意識が戻らないまま再びけいれん―てんかん重積状態で「まず止める」薬は何か
第117回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
36歳の男性。全身けいれんのため救急車で搬入された。来院時にはけいれんは消失していた。15歳からてんかんの既往があり,抗けいれん薬を処方されていたが,2か月前から服薬を自己中断していた。意識レベルはJCSⅡ-10。心拍数98/分,整。血圧140/90mmHg。呼吸数18/分。SpO2 98%(リザーバー付マスク10L/分酸素投与下)。静脈路を確保して,頭部CTを撮影する準備をしていたところ,全身けいれんを起こした。 この患者に直ちに静注すべき薬剤はどれか。
- a.モルヒネ
- b.ジアゼパム
- c.フロセミド
- d.アドレナリン
- e.グルコン酸カルシウム
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発作と発作の間に意識が回復しないまま全身けいれんを繰り返す状態はてんかん重積状態であり、原因検索よりもまず発作を止めることが最優先です。気道確保・酸素投与・静脈路確保と血糖測定を行ったうえで、第一選択としてジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬を静注し、呼吸抑制に備えて換気補助の準備をしておきます。止まらなければホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなどの第2段階に進み、難治例では挿管下に麻酔薬の持続静注と脳波モニタリングを行います。モルヒネ、フロセミド、アドレナリン、グルコン酸カルシウムはそれぞれ別の救急病態で用いる薬で、使い分けを整理しておくことが重要です。抗てんかん薬の自己中断は重積の代表的な誘因であり、急性期治療と並んで服薬指導による予防も臨床で欠かせない視点です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・36歳男性。15歳からてんかんと診断され、抗てんかん薬(抗けいれん薬)を処方されていたが、2か月前に自己判断で内服をやめていた。 ・全身けいれんで救急搬送。来院時にけいれんは止まっていたが、意識はJCS(Japan Coma Scale)Ⅱ-10(普通の呼びかけで容易に開眼する程度)で、清明には戻っていない。 ・心拍数98/分、血圧140/90mmHg、呼吸数18/分で、酸素投与下にSpO2は98%と保たれている。 ・静脈路を確保し、頭部CTの準備中に再び全身けいれんが出現した。
診断へのプロセス
てんかんの既往があり、抗てんかん薬の怠薬という明確な誘因があるため、今回のけいれんはてんかん発作と考えるのが最も自然である。重要なのは、最初の発作のあと意識が回復しないうちに次の全身けいれんが起きている点である。「発作が一定時間以上続く」か「発作と発作の間に意識が戻らないまま反復する」状態はてんかん重積状態(status epilepticus)と呼ばれ、本例は後者に当てはまる。 低血糖・電解質異常・頭蓋内病変・薬物中毒などもけいれんの原因となり、血糖測定や採血、頭部CTによる検索は必要である。しかし、けいれんが続いている時点で最優先されるのは、原因検索ではなく発作を一刻も早く止めることである。発作が長引くほど神経細胞の障害が進み、薬剤も効きにくくなるからである。
設問への考え方
気道確保・酸素投与・静脈路確保といった初期対応はすでに行われている。したがって、次に行うべきは抗けいれん作用を持つ薬剤を静脈内投与して発作を止めることであり、選択肢の中でこれに該当するのはベンゾジアゼピン系薬剤のジアゼパムだけである。他の4剤は、いずれも別の救急病態で使う薬剤である。
選択肢考察
- ×a. モルヒネ
オピオイド鎮痛薬である。急性心筋梗塞の激しい胸痛に対し、鎮痛や不安の軽減を目的に静注されることがあり、静脈系の拡張による前負荷軽減も期待される。抗けいれん作用はなく、呼吸抑制を起こすため、けいれん中の患者に使用する理由はない。
- ○b. ジアゼパム
ベンゾジアゼピン系薬剤で、GABA-A受容体に作用して抑制性の神経伝達を強め、速やかにけいれんを止める。静脈路があればジアゼパム静注は、てんかん重積状態に対して最初に用いる薬剤(第一選択薬)であり、効果が不十分なら追加投与もできる。呼吸抑制・血圧低下の副作用があるため、バッグバルブマスクや気管挿管の準備をしておくが、発作を止めることを優先する。
- ×c. フロセミド
ループ利尿薬で、急性心不全の肺うっ血など体液過剰の治療に用いる。けいれんを止める作用はない。
- ×d. アドレナリン
心停止では1mgを3〜5分ごとに静注し、アナフィラキシーでは0.3〜0.5mg(成人、0.01mg/kg)を大腿外側に筋注する。本例は脈拍・血圧が保たれており、アナフィラキシーを疑う所見もないため適応はない。
- ×e. グルコン酸カルシウム
低カルシウム血症によるテタニーやけいれんの治療に用いるほか、高カリウム血症で心筋の膜を安定させて致死的不整脈を防ぐ目的で静注する(カリウム値自体を下げる作用はない)。本例は低カルシウム血症を疑う根拠がなく、てんかんの既往と怠薬から説明できる発作であるため、まず投与すべき薬剤ではない。
てんかん重積状態の定義
・従来の定義(ILAE〈国際抗てんかん連盟〉1981年):発作がある程度の長さ以上続くか、短い発作でも反復してその間に意識が回復しないもの。 ・ILAE 2015年の定義では時間の目安が2つ示された。強直間代発作の場合、5分以上続けば自然に止まりにくいため治療を始めるべき時点(t1)、30分以上続くと長期的な神経障害が残りうる時点(t2)とされる。通常の発作は1〜2分程度で治まることが多い。
治療の流れ(てんかん診療ガイドライン2018などに基づく)
1. 初期対応:気道確保、酸素投与、モニター装着、静脈路確保。血糖を測定し、低血糖があればブドウ糖を投与する。アルコール多飲者や低栄養が疑われればブドウ糖投与前にビタミンB1を投与する。 2. 第1段階:ベンゾジアゼピン系薬剤。ジアゼパム静注、ロラゼパム静注、ミダゾラム(静注、静脈路がなければ筋注・頬粘膜投与)。静脈路が確保できないときはジアゼパム注腸も選択肢となる。 3. 第2段階(ベンゾジアゼピンで止まらない場合):ホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタム、ミダゾラム持続投与など。 4. 難治性てんかん重積状態:気管挿管・人工呼吸管理のもと、ミダゾラム、プロポフォール、チオペンタールなどの持続静注で全身麻酔を行い、持続脳波モニタリングを行う。
原因検索
抗てんかん薬の怠薬・血中濃度低下が最も多い誘因の一つである。そのほか、低血糖、低ナトリウム血症・低カルシウム血症、脳卒中・脳炎・頭部外傷、アルコール離脱、薬物中毒なども考える。発作を止めた後に、血液検査(血糖・電解質・抗てんかん薬血中濃度)、頭部CT/MRI、脳波などで評価する。
POINT
・発作間に意識が戻らないまま全身けいれんを繰り返す状態は、てんかん重積状態である。 ・けいれん持続中はまず発作を止めることを最優先とし、第一選択はジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤の静注である。 ・第二段階はホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなど。難治例は挿管下でミダゾラム・プロポフォールなどを持続静注する。 ・ベンゾジアゼピン投与時は呼吸抑制に備える。 ・抗てんかん薬の自己中断は重積の重要な誘因である。
