StudyMed医師国家試験

髄液糖だけ見ていては見逃す―血糖との「比」で読む脳脊髄液検査

第116回医師国家試験 B問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第116回 B問題 第21問

脳脊髄液検査結果を評価する際,脳脊髄液の検査結果と血液の検査結果を比較すべきものはどれか。

  1. a.アルブミン
  2. b.グルコース
  3. c.好中球数
  4. d.蛋白
  5. e.白血球数

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は脳脊髄液検査の解釈がテーマだ。髄液の値だけでは正常か異常か決められず、血液の値と比べて初めて評価できる項目はどれか、という問題だね。各項目が髄液中にどうやって存在しているのかを考えるのがカギになる。
医学生医学生
髄液の成分はもともと血液から来ているので、どれも血液と比べるべきもののように思えてしまいます。
ドクタードクター
出どころという意味ではそうだね。でも大事なのは「髄液中の濃度が血液中の濃度に連動して動くかどうか」なんだ。その代表がグルコースで、これが正解になる。
医学生医学生
髄液糖は血糖の3分の2くらい、と生理学の講義で習いました。
ドクタードクター
そう、髄液糖は血液中のグルコースが脈絡叢や血液脳関門にある輸送体、主にGLUT1を介して運ばれたもので、通常は血糖値の約60〜80%に保たれる。だから血糖が上がれば髄液糖も上がり、下がれば下がるんだ。
医学生医学生
ということは、高血糖の人だと髄液糖が基準範囲内でも実は低下していることがあるんですね。
ドクタードクター
その通り。たとえば糖尿病で血糖がかなり高い人の髄液糖が一見正常でも、比をとると明らかに低い、ということが起こりうる。それを見逃すと細菌性髄膜炎の手がかりを落としてしまう。逆に低血糖の人では、髄液糖が低くても病的な消費によるものとは限らない。だから腰椎穿刺と同じ時期に採血して血糖を測り、髄液糖/血糖比で評価する。おおむね0.4〜0.5未満なら低下と判断するんだ。
医学生医学生
血糖が急に変わっているときはどうなりますか。
ドクタードクター
いい質問だ。血糖の変化が髄液に反映されるまでには数時間の遅れがある。だから食後や糖を含む輸液中など、血糖が急変している状況では比の解釈に注意が必要だよ。
医学生医学生
白血球数や好中球数はどうでしょう。血液で白血球が増えていたら、髄液にも漏れてきそうな気がします。
ドクタードクター
そう考えがちだけど、正常な髄液の細胞は単核球が5/μL以下で、好中球はほとんどいない。だから血液の白血球数に関係なく、それを超えれば異常、好中球が増えていれば細菌性髄膜炎などを疑う。髄液の値そのもので評価するんだ。
医学生医学生
蛋白も血漿由来ですよね。蛋白とアルブミンも比べなくていいんですか。
ドクタードクター
蛋白は血漿の1%にも満たない濃度で、成人ならおよそ15〜45 mg/dLという髄液の基準値と比べて評価する。髄液蛋白の大部分はアルブミンだから、日常の検査ではアルブミンも同じ扱いだ。ただ、血液脳関門の障害の程度を見る髄液/血清アルブミン比や、中枢神経内でのIgG産生をみるIgG indexのような専門的な評価では、血清値と比べることもある。とはいえ、髄液検査で血液と必ず比べる代表的な項目はグルコースだね。
医学生医学生
多発性硬化症の講義でIgG indexが出てきました。あれは特殊な評価なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。では髄液糖が下がる理由も押さえておこう。どうして細菌性髄膜炎では糖が低くなると思う?
医学生医学生
細菌が糖を食べてしまうから、でしょうか。
ドクタードクター
それに加えて、浸潤した白血球による消費、嫌気性解糖の亢進、そして炎症による血液脳関門のグルコース輸送障害が関与する。細菌性だけでなく、結核性、真菌性、癌性髄膜炎でも糖は低下し、ウイルス性では通常正常だ。
医学生医学生
神経内科の実習で、細胞数・分画・蛋白・糖の4つを組み合わせて髄膜炎の病型を考えるよう言われました。
ドクタードクター
まさにそれが大事だ。細菌性は好中球優位の著明な細胞増加と蛋白著増、糖低下。ウイルス性はリンパ球優位の細胞増加で蛋白は軽度上昇、糖は正常。結核性や真菌性は単核球優位でも糖が下がるのが特徴で、結核性ではADA、クリプトコックスでは墨汁染色や抗原検査を追加する。また、細胞数が正常なのに蛋白だけ高い蛋白細胞解離はGuillain-Barré症候群の手がかりになる。そして腰椎穿刺の前後には、必ず血糖を一緒にオーダーする習慣をつけておこう。

まとめ

髄液中のグルコースは血糖がGLUT1などの輸送体を介して運ばれたもので、血糖値の約60〜80%に連動して推移するため、髄液糖は必ず同時に測定した血糖値と比較し、髄液糖/血糖比(0.4〜0.5未満で低下)で評価します。高血糖時には髄液糖が基準範囲内でも相対的に低下していることがあり、絶対値だけでは細菌性髄膜炎などを見逃すおそれがあります。一方、細胞数(正常は単核球5/μL以下)、好中球、蛋白(約15〜45 mg/dL)、アルブミンは通常、髄液の値そのもので評価し、血清との比較は髄液/血清アルブミン比やIgG indexなどの専門的評価に限られます。髄液糖の低下は細菌性・結核性・真菌性・癌性髄膜炎で認め、ウイルス性では通常保たれるため、細胞数・分画・蛋白と組み合わせることで病型の推定に役立ちます。腰椎穿刺時に血糖を同時に測定する習慣は、髄膜炎診療の基本です。

解答・解説

正解はbです

問われていること

脳脊髄液(髄液)検査の各項目のうち、髄液の値だけでは判断できず、同時に測った血液の値と比べて初めて正しく評価できる項目を選ぶ問題である。

考え方

髄液中のグルコース(髄液糖)は、血液中のグルコースが脈絡叢や血液脳関門のグルコース輸送体(主にGLUT1)を介して髄液へ運ばれたものである。そのため髄液糖の濃度は血糖値に連動して変化し、通常は血糖値の約60〜80%(髄液糖/血糖比 約0.6〜0.8)に保たれる。 このことから、髄液糖の絶対値だけを見ると次のような判断ミスが起こり得る。 ・高血糖の患者では、髄液糖が「基準範囲内」でも血糖値に比べると相対的に低下しており、細菌性髄膜炎などの異常を見逃す。 ・低血糖の患者では、髄液糖が低くても病的な消費によるものではない場合がある。 したがって、髄液糖は腰椎穿刺と同時期に採血して血糖値を測り、両者の比で評価する。なお、血糖値の変化が髄液に反映されるまでには数時間の遅れがあるため、食後や輸液中など血糖が急変している状況では解釈に注意が必要である。 一方、細胞数(白血球数・好中球数)や蛋白は、髄液の値そのものを基準値と比べて評価するのが基本である。

選択肢考察

  1. ×a.  アルブミン

    髄液蛋白の大部分はアルブミンであり、日常の髄液検査では蛋白と同様に髄液中の値そのもので評価する。血液の値との比較が必須の項目ではない。なお、血液脳関門の障害の程度や中枢神経内での免疫グロブリン産生(IgG index)を詳しく調べる特殊な評価では髄液/血清アルブミン比を用いることがあるが、髄液検査の解釈において血液と必ず比べなければならない代表的項目はグルコースである。

  2. ○b.  グルコース

    髄液糖は血糖に由来し、血糖値の約60〜80%で推移するため、髄液の値だけでは正常か低下かを判断できない。同時に測定した血糖値との比をとり、おおむね0.4〜0.5未満なら低下と判断する。細菌性・結核性・真菌性髄膜炎や癌性髄膜炎では、病原体や白血球による糖の消費、血液脳関門の糖輸送障害により髄液糖/血糖比が低下する。血液の値との比較が不可欠な項目であり、正解である。

  3. ×c.  好中球数

    正常な髄液には好中球はほとんど存在しない。血液中の好中球数の多寡にかかわらず、髄液中に好中球が増加していれば細菌性髄膜炎などを疑って精査するため、血液の値と比べる必要はない。

  4. ×d.  蛋白

    髄液蛋白は血漿蛋白に由来するが、その濃度は血漿の1%にも満たないごくわずかなものであり、基準値(成人でおよそ15〜45 mg/dL)と比べて評価する。髄膜炎、脳腫瘍、Guillain-Barré症候群などで上昇するが、判定に血液中の蛋白値との比較は必要としない。

  5. ×e.  白血球数

    髄液の細胞数は、正常では単核球が5/μL以下である。これを超えれば血液の白血球数に関係なく異常と判定し、細胞分画(単核球か多形核球か)とあわせて原因を推定する。血液の値との比較は必要ない。

髄液検査の主な項目と基準

・外観:無色透明(混濁は細胞増加、キサントクロミーは出血後などを示唆) ・初圧:側臥位でおよそ70〜180 mmH2O ・細胞数:単核球5/μL以下 ・蛋白:およそ15〜45 mg/dL ・糖:およそ50〜75 mg/dL(血糖値の約60〜80%)

髄膜炎の病型と髄液所見

・細菌性髄膜炎:多形核球(好中球)優位の著明な細胞増加(しばしば1,000/μL以上)、蛋白著増、糖低下(髄液糖/血糖比0.4未満が目安) ・ウイルス性髄膜炎:単核球(リンパ球)優位の細胞増加(数十〜数百/μL程度)、蛋白軽度上昇、糖は正常 ・結核性・真菌性髄膜炎:単核球優位の細胞増加、蛋白上昇、糖低下(結核性ではADA上昇、クリプトコックスでは墨汁染色や抗原検査) ・癌性髄膜炎:糖低下、細胞診で腫瘍細胞

髄液糖が低下する機序

・病原体や浸潤した白血球による糖の消費(嫌気性解糖の亢進) ・炎症による血液脳関門のグルコース輸送障害

蛋白細胞解離

Guillain-Barré症候群などでは、細胞数がほぼ正常なのに蛋白が上昇する。これを蛋白細胞解離とよぶ。

血液と比較する特殊な指標

・髄液/血清アルブミン比(Qalb):血液脳関門(血液髄液関門)の透過性の指標 ・IgG index:中枢神経内でのIgG産生の指標で、多発性硬化症などの診断補助に用いる これらは専門的な評価であり、日常の髄液検査で最も基本となる「血液との比較」はグルコースである。

POINT

・髄液糖は血糖に由来し、血糖値の約60〜80%で推移する → 必ず同時に血糖を測定して比で評価する ・髄液糖/血糖比の低下(0.4〜0.5未満)は細菌性・結核性・真菌性・癌性髄膜炎を示唆し、ウイルス性では通常正常 ・細胞数(正常は単核球5/μL以下)と蛋白(約15〜45 mg/dL)は髄液の値そのもので評価する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。