StudyMed医師国家試験

薬害の歴史と医原性疾患―「生物学的製剤」と「血液製剤」を取り違えるな

第115回医師国家試験 C問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第16問

医療行為とそれによる疾患の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.輸血 ―― ヘモクロマトーシス
  2. b.副木固定 ―― 腓骨神経麻痺
  3. c.生物学的製剤の使用 ―― HIV感染
  4. d.ヒト乾燥硬膜の使用 ―― Creutzfeldt-Jakob病
  5. e.プレドニゾロン長期内服 ―― 二次性副腎機能不全

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医療行為そのものが病気を生む「医原性疾患」の問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、それぞれの医療行為がどんな仕組みで健康被害を起こすのかを考えて、因果関係が成り立たない組合せを探そう。
医学生医学生
医療行為で病気になるというと、まず感染症や薬の副作用が思い浮かびます。
ドクタードクター
いい出発点だね。整理すると、物質が過剰にたまる、物理的に圧迫される、病原体がうつる、体の調節系が抑えられる、という4つくらいの機序に分けられる。まず輸血とヘモクロマトーシスから考えてみよう。
医学生医学生
輸血で鉄が入ってくるのは分かりますが、余った鉄は排泄されないんですか。
ドクタードクター
そこがポイントで、ヒトには鉄を積極的に体外へ出す仕組みがほとんどないんだ。赤血球輸血1単位にはおよそ100mgの鉄が含まれるから、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群で輸血を繰り返すと、肝臓・心臓・膵臓などに鉄が沈着する。これが輸血後鉄過剰症、つまり続発性ヘモクロマトーシスで、正しい組合せだ。
医学生医学生
血液内科の実習で、フェリチンを見ながら鉄キレート剤を飲んでいる患者さんがいました。
ドクタードクター
まさにそれだね。次は副木固定と腓骨神経麻痺。解剖学の実習を思い出してほしい。
医学生医学生
総腓骨神経は腓骨頭のすぐ下を巻くように走っていて、皮膚の直下にあるんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。骨と皮膚の間に神経が挟まれる形だから、副木やギプスで膝の外側が押されると麻痺し、足首や足趾が背屈できない下垂足になる。だから下肢を固定するときは腓骨頭にパッドを当てて保護する。これも正しい組合せだ。
医学生医学生
ヒト乾燥硬膜とCreutzfeldt-Jakob病は、薬害として講義で習いました。
ドクタードクター
そうだね。脳外科手術で硬膜の補填に使われたヒト死体由来の乾燥硬膜に異常プリオンが含まれていて、日本では多くの患者が医原性CJDを発症した。プリオンは通常の滅菌では不活化されにくいのが厄介なところだ。角膜移植やヒト下垂体由来の成長ホルモン製剤も伝播経路として知られている。
医学生医学生
プレドニゾロンの長期内服で副腎機能不全になるのは、フィードバックのせいですよね。でも副腎が原因なら一次性じゃないんですか。
ドクタードクター
よくある混乱だね。外からステロイドが入ると、負のフィードバックでCRHとACTHの分泌が抑えられる。ACTHの刺激が途絶えて副腎皮質が萎縮するから、原因はACTH低下、つまり二次性に分類されるんだ。この状態で急に中止したり、感染や手術でストレスがかかると副腎クリーゼを起こしうる。
医学生医学生
ということは、残る生物学的製剤とHIV感染が誤りですね。でも薬害エイズは「製剤」が原因でしたよね。
ドクタードクター
そこが出題の狙いだ。薬害HIV感染の原因は、1980年代に血友病患者へ投与された非加熱の血液凝固因子製剤、つまりヒトの血液を原料とする血液製剤なんだ。一方、生物学的製剤はTNF-α阻害薬やIL-6受容体抗体のように、遺伝子組換え技術で培養細胞から作る薬で、ヒト血液を原料としない。だから製剤を介してHIVがうつることはない。
医学生医学生
「生物」という言葉に引っ張られて、血液由来のものと混同しかけていました。
ドクタードクター
名前が似ているから無理もないよ。ただ、生物学的製剤にも感染のリスクはある。免疫を抑えるから、結核の再燃、B型肝炎ウイルスの再活性化、ニューモシスチス肺炎などの日和見感染には注意が必要だ。
医学生医学生
膠原病内科の実習で、投与前にIGRAやHBs抗原・HBc抗体を必ずチェックしていた理由が分かりました。
ドクタードクター
その通り。発展知識として、薬害C型肝炎はフィブリノゲン製剤や非加熱第IX因子製剤が原因だったこと、輸血後GVHDは製剤中のリンパ球が原因で放射線照射で予防することも押さえておこう。現在は献血血液に核酸増幅検査が行われ、血液製剤もウイルス不活化処理がされているから、輸血によるHIV感染は極めてまれになっている。
医学生医学生
医原性疾患は、機序ごとに整理すると覚えやすいですね。
ドクタードクター
そうだね。どの医療行為にも利益とリスクがあり、リスクを知っていれば予防できるものも多い。それを意識して臨床に臨んでほしい。

まとめ

医原性疾患は、物質の過剰負荷、物理的圧迫、病原体の伝播、調節系の抑制といった機序で整理すると理解しやすくなります。頻回輸血による続発性ヘモクロマトーシス、副木による腓骨頭部の圧迫で生じる総腓骨神経麻痺、ヒト乾燥硬膜移植による医原性Creutzfeldt-Jakob病、ステロイド長期投与によるACTH抑制からの二次性副腎機能不全は、いずれも正しい組合せです。一方、薬害HIV感染の原因は非加熱血液凝固因子製剤という血液製剤であり、遺伝子組換え技術で作られる生物学的製剤ではHIVは伝播しません。ただし生物学的製剤は免疫抑制により結核再燃やHBV再活性化を招くため、投与前のスクリーニングが欠かせません。過去の薬害の教訓と各医療行為のリスクを正しく理解することは、安全な医療を実践するための基盤となります。

解答・解説

正解はcです

医療行為そのものが原因となって生じる疾患(医原性疾患)についての知識を問う一般問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、医療行為と疾患の間に因果関係が成り立たない組合せを一つ選ぶ。 考え方としては、各医療行為がどのような機序で健康被害をもたらしうるかを整理するとよい。 ・物質の過剰負荷:輸血による鉄の蓄積 ・物理的な圧迫:ギプスや副木による末梢神経の圧迫 ・病原体の伝播:ヒト由来の材料を介した感染(プリオン、ウイルス) ・生体の調節系の抑制:外因性ステロイドによる視床下部-下垂体-副腎系の抑制 このうち「生物学的製剤」は、臨床では主にモノクローナル抗体などの抗サイトカイン療法薬(TNF-α阻害薬など)を指す。これらは遺伝子組換え技術で培養細胞から作られる薬剤であり、ヒトの血液を原料とするものではない。日本で薬害HIV感染(薬害エイズ)を起こしたのは、血友病患者に投与された非加熱血液凝固因子製剤という血液製剤であり、生物学的製剤ではない。この区別ができれば正解に到達できる。

選択肢考察

  1. ×a.  輸血 ―― ヘモクロマトーシス

    正しい組合せである。ヒトには鉄を能動的に体外へ排泄する仕組みがほとんどなく、赤血球輸血1単位(200 mL献血由来)にはおよそ100 mgの鉄が含まれる。再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、サラセミアなどで輸血を繰り返すと、余剰の鉄が肝臓・心臓・膵臓・内分泌臓器などに沈着し、臓器障害を起こす。これが輸血後鉄過剰症(続発性ヘモクロマトーシス)であり、血清フェリチン値の上昇で評価し、デフェラシロクスなどの鉄キレート剤で治療する。

  2. ×b.  副木固定 ―― 腓骨神経麻痺

    正しい組合せである。総腓骨神経は膝窩から下腿外側へ出て、腓骨頭(腓骨の上端)のすぐ下を外側から前方へ巻き付くように走る。この部位では神経が皮膚のすぐ下で骨に接しているため、外からの圧迫に弱い。副木やギプスで膝外側が圧迫されると麻痺を起こし、足関節と足趾が背屈できない下垂足(drop foot)や、下腿外側から足背の感覚障害が生じる。下肢を固定する際は腓骨頭部にパッドを当てるなどして圧迫を避ける必要がある。足を組む、長時間の側臥位、きついストッキングなどでも同様の麻痺が起こる。

  3. ○c.  生物学的製剤の使用 ―― HIV感染

    誤った組合せであり、これが正解である。生物学的製剤とは、TNF-α阻害薬(インフリキシマブなど)、IL-6受容体抗体(トシリズマブ)など、生物が作るタンパク質を利用し、遺伝子組換え技術で培養細胞から製造される薬剤である。関節リウマチや炎症性腸疾患などに用いられる。免疫を抑えるため、結核の再燃、B型肝炎ウイルスの再活性化、ニューモシスチス肺炎などの日和見感染のリスクは上がる。しかし、ヒト血液を原料としないため、製剤を介してHIVが感染することはない。HIVの医原性感染として歴史的に問題となったのは、1980年代に血友病患者へ投与された非加熱の血液凝固因子製剤(血液製剤)である。現在は加熱処理やウイルス不活化処理を行った製剤や遺伝子組換え製剤が使われ、献血血液にも核酸増幅検査(NAT)が行われているため、輸血・血液製剤によるHIV感染は極めてまれになっている。

  4. ×d.  ヒト乾燥硬膜の使用 ―― Creutzfeldt-Jakob病

    正しい組合せである。Creutzfeldt-Jakob病(CJD)は、異常型プリオン蛋白が脳に蓄積して急速に進行する認知症、ミオクローヌスなどを起こす致死的疾患である。ほとんどは原因不明の孤発性だが、医療行為によって伝播する医原性CJDもある。代表例は脳神経外科手術で硬膜の補填に使われたヒト死体由来の乾燥硬膜(ヨーロッパの製品)の移植で、日本では多数の患者が発生し薬害として問題になった。プリオンは通常の滅菌法では不活化されにくい。このほか、角膜移植、ヒト下垂体由来の成長ホルモン製剤、汚染された脳外科手術器具も感染経路として知られる。日本ではヒト乾燥硬膜の使用は1997年に禁止された。

  5. ×e.  プレドニゾロン長期内服 ―― 二次性副腎機能不全

    正しい組合せである。外から投与された糖質コルチコイドは、負のフィードバックで視床下部のCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)と下垂体のACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌を抑える。長期間続けるとACTHによる刺激がなくなり、副腎皮質が萎縮して、自分でコルチゾールを十分に作れなくなる。この状態でステロイドを急に中止したり、感染や手術などのストレスで需要が増えたりすると、副腎不全(副腎クリーゼ)を起こして低血圧、ショック、低血糖などをきたしうる。原因が副腎そのものではなくACTH分泌の低下にあるため、二次性副腎機能不全に分類される。ステロイドの減量は段階的に行い、ストレス時には補充量を増やす(ステロイドカバー)。

医原性疾患の主な例

・薬害HIV感染:非加熱血液凝固因子製剤(血友病患者) ・薬害C型肝炎:フィブリノゲン製剤、非加熱血液凝固第IX因子製剤 ・医原性CJD:ヒト乾燥硬膜、角膜移植、ヒト下垂体由来成長ホルモン ・輸血後鉄過剰症:頻回の赤血球輸血 ・輸血後GVHD(移植片対宿主病):輸血製剤中のリンパ球による。放射線照射製剤で予防 ・医原性Cushing症候群・二次性副腎機能不全:糖質コルチコイドの長期投与 ・圧迫性神経麻痺:ギプス・副木による腓骨神経麻痺、手術時の体位による尺骨神経・腕神経叢障害

血液製剤と生物学的製剤の違い

血液製剤はヒト血液を原料とする製剤(赤血球液、新鮮凍結血漿、血小板、アルブミン、免疫グロブリン、凝固因子製剤など)で、原料に由来する感染症を伝播するリスクがある。生物学的製剤は主に遺伝子組換え技術で作られた抗体・受容体融合蛋白などで、ヒト血液由来の感染症のリスクはないが、免疫抑制による感染症(結核、HBV再活性化など)に注意が必要である。

ヘモクロマトーシスの整理

原発性(遺伝性)と続発性に分けられる。原発性はHFE遺伝子変異などによる常染色体潜性(劣性)遺伝で、欧米白人に多く日本ではまれである。続発性の原因は、頻回輸血、鉄剤・鉄の過剰摂取、無効造血(サラセミア、骨髄異形成症候群など)、アルコール多飲などである。男性に多い。肝硬変、糖尿病(いわゆる青銅色糖尿病)、皮膚色素沈着、心不全(心筋症)が代表的な4徴で、このほか下垂体・性腺機能低下などの内分泌障害や関節症を伴う。

POINT

・薬害HIV感染の原因は非加熱血液凝固因子製剤(血液製剤)であり、生物学的製剤ではない。 ・生物学的製剤(TNF-α阻害薬など)で問題になるのは免疫抑制による結核再燃やHBV再活性化である。 ・頻回輸血 → 続発性ヘモクロマトーシス(輸血後鉄過剰症)。 ・腓骨頭部の圧迫 → 総腓骨神経麻痺 → 下垂足。 ・ヒト乾燥硬膜 → 医原性Creutzfeldt-Jakob病。 ・ステロイド長期投与 → ACTH分泌抑制 → 二次性副腎機能不全。急な中止は副腎クリーゼの危険。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。