「何時何分」と言える頭痛―くも膜下出血を疑ったら、まず頭部単純CT
第118回医師国家試験 E問題 第42問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,41,42の問いに答えよ。 48歳の女性。突然の頭痛のため救急車で搬入された。 現病歴:今夜8時,食事中に突然激しい頭痛と嘔吐をきたし,同居の夫が異変に気付き救急車を要請した。 既往歴:健康診断で高血圧を指摘されていたが,そのままにしていた。 生活歴:夫と2人暮らし。喫煙は20歳から10本/日。飲酒は機会飲酒。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:意識はややぐったりしている。自発開眼はなく,呼びかけで開眼する。痛み刺激でうなり声をあげるが,発語はない。痛み刺激で両上下肢は刺激部位を払いのける動作を示す。身長150cm,体重70kg。体温36.4℃。心拍数120/分,整。血圧200/106mmHg。呼吸数18/分。SpO2 100%(リザーバー付マスク10L/分酸素投与下)。瞳孔径は右5.0mm,左5.0mm。対光反射は両側緩慢である。頸静脈の怒張を認めない。甲状腺や頸部リンパ節は触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。下腿に浮腫を認めない。 検査所見:簡易血糖測定器で血糖は128mg/dLであった。
まず行う検査はどれか。
- a.脳波検査
- b.頭部単純CT
- c.脳脊髄液検査
- d.頭部単純MRI
- e.脳シングルフォトンエミッションCT〈SPECT〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
発症の瞬間を特定できるほど突然の激しい頭痛に嘔吐や意識障害を伴う場合は、まずくも膜下出血を疑い、第一に頭部単純CTを行います。CTは短時間で撮像でき、急性期の出血が高吸収域として描出され、脳底槽(ペンタゴン)やシルビウス裂の高吸収域から診断でき、小脳出血などの脳内出血との区別も可能です。CTで所見がはっきりしないのに臨床的に強く疑う場合はMRI(FLAIR、T2*)を行い、それでも判断できない場合に髄液検査を検討しますが、髄液検査は再出血や脳ヘルニアの危険に注意が必要です。脳波やSPECTは出血の検出には役立ちません。検査と並行して鎮痛・鎮静・降圧による再出血予防を行うことが、くも膜下出血の予後を左右する初期対応の要です。
解答・解説
正解はbです
症例の整理
48歳の女性が、食事中に突然の激しい頭痛と嘔吐で発症した。未治療の高血圧、喫煙歴(20歳から10本/日)、肥満(BMI約31)という脳血管障害の危険因子を持つ。来院時の意識レベルはGCS E3 V2 M5(合計10)で、血圧200/106mmHg、心拍数120/分である。瞳孔は両側5.0mmで左右差はないが散大しており、対光反射は両側とも緩慢である。血糖は128mg/dLで低血糖による意識障害は否定的である。
診断の方向性
発症の瞬間を特定できる突然の激しい頭痛は、くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)を最初に疑うべき病歴である。嘔吐、急速な意識障害、著しい血圧上昇もSAHに合致する。両側瞳孔の散大と対光反射の鈍化は頭蓋内圧亢進や脳幹機能の低下を示唆し、重症であることを示している。鑑別として小脳出血などの脳内出血が重要であり、これらの区別も画像で行う。SAHは再出血すると予後が大きく悪化するため、否定されるまではSAHとして扱い、速やかに診断を確定させる必要がある。
設問の考え方
「まず行う検査」とは、急性の頭蓋内出血を短時間で、かつ高い感度で確認できる検査である。頭部単純CTは撮像が数分で終わり、救急の場で24時間実施しやすく、急性期の出血が高吸収域(白く写る)としてはっきり描出される。SAHでは脳底槽(鞍上槽周囲の五角形の部分、いわゆるペンタゴン)やシルビウス裂などに高吸収域がみられ、脳内出血との区別も可能である。本例のように意識障害があり全身状態が不安定な患者では、検査時間が短いことも大きな利点となる。 なお検査と並行して、再出血予防のための鎮痛・鎮静と降圧、気道・呼吸・循環の管理を行う。
選択肢考察
- ×a. 脳波検査
脳波検査は、てんかん、特にけいれんを伴わずに意識障害だけが続く非けいれん性てんかん重積状態の診断や、代謝性脳症などの評価に役立つ。しかし出血の有無や部位はわからず、SAHや脳内出血の診断には使えない。突然の頭痛と意識障害の初期評価としてまず行う検査ではない。
- ○b. 頭部単純CT
急性期の頭蓋内出血は単純CTで高吸収域として明瞭に描出され、SAHではくも膜下腔(脳底槽やシルビウス裂など)の高吸収域として確認できる。撮像時間が短く緊急時にもすぐに実施でき、SAHと小脳出血などの脳内出血の区別もつけられる。突然発症の頭痛と意識障害の患者に対し、第一に行うべき検査である。
- ×c. 脳脊髄液検査
腰椎穿刺による脳脊髄液検査は、髄膜炎や脳炎などの診断に用いられる。SAHについては、臨床的に強く疑われるのにCTで出血がはっきりしない場合に、血性髄液やキサントクロミー(髄液の黄色調変化)を確認する目的で行われてきた。ただし現在はそのような場合にもまずMRIで確認することが多い。さらに、穿刺の刺激や疼痛による再出血の誘発、頭蓋内圧亢進例での脳ヘルニアの危険があり、意識障害と瞳孔異常を伴う本例で最初に行う検査ではない。
- ×d. 頭部単純MRI
MRIはFLAIR像でくも膜下腔の病変を、T2*強調像で出血をよく検出でき、SAHが疑われるのにCTで所見が得られない場合には有用な次の手段である。脳梗塞や脳腫瘍の評価にも優れる。しかし撮像に時間がかかり、体動のある患者や全身状態が不安定な意識障害患者では検査中の監視や処置が難しいため、救急の初期検査としてはCTが優先される。
- ×e. 脳シングルフォトンエミッションCT〈SPECT〉
SPECTは放射性医薬品を用いて脳血流の分布を評価する核医学検査であり、認知症の病型の鑑別や、脳血管障害における血流低下域の評価などに用いられる。くも膜下腔の出血そのものを検出することはできず、準備や撮像にも時間を要するため、急性期の初期検査にはならない。
くも膜下出血(SAH)の診断の流れ
1. 突然の激しい頭痛などからSAHを疑う。 2. まず頭部単純CTを行う。発症早期ほど検出感度が高く、日が経つと血液が吸収されて検出しにくくなる。 3. CTで所見がはっきりしないがSAHが強く疑われる場合は、MRI(FLAIR、T2*)で確認する。それでも判断できない場合に腰椎穿刺による髄液検査(血性髄液、キサントクロミー)を検討する。 4. SAHと診断したら、CTアンギオグラフィ(CTA)、MRアンギオグラフィ(MRA)、脳血管造影などで出血源の脳動脈瘤を検索する。
初期対応
発症早期は再出血の危険が最も高い。暗く静かな環境での安静、十分な鎮痛・鎮静、降圧(収縮期血圧をおおむね160mmHg未満に下げることが目安とされる)を行う。そのうえで、破裂脳動脈瘤に対して開頭によるクリッピング術や血管内治療によるコイル塞栓術を行い、再出血を防ぐ。発症後数日から2週間ごろには脳血管攣縮による遅発性脳虚血が起こりうるほか、水頭症の合併にも注意する。
鑑別疾患
・小脳出血:突然の頭痛、嘔吐、めまい、起立・歩行障害で発症し、SAHと臨床像が似る。CTで区別できる。 ・可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome:RCVS):雷鳴頭痛(数秒〜1分以内に痛みが最大となる激しい頭痛)を繰り返し、脳動脈に分節状の狭窄がみられる。SAHが否定された雷鳴頭痛ではMRAなどでの評価が役立つ。
POINT
・突然発症の激しい頭痛ではまずくも膜下出血を疑い、第一に頭部単純CTを行う。 ・急性期の出血はCTで高吸収域となり、SAHでは脳底槽やシルビウス裂などにみられる。 ・CTで所見がなくSAHが疑われる場合はMRI(FLAIR、T2*)、さらに必要なら髄液検査を検討する。 ・初期対応では再出血予防(鎮痛・鎮静・降圧)が重要である。
