StudyMed医師国家試験

消えた乳幼児の髄膜炎―Hibと肺炎球菌ワクチンが変えた小児医療の風景

第117回医師国家試験 D問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第117回 D問題 第7問

定期予防接種の導入で小児における髄膜炎の発生頻度が著明に減少した感染症はどれか。2つ選べ。

  1. a.結核
  2. b.百日咳
  3. c.日本脳炎
  4. d.肺炎球菌感染症
  5. e.インフルエンザ桿菌感染症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は予防接種と疫学の問題だ。考えるべきは2点。その病原体が小児の髄膜炎の主要な原因かどうか、そして定期接種化によって髄膜炎が劇的に減ったことが示されているかどうか。まず、小児の細菌性髄膜炎の起炎菌を年齢別に挙げられるかな。
医学生医学生
新生児期はB群溶血性レンサ球菌と大腸菌、それにリステリアでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。では生後3か月以降の乳幼児ではどうだろう。
医学生医学生
小児科の講義で、インフルエンザ菌と肺炎球菌が二大起炎菌だと習いました。
ドクタードクター
正解。特に莢膜をもつインフルエンザ菌b型、いわゆるHibだ。日本ではワクチン導入前、乳幼児の細菌性髄膜炎のおよそ6割がHib、3割が肺炎球菌で、年間数百人規模で発症していた。致命率が高く、難聴やてんかん、発達障害といった後遺症も多い深刻な病気だったんだ。
医学生医学生
そのワクチンはいつ頃定期接種になったんですか。
ドクタードクター
Hibワクチンは2008年、小児用肺炎球菌ワクチンは2010年に国内で接種が始まり、公費助成を経て2013年4月にどちらも定期接種になった。その結果、Hib髄膜炎はほぼ消失し、肺炎球菌髄膜炎も大幅に減少した。だから正解はインフルエンザ桿菌感染症と肺炎球菌感染症の2つだ。
医学生医学生
肺炎球菌のほうは「ほぼゼロ」ではないんですね。
ドクタードクター
鋭いね。肺炎球菌には多くの血清型があって、ワクチンに含まれない血清型による感染が相対的に増える「血清型置換」が起きた。そのため含まれる血清型が7価から13価、さらに15価・20価へと拡大されてきたんだ。
医学生医学生
結核はどうでしょう。BCGは結核性髄膜炎を防ぐと習ったので迷いました。
ドクタードクター
BCGが乳幼児の結核性髄膜炎や粟粒結核といった重症結核を防ぐのは事実だ。ただ日本では1950年代から長く接種されていて、近年の定期接種導入で小児の髄膜炎が劇的に減ったという関係にはない。しかも今の結核性髄膜炎は主に高齢者や免疫が低下した成人の病気で、小児髄膜炎の主要な原因ではないんだ。
医学生医学生
百日咳も定期接種ですが、髄膜炎とはあまり結びつかない気がします。
ドクタードクター
その感覚で合っている。百日咳は気道感染症で、痙咳発作と吸気時の笛声が特徴だ。乳児では無呼吸や肺炎、脳症が問題になるけれど、髄膜炎の原因になることはまれ。ワクチンで百日咳自体は減ったけれど、髄膜炎の減少とは別の話だね。
医学生医学生
日本脳炎は中枢神経の感染症なので、一番引っかかりそうです。
ドクタードクター
名前の通り主な病型は脳炎で、髄膜炎として問題になる疾患ではない。コガタアカイエカが媒介するウイルス感染症で、致命率が高く後遺症も多いけれど、国内の患者は年間数人程度で、むしろ高齢者が中心だ。小児髄膜炎の著明な減少という条件にはあてはまらない。
医学生医学生
主要な起炎菌であることと、最近の定期接種化で劇的に減ったこと、両方を満たすのがHibと肺炎球菌だけということですね。
ドクタードクター
その通り。ここで発展知識として、なぜこの2つのワクチンが乳児でも効くのかを考えてみよう。莢膜多糖体はT細胞非依存性抗原なので、そのままだと2歳未満では十分な抗体ができず、免疫記憶も残りにくい。
医学生医学生
免疫学で習った、多糖体に蛋白をくっつける結合型ワクチンの話ですね。
ドクタードクター
そう。多糖体に破傷風トキソイドなどの担体蛋白を結合させるとT細胞依存性の応答を引き出せて、乳児でも抗体産生と免疫記憶が得られる。さらに鼻咽頭の保菌が減ることで、接種していない人も間接的に守られる集団免疫効果もある。現在Hibワクチンは、ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオと合わせた5種混合ワクチンとして接種されているよ。
医学生医学生
臨床実習で、小児科の先生が「最近は細菌性髄膜炎をほとんど見なくなった」と話していたのは、このおかげなんですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。ただ、ゼロになったわけではないから、発熱と項部硬直や意識障害をみたら髄膜炎を疑う姿勢は変わらない。接種歴の確認も大切だ。それから、髄膜炎菌ワクチンは日本では任意接種で、寮生活者や補体欠損症の人、エクリズマブなどの補体阻害薬を使う人に推奨される。ムンプスによる無菌性髄膜炎も任意接種のワクチンで予防できる。インフルエンザ菌はインフルエンザウイルスとは全く別の細菌だという点も、改めて押さえておこう。

まとめ

生後3か月以降の乳幼児における細菌性髄膜炎の二大起炎菌はインフルエンザ菌b型(Hib)と肺炎球菌で、ワクチン導入前は乳幼児の細菌性髄膜炎の大半を占めていました。両ワクチンが2013年4月に定期接種化されると、Hib髄膜炎はほぼ消失し、肺炎球菌髄膜炎も大幅に減少しましたが、肺炎球菌では血清型置換が課題として残り、ワクチンの価数拡大が続いています。両者は莢膜多糖体に担体蛋白を結合させた結合型ワクチンで、T細胞依存性の応答により乳児でも有効であり、集団免疫効果ももたらします。一方、BCGは長年接種されてきたもので近年の髄膜炎激減とは結びつかず、百日咳や日本脳炎は髄膜炎の主要な原因ではありません。起炎菌の年齢別分布とワクチンの歴史を結びつけて理解することは、公衆衛生の理解だけでなく、発熱した乳幼児を診る際の判断にも直結します。

解答・解説

正解はd, eです

本問は、小児の細菌性髄膜炎の主要な起炎菌と、それに対するワクチンが定期接種化されたことによる疫学の変化を問う問題である。

小児の細菌性髄膜炎の起炎菌

細菌性髄膜炎の起炎菌は年齢によって異なる。 ・新生児~生後3か月頃:B群溶血性レンサ球菌(GBS)、大腸菌、(まれに)リステリア ・生後3か月以降の乳幼児:インフルエンザ菌b型(Hib)と肺炎球菌が二大起炎菌 日本ではワクチン導入前、乳幼児の細菌性髄膜炎の大半(約6割がHib、約3割が肺炎球菌)をこの2菌が占め、年間数百人規模の発症があった。致命率や難聴・てんかん・発達障害などの後遺症の頻度も高く、深刻な問題であった。

ワクチン導入の経緯

Hibワクチンは2008年、小児用肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は2010年に国内で接種が始まり、2010~2011年度の公費助成を経て、2013年4月に両者とも定期接種となった。その結果、Hib髄膜炎はほぼ消失し、肺炎球菌髄膜炎も大幅に減少した。

考え方

「定期接種の導入で小児の髄膜炎が著明に減った」という条件を満たすには、①その病原体が小児髄膜炎の主要な原因であり、②比較的最近の定期接種化によって髄膜炎が劇的に減少したことが疫学的に示されている必要がある。これに該当するのはインフルエンザ菌b型感染症と肺炎球菌感染症の2つである。

選択肢考察

  1. ×a.  結核

    誤り。BCGワクチンは生後1歳未満(標準的には生後5~8か月)に定期接種として行われ、乳幼児の結核性髄膜炎や粟粒結核といった重症結核を防ぐ効果がある。しかし日本ではBCGは1950年代から長く接種されており、近年の定期接種導入によって小児の髄膜炎が劇的に減少したという関係にはない。また、現在の結核性髄膜炎は主に高齢者や免疫が低下した成人に発症しており、小児の細菌性髄膜炎の主要な起炎菌でもない。本問の意図する「定期接種化による小児髄膜炎の著明な減少」には該当しない。

  2. ×b.  百日咳

    誤り。百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis)による気道感染症で、特徴的な痙咳発作(連続する咳込みと吸気時の笛声〈whoop〉)を呈し、乳児では無呼吸、肺炎、百日咳脳症を起こしうる。しかし髄膜炎の原因となることはまれである。百日咳ワクチンは定期接種(現在は5種混合ワクチン〈DPT-IPV-Hib〉に含まれる)で百日咳そのものは減少したが、髄膜炎の減少とは結びつかない。

  3. ×c.  日本脳炎

    誤り。日本脳炎はコガタアカイエカが媒介する日本脳炎ウイルスによる感染症で、主な病型は脳炎であり、髄膜炎として問題になる疾患ではない。発症すると致命率が高く、生存者の多くに神経学的後遺症が残る。日本ではワクチン接種や生活環境の変化により患者数は年間数人程度まで減少しているが、近年の患者はむしろ高齢者が中心であり、定期接種化による小児髄膜炎の著明な減少という本問の条件にはあてはまらない。

  4. ○d.  肺炎球菌感染症

    正しい。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は、Hibと並ぶ乳幼児の細菌性髄膜炎の二大起炎菌である。莢膜多糖体に蛋白を結合させた小児用肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)は、2歳未満の乳児でも十分な免疫応答を誘導できる。2013年4月に定期接種化されて以降、5歳未満の肺炎球菌髄膜炎は導入前と比べて大幅に減少した。ただし、ワクチンに含まれない血清型による感染の相対的増加(血清型置換)が起こったため減少はHibほど完全ではなく、このため含まれる血清型は7価(PCV7)から13価(PCV13)、さらに15価・20価へと拡大されてきた。

  5. ○e.  インフルエンザ桿菌感染症

    正しい。インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)のうち、莢膜をもつb型(Hib)は、ワクチン導入前の日本で乳幼児の細菌性髄膜炎の最も多い起炎菌であった。莢膜多糖体(PRP)に破傷風トキソイドなどの蛋白を結合させたHibワクチンは乳児でも有効で、2013年4月の定期接種化以降、5歳未満のHib髄膜炎はほぼゼロにまで激減した。同様の劇的な減少は、先行してワクチンを導入した欧米諸国でもすでに確認されていた。現在、Hibワクチンは5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)として接種されている。なお、インフルエンザ菌はインフルエンザウイルスとは全く別の細菌である。

結合型ワクチンの意義

莢膜多糖体だけのワクチンはT細胞非依存性抗原であるため、免疫系が未熟な2歳未満の乳幼児では十分な抗体ができず、免疫記憶も残りにくい。多糖体に担体蛋白を結合させた「結合型ワクチン」はT細胞依存性の応答を引き出すため、乳児でも有効な抗体産生と免疫記憶が得られる。さらに鼻咽頭の保菌を減らすことで、接種していない人も間接的に守られる(集団免疫効果)。Hibワクチン・小児用肺炎球菌ワクチンはいずれも結合型ワクチンである。

小児の主な定期予防接種(概要)

・Hib感染症、百日咳、ジフテリア、破傷風、ポリオ:5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib、2024年4月から) ・小児の肺炎球菌感染症:結合型ワクチン(PCV) ・B型肝炎、ロタウイルス感染症 ・結核:BCG ・麻疹・風疹:MRワクチン ・水痘 ・日本脳炎 ・ヒトパピローマウイルス感染症

細菌性髄膜炎の起炎菌(年齢別)

・新生児~3か月:GBS、大腸菌、リステリア ・3か月~小児:Hib、肺炎球菌(ワクチン普及後はいずれも大きく減少)、髄膜炎菌(日本ではまれ) ・成人:肺炎球菌、髄膜炎菌 ・高齢者・免疫不全者:肺炎球菌、リステリア、グラム陰性桿菌

ワクチンで防げる髄膜炎・中枢神経感染症

・Hib、肺炎球菌:小児の細菌性髄膜炎を大幅に減少させた。 ・髄膜炎菌:日本では任意接種(4価結合型ワクチン)。寮生活者、流行地への渡航者、補体欠損症の人、補体阻害薬(エクリズマブなど)を使用する人などに推奨される。 ・ムンプス:無菌性髄膜炎の原因となるが、日本では任意接種である。

POINT

・生後3か月以降の乳幼児の細菌性髄膜炎の二大起炎菌はHibと肺炎球菌である。 ・Hibワクチンと小児用肺炎球菌結合型ワクチンは2013年4月に定期接種化された。 ・定期接種化後、Hib髄膜炎はほぼゼロとなり、肺炎球菌髄膜炎も大幅に減少した(肺炎球菌では血清型置換の問題が残る)。 ・両ワクチンとも多糖体に蛋白を結合させた結合型ワクチンで、乳児でも有効である。 ・百日咳・日本脳炎は髄膜炎の主要な原因ではなく、結核性髄膜炎は現在主に成人・高齢者の疾患である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。