閉経後出血と肥満が示す子宮体癌―治療の第一歩はなぜ「手術」なのか
第114回医師国家試験 D問題 第64問
国試問題にチャレンジ
57歳の女性。不正性器出血を主訴に来院した。54歳で閉経した。6か月前から性器出血が出現し,1か月前から持続するようになった。自宅近くの診療所で子宮内膜生検により子宮体癌〈子宮内膜癌〉と診断された。身長155cm,体重80kg。血液検査では軽度の貧血以外の異常を認めない。画像検査では子宮外への進展や転移を認めない。骨盤単純MRIのT2強調矢状断像を別に示す。 この患者に行う治療として適切なのはどれか。

- a.外科的切除
- b.放射線照射
- c.殺細胞性薬投与
- d.分子標的薬投与
- e.ホルモン薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
閉経後の不正性器出血に肥満を伴う場合は、エストロゲンの持続刺激を背景とする子宮体癌を疑い、経腟超音波と子宮内膜の細胞診・組織診で診断します。子宮体癌の初回治療は、子宮外進展がなく手術可能であれば外科的切除が第一選択で、子宮全摘出術と両側付属器摘出術を基本に、再発リスクに応じてリンパ節郭清を加えます。手術は治療であると同時に手術進行期分類のための情報を得る手段でもあり、術後の病理所見に基づいて化学療法や放射線療法の追加を判断します。根治的放射線療法は手術不能例、化学療法や分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬は術後補助療法や進行・再発例、黄体ホルモン療法は妊孕性温存を望む若年の早期例などに限られます。放射線が主役となる子宮頸癌との違いを意識しておくと、婦人科腫瘍の治療方針を整理して理解できます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・57歳の女性。54歳で閉経しており、閉経後の性器出血が6か月前から出現し、1か月前から持続している。 ・子宮内膜生検で子宮体癌(子宮内膜癌)と組織学的に診断されている。 ・身長155cm、体重80kgで、BMI(体格指数)は 80÷1.55²≒33.3 であり、日本肥満学会の分類で肥満2度(BMI 30以上35未満)に該当する。 ・血液検査では軽度貧血(出血によるもの)のみで、手術を妨げる臓器障害は示されていない。 ・画像検査では子宮外への進展や遠隔転移はない。 ・MRI T2強調矢状断像では子宮内腔に腫瘤性病変を認め、病変は子宮体部にとどまっている。
診断と病期の考え方
閉経後の不正性器出血は子宮体癌の代表的な症状であり、肥満は子宮体癌の重要な危険因子である。脂肪組織ではアロマターゼによってアンドロゲンからエストロゲンが作られるため、黄体ホルモン(プロゲステロン)の拮抗を受けないエストロゲン刺激が子宮内膜に持続する。本例は組織診で診断が確定しており、画像上は子宮に限局した病変であるため、臨床的にはI期相当と推定される。
治療方針の考え方
子宮体癌の初回治療は、手術が第一選択である。手術には、癌を取り除く治療としての役割と、摘出標本の病理所見(筋層浸潤の深さ、頸部間質浸潤、組織型・分化度、脈管侵襲、リンパ節転移、付属器転移など)から正確な進行期を決める手術進行期分類の役割がある。標準術式は子宮全摘出術+両側付属器(卵巣・卵管)摘出術を基本とし、再発リスクに応じて骨盤・傍大動脈リンパ節郭清(または生検)を加える。早期例では腹腔鏡下手術やロボット支援手術も選択される。 術後は病理所見から再発リスク(低・中・高)を評価し、中〜高リスクであれば化学療法や放射線療法などの術後補助療法を検討する。本例は肥満(肥満2度)があるが、手術を不可能とする合併症の記載はなく、子宮に限局した手術可能な病変であるため、外科的切除を行う。
選択肢考察
- ○a. 外科的切除
子宮体癌は手術による根治が期待できる病期が多く、子宮外進展のない手術可能例では外科的切除(子宮全摘出術+両側付属器摘出術を基本とし、必要に応じてリンパ節郭清を加える)が第一選択となる。手術は治療であると同時に、手術進行期を確定し、術後補助療法の要否を決めるための情報を得る役割をもつ。本例は画像上子宮に限局しており、手術を妨げる合併症の記載もないため、手術を行うのが適切である。
- ×b. 放射線照射
子宮体癌は、主に扁平上皮癌である子宮頸癌に比べて放射線療法の根治治療としての位置づけが小さい。高齢、重い心肺疾患などの合併症のため手術ができない場合に、根治的放射線療法(腔内照射+外部照射)が選択される。また術後の再発リスクが高い例で、補助療法として行われることもある。本例は手術可能であり、初回治療として放射線照射を選ぶ理由はない。
- ×c. 殺細胞性薬投与
殺細胞性抗癌薬による化学療法(パクリタキセル+カルボプラチン、ドキソルビシン+シスプラチンなど)は、術後に再発中〜高リスクと判定された例の補助療法や、進行・再発例に対して行われる。子宮に限局した手術可能な子宮体癌に対して、手術の代わりに初回治療として行うものではない。
- ×d. 分子標的薬投与
子宮体癌では、進行・再発例に対して、免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブなど)とマルチキナーゼ阻害薬レンバチニブの併用や、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用などが用いられるようになった。しかしこれらは進行・再発例の薬物療法であり、手術可能な早期例の初回治療として行うものではない。
- ×e. ホルモン薬投与
黄体ホルモン療法(高用量メドロキシプロゲステロン酢酸エステル:MPA)は、妊孕性温存を強く希望する若年女性で、子宮内膜に限局した類内膜癌G1(高分化型)相当や子宮内膜異型増殖症の場合に限って選択される。また、ホルモン受容体陽性の進行・再発例にも用いられることがある。本例は閉経後で妊孕性温存の必要がなく、手術可能であるため適応とならない。なお、MPAは血栓症のリスクを高めるため、肥満例では特に注意を要する。
子宮体癌の概要
・好発年齢は50〜60歳代で、閉経前後に多い。近年、日本での罹患数は増えている。 ・症状:不正性器出血(特に閉経後出血)が最も多い。 ・危険因子(エストロゲン依存性の要因):肥満、未産、早い初経・遅い閉経、糖尿病、高血圧、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、エストロゲン単独のホルモン補充療法、タモキシフェン内服、Lynch症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌)など。 ・病型:エストロゲン依存性で子宮内膜異型増殖症を経て発生し、類内膜癌(高分化型)が多く予後が比較的良いタイプ(I型)と、エストロゲン非依存性で萎縮した内膜から生じ、漿液性癌・明細胞癌などが多く予後が不良なタイプ(II型)に大別される。近年は、POLE変異・ミスマッチ修復欠損(dMMR)・p53異常などの分子分類も、予後予測や治療選択に用いられるようになっている。
診断
・経腟超音波検査で子宮内膜の肥厚を評価し、子宮内膜細胞診・内膜組織診(生検や子宮内膜全面掻爬)で確定する。 ・MRIで筋層浸潤の深さや頸部浸潤を評価し、CTでリンパ節転移や遠隔転移を評価する。 ・進行期は手術所見と摘出標本の病理所見に基づいて決める(手術進行期分類)。
治療の原則
・手術可能例:子宮全摘出術+両側付属器摘出術+(再発リスクに応じて)骨盤・傍大動脈リンパ節郭清。 ・術後:再発リスク分類に応じて、化学療法や放射線療法を追加する。 ・手術不能例:放射線療法、化学療法。 ・進行・再発例:化学療法、免疫チェックポイント阻害薬・分子標的薬、黄体ホルモン療法など。 ・妊孕性温存:若年で、子宮内膜に限局した類内膜癌G1相当や子宮内膜異型増殖症であれば、高用量MPA療法と子宮内膜全面掻爬を組み合わせて行う。
子宮頸癌との対比
子宮頸癌は放射線感受性の高い扁平上皮癌が多く、進行例でも同時化学放射線療法で根治が狙える。一方、子宮体癌は腺癌が主体で、治療の中心は手術である。
POINT
・閉経後の不正性器出血+肥満では子宮体癌を疑う。 ・子宮体癌の初回治療は手術(子宮全摘出術+両側付属器摘出術±リンパ節郭清)が第一選択で、手術進行期分類により進行期を決める。 ・術後の再発リスクに応じて化学療法・放射線療法を追加する。 ・放射線療法は合併症などで手術できない例に行う。 ・黄体ホルモン療法(MPA)は、妊孕性温存を希望する若年者の子宮内膜限局・類内膜癌G1相当、または進行・再発例に用いる。
