川崎病から14年―成長とともに伸びる内胸動脈グラフトを読み解く
第115回医師国家試験 A問題 第64問
国試問題にチャレンジ
17歳の男子。冠動脈バイパス術後の定期診察で来院した。3歳時に川崎病と診断され入院加療となった。冠動脈瘤が認められたため,退院後,冠動脈病変についてもフォローアップが行われた。8歳時に施行された冠動脈造影では,左右冠動脈に病変が認められた。その際の左冠動脈の造影像(A)を下に示す。その後,左右の冠動脈に1本ずつバイパス血管吻合術が行われた。今回,バイパス血管の開存の確認のため心電図同期の胸部造影CT(B)を行った。 正しいのはどれか。

- a.バイパス血管に多数の石灰化が認められる。
- b.左冠動脈の瘤病変(▲)は左回旋枝に存在している。
- c.冠動脈へのバイパス血管は2本とも開存している。
- d.バイパス血管には2本とも大伏在静脈が用いられている。
- e.バイパス血管は瘤病変より近位部の冠動脈に吻合されている。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
若年者の冠動脈バイパス術後では、まず川崎病後遺症としての冠動脈瘤と、その前後の狭窄・閉塞を考えます。冠動脈造影では、心尖部へ下る左前下行枝と房室間溝を回る左回旋枝を走行で見分け、川崎病の瘤は左前下行枝や右冠動脈の近位部に好発します。心電図同期造影CTでは、グラフトの起始部から種類を判断し、吻合部の先まで途切れず造影されていれば開存と読みます。小児では成長に追随し長期開存率の高い内胸動脈が第一選択で、グラフトは病変より遠位の冠動脈に吻合します。急性期治療による瘤の予防から成人期までの長期管理まで、川崎病を一生涯の視点で捉えることが臨床では重要です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・17歳男子。3歳時に川崎病を発症し、冠動脈瘤を合併した。 ・8歳時の冠動脈造影(CAG)で左右両方の冠動脈に病変があり、その後左右の冠動脈に1本ずつ冠動脈バイパス術(CABG:coronary artery bypass grafting)が行われた。 ・若年であり、動脈硬化による冠動脈疾患は考えにくい。川崎病後遺症としての冠動脈瘤と、その前後に生じた狭窄・閉塞性病変に対してバイパス術が行われたと理解できる。
画像の読み方
・左冠動脈造影像(A):左冠動脈主幹部から分かれる2本の枝のうち、心臓の前面を心尖部方向へ下る左前下行枝(LAD)に瘤状の拡張(▲)がみられる。左回旋枝は房室間溝に沿って心臓の左側〜後面へ回り込む枝であり、瘤はこちらにはない。 ・心電図同期胸部造影CTの3D再構築像(B):胸骨の裏側を左右に縦走する内胸動脈(ITA:internal thoracic artery)が鎖骨下動脈から連続して下行し、それぞれ心臓表面の冠動脈へつながっている。2本のグラフトは途中で途切れることなく末梢の冠動脈まで造影されており、開存していると判断できる。グラフトに石灰化を思わせる高吸収域は目立たない。
考え方
造影CTでグラフトが末梢吻合部まで連続して描出されていれば開存、途中で途絶していれば閉塞と判断する。グラフトの起始部(大動脈から出ているか、鎖骨下動脈から出ているか)でグラフトの種類を見分け、瘤より末梢の冠動脈に吻合されていることを確認する。これらを踏まえて各選択肢を検討する。
選択肢考察
- ×a. バイパス血管に多数の石灰化が認められる。
CT(B)でバイパス血管は均一に造影されており、石灰化を示す斑状の高吸収域はみられない。内胸動脈は動脈硬化を起こしにくい血管であり、患者も17歳と若い。なお川崎病では、冠動脈瘤の壁(自己の冠動脈側)に経年的に石灰化が生じることはある。
- ×b. 左冠動脈の瘤病変(▲)は左回旋枝に存在している。
造影像(A)の瘤は、左冠動脈主幹部から分岐して心室中隔に沿って心尖部へ向かう左前下行枝の近位部に位置している。左回旋枝ではない。川崎病の冠動脈瘤は左前下行枝や右冠動脈の近位部、分岐部付近に好発する。
- ○c. 冠動脈へのバイパス血管は2本とも開存している。
CT(B)では、左右の内胸動脈グラフトがそれぞれ起始部から末梢の吻合部まで途切れなく造影され、吻合先の冠動脈も描出されている。グラフト内に造影剤が流れていることは、血流が保たれている=開存していることを意味する。心電図同期CTは心拍動によるぶれを抑えて撮影でき、カテーテルを用いずにグラフト開存を評価する方法として有用である。
- ×d. バイパス血管には2本とも大伏在静脈が用いられている。
CT(B)のグラフトは胸骨裏面を縦走し、鎖骨下動脈から連続しているので、左右の内胸動脈を用いた有茎グラフトである。大伏在静脈グラフトであれば上行大動脈から起始する形で描出される。小児では、静脈グラフトは長期開存率が低く、身体の成長に合わせて伸びないのに対し、内胸動脈グラフトは成長に伴って長さ・径が増し、長期開存率も良好であるため、内胸動脈が第一選択となる。
- ×e. バイパス血管は瘤病変より近位部の冠動脈に吻合されている。
冠動脈バイパス術の目的は、狭窄・閉塞部位(本例では瘤とその前後の病変)を迂回して、その先の心筋へ血液を届けることである。したがってグラフトは病変より遠位(末梢)の冠動脈に吻合される。近位部に吻合しても、血流は病変を通過しなければならず意味がない。
川崎病の冠動脈病変
川崎病は主に4歳以下の乳幼児に起こる原因不明の全身性の中型血管炎である。主要症状は、発熱、両側眼球結膜充血、口唇の紅潮・いちご舌、不定形発疹、四肢末端の変化(急性期の手足の硬性浮腫・掌蹠の紅斑、回復期の指先からの膜様落屑)、非化膿性頸部リンパ節腫脹の6つである。 最も重要な合併症が冠動脈瘤で、急性期に免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)とアスピリンで速やかに炎症を鎮めることが瘤形成の予防になる。冠動脈瘤は小・中・巨大瘤に分類され、内径8mm以上(または体表面積で補正したZスコア10以上)の巨大瘤は退縮しにくく、瘤内の血栓や、瘤の入口・出口部の内膜肥厚による狭窄が進行し、遠隔期の心筋梗塞や突然死の原因となる。
遠隔期の管理
・抗血小板薬(アスピリンなど)、巨大瘤では抗凝固薬(ワルファリン)を併用する。 ・定期的な心エコー、冠動脈CT・MRI、負荷検査、冠動脈造影で評価する。 ・虚血を伴う高度狭窄に対しては、カテーテル治療(PCI)または冠動脈バイパス術を選択する。左冠動脈主幹部病変、多枝病変、左前下行枝近位部病変などではバイパス術が優先される。
小児CABGのグラフト
内胸動脈(特に有茎で用いる)は成長に追随し、長期開存率が高い。大伏在静脈は小児では長期開存性に劣るため、原則として選択しない。
POINT
・若年者の冠動脈バイパス術後とあれば、まず川崎病後遺症の冠動脈瘤・狭窄を考える。 ・川崎病冠動脈瘤は左前下行枝・右冠動脈の近位部に好発する。 ・小児のバイパスグラフトは内胸動脈が第一選択(成長に追随し長期開存性が良い)。 ・グラフトは病変より遠位の冠動脈に吻合する。 ・造影CTでグラフトが吻合部まで連続して造影されれば開存と判断する。
