「飲めない」を責めない医療―服薬アドヒアランスは理解の確認から始まる
第117回医師国家試験 E問題 第21問
国試問題にチャレンジ
患者の服薬アドヒアランスを向上するための医師の行動として適切なのはどれか。
- a.処方日数を長くする。
- b.薬の飲み忘れを叱責する。
- c.副作用の説明を省略する。
- d.内服回数を可能な限り分割する。
- e.疾病や治療についての患者の理解を確認する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
服薬アドヒアランスとは、患者が病気と治療を理解・納得したうえで主体的に治療に参加し服薬を続けることで、指示に従うだけの受動的なコンプライアンスとは区別されます。向上の基本は、疾病や治療に対する患者の理解を確認し、ティーチバックなどで誤解や不安を補うことです。飲み忘れの叱責や副作用説明の省略は自己申告の減少や自己中断を招き、服用回数の分割は飲み忘れを増やすため、むしろ処方の簡素化が望まれます。長期処方も服薬状況を確認する機会を減らすため、アドヒアランス向上策にはなりません。WHOの5要因や多職種連携、ポリファーマシーの見直しまで視野に入れることが、慢性疾患診療の質を高める土台になります。
解答・解説
正解はeです
服薬アドヒアランス(adherence)とは、患者が自分の病気と治療方針を理解し、納得したうえで、主体的に治療に参加して服薬を続けることをいう。かつて用いられたコンプライアンス(compliance:服薬遵守)は「医師の指示に患者が従う」という一方向の考え方であり、守れないことは患者側の問題とみなされがちであった。現在は、医療者と患者が協働して治療を決め、続けていくアドヒアランスの考え方が重視されている。 アドヒアランスが低下すると、治療効果が得られないだけでなく、効果不十分と誤認されて不要な増量・追加処方が行われたり、病状の悪化・入院が増えたりする。WHO(世界保健機関)は、アドヒアランスに影響する要因として、患者要因、疾患要因、治療要因、医療者・医療システム要因、社会経済的要因の5つを挙げている。 医師がアドヒアランスを高めるためにできることは、大きく次の2つに整理できる。 ・患者側の理解と納得を深めること: 病気・治療の目的・期待される効果・起こりうる副作用と対処法を説明し、患者が理解しているかを確認する。患者の考えや生活状況、不安を聴き取り、一緒に治療方針を決める(共同意思決定)。 ・服薬そのものを続けやすくすること: 服用回数を減らす、薬剤数を減らす(配合剤の活用)、一包化するなど、処方を簡素化する。 この観点から各選択肢をみると、患者の理解を確認する行動(e)が適切であり、それ以外はアドヒアランスを損なう行動である。
選択肢考察
- ×a. 処方日数を長くする。
不適切。処方日数を長くすると受診間隔が延び、医師が服薬状況や副作用の有無、残薬を確認する機会が減る。患者が疑問や不安を相談する機会も少なくなり、自己判断での中断や飲み忘れに気付きにくくなるため、アドヒアランスの向上にはつながらない。症状が安定し服薬が確実な患者では通院負担の軽減のため長期処方が行われることもあるが、アドヒアランス向上を目的とする行動ではない。
- ×b. 薬の飲み忘れを叱責する。
不適切。叱責すると患者は叱られることを恐れ、飲み忘れや自己中断を正直に申告しなくなる。その結果、医師は実際の服薬状況を把握できず、効果不十分と誤認して増量するなど不適切な判断につながりうる。また医師患者関係が損なわれ、患者が主体的に治療に参加する姿勢も育たない。飲み忘れがあれば責めずに受け止め、その理由(生活リズムに合わない、副作用が気になる、必要性を感じていないなど)を一緒に探り、対策を考えることが望ましい。
- ×c. 副作用の説明を省略する。
不適切。副作用について事前に説明しておかないと、患者は予期しない症状が出たときに不安になり、自己判断で服薬を中止してしまうことがある。起こりうる副作用、その頻度や経過(一時的なものか)、出現したときの対処法や連絡方法をあらかじめ伝えておくことで、患者は落ち着いて対応でき、服薬を続けやすくなる。副作用の説明はインフォームド・コンセントの観点からも省略してはならない。
- ×d. 内服回数を可能な限り分割する。
不適切。1日の服用回数が増えるほど、飲み忘れが起こりやすくなり、アドヒアランスは低下する。特に昼の服用は仕事や外出で忘れやすい。アドヒアランス向上のためには、1日1回製剤や徐放性製剤の使用、配合剤による錠数の削減、服用時点の統一、一包化などによって、服用回数と薬剤数をできるだけ減らし、処方を簡素化することが望ましい。
- ○e. 疾病や治療についての患者の理解を確認する。
適切。アドヒアランスの土台は、患者が自分の病気と治療の必要性を理解し、納得していることである。特に高血圧、脂質異常症、糖尿病など自覚症状に乏しい慢性疾患では、「症状がないから薬は不要」と考えて中断しやすい。説明したうえで、患者自身の言葉で説明し直してもらう(ティーチバック)などにより理解度を確かめ、誤解や不安があれば補うことで、患者は主体的に治療に取り組めるようになる。
コンプライアンスとアドヒアランスの違い
・コンプライアンス: 医師の指示に患者が従うこと(服薬遵守)。患者は受動的な立場であり、守れないのは患者の責任とされがちである ・アドヒアランス: 患者が治療方針の決定に参加し、理解・同意したうえで、主体的に治療を継続すること。守れない場合は、その原因を医療者と患者がともに考えて解決する
アドヒアランスに影響する5つの要因(WHO)
1. 患者要因: 病気・治療への理解や信念、認知機能、視力・手指機能など 2. 疾患要因: 無症状の慢性疾患、精神疾患、重症度など 3. 治療要因: 服用回数や薬剤数の多さ、副作用、治療期間の長さ、効果が実感しにくいこと 4. 医療者・医療システム要因: 医師患者関係、説明の不足、受診のしにくさ 5. 社会経済的要因: 薬剤費の負担、家族・社会的支援の有無
アドヒアランスを高める具体策
・病気と治療の目的、効果、副作用と対処法を、患者に合った言葉で説明し理解を確認する ・患者の生活スタイルや価値観を聴き、共同で治療方針を決める ・服用回数・薬剤数を減らす(1日1回製剤、配合剤、不要な薬の整理) ・一包化、お薬カレンダー、服薬アプリなど飲み忘れを防ぐ工夫を取り入れる ・家族や薬剤師、看護師など多職種と連携し、残薬確認や服薬指導を行う ・高齢者では多剤併用(ポリファーマシー)がアドヒアランス低下と有害事象の原因となるため、処方の見直しを行う
POINT
・アドヒアランスは、患者が理解・納得して主体的に治療に参加し、服薬を続けることである(受動的なコンプライアンスとの違いを押さえる) ・向上の基本は、疾病と治療に対する患者の理解を確認し、深めること ・服用回数や薬剤数は減らし、処方を簡素化する(分割は逆効果) ・副作用は事前に説明しておく(説明しないと自己中断の原因となる) ・飲み忘れは叱責せず、理由を聴いて一緒に対策を考える
