CK(クレアチンキナーゼ)の著明な上昇を伴う。

ヘモグロビン尿を来す主な疾患

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、冷式AIHA(寒冷凝集素症、PCH)、温式AIHAの急性溶血発作、不適合輸血、行軍ヘモグロビン尿症、播種性血管内凝固や血栓性微小血管症に伴う破砕赤血球症候群、G6PD欠損症の溶血発作、重症マラリアなど。

血尿の由来の見分け方

・糸球体性血尿:変形赤血球(大きさ・形が不揃い)、赤血球円柱、蛋白尿を伴うことが多い。 ・非糸球体性血尿(腎盂・尿管・膀胱・尿道など):均一な形の赤血球。凝血塊を伴うことがある。

試験紙潜血反応の偽陽性・偽陰性

偽陽性:ミオグロビン尿、ヘモグロビン尿、次亜塩素酸などの酸化剤の混入。 偽陰性:アスコルビン酸(ビタミンC)など還元物質の大量摂取。

POINT

・尿潜血反応はヘムのペルオキシダーゼ様活性をみる検査で、赤血球だけでなくヘモグロビン・ミオグロビンにも反応する。 ・血尿は沈渣で赤血球5個以上/HPF。 ・潜血陽性で沈渣赤血球が正常なら、ヘモグロビン尿(血管内溶血)かミオグロビン尿(横紋筋融解症)を考える。 ・腎梗塞、膀胱癌、尿路結石、糸球体腎炎は尿路への出血で、沈渣の赤血球も増える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。