「大泉門が前にある」の意味―分娩の3要素で読み解く前方前頭位
第116回医師国家試験 C問題 第50問
国試問題にチャレンジ
36歳の女性(1妊0産)。破水感を主訴に来院した。これまでの妊娠経過に異常を認めない。妊娠37週1日,午前6時に破水感を自覚し午前8時に受診した。身長148cm,体重54kg(非妊時46kg)。体温37.3℃。脈拍92/分,整。血圧132/76mmHg。呼吸数18/分。腟鏡診で羊水の流出を認める。内診で子宮口は2cm開大,展退度は40%,硬度は硬,先進部は頭部で下降度はSP+1cmだった。午前10時に陣痛が発来し経過観察したところ,午後1時から4分ごとの規則的な子宮収縮を認めた。午後6時の時点で子宮口は3cm開大,展退度は50%,先進部はSP+2cm,児頭の矢状縫合は母体骨盤の縦径にほぼ一致し,大泉門を1時方向に触知する。陣痛は4分間隔で,持続時間が1分30秒である。母体の身長を考慮し入院時に行った産科的骨盤計測写真を下に示す。 診断はどれか。

- a.遷延分娩
- b.微弱陣痛
- c.分娩停止
- d.前方前頭位
- e.児頭骨盤不均衡
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
分娩の進行が遅いと感じたときは、娩出力(陣痛)、産道(骨盤)、娩出物(胎児の胎勢・回旋)の3要素を順に評価します。初産婦の潜伏期は長くなりやすく、陣痛が十分で骨盤計測でも余裕があれば、遷延分娩・分娩停止・微弱陣痛・児頭骨盤不均衡はいずれも当てはまりません。正常の前方後頭位では内診で小泉門を前方に触れますが、矢状縫合が縦径に一致しつつ大泉門を前方に触れる場合は、屈曲不十分な前方前頭位と診断します。前頭位は反屈位の最も軽い型で、反屈が強まると額位・顔位となり、後方後頭位や横定位といった第2回旋の異常とあわせて整理しておくことが重要です。分娩機転と泉門の触れ方を結びつけて理解することは、内診所見から分娩の異常を早く察知する臨床力の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・36歳、初産婦(1妊0産)。妊娠37週1日で正期産に入ったところ。 ・午前6時に破水感、腟鏡診で羊水流出を確認 → 陣痛発来前の破水であり、前期破水(PROM:premature rupture of membranes)である。 ・身長148cmと低身長(150cm未満)→ 狭骨盤・児頭骨盤不均衡のリスク因子として評価が必要。 ・午前10時に陣痛発来(分娩開始)。午後1時から4分ごとの規則的収縮。 ・午後6時(陣痛発来から8時間):子宮口2cm→3cm、展退度40%→50%、児頭下降度SP+1cm→+2cm。遅いながらも開大・展退・下降のいずれも進んでいる。 ・陣痛は間隔4分、持続1分30秒で、十分な強さと頻度がある。 ・矢状縫合は母体骨盤の縦径(前後方向)にほぼ一致し、大泉門を1時方向(内診時、恥骨結合側を12時とする)に触知する。 ・骨盤X線計測(Guthmann法:側面像、Martius法:入口面像)では、骨盤入口は児頭に比べて十分に広く、狭骨盤や児頭との不均衡を示す所見はない。
分娩経過の評価
分娩第1期は子宮口が全開大(10cm)するまでで、そのうち子宮口がゆっくり開大する潜伏期(おおむね6cm未満)と、急速に開大する活動期に分けられる。初産婦の潜伏期は長いことが多く、陣痛発来から8時間で子宮口3cmという進行は、潜伏期として異常とはいえない。陣痛の間隔・持続も正常範囲であり、児頭は骨盤内へ下降を続けている。したがって、時間経過・陣痛・産道(骨盤)の要素からは異常を指摘できない。
児頭の位置(胎勢・回旋)の評価
正常の分娩機転では、児頭は骨盤入口で屈曲(第1回旋)して小泉門が先進し、骨盤内で内回旋(第2回旋)して小泉門が母体の前方(恥骨側)に向く。この状態が前方後頭位で、内診では小泉門を前方に触れ、大泉門はほとんど触れない。本例では矢状縫合が骨盤の縦径に一致していて回旋は進んでいるが、前方に触れるのは大泉門である。すなわち児頭が十分に屈曲せず(軽度の反屈)、大泉門が先進して前方を向いた状態であり、前方前頭位と診断できる。
選択肢考察
- ×a. 遷延分娩
遷延分娩は、分娩開始(陣痛周期が10分以内となった時点)から初産婦で30時間、経産婦で15時間を経ても児が娩出されない状態をいう。本例は陣痛発来から8時間しか経過しておらず、まだ分娩第1期潜伏期である。遷延分娩と判断できる段階ではない。
- ×b. 微弱陣痛
微弱陣痛は、陣痛の強さ・頻度・持続が不十分で分娩が進行しない状態であり、日本産科婦人科学会の基準では、例えば子宮口4〜6cmの時期で陣痛周期6分30秒以上または持続40秒以内を目安とする。本例の陣痛は周期4分、持続1分30秒で十分であり、子宮口・児頭下降も進んでいるため微弱陣痛ではない。
- ×c. 分娩停止
分娩停止は、分娩経過中に子宮口の開大や児頭の下降が一定時間以上止まってしまった状態である。本例は8時間の間に子宮口が2cmから3cmへ開大し、展退度も40%から50%へ進み、児頭もSP+1cmから+2cmへ下降している。進行は緩やかだが初産婦の潜伏期としては許容範囲であり、停止しているわけではない。
- ○d. 前方前頭位
前頭位は、児頭の屈曲が不十分なために大泉門(前頭部)が先進する反屈位の一つで、反屈の程度が最も軽いものである(反屈が強まるにつれて額位、顔位となる)。本例では矢状縫合が骨盤の縦径に一致し、大泉門を1時方向、すなわち母体の前方に触知することから、大泉門が前方に回旋した前方前頭位と診断する。正常な前方後頭位であれば前方に触れるのは小泉門のはずである。前頭位では児頭が通過する周囲径が後頭位より大きくなるため、分娩が長引きやすい。
- ×e. 児頭骨盤不均衡
児頭骨盤不均衡(CPD:cephalopelvic disproportion)は、児頭と母体骨盤の大きさの不釣り合いにより経腟分娩が困難または不可能な状態である。母体が低身長(148cm)のため疑ってX線骨盤計測が行われているが、Guthmann法で骨盤入口の前後径(産科的真結合線)に、Martius法で入口面の広さに、いずれも児頭に対する十分な余裕がみられる。さらに児頭はSP+2cmまで骨盤内に下降しており、CPDは否定的である。
分娩の3要素
分娩の進行は「娩出力(陣痛・腹圧)」「産道(骨産道・軟産道)」「娩出物(胎児・付属物)」の3要素で決まる。分娩が順調に進まないときは、どの要素に異常があるかを順に検討する。本問では娩出力(陣痛正常)と産道(骨盤計測正常)に異常がなく、娩出物側の要素である児頭の胎勢・回旋に異常がある。
分娩機転(正常の第1〜第4回旋)
・第1回旋:骨盤入口で児頭が屈曲し、小泉門が先進する(屈曲)。 ・第2回旋:骨盤内で児頭が内回旋し、小泉門が前方(恥骨側)を向き、矢状縫合が骨盤の縦径に一致する。 ・第3回旋:後頭部が恥骨弓下を支点にして児頭が伸展(反屈)し、娩出される。 ・第4回旋:娩出した児頭が外回旋し、肩甲の内回旋に伴って顔が母体の大腿側を向く。
回旋異常の代表
・反屈位(第1回旋の異常):前頭位(大泉門先進)→額位(額が先進)→顔位(顔面が先進)の順に反屈の程度が強くなる。額位は経腟分娩が困難で帝王切開となることが多い。顔位はおとがいが前方なら経腟分娩可能なことがある。 ・後方後頭位(第2回旋の異常):児頭は屈曲しているが、小泉門が母体の後方(仙骨側)を向いたまま進む。分娩遷延の原因となりやすい。 ・高在横定位:骨盤入口では矢状縫合が横径に一致するのが正常だが、その状態のまま児頭の下降が止まってしまうもの。CPDや狭骨盤が背景にあることが多い。 ・低在横定位(第2回旋の異常):正常では骨盤内を下降しながら内回旋して矢状縫合が縦径に一致するが、骨盤出口付近(骨盤底近く)に達しても矢状縫合が横径に一致したまま回旋が進まないもの。微弱陣痛や扁平骨盤などが原因となり、分娩停止の原因となる。
内診での泉門の区別
・小泉門:3本の縫合(矢状縫合と左右のラムダ縫合)が集まる小さな三角形の部位。 ・大泉門:4本の縫合(矢状縫合、前頭縫合、左右の冠状縫合)が集まる大きな菱形の部位。
骨盤X線計測
・Guthmann法(側面撮影):産科的真結合線(仙骨岬角と恥骨結合後面の最短距離、骨盤入口の最短前後径、正常は約11cm)などを計測し、児頭大横径と比較する。 ・Martius法(入口面撮影):骨盤入口面の形と横径を評価し、児頭との大きさを比較する。 ・母体の低身長(特に145cm未満)、児頭の浮動、Seitz法陽性(恥骨結合上で児頭が恥骨より前方に張り出す)などはCPDを疑う手がかりとなる。
前期破水
陣痛発来前の破水。正期産では多くが24時間以内に自然に陣痛が発来する。時間経過とともに子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)のリスクが上がるため、母体の発熱、頻脈、子宮圧痛、胎児頻脈などに注意して管理する。
POINT
・正常の分娩機転では前方後頭位となり、内診で小泉門を前方に触れる。 ・大泉門が先進して前方に触れれば前方前頭位(反屈位の最も軽いもの)。反屈が強まると額位→顔位となる。 ・小泉門が後方に向いたまま進むのは後方後頭位(第2回旋の異常)。 ・遷延分娩:分娩開始から初産婦30時間、経産婦15時間以上経っても児が娩出されないもの。 ・陣痛間隔4分・持続1分30秒は微弱陣痛ではない。 ・低身長妊婦ではCPDを疑ってX線骨盤計測(Guthmann法・Martius法)を行う。児頭が骨盤内に下降していればCPDは否定的。
