StudyMed医師国家試験

靴べら1枚で歩きが変わる―短下肢装具が支える下垂足と内反尖足

第115回医師国家試験 C問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第29問

図に示す装具が適応となる疾患はどれか。2つ選べ。

第115回 C問題 第29問の問題画像
  1. a.下垂足
  2. b.外反母趾
  3. c.内反尖足
  4. d.股関節脱臼
  5. e.膝蓋骨脱臼

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は装具の写真から、その適応疾患を選ぶ問題だ。ポイントは2つ。この装具が体のどこからどこまでを覆っているか、そして足関節をどんな位置に保とうとしているか。まず写真の装具、何に見えるかな。
医学生医学生
下腿の後ろから足の裏までを一続きのプラスチックで覆っていて、靴べらみたいな形です。
ドクタードクター
その通り。これはシューホーン型、つまり靴べら型の短下肢装具だ。英語ではankle-foot orthosis、略してAFOと呼ぶ。膝にはかからず、下腿と足部だけを支えるのが特徴だね。
医学生医学生
膝や股関節には効かない、ということは、その時点で股関節脱臼と膝蓋骨脱臼は外れそうですね。
ドクタードクター
いい着眼点だ。装具は支持している範囲の関節にしか作用しないから、まず部位で絞り込める。では、この装具は足関節をどう制御しているか。主な役割は、足関節を底屈0°前後の中間位に保って、足先が垂れ下がるのを防ぐことなんだ。
医学生医学生
足先が垂れると、歩くときにつま先が床に引っかかってしまいますよね。
ドクタードクター
そう。遊脚期のつまずきを防ぎ、立脚期には踵から接地できるようにして足関節を安定させる。さらに足部が内側に返るのも抑えられる。つまり適応は、背屈ができない病態と、底屈・内反方向に引き込まれる病態だ。それぞれの代表は何だろう。
医学生医学生
背屈できないほうは下垂足だと思います。総腓骨神経麻痺ですよね。
ドクタードクター
正解。総腓骨神経は腓骨頭の外側を浅く走るから、長時間下肢を外旋位にして寝ていたり、ギプスで圧迫されたり、足を組んだりすると麻痺しやすい。前脛骨筋や長趾伸筋、長母趾伸筋が働かなくなって足が垂れ下がる。ほかにL5神経根障害やCharcot-Marie-Tooth病でも起こるね。
医学生医学生
神経内科の実習で、膝を高く持ち上げて歩く鶏歩を見せてもらいました。つま先が引っかからないようにしているんですよね。
ドクタードクター
よく観察していたね。短下肢装具で足関節を背屈位寄りに保てば、つま先の引っかかりがなくなって歩行が安定する。では、底屈・内反方向に引き込まれるほうは?
医学生医学生
内反尖足です。でも、下垂足と見た目が似ていて、違いがよくわかっていませんでした。
ドクタードクター
そこは整理しておきたいところだ。下垂足は背屈筋の弛緩性麻痺で、足関節を他動的に背屈させると容易に動く。一方の内反尖足は、脳卒中後の片麻痺や脳性麻痺で下腿三頭筋や後脛骨筋に痙縮が起こり、足が底屈しつつ内側へ返る状態だ。他動的に背屈しようとすると抵抗がある。
医学生医学生
リハビリテーション科を回ったとき、片麻痺の患者さんが足を外側に回して振り出していました。あれが分回し歩行ですね。
ドクタードクター
そう、内反尖足でつま先が引っかかるのもその一因になる。短下肢装具で足関節を中間位に保ち、内反を抑えれば、踵から接地して安定した立脚ができる。脳卒中片麻痺のリハビリで最もよく処方される装具の一つだよ。
医学生医学生
外反母趾も足の病気なので、少し迷いました。
ドクタードクター
足のトラブルという点では近いけれど、外反母趾は母趾の中足趾節関節で第2趾側へ曲がる前足部の変形で、足関節の底背屈とは関係ない。つま先にゆとりのある靴、母趾と第2趾の間に挟む矯正具、アーチを支える足底挿板などで対応し、高度なら骨切り術を検討する。
医学生医学生
股関節脱臼のほうは、乳児ならリーメンビューゲル装具でしたね。小児科の講義で、股関節を屈曲・外転位に保つと習いました。
ドクタードクター
その通り。発育性股関節形成不全では屈曲・外転位で大腿骨頭が臼蓋に収まりやすくなり、下肢の自動運動を利用して整復を図る。膝蓋骨脱臼は多くが外側へ外れるもので、初回は伸展位での固定や膝蓋骨を制動するサポーター、内側広筋を中心とした大腿四頭筋の訓練を行い、反復する例では内側膝蓋大腿靱帯の再建術を考える。どちらも部位が違うから、短下肢装具の出番ではないね。
医学生医学生
装具は覆う範囲と、保ちたい肢位で適応が決まるということですね。
ドクタードクター
まさにそれ。最後に発展知識を。短下肢装具にはプラスチック製のほかに金属支柱付きのものがあって、足継手で底背屈の制動や補助を調整できる。痙縮が強くて矯正力が必要な内反尖足では金属支柱付きのほうが向くことがあるし、重度の痙縮にはボツリヌス毒素の局所注射を併用することもある。脳卒中の急性期で膝折れがある時期には、大腿まで覆う長下肢装具で立位訓練を始めることも多い。そして臨床で大事なのは予防だ。入院中の臥床やギプス固定では、腓骨頭部の圧迫を避けて総腓骨神経麻痺をつくらないよう気を配ろう。

まとめ

靴べらのような形で下腿後面から足底までを覆うシューホーン型装具は短下肢装具であり、足関節を中間位に保持して足先の垂れ下がりと内反を防ぎ、歩行を安定させます。代表的な適応は、総腓骨神経麻痺などで背屈筋が弛緩性に麻痺し鶏歩となる下垂足と、脳卒中片麻痺などの痙縮で底屈・内反位に引き込まれ分回し歩行の一因となる内反尖足です。外反母趾には足趾矯正具や足底挿板、乳児の股関節脱臼にはリーメンビューゲル装具、膝蓋骨脱臼には膝の固定や制動具と、部位ごとに用いる装具は異なります。装具は覆う範囲の関節にしか作用しないため、支持範囲と保持したい肢位から適応を考えることが基本です。この考え方は、リハビリテーションの場で患者さんに適した装具を選ぶ際の土台になります。

解答・解説

正解はa, cです

図の装具

図は下腿後面から足底までを一体のプラスチックで覆う短下肢装具(AFO: ankle-foot orthosis)であり、形が靴べらに似ていることからシューホーン型(靴べら型)短下肢装具と呼ばれる。膝関節にはかからず、下腿と足部のみを支持する。

短下肢装具の働き

短下肢装具の主な役割は、足関節を中間位(底屈0°前後)付近に保持して、歩行中に足先が垂れ下がる(底屈する)のを防ぐことである。これにより ・遊脚期に足尖が床に引っかかるのを防ぐ(つまずき防止) ・立脚期の足関節を安定させ、踵から接地できるようにする ・足部の内反を抑え、足関節の捻挫や変形の進行を防ぐ といった効果が得られる。

考え方

したがって適応は、足関節の背屈ができない、あるいは底屈・内反方向へ引き込まれる病態である。前者の代表が総腓骨神経麻痺などによる下垂足、後者の代表が脳卒中後片麻痺などの痙性による内反尖足である。股関節や膝関節の疾患は、この装具の支持範囲(下腿〜足部)に含まれないため適応とならない。

選択肢考察

  1. ○a.  下垂足

    下垂足(drop foot)は足関節と足趾の背屈筋(前脛骨筋、長趾伸筋、長母趾伸筋)の麻痺により、足が垂れ下がった状態となるものである。原因として最も多いのは総腓骨神経麻痺で、腓骨頭の外側を浅く走行する総腓骨神経が、長時間の下肢外旋位での臥床、ギプスや弾性ストッキングによる圧迫、足を組む姿勢などで圧迫されて生じる。ほかにL5神経根障害やCharcot-Marie-Tooth病などでもみられる。歩行時には足尖が床に引っかからないよう膝を高く上げる鶏歩(steppage gait)となる。短下肢装具で足関節を背屈位寄りに保持すると、遊脚期の足尖の引っかかりが防げ、歩行が安定する。よって適応となる。

  2. ×b.  外反母趾

    外反母趾は母趾が中足趾節関節(MTP関節)で第2趾側へ「く」の字に曲がる前足部の変形であり、足関節の底背屈を制御する短下肢装具は適応とならない。保存療法としては、つま先にゆとりのある靴への変更、母趾と第2趾の間に挟む矯正具(外転装具)、横アーチ・縦アーチを支える足底挿板(アーチサポート)、母趾外転筋の運動療法などを行う。疼痛や変形が高度な場合は骨切り術などの手術を検討する。

  3. ○c.  内反尖足

    内反尖足は足関節が底屈(尖足)し、同時に足部が内側へ返る(内反)変形である。脳卒中後の片麻痺や脳性麻痺などで下腿三頭筋や後脛骨筋の痙縮(筋緊張の亢進)が生じると、この肢位に引き込まれる。歩行時には足尖や足部外側から接地するため不安定となり、遊脚期には足尖が引っかかって、患側下肢を外側へ回して振り出す分回し歩行の一因にもなる。短下肢装具で足関節を中間位に保持し内反を抑えることで、踵からの接地と安定した立脚が可能となる。よって適応となる。脳卒中片麻痺のリハビリテーションで最もよく処方される装具である。

  4. ×d.  股関節脱臼

    股関節脱臼は股関節の疾患であり、下腿と足部を支える短下肢装具の適応とはならない。乳児の発育性股関節形成不全(DDH)では、リーメンビューゲル装具(Pavlik harness)を用いて股関節を屈曲・外転位に保ち、下肢の自動運動を利用して整復を図る。外転・屈曲位では大腿骨頭が臼蓋に深く収まり求心位が得られやすい。外傷性股関節脱臼では整復後に安静・牽引などを行う。

  5. ×e.  膝蓋骨脱臼

    膝蓋骨脱臼は膝関節(膝蓋大腿関節)の疾患であり、短下肢装具の適応とはならない。膝蓋骨は大部分が外側へ脱臼する。初回脱臼では整復後に、膝関節伸展位での固定(ニーブレースなど)や、膝蓋骨の外側移動を抑える膝蓋骨制動用のサポーターを用い、大腿四頭筋(特に内側広筋)の筋力訓練を行う。脱臼を繰り返す反復性・習慣性膝蓋骨脱臼では、内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)再建術などの手術を検討する。

下肢装具の分類

・足底挿板(インソール): 扁平足、外反母趾、足底腱膜炎など足部の変形・疼痛に用いる。 ・短下肢装具(AFO): 下腿〜足部。下垂足、内反尖足、足関節の不安定性に用いる。プラスチック製(シューホーン型など)と、金属支柱付きのもの(足継手で底背屈の制動・補助を調整できる)がある。痙縮が強く内反尖足の矯正力が必要な場合は、金属支柱付きの方が適することがある。 ・長下肢装具(KAFO): 大腿〜足部。膝折れを防ぎ、膝と足関節の両方を支持する。脳卒中急性期の早期立位・歩行訓練、対麻痺などに用いる。 ・股関節装具: リーメンビューゲル装具(DDH)、外転免荷装具(Perthes病)など。 ・膝装具: 膝靱帯損傷後の不安定性、変形性膝関節症などに用いる。

下垂足と内反尖足の違い

・下垂足: 背屈筋の弛緩性麻痺(主に総腓骨神経麻痺)。足関節は他動的には容易に背屈できる。鶏歩。 ・内反尖足: 底屈筋・内反筋の痙縮(中枢神経障害)。他動的な背屈に抵抗がある。分回し歩行。重度の痙縮にはボツリヌス毒素の局所注射が併用されることがある。 いずれも歩行の妨げとなる足関節の底屈を短下肢装具で制御する点は共通である。

POINT

・シューホーン型装具は短下肢装具(AFO)であり、足関節を中間位に保持して底屈・内反を防ぐ。 ・適応の代表: 下垂足(総腓骨神経麻痺)と内反尖足(脳卒中片麻痺の痙縮)。 ・総腓骨神経は腓骨頭の外側で圧迫されやすい(下肢外旋位の臥床、ギプス)。下垂足では鶏歩となる。 ・DDHにはリーメンビューゲル装具、外反母趾には足趾矯正具・足底挿板と、部位に応じた装具を対応させて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。