StudyMed医師国家試験

背中を叩いて響く痛み―身体所見と泌尿器疾患を正しく結びつける

第111回医師国家試験 F問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第111回 F問題 第6問

身体診察の所見と疾患の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.筋性防御 ―― 急性膀胱炎
  2. b.陰嚢内腫瘤 ―― 停留精巣
  3. c.下腹部腫瘤 ―― 尿管結石
  4. d.側腹部腫瘤 ―― 鼠径ヘルニア
  5. e.肋骨脊柱角叩打痛 ―― 急性腎盂腎炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は泌尿器科の代表的な身体所見と疾患の組合せを問う問題だ。ポイントは、それぞれの臓器が体のどこにあるのか、炎症が腹膜まで及ぶのか、そして「腫瘤」として触れるものの正体は何か、の3つ。解剖を思い浮かべながら一つずつ確かめていこう。
医学生医学生
正解は肋骨脊柱角叩打痛と急性腎盂腎炎の組合せだと思います。OSCEの腹部診察で、背中を拳で叩く手技を練習しました。
ドクタードクター
その通り。腎臓は後腹膜臓器で、第12肋骨と脊柱がなす角、つまり肋骨脊柱角の深部にある。腎盂や腎実質に炎症が起きて腎が腫れると、ここを軽く叩いた振動が響いて痛むんだ。急性腎盂腎炎は膀胱から細菌が上行して起こる上部尿路感染症で、原因菌は大腸菌が最多。悪寒戦慄を伴う高熱と腰背部痛が典型的だよ。
医学生医学生
膀胱炎も同じ尿路感染症なので、お腹を押すと筋性防御が出るのかと一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこは大事な区別だね。筋性防御は、炎症が壁側腹膜に波及したときに腹壁の筋肉が反射的に硬くなる所見で、虫垂炎の穿孔や消化管穿孔などの腹膜炎を示唆する。膀胱は腹膜外にあって、急性膀胱炎の炎症は粘膜にとどまるから、腹膜刺激症状は通常出ない。症状は頻尿、排尿痛、尿混濁が中心で、下腹部の不快感や軽い圧痛程度。原則として発熱もないよ。
医学生医学生
発熱があれば腎盂腎炎まで上がっていると考える、ということですね。
ドクタードクター
そう、膀胱炎と腎盂腎炎を分ける大きな目安が発熱とCVA叩打痛なんだ。次に停留精巣はどうだろう。
医学生医学生
精巣が陰嚢まで降りてこない病気なので、陰嚢内に腫瘤を触れるのではなく、むしろ陰嚢が空っぽになるはずです。
ドクタードクター
完璧。精巣は胎生期に腹腔内から陰嚢へ下降するけれど、その途中の腹腔内や鼠径管内にとどまったのが停留精巣だ。鼠径部で精巣を触れることはあっても、陰嚢内は空虚になる。陰嚢内腫瘤をきたすのは、硬く無痛性の精巣腫瘍、透光性のある陰嚢水腫、立位で増大し左に多い精索静脈瘤、有痛性で発熱を伴う精巣上体炎などだね。
医学生医学生
尿管結石で下腹部腫瘤というのも違和感があります。救急外来の実習で見た患者さんは、腰を押さえてのたうち回っていました。
ドクタードクター
いい観察だ。尿管結石は突然の側腹部〜背部の激しい疝痛が典型で、下腹部や陰部に放散することもあり、血尿や悪心・嘔吐を伴う。水腎症で腎被膜が伸展するのでCVA叩打痛が出ることもある。でも片側の尿管が詰まっても対側の腎から尿は膀胱に流れ込むから、尿閉にはならない。下腹部腫瘤、つまり恥骨上部の膨隆として触れるのは、前立腺肥大症や神経因性膀胱による尿閉で緊満した膀胱なんだ。
医学生医学生
鼠径ヘルニアは鼠径部の膨らみで、側腹部ではありませんね。
ドクタードクター
そうだね。鼠径ヘルニアは腸管や大網が鼠径部の弱い部分から脱出するもので、立位や腹圧で大きくなり、臥位で縮小・還納する。外鼠径ヘルニアなら陰嚢まで達することもある。一方、側腹部腫瘤をきたす泌尿器疾患は、水腎症、腎細胞癌、多発性嚢胞腎、小児ならWilms腫瘍や副腎由来の神経芽腫が代表的だ。
医学生医学生
所見ごとに「どの臓器の、どんな変化を見ているのか」を考えれば、組合せは解剖から導けるんですね。
ドクタードクター
その発想が一番大事。臨床での注意点も加えておこう。急性腎盂腎炎は重症化すると尿路性敗血症に至ることがある。特に結石などで尿路が閉塞している場合は、抗菌薬だけでは改善しにくく、尿管ステントや腎瘻でのドレナージが必要になることがあるんだ。
医学生医学生
発熱とCVA叩打痛があって画像で水腎症があれば、閉塞性腎盂腎炎を疑って急いで泌尿器科に相談する、ということですね。
ドクタードクター
その通り。それから直腸診も泌尿器科の重要な身体診察だ。前立腺肥大症は弾性硬で表面平滑、前立腺癌は石様硬の結節として触れる。急性前立腺炎では強い圧痛と熱感があり、強い圧迫やマッサージは菌血症を招くおそれがあるから避けよう。

まとめ

肋骨脊柱角叩打痛は、後腹膜にある腎の炎症・腫大や腎盂内圧上昇を反映する所見で、悪寒戦慄を伴う発熱や腰背部痛とともに急性腎盂腎炎を示唆し、尿管結石でもみられることがあります。急性膀胱炎は腹膜外の膀胱粘膜に限局した炎症なので筋性防御は通常みられず、停留精巣では陰嚢内に精巣を触れず、尿管結石は片側閉塞のため尿閉による下腹部腫瘤をきたさず、鼠径ヘルニアは鼠径部の膨隆を呈します。側腹部腫瘤なら水腎症や腎腫瘍、下腹部腫瘤なら尿閉による膀胱緊満、陰嚢内腫瘤なら精巣腫瘍や陰嚢水腫と、所見と臓器を対応させて整理しておくことが大切です。閉塞を伴う腎盂腎炎では尿路性敗血症に進むことがあり、ドレナージを要する場合もあります。身体所見を解剖と病態に結びつけて理解することは、検査に頼る前に鑑別を絞り込む臨床推論の基本となります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

泌尿器科領域の代表的な疾患について、どのような身体所見が得られるかを正しく対応づけられるかを問う問題である。各疾患の病変部位(腎・尿管・膀胱・精巣・鼠径管)と、炎症が腹膜に及ぶかどうか、腫瘤として触れるものが何かを考えると判断しやすい。

考え方

・腎臓は後腹膜臓器であり、背部の肋骨脊柱角(costovertebral angle:CVA、第12肋骨と脊柱がなす角)の深部に位置する。腎実質や腎盂に炎症があったり、腎盂内圧が上昇したりすると、この部位を拳で軽く叩いたときに痛みが響く(CVA叩打痛)。 ・膀胱は腹膜外にあり、膀胱粘膜に限局した炎症では腹膜刺激症状(筋性防御・反跳痛)は生じない。 ・下腹部に触れる腫瘤として泌尿器科で重要なのは、尿閉による膀胱の緊満(膀胱充満)である。 ・鼠径部や陰嚢の腫瘤は、鼠径ヘルニア・陰嚢水腫・精巣腫瘍などで認められる。 以上から、正しい組合せは「肋骨脊柱角叩打痛 ―― 急性腎盂腎炎」である。

選択肢考察

  1. ×a.  筋性防御 ―― 急性膀胱炎

    筋性防御は、壁側腹膜に炎症が波及したときに腹壁の筋肉が反射的に緊張する所見で、腹膜炎(急性虫垂炎の穿孔、消化管穿孔など)を示唆する。急性膀胱炎は膀胱粘膜に限局した細菌感染で、腹膜炎を起こさないため筋性防御は通常みられない。主症状は頻尿、排尿痛(特に排尿終末時痛)、尿混濁(膿尿)で、残尿感や下腹部の不快感・軽い圧痛を伴うことがある。原則として発熱はない。

  2. ×b.  陰嚢内腫瘤 ―― 停留精巣

    停留精巣は、胎生期に腹腔内から陰嚢へ下降するはずの精巣が、その経路の途中(腹腔内、鼠径管内など)にとどまった状態である。したがって患側の陰嚢内に精巣を触れない(陰嚢が空虚である)ことが特徴で、陰嚢内腫瘤とは逆の所見となる。精巣を鼠径部に腫瘤として触れることはある。陰嚢内腫瘤をきたすのは精巣腫瘍、陰嚢水腫、精索静脈瘤、精巣上体炎などである。

  3. ×c.  下腹部腫瘤 ―― 尿管結石

    尿管結石の典型的な症状は、突然発症する患側の側腹部〜背部の激しい疝痛(下腹部・鼠径部・陰部へ放散することがある)、血尿、悪心・嘔吐であり、CVA叩打痛を伴うこともある。片側の尿管が閉塞しても対側腎から尿は膀胱に流入し、膀胱出口は閉塞しないため尿閉にはならず、下腹部に腫瘤は触れない。下腹部腫瘤(膀胱の緊満)は、前立腺肥大症などによる尿閉で生じる。

  4. ×d.  側腹部腫瘤 ―― 鼠径ヘルニア

    鼠径ヘルニアは、腹腔内容(腸管や大網など)が鼠径部の腹壁の弱い部分から脱出する疾患で、所見は鼠径部の膨隆(立位や腹圧で増大し、臥位で縮小・還納する)である。外鼠径ヘルニアでは陰嚢内まで脱出して陰嚢腫大をきたすこともある。側腹部腫瘤ではない。側腹部腫瘤をきたす泌尿器科疾患には、水腎症、腎細胞癌、多発性嚢胞腎、小児の腎芽腫(Wilms腫瘍)などがある。

  5. ○e.  肋骨脊柱角叩打痛 ―― 急性腎盂腎炎

    急性腎盂腎炎は、膀胱から上行した細菌(大腸菌が最多)が腎盂・腎実質に感染する上部尿路感染症である。腎の炎症と腫大により、患側の肋骨脊柱角を叩打すると痛みが誘発される(CVA叩打痛)。38℃以上の発熱、悪寒・戦慄、腰背部痛を伴い、膀胱炎症状が先行・合併することも多い。尿検査で膿尿・細菌尿、血液検査で白血球増多・CRP上昇を認める。

泌尿器科で重要な身体所見と主な疾患

・CVA叩打痛: 急性腎盂腎炎、尿管結石(水腎症による腎被膜の伸展)、腎膿瘍など ・側腹部腫瘤: 水腎症、腎細胞癌、多発性嚢胞腎、腎芽腫(Wilms腫瘍)、神経芽腫(副腎由来)など ・下腹部腫瘤(恥骨上部の膨隆): 尿閉による膀胱緊満(前立腺肥大症、神経因性膀胱など)、膀胱腫瘍 ・陰嚢内腫瘤: 精巣腫瘍(無痛性・硬い)、陰嚢水腫(透光性あり)、精索静脈瘤(立位で増大、左側に多い)、精巣上体炎(有痛性、発熱) ・陰嚢内に精巣を触れない: 停留精巣、移動性精巣 ・鼠径部の膨隆: 鼠径ヘルニア ・直腸診: 前立腺肥大症(弾性硬で表面平滑な腫大)、前立腺癌(石様硬の結節)、急性前立腺炎(著明な圧痛・熱感。強い圧迫やマッサージは菌血症の危険があり避ける)

膀胱炎と腎盂腎炎の違い

・急性膀胱炎: 下部尿路感染症。頻尿・排尿痛・尿混濁が三徴。通常発熱なし、CVA叩打痛なし。 ・急性腎盂腎炎: 上部尿路感染症。発熱(悪寒戦慄)、腰背部痛、CVA叩打痛。重症化すると敗血症(尿路性敗血症)に至りうる。尿路閉塞(結石など)を伴う場合は、抗菌薬に加えて尿管ステントや腎瘻によるドレナージが必要となることがある。

POINT

・CVA叩打痛は腎の炎症・腫大・腎盂内圧上昇を示し、急性腎盂腎炎の重要な所見である(尿管結石でもみられうる)。 ・急性膀胱炎は腹膜炎を起こさない → 筋性防御なし、通常は発熱もない。 ・停留精巣では陰嚢内に精巣を触れない。 ・尿管結石は片側閉塞であり尿閉にならない。下腹部腫瘤(膀胱緊満)は尿閉で生じる。 ・鼠径ヘルニアは鼠径部(ときに陰嚢)の膨隆であり、側腹部腫瘤ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。