胃カメラはなぜ「左を下」に寝るのか―体位に隠れた誤嚥防止と解剖のロジック
第119回医師国家試験 B問題 第15問
国試問題にチャレンジ
消化管位置異常のない患者で上部内視鏡検査を開始する際にとらせる体位はどれか。
- a.右側臥位
- b.起座位
- c.仰臥位
- d.砕石位
- e.左側臥位
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
上部消化管内視鏡検査は、消化管の位置異常がなければ左側臥位で開始するのが標準です。左側臥位では胃底部から大弯側が下になって胃内容がそこにたまり、噴門が上方に位置するため逆流しにくく、口の左側から唾液が流れ出るので誤嚥も防げます。内視鏡操作もこの体位を前提に標準化されており、鎮静下でも仰臥位より気道を保ちやすい利点があります。一方、仰臥位は誤嚥や舌根沈下の危険が高く、起座位は呼吸困難時の姿勢、砕石位は婦人科・泌尿器科・肛門疾患の診療で用いる体位です。大腸内視鏡も左側臥位で開始し、ERCPは腹臥位で行うことが多いなど、体位の理由を解剖と安全管理から理解しておくことが、実際の検査介助や患者説明にも役立ちます。
解答・解説
正解はeです
問われていること
上部消化管内視鏡検査(食道・胃・十二指腸を観察する検査、いわゆる胃カメラ)を始めるときの標準的な体位を問う問題である。問題文の「消化管位置異常のない患者」とは、内臓逆位などで胃の位置が通常と左右逆になっていない、という意味であり、標準的な体位を答えればよい。
考え方
上部内視鏡検査は、患者を左側臥位(体の左側を下にして横になる姿勢)にして行うのが標準である。理由は主に次の3点に整理できる。 1. 誤嚥・逆流の防止:胃は腹腔の左上に位置し、食道から胃への入口(噴門)は胃の右上(小弯側)にある。左側臥位では胃底部から大弯側が下になり、胃内の液体や送気後の内容物はそこにたまる。噴門はその上方に位置するため、胃内容が食道へ逆流しにくい。また口の左側が下になるので、唾液や逆流物が口角から外へ流れ出やすく、気道へ入りにくい。 2. 挿入と観察の行いやすさ:内視鏡の操作や画像の向きは左側臥位を前提に標準化されており、咽頭から食道、胃、十二指腸へとスムーズに挿入でき、胃内の位置関係も把握しやすい。 3. 安全管理:鎮静薬を用いた検査では、舌根沈下や分泌物による気道閉塞が起こりうる。側臥位は仰臥位に比べて気道が保たれやすく、分泌物も排出されやすい。 なお検査中は、観察部位に応じて体位を少し変えることもあるが、開始時は左側臥位が原則である。
選択肢考察
- ×a. 右側臥位
上部内視鏡検査の開始体位としては用いない。右側臥位では胃と噴門の上下関係が左側臥位と逆転し、胃内の液体が噴門側・幽門側へ移動して、嘔吐反射が起きた際に食道への逆流を招きやすい。さらに内視鏡の操作や画面上の位置関係は左側臥位を基準にしているため、挿入や観察もしにくくなる。内臓逆位などの位置異常がある場合には、体位を工夫することがある。
- ×b. 起座位
上部内視鏡検査の体位として不適切である。起座位は、心不全や気管支喘息の発作などで呼吸困難のある患者が、上半身を起こして前かがみになることで呼吸を楽にする姿勢である。座った姿勢では内視鏡の挿入・操作が難しく、嘔吐反射時の逆流物が気道に入りやすいうえ、鎮静下では姿勢を保てず転落の危険もある。
- ×c. 仰臥位
上部内視鏡検査の開始体位としては用いない。仰向けでは唾液や逆流した胃内容が咽頭の奥にたまりやすく、口から外へ出にくいため誤嚥の危険が高い。また鎮静下では舌根沈下による気道閉塞も起こりやすい。なお大腸内視鏡検査では、左側臥位で開始した後、スコープを進めやすくするために途中で仰臥位などへ体位変換することがある。
- ×d. 砕石位
上部内視鏡検査では用いない。砕石位は仰向けで股関節と膝関節を曲げて両下肢を開き挙上する体位で、膀胱鏡などの泌尿器科の検査・処置、内診や経腟分娩などの産婦人科診療、肛門・直腸の手術などに用いられる。
- ○e. 左側臥位
上部内視鏡検査を開始する標準体位であり、これが正解である。左側臥位では胃底部から大弯側が下になって胃内の液体がそこにたまり、噴門が上方に位置するため食道への逆流が起こりにくい。口の左側が下になるので唾液が口外へ流れ出やすく、誤嚥を防げる。内視鏡の操作体系もこの体位を前提としているため挿入・観察がしやすく、鎮静下でも気道を保ちやすい。通常は枕で頭の高さを整え、軽く顎を引かせ、マウスピースをくわえさせた状態で挿入する。
主な内視鏡検査と体位
・上部消化管内視鏡検査:左側臥位で行う。 ・大腸内視鏡検査:左側臥位で開始し、挿入状況に応じて仰臥位・右側臥位・腹臥位などへ体位変換する。 ・内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP:十二指腸乳頭から胆管・膵管に造影剤を入れる検査):腹臥位(またはそれに近い体位)で行うことが多い。鎮静下での長時間の処置となるため、逆流物が気道に入らず口から流れ出やすいことや、X線透視で胆管・膵管を描出しやすいことが理由である。
上部内視鏡検査の前処置と注意点
・検査前は絶食とし、胃内の食物残渣をなくしておく。 ・消泡剤(ジメチコン)や粘液除去剤で胃内の泡・粘液を除き、観察しやすくする。 ・咽頭麻酔(リドカイン)を行う。リドカインによるアレルギーや中毒に注意する。 ・必要に応じて消化管の動きを抑える鎮痙薬(ブチルスコポラミン臭化物、またはグルカゴン)を用いる。ブチルスコポラミンは抗コリン作用をもつため、緑内障(閉塞隅角)、前立腺肥大症、重い心疾患のある患者には注意し、グルカゴンは褐色細胞腫で禁忌である。 ・鎮静薬を使用した場合は、検査中・検査後にパルスオキシメータなどで呼吸状態を監視し、当日の自動車運転は避けさせる。
POINT
・上部消化管内視鏡検査は左側臥位で開始するのが標準である。 ・左側臥位では胃内容が胃底部・大弯側にたまり、噴門が上になるため逆流・誤嚥が起こりにくい。 ・唾液が口外に出やすく、鎮静下でも気道を保ちやすい。 ・大腸内視鏡も左側臥位で開始し、ERCPは腹臥位で行うことが多い。
