検診で偶然見つかった乳房のしこり―画像で「癌らしい」と思っても、まず組織を採る理由
第115回医師国家試験 A問題 第22問
国試問題にチャレンジ
77歳の女性。肺がん検診の低線量CTで左乳房腫瘤を指摘されたため受診した。マンモグラム(A)及び乳房超音波像(B)を下に示す。 次に行うのはどれか。

- a.造影CT
- b.造影MRI
- c.経皮的針生検
- d.FDG-PET/CT
- e.骨シンチグラフィ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
マンモグラフィでスピキュラを伴う腫瘤、超音波で不整形・境界不明瞭・後方エコー減弱の低エコー腫瘤を認めれば乳癌を強く疑いますが、画像だけでは確定できず、次に行うのは経皮的針生検による病理組織診断です。コア針生検では組織型や浸潤の有無に加えてER・PgR・HER2・Ki-67を評価でき、サブタイプ分類と薬物療法の選択につながります。造影MRIは乳房内の広がり診断、造影CT・FDG-PET/CT・骨シンチグラフィは遠隔転移の検索に用いる検査で、いずれも確定診断後に病期や症状に応じて行います。「確定診断→広がり診断→転移検索」という順序を理解しておくことは、乳癌に限らず悪性腫瘍診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・77歳の女性。症状はなく、肺がん検診の低線量CTで偶然に左乳房の腫瘤が見つかった。乳癌の罹患率は高齢でも高く、70歳代は十分に乳癌を考えるべき年齢である。 ・マンモグラム(A):乳腺内に高濃度の不整形の腫瘤があり、辺縁から放射状に細い線状影(スピキュラ)が伸びている。スピキュラを伴う腫瘤は、癌が周囲の組織へ浸潤し線維化を起こしていることを反映し、悪性を強く疑う所見である。 ・乳房超音波像(B):内部が低エコーで形の不整な腫瘤を認め、境界は不明瞭・粗糙で、腫瘤の後方のエコーが減弱している(後方エコーの減弱)。縦横比(腫瘤の縦径/横径)が大きい点も含め、浸潤性乳癌を示唆する所見である。
診断へのプロセス
乳房腫瘤の主な鑑別は乳癌、線維腺腫、乳腺症、嚢胞、葉状腫瘍などである。線維腺腫は主に10~30歳代に多く、マンモグラムでは境界明瞭で平滑な腫瘤、超音波では楕円形で境界明瞭、内部均一な腫瘤として描出される。乳腺症は30歳代~閉経前後に多く、閉経後の高齢女性で新たに出現するのは考えにくい。本例は高齢であることに加え、両画像とも悪性を示す所見がそろっており、乳癌が強く疑われる。
設問の考え方
画像検査で乳癌が強く疑われても、それだけで癌と確定することはできない。治療(手術・薬物療法)に進むには病理組織学的に診断を確定する必要がある。したがって次に行うのは、腫瘤から組織を採取する経皮的針生検である。広がり診断(MRI)や遠隔転移の検索(CT、PET/CT、骨シンチグラフィ)は、確定診断がついてから病期決定・治療方針決定のために行う検査である。
選択肢考察
- ×a. 造影CT
次に行う検査ではない。造影CTは、乳癌の確定診断後に、肺・肝・リンパ節などへの遠隔転移の有無を調べ、病期(TNM分類のM因子など)を決めるために用いる。組織診断がつく前に行っても乳癌の確定にはならない。
- ×b. 造影MRI
次に行う検査ではない。ガドリニウム造影剤を用いた乳房MRIは、乳管内進展を含む病変の広がりや、同側・対側の別の病変の有無を評価するのに優れ、乳房部分切除術が可能かどうかなど術式の決定に役立つ。ただし通常は針生検で乳癌と確定した後に行う広がり診断の検査であり、本例の次の一手ではない。
- ○c. 経皮的針生検
次に行うべき検査である。マンモグラフィと超音波で乳癌が強く疑われる腫瘤に対しては、超音波ガイド下などで経皮的に針を刺して組織を採取し、病理組織学的に確定診断を得る(太い針で組織片を採るコア針生検や、吸引式の組織生検がある)。組織が得られるため、浸潤癌か非浸潤癌かの判定に加え、免疫組織化学染色でエストロゲン受容体(ER)・プロゲステロン受容体(PgR)、HER2、Ki-67(増殖能の指標)などを調べることができる。これらによってサブタイプ(ルミナルA・ルミナルB・HER2陽性・トリプルネガティブなど)を決め、ホルモン療法、抗HER2療法、化学療法などの薬物療法を選ぶ。
- ×d. FDG-PET/CT
次に行う検査ではない。FDG-PET/CTは、ブドウ糖類似物質(18F-フルオロデオキシグルコース)が糖代謝の盛んな癌細胞に集まる性質を利用して全身の病変を検索する検査で、確定診断後の遠隔転移の検索や再発診断に用いられる。炎症にも集積し、小さな癌や一部の組織型では集積が乏しいこともあるため、乳癌の確定診断の手段にはならない。
- ×e. 骨シンチグラフィ
次に行う検査ではない。骨シンチグラフィは乳癌の好発転移部位である骨への転移を全身にわたって検索する検査である。確定診断後、局所進行癌であったり骨痛やALP上昇などで骨転移が疑われたりする場合に行う。無症状の早期乳癌では骨転移の頻度が低く、ルーチンには推奨されない。本例ではまだ診断も確定していない。
乳癌の診断の流れ
1.問診・視診・触診:腫瘤、皮膚のくぼみ(えくぼ徴候)、乳頭からの血性分泌、腋窩リンパ節腫大などを確認する。 2.画像検査:マンモグラフィと乳房超音波検査。高濃度乳房(乳腺組織が多く、マンモグラフィで病変が隠れやすい)の若年者では超音波が有用である。 3.病理診断:画像で悪性が疑われれば、細胞診または組織診(針生検)で確定診断する。治療前の確定診断と薬物療法の選択のため、ホルモン受容体やHER2を評価できる組織診が基本である。 4.広がり・病期診断:乳房MRIで乳房内の広がり、造影CTやPET/CT、骨シンチグラフィなどで遠隔転移を評価する(病期や症状に応じて選択)。
悪性を示唆する画像所見
・マンモグラフィ:スピキュラを伴う腫瘤、境界不明瞭・微細鋸歯状の辺縁、微細線状・分枝状や区域性に分布する微小石灰化、構築の乱れ ・超音波:形状不整、境界不明瞭・粗糙、内部不均一な低エコー、後方エコーの減弱、縦横比が大きい、前方境界線の断裂(周囲への浸潤を示す)
良性腫瘤の典型
・線維腺腫:10~30歳代、可動性良好、境界明瞭平滑な楕円形、内部均一。高齢者では粗大な石灰化(ポップコーン様)を伴うことがある。 ・嚢胞:超音波で内部無エコー、後方エコー増強。
針生検の種類
・穿刺吸引細胞診(FNA):細い針で細胞を吸引する。侵襲が少ないが、浸潤の有無やホルモン受容体などの評価は難しい。 ・コア針生検(CNB):太い針で組織の芯を採取する。組織型、浸潤の有無、ER・PgR・HER2などが評価でき、現在の標準的な方法である。 ・吸引式組織生検(VAB):より多くの組織を採取でき、石灰化病変の診断などに用いられる。
POINT
・画像(マンモグラフィ・超音波)で乳癌を疑っても、確定診断は病理診断(経皮的針生検)で行う ・マンモグラフィのスピキュラを伴う腫瘤、超音波の不整形・境界不明瞭・後方エコー減弱は悪性を示唆する ・針生検の組織でER、PgR、HER2、Ki-67を評価し、サブタイプと薬物療法を決める ・造影MRI=乳房内の広がり診断、造影CT・PET/CT・骨シンチグラフィ=遠隔転移検索。いずれも確定診断後に行う ・線維腺腫は若年者に多く、境界明瞭平滑な腫瘤
