暗がりで見えない理由を探せ―夜盲の診断は「杆体」がどこにあるかで決まる
第116回医師国家試験 C問題 第27問
国試問題にチャレンジ
夜盲を訴える患者の診断に有用な検査はどれか。2つ選べ。
- a.隅角検査
- b.視野検査
- c.網膜電図
- d.角膜知覚検査
- e.Hess赤緑試験
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
夜盲は暗所で働く杆体の機能障害で生じ、代表疾患は網膜色素変性です。杆体は中心窩にはなく中間周辺部に多いため、視野検査では輪状暗点から求心性視野狭窄へと進む欠損がみられ、網膜電図ではa波・b波の著明な減弱から平坦化として網膜機能の低下を客観的にとらえられます。隅角検査は緑内障などの前房隅角、角膜知覚検査は角膜の知覚、Hess赤緑試験は眼球運動を評価する検査で、夜盲の診断には用いません。網膜色素変性では骨小体様色素沈着などの眼底所見や白内障・黄斑浮腫の合併にも注意し、治療可能な夜盲としてビタミンA欠乏症も鑑別に挙げることが重要です。症状から障害される細胞と部位を考え、それを評価できる検査を選ぶという発想は、眼科に限らず検査選択全般の基本になります。
解答・解説
正解はb, cです
問われていること
夜盲(暗い場所で見えにくくなる症状)を訴える患者で、原因疾患の診断に役立つ検査を選ぶ問題である。
夜盲の病態
網膜の視細胞には、暗所で働く杆体(かんたい)と、明所で色や細かい形を見分ける錐体(すいたい)がある。杆体は網膜の中心窩には存在せず、中間周辺部に多く分布する。夜盲は杆体の機能が障害されることで生じる。
代表疾患と診断の考え方
夜盲をきたす代表的疾患は網膜色素変性(杆体錐体ジストロフィ)である。杆体が先に障害されるため、夜盲で発症し、杆体の多い中間周辺部から視野が欠けていく。そのため、 ・視野検査で中間周辺部の輪状暗点や、進行例での求心性視野狭窄をとらえる ・網膜電図(ERG)で網膜全体の視細胞機能の低下(振幅の著明な減弱〜消失)を客観的に確認する ことが診断の柱となる。これに眼底検査(骨小体様色素沈着、網膜血管の狭細化、視神経乳頭の蝋様萎縮)を組み合わせて診断する。 一方、隅角検査・角膜知覚検査・Hess赤緑試験は、それぞれ前房隅角・角膜・眼球運動を評価する検査であり、網膜の視細胞機能の評価には用いない。
選択肢考察
- ×a. 隅角検査
隅角検査は、隅角鏡(ゴニオレンズ)を角膜に当てて、房水の流出路である前房隅角(角膜と虹彩の付け根の間)を観察する検査である。緑内障の病型分類(開放隅角か閉塞隅角か)、隅角新生血管、ぶどう膜炎に伴う隅角結節や周辺虹彩前癒着の評価に用いる。視細胞の機能とは無関係であり、夜盲の診断には役立たない。
- ○b. 視野検査
網膜色素変性では杆体が多い中間周辺部から障害されるため、視野検査で中心部と最周辺部が残ったドーナツ状の欠損、すなわち輪状暗点がみられる。進行すると周辺の視野も失われて求心性視野狭窄となり、最終的に中心視野のみが残る。Goldmann 視野計による動的視野検査や静的視野検査で欠損の範囲と進行度を評価でき、夜盲の原因疾患の診断と経過観察に有用である。
- ○c. 網膜電図
網膜電図(ERG:electroretinogram)は、光刺激に対する網膜全体の電気的反応を記録する検査で、主に視細胞由来の a 波と、双極細胞などの網膜内層由来の b 波からなる。網膜色素変性では早期から振幅が著しく低下し、進行すると a 波・b 波ともに消失して平坦化(non-recordable)する。眼底所見が目立たない初期でも異常をとらえられるため、診断的価値が高い。また、杆体応答と錐体応答を分けて記録でき、先天停在性夜盲(b 波が a 波より小さい陰性型 ERG を示す)など他の夜盲疾患の鑑別にも役立つ。
- ×d. 角膜知覚検査
角膜知覚検査は、Cochet-Bonnet 角膜知覚計などで角膜表面を刺激し、三叉神経第1枝(眼神経)が担う角膜の知覚を評価する検査である。単純ヘルペスウイルスによる角膜炎、糖尿病角膜症、三叉神経障害、神経麻痺性角膜症などで知覚が低下する。網膜の機能とは関係がなく、夜盲の診断には用いない。
- ×e. Hess赤緑試験
Hess赤緑試験は、赤と緑のフィルターで左右眼を分離し、各眼の視線の位置を記録して眼球運動の制限や偏位を図示する検査である。動眼神経・滑車神経・外転神経の麻痺や、甲状腺眼症、眼窩吹き抜け骨折などによる麻痺性斜視・複視の評価に用いる。夜盲の診断には役立たない。
網膜色素変性の概要
・遺伝性の進行性網膜変性疾患で、常染色体潜性(劣性)・顕性(優性)・X連鎖性など多様な遺伝形式をとる。日本では指定難病であり、中途失明の主要な原因の一つである。 ・症状:夜盲で始まり、視野狭窄が進行し、後期には視力低下や羞明をきたす。 ・眼底:骨小体様色素沈着、網膜血管の狭細化、視神経乳頭の蝋様萎縮。合併症として白内障(後嚢下白内障)や黄斑浮腫がある。 ・検査:視野検査(輪状暗点→求心性視野狭窄)、ERG(振幅低下〜平坦化)、光干渉断層計(OCT)での視細胞層(ellipsoid zone)の消失、暗順応検査での閾値上昇。 ・治療:根本的治療は確立していないが、遮光眼鏡、ロービジョンケアが行われる。RPE65 遺伝子の両アレル変異による網膜ジストロフィには遺伝子治療薬(ボレチゲン ネパルボベク)が承認されている。
夜盲をきたすその他の疾患
・ビタミンA欠乏症:ロドプシンの合成が低下する。眼球乾燥症(Bitot斑)を伴うことがある。補充で改善する。 ・先天停在性夜盲:非進行性。完全型では陰性型ERGを示す。小口病(眼底の金箔様反射が暗順応で消える水尾-中村現象)も停在性夜盲に含まれる。 ・白点状眼底、コロイデレミア、脳回状網脈絡膜萎縮など。
その他の検査の対象
・隅角検査:緑内障、ぶどう膜炎 ・角膜知覚検査:ヘルペス性角膜炎、神経麻痺性角膜症 ・Hess赤緑試験:眼球運動障害、複視
POINT
・夜盲は杆体機能障害で生じ、代表疾患は網膜色素変性。 ・網膜色素変性の視野:輪状暗点 → 求心性視野狭窄。 ・網膜色素変性のERG:a波・b波ともに著明に減弱〜消失(平坦化)。 ・眼底は骨小体様色素沈着、網膜血管狭細化、視神経乳頭蝋様萎縮。 ・Hess赤緑試験は眼球運動、隅角検査は緑内障、角膜知覚検査は角膜の知覚の評価に用いる。
