StudyMed医師国家試験

動く腸、動かない腸―間膜の有無で見分ける後腹膜臓器と十二指腸

第117回医師国家試験 C問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第117回 C問題 第11問

後腹膜に固定されている臓器はどれか。

  1. a.食道
  2. b.胃
  3. c.十二指腸
  4. d.空腸
  5. e.横行結腸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腹部の臓器が腹膜に対してどこにあるかを問う問題だ。ポイントは「間膜でつり下げられて動ける臓器」か、「後腹壁に貼りついて動かない臓器」か。まず腹膜そのもののイメージから整理しよう。
医学生医学生
解剖実習で腹腔を開けたとき、小腸はつまみ上げられたのに、十二指腸や膵臓は奥に張りついていて剖出が大変でした。
ドクタードクター
まさにその感覚が答えにつながるよ。腹膜は腹腔の内面を覆う漿膜で、腹壁を覆う壁側腹膜と臓器表面を覆う臓側腹膜がある。ほぼ全周を腹膜に包まれ、間膜で後腹壁からぶら下がっているのが腹膜内臓器。後腹壁の壁側腹膜より背側にあって、前面だけ腹膜に覆われているのが後腹膜臓器だ。
医学生医学生
後腹膜臓器というと腎臓や尿管のイメージが強くて、消化管は入らない気がしていました。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。腎臓、副腎、尿管、腹部大動脈、下大静脈は最初から腹膜の後ろで発生する一次性後腹膜臓器。一方、胎生期には間膜をもっていたのに、腸管の回転に伴ってその間膜が後腹壁の腹膜と癒合し、後から固定されたものを二次性後腹膜臓器という。十二指腸、膵臓、上行結腸、下行結腸がこれに当たる。
医学生医学生
発生学の講義で習った腸管の回転が、ここにつながるんですね。
ドクタードクター
そう。だから正解は十二指腸だ。十二指腸はC字状に膵頭部を取り囲み、膵臓と一緒に後腹壁に固定されている。ただし幽門に続く球部の最初の2〜3cmほどは腹膜に覆われていて動けるので、ここだけは例外として覚えておこう。終わりの部分はTreitz靱帯で固定され、そこから空腸に移る。
医学生医学生
空腸はTreitz靱帯から先なので、もう固定されていないということですか。
ドクタードクター
その通り。空腸と回腸は扇状の小腸間膜で後腹壁からつり下げられた腹膜内臓器だ。腸間膜の付け根はTreitz靱帯付近から右下の回盲部へ斜めに走るけれど、腸管そのものは腹腔内で大きく動ける。この移動性が腸重積や腸軸捻転の背景にもなるんだ。
医学生医学生
胃も手術動画で見るとかなり動いていました。大網や小網がついていますよね。
ドクタードクター
よく見ているね。胃は小彎側が小網で肝臓と、大彎側が大網で横行結腸などとつながる腹膜内臓器で、後腹壁には固定されていない。体位や内容物の量で位置も形も変わる。胃の背側には網嚢を隔てて膵臓があり、こちらは後腹膜臓器だ。
医学生医学生
横行結腸は大腸なので、上行結腸や下行結腸と同じく後腹膜だと思ってしまいそうです。
ドクタードクター
典型的なひっかけだね。大腸のうち上行結腸と下行結腸は後腹膜に固定されているが、横行結腸とS状結腸は間膜をもつ腹膜内臓器だ。横行結腸は移動性が大きく、立位では骨盤内まで垂れ下がることもある。S状結腸軸捻転が起こるのも、間膜があって動けるからだ。
医学生医学生
食道はどう考えればいいですか。腹部にも少しだけ出ていますよね。
ドクタードクター
食道は大部分が頸部と胸部の後縦隔にあって、食道裂孔を抜けた腹部食道は数cmしかない。腹部のごく一部を除いて漿膜をもたず外膜で覆われていて、そもそも「後腹膜に固定された臓器」という枠には入らない。漿膜がないことは、食道癌が周囲に浸潤しやすい理由の一つでもあるよ。
医学生医学生
間膜があれば動く腹膜内臓器、間膜が癒合して消えたら後腹膜臓器、という見分け方ですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。最後に臨床とのつながりを押さえよう。後腹膜臓器の病気は腹膜刺激症状が出にくく、背部痛として現れやすい。たとえば十二指腸の穿孔や外傷では、空気や消化液が腹腔ではなく後腹膜腔に漏れることがあり、所見が乏しいせいで診断が遅れやすいんだ。
医学生医学生
救急科の実習で、膵炎の患者さんが背中を丸めて痛がっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい結びつきだね。画像では後腹膜腔を腎筋膜で前腎傍腔・腎周囲腔・後腎傍腔に分けて考え、十二指腸や膵臓、上行・下行結腸は前腎傍腔にある。膵炎の炎症や十二指腸穿孔による液体やガスは主に前腎傍腔に広がるから、CTでどこに異常があるかを見ることが診断の手がかりになるよ。

まとめ

腹部臓器は、間膜でつり下げられ移動性のある腹膜内臓器と、後腹壁に固定され前面だけ腹膜に覆われる後腹膜臓器に分けられます。後腹膜臓器には腎臓・副腎・尿管・大血管などの一次性のものと、胎生期の間膜が後腹壁と癒合して固定された二次性のもの(球部を除く十二指腸、膵臓、上行結腸、下行結腸)があります。胃・空腸・回腸・横行結腸・S状結腸は間膜をもつ腹膜内臓器で、捻転や腸重積の素地となり、食道は大部分が縦隔内にあって漿膜をもちません。後腹膜臓器の疾患は腹膜刺激症状が乏しく背部痛として現れやすく、十二指腸穿孔では診断が遅れやすい点に注意が必要です。発生と間膜の有無から臓器の位置を理解しておくことは、腹部診察や画像診断、外科手術の理解の基盤になります。

解答・解説

正解はcです

テーマ

腹腔内の臓器が「腹膜内臓器(腹腔内臓器)」か「後腹膜臓器(腹膜後器官)」かを区別する問題である。 腹膜は腹腔の内面を裏打ちする漿膜で、腹壁を覆う壁側腹膜と、臓器表面を覆う臓側腹膜とがある。後腹壁を覆う壁側腹膜より背側の領域を後腹膜腔(腹膜後隙)という。 ・腹膜内臓器:ほぼ全周を臓側腹膜に包まれ、腸間膜や間膜(胃なら大網・小網、横行結腸なら横行結腸間膜)によって後腹壁などにつり下げられている臓器。間膜の長さの分だけ動くことができ、移動性がある。 ・後腹膜臓器:後腹壁の壁側腹膜の背側にあり、前面のみが腹膜に覆われる臓器。後腹壁に固定されており、ほとんど動かない。

発生からの理解

後腹膜臓器には、腎臓・副腎・尿管・腹部大動脈・下大静脈のように初めから腹膜の後ろで発生する「一次性後腹膜臓器」と、胎生期には間膜をもっていたが、腸管の回転に伴って間膜が後腹壁の腹膜と癒合し、後腹壁に固定された「二次性後腹膜臓器」とがある。十二指腸(球部を除く)、膵臓(膵尾部の一部を除く)、上行結腸、下行結腸は後者に当たる。

正解の導き方

選択肢のうち、後腹壁に固定されているのは十二指腸である。胃・空腸・横行結腸はいずれも間膜をもつ腹膜内臓器で移動性があり、食道は大部分が胸部の縦隔内にある臓器である。

選択肢考察

  1. ×a.  食道

    食道は咽頭から胃までをつなぐ管で、その大部分(頸部・胸部食道)は頸部および胸部の後縦隔に位置する。横隔膜の食道裂孔を通過したあとの腹部食道はわずか数cmにすぎない。食道は腹膜に包まれる臓器ではなく、腹部の短い部分を除いて漿膜をもたない(外膜で覆われる)。漿膜がないことは、食道癌が周囲臓器へ浸潤しやすい理由の一つでもある。後腹膜に固定された臓器には該当しない。

  2. ×b.  胃

    胃は腹膜内臓器である。小彎側は小網によって肝臓と、大彎側は大網によって横行結腸などとつながっており、胃自体は後腹壁に固定されていない。そのため体位や内容物の量によって位置や形が変わる。胃の後方には網嚢(小網・胃の背側にある腹膜腔の一部)を隔てて膵臓が位置する。

  3. ○c.  十二指腸

    十二指腸は全長約25cmで、球部(上部)・下行部・水平部・上行部に分けられ、C字状に膵頭部を取り囲む。胎生期には背側腸間膜をもつが、腸管の回転に伴ってこの腸間膜が後腹壁の腹膜と癒合し、膵臓とともに後腹壁に固定された二次性後腹膜臓器となる。ただし、幽門に続く球部(最初の2〜3cm程度)は腹膜に覆われていて移動性がある。上行部の終わりは十二指腸提筋(Treitz靱帯)によって固定され、ここで空腸に移行する。後腹膜に固定されているため、十二指腸の穿孔や外傷による損傷では、腹腔内ではなく後腹膜腔に空気や消化液が漏れることがあり、腹膜刺激症状が乏しく診断が遅れやすい。

  4. ×d.  空腸

    空腸は回腸とともに腸間膜小腸と呼ばれ、扇状に広がる小腸間膜によって後腹壁からつり下げられた腹膜内臓器である。小腸間膜の付着部(腸間膜根)はTreitz靱帯付近から右下の回盲部に向かって斜めに後腹壁を走るが、腸管そのものは固定されておらず、腹腔内で大きく動くことができる。この移動性は、腸重積や腸軸捻転などの発生にも関係する。

  5. ×e.  横行結腸

    横行結腸は横行結腸間膜によって後腹壁とつながる腹膜内臓器で、移動性が大きく、立位では骨盤内まで下垂することもある。大腸のうち、上行結腸と下行結腸は後腹膜に固定された二次性後腹膜臓器であるのに対し、横行結腸とS状結腸は間膜をもつ腹膜内臓器である。両者を混同しないよう注意する。

腹膜内臓器と後腹膜臓器の整理

・腹膜内臓器:胃、十二指腸球部、空腸、回腸、虫垂、盲腸(多くの場合)、横行結腸、S状結腸、肝臓、胆嚢、脾臓、卵巣・卵管など。 ・一次性後腹膜臓器:腎臓、副腎、尿管、腹部大動脈、下大静脈、交感神経幹など。 ・二次性後腹膜臓器:十二指腸(球部を除く)、膵臓(膵尾部の一部を除く)、上行結腸、下行結腸。 ・腹膜下臓器:膀胱、直腸の下部、子宮・前立腺など骨盤内臓器は、腹膜の下方に位置する。

後腹膜腔の区分

後腹膜腔は、腎周囲を包む腎筋膜(Gerota筋膜)を境に、画像診断上3つの腔に分けて考えられる。 ・前腎傍腔:後腹壁の壁側腹膜と前腎筋膜の間。十二指腸、膵臓、上行結腸、下行結腸が位置する。 ・腎周囲腔:前腎筋膜と後腎筋膜に囲まれた腔。腎臓、副腎、腎盂・尿管の近位部と周囲脂肪組織を含む。 ・後腎傍腔:後腎筋膜と横筋筋膜の間で、臓器はなく脂肪組織からなる。 腹部大動脈と下大静脈は正中部の後腹膜腔に位置する。 急性膵炎の炎症や十二指腸穿孔による液体・ガスは主に前腎傍腔に広がるなど、どの腔に病変があるかは画像診断で重要である。

臨床との関連

・後腹膜臓器の疾患(膵炎、腎疾患、後腹膜出血など)は、背部痛を生じやすく、腹膜刺激症状が出にくい。 ・腹膜内臓器は間膜による移動性があるため、捻転(S状結腸軸捻転、胃軸捻転など)や腸重積を起こしうる。

POINT

・後腹膜臓器は後腹壁に固定され移動性に乏しく、腹膜内臓器は間膜でつり下げられ移動性がある。 ・十二指腸は球部を除き後腹膜臓器(二次性)で、膵臓とともに後腹壁に固定される。 ・大腸:上行結腸・下行結腸は後腹膜臓器、横行結腸・S状結腸は腹膜内臓器。 ・胃(大網・小網)、空腸・回腸(小腸間膜)は腹膜内臓器。 ・食道は大部分が縦隔内にあり、漿膜をもたない。 ・一次性後腹膜臓器:腎臓、副腎、尿管、腹部大動脈、下大静脈。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。