StudyMed医師国家試験

「全身の症状チェック」は家族の話ではない―医療面接の役割と病歴の構成要素を整理する

第116回医師国家試験 E問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第116回 E問題 第23問

医療面接について誤っているのはどれか。

  1. a.非言語的コミュニケーションは医療情報の収集に必要である。
  2. b.感情面に対応した応答は信頼関係の構築のために必要である。
  3. c.システムレビューを行うと家族歴についての情報が充実する。
  4. d.解釈モデルを把握して対応することによって患者満足度は高まる。
  5. e.患者教育が十分に行われると治療へのコンプライアンスが高まる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療面接について、誤っている記述を1つ選ぶ問題だ。医療面接には「情報を集める」「信頼関係を築く」「患者を教育し行動を支える」という3つの役割がある。選択肢がどの役割に関わる話で、言葉の使い方が正しいかを確認していこう。
医学生医学生
医療面接って、問診で病歴を聞くことだと思っていました。3つも役割があるんですね。
ドクタードクター
昔は「問診」と呼ばれていたけれど、今は病歴聴取だけでなく、患者との関係づくりや説明・教育まで含めて考えるんだ。まず非言語的コミュニケーションが情報収集に必要、という記述はどうかな。
医学生医学生
OSCEの医療面接で、「患者さんの表情もよく見て」と指導されました。言葉にしない不安が顔に出ることがあるので、正しいと思います。
ドクタードクター
その通り。表情、視線、姿勢、身振り、距離感などから、言葉にしにくい痛みやためらいを読み取れる。医師の側がうなずく、体を向けるといった態度を示すことで患者が話しやすくなり、結果として多くの情報が得られる。ちなみに正面に向き合うより斜め90度くらいの位置関係のほうが緊張を和らげやすいと言われているよ。
医学生医学生
感情面に対応した応答というのは、「それはおつらかったですね」のような返し方ですか。
ドクタードクター
そう、共感的な応答だね。患者の感情を言葉で受け止めると、理解してもらえたと感じてラポール、つまり信頼関係が築かれる。事実だけを淡々と聞き続けると、患者が心を閉ざして大事なことを話さなくなることもある。だからこの記述も正しい。
医学生医学生
解釈モデルも、行動科学の講義で聞いた気がします。患者さんが自分の病気をどう考えているか、でしたっけ。
ドクタードクター
そう。原因は何だと思うか、どのくらい重いと思うか、何が心配か、どんな検査や治療を望んでいるか、といった患者側の考えだ。例えば頭痛が続いて脳腫瘍を心配している人には、その不安に直接答える説明をしないと、医学的に正しい説明をしても満足が得られにくい。解釈モデルを把握して対応すれば患者満足度は高まるので、これも正しい。
医学生医学生
患者教育でコンプライアンスが高まる、というのも当たり前に思えます。
ドクタードクター
正しい記述だね。病気の性質や治療の目的、薬の副作用、中断した場合のリスクを理解してもらうと、治療を続けやすくなる。最近は指示を守るという意味のコンプライアンスより、患者が主体的に治療に参加するアドヒアランスという言葉が好まれるけれど、患者教育が大事なのは変わらない。
医学生医学生
となると残るのはシステムレビューですね。全身をくまなく聞くので、家族の病気も聞くのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴。システムレビュー、ROSは、全身状態、皮膚、頭頸部、呼吸器、循環器、消化器、泌尿生殖器、神経系など、臓器系統ごとに「患者本人の」症状の有無を網羅的に尋ねる手法だ。充実するのは本人の症状の情報であって、家族歴ではない。だからこれが誤りで、正解になる。
医学生医学生
家族歴は血縁者の病気や死因を聞く、別の項目なんですね。
ドクタードクター
そう。両親や兄弟姉妹、子どもの遺伝性疾患、悪性腫瘍、心血管疾患、糖尿病などを聞いて、遺伝や家族内集積の手がかりにする。病歴は主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活歴、システムレビューなどで構成されていて、それぞれ何を聞き出すための項目かを区別しておくことが大切だ。
医学生医学生
臨床実習で内科の先生に、主訴と関係なさそうな症状もROSで拾っておくと鑑別が広がると言われました。
ドクタードクター
まさにそれがROSの価値だね。患者が重要だと思わずに話さなかった症状や、別の問題が見つかることがある。たとえば「疲れやすい」で受診した人に系統的に聞いていくと、体重減少や多尿・口渇が出てきて糖尿病が見えてくる、というようなことも起こりうる。
医学生医学生
質問の仕方にも順番があると習いました。最初は開放型質問でしたよね。
ドクタードクター
その通り。「どうなさいましたか」のような開放型質問で自由に話してもらい、必要に応じて焦点を絞った質問、最後に「はい・いいえ」で答える閉鎖型質問で確認する。促し、繰り返し、要約、共感といった技法を組み合わせて話しやすい雰囲気をつくりながら、最後にROSで漏れを拾う。患者中心の面接と網羅的な情報収集、その両方を意識してほしい。

まとめ

医療面接には、診断に必要な情報の収集、患者-医師間の信頼関係の構築、患者教育・動機づけという3つの役割があります。非言語的コミュニケーションは言葉にしにくい情報を読み取り話しやすい雰囲気をつくり、感情への共感的応答はラポール形成に、解釈モデルの把握は患者満足度の向上に、十分な患者教育はコンプライアンス(アドヒアランス)の向上につながります。一方、システムレビュー(ROS)は臓器系統ごとに患者本人の症状の有無を網羅的に尋ねる手法であり、血縁者の病気や死因を尋ねる家族歴とは別の項目です。主訴・現病歴・既往歴・家族歴・生活歴・ROSといった病歴の各項目が何を聞くためのものかを正確に区別することは、OSCEから臨床実習、実際の診療まで一貫して求められる基本技能です。

解答・解説

正解はcです

医療面接は、単に病歴を聞き取る「問診」にとどまらず、(1) 診断に必要な情報を集めること、(2) 患者と医師の信頼関係を築くこと、(3) 患者に病状や治療を説明し、行動変容を支援すること(患者教育・動機づけ)、という3つの役割をもつ。本問の選択肢はいずれもこの枠組みに関わる記述であり、「誤っているもの」を1つ選ぶ。 選択肢のうち a・b・d・e は、上記の役割を果たすために医療面接で推奨されている技法・考え方とその効果を正しく述べている。一方 c は、病歴の構成要素の取り違えを含んでいる。システムレビュー(review of systems:ROS、系統的レビュー)は、全身の臓器系統ごとに患者本人の症状の有無を網羅的に尋ねる手法であり、血縁者の病気を尋ねる家族歴とは別の項目である。病歴を構成する各項目(主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活歴、システムレビューなど)が「何を聞き出すためのものか」を正確に区別できるかが問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  非言語的コミュニケーションは医療情報の収集に必要である。

    正しい記述である。非言語的コミュニケーションとは、表情、視線、姿勢、身振り、患者との距離や座る位置関係など、言葉以外の手段による情報のやりとりである。患者の表情や態度からは、言葉にしにくい不安・痛み・ためらいなどを読み取ることができ、医療情報の収集に欠かせない。また、医師側が視線を合わせる、うなずく、相手に体を向けるといった態度を示すことで、患者が話しやすくなり、結果として多くの情報が得られる。

  2. ×b.  感情面に対応した応答は信頼関係の構築のために必要である。

    正しい記述である。患者が「つらい」「不安だ」などの感情を示したとき、その感情を言葉で受け止め(例:「それはおつらかったですね」)、共感を示す応答をすることで、患者は自分の気持ちを理解してもらえたと感じる。これが良好な患者-医師関係(ラポール)の形成につながる。感情を無視して事実だけを聞き続けると、患者は心を閉ざし、重要な情報を話さなくなることもある。

  3. ○c.  システムレビューを行うと家族歴についての情報が充実する。

    誤った記述であり、これが正解である。システムレビューは、全身状態、皮膚、頭頸部、呼吸器、循環器、消化器、泌尿生殖器、筋骨格系、神経系、精神面など、臓器系統ごとに患者本人の症状の有無を系統的に質問していく手法である。主訴や現病歴の聴取だけでは拾いきれない症状を見落とさないようにし、鑑別診断の手がかりや、患者が重要と思わずに話さなかった別の問題を見つけるのに役立つ。家族歴は、両親・兄弟姉妹・子など血縁者の病気(遺伝性疾患、悪性腫瘍、心血管疾患、糖尿病など)や死因を尋ねる別の項目であり、システムレビューで充実するのは患者本人の症状に関する情報である。

  4. ×d.  解釈モデルを把握して対応することによって患者満足度は高まる。

    正しい記述である。解釈モデルとは、患者が自分の病気について抱いている考え(原因は何だと思うか、どのくらい重いと思うか、何を心配しているか、どんな検査や治療を望んでいるか)のことである。例えば「頭痛が続くのは脳腫瘍ではないか」と心配している患者には、その不安に直接答える説明をすることで納得が得られる。解釈モデルを把握せずに医学的に正しい説明だけをしても、患者の本当の心配が解消されず不満が残ることがある。解釈モデルを引き出して対応することで、患者満足度や医師への信頼が高まる。

  5. ×e.  患者教育が十分に行われると治療へのコンプライアンスが高まる。

    正しい記述である。コンプライアンスとは、患者が医師の指示どおりに服薬や生活習慣の改善などを守ることである。病気の性質、治療の目的、薬の効果や副作用、治療を中断した場合のリスクなどを患者が十分に理解すると、治療を続ける意欲が高まり、指示が守られやすくなる。近年は、患者が治療方針の決定に主体的に参加し、自らの意思で治療を続けるという意味のアドヒアランスという用語が好んで使われるが、いずれにしても患者教育はその向上に重要である。

病歴の主な構成要素

・主訴:患者が受診した主な理由(症状) ・現病歴:主訴について、いつから・どのように始まり・どう経過したか(発症様式、部位、性状、程度、増悪・寛解因子、随伴症状など) ・既往歴:過去の病気、手術、輸血、アレルギー、服薬歴など ・家族歴:血縁者の病気や死因。遺伝性疾患や家族内に多い病気の手がかりになる ・生活歴(社会歴):喫煙、飲酒、職業、住環境、旅行歴、性生活、ペットなど ・システムレビュー(ROS):臓器系統ごとに本人の症状の有無を網羅的に確認する

医療面接のコミュニケーション技法

・言語的コミュニケーション:わかりやすく穏やかな言葉を選び、専門用語を避ける。 ・準言語的コミュニケーション:声の大きさ、声の質、話す速さ、抑揚、間・沈黙の使い方など、言葉そのものではなく話し方に関わる要素。 ・非言語的コミュニケーション:表情、視線、姿勢、身振り、身だしなみ、距離・位置関係(正面に向き合うより斜め90度程度の位置関係が緊張を和らげるとされる)。 ・質問の仕方:最初は「どうなさいましたか」のような開放型質問(open-ended question)で自由に話してもらい、必要に応じて焦点を絞った質問、さらに「はい/いいえ」で答える閉鎖型質問(closed question)で確認する。 ・促し、繰り返し、言い換え、要約、共感(感情への対応)などの技法を用いて、患者が話しやすい雰囲気をつくる。

患者中心の医療

・解釈モデル、受診の理由、期待(何をしてほしいか)、感情(不安や心配)を引き出し、医師の医学的な見立てとすり合わせて、共通の理解のもとで治療方針を決める。 ・コンプライアンス(指示を守る)からアドヒアランス(患者が主体的に治療に参加し継続する)へと考え方が移ってきている。

POINT

・医療面接の目的は「情報収集」「信頼関係の構築」「患者教育・動機づけ」の3つである。 ・システムレビュー(ROS)は臓器系統ごとに本人の症状を網羅的に尋ねる手法であり、家族歴(血縁者の病気)とは別の項目である。 ・非言語的コミュニケーション、感情への共感的応答、解釈モデルの把握、患者教育はいずれも医療面接で重要である。 ・解釈モデルの把握は患者満足度を高め、患者教育は治療の継続(コンプライアンス・アドヒアランス)を高める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。