「入院させてください」と言える力―統合失調症の再燃と任意入院の原則
第114回医師国家試験 F問題 第41問
国試問題にチャレンジ
25歳の男性。幻聴を主訴に兄に連れられて来院した。昨日から「そばに人がいないのに,考えていることを批判し動作を命令する声が聞こえてくる。つらくて仕方がない」と苦痛を伴った幻聴を訴えるようになったため,精神科病院を受診した。この病院で3年前に統合失調症と診断され,通院中であった。患者はこの声が聞こえなくなるよう入院の上で治療して欲しいと訴えている。 適切な入院形式はどれか。
- a.応急入院
- b.自由入院
- c.任意入院
- d.医療保護入院
- e.緊急措置入院
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
精神科の入院形式は精神保健福祉法に基づき、まず本人が入院に同意できるかで判断し、同意があれば任意入院が原則となります。同意がない場合、自傷他害のおそれがあれば措置入院(急迫時は指定医1名・72時間の緊急措置入院)、おそれはないが医療と保護のために入院が必要なら家族等の同意による医療保護入院、家族等の同意がすぐに得られない緊急時は応急入院を選びます。本問は統合失調症の再燃で命令性幻聴に苦しむ患者さんが自ら入院を希望しており、家族の同伴や症状の内容にかかわらず任意入院が適切で、「自由入院」は法律上の入院形態ではありません。任意入院では書面による同意と権利告知が必要で、退院の申し出には指定医の判断で72時間まで制限できる点も押さえておきましょう。入院形態の選択は患者さんの人権に直結するため、本人の意思を尊重する原則を理解しておくことが臨床でも重要です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・25歳男性。3年前に統合失調症と診断され、通院中である。 ・昨日から「誰もいないのに、考えを批判し、動作を命令する声が聞こえる」と訴えている。これは批判・命令の内容をもつ幻聴(命令性幻聴)で、統合失調症の陽性症状である。 ・本人はこの幻聴をつらいと感じ、「声が聞こえなくなるよう入院して治療してほしい」と自分から入院を希望している。 ・自傷や他害のおそれを示す記載はない。
病態の判断
統合失調症の再燃(症状の再悪化)と考えられる。統合失調症は通院・服薬中でも、服薬の中断・ストレス・薬の効果不足などをきっかけに再燃しやすい。本例は症状に苦しんでいることを自覚しており、治療が必要だと理解し、入院について自分で判断して意思を示せている。
設問への考え方
精神科への入院形態は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)で定められている。形態を決める手順は次のとおりである。 1. 本人が入院に同意できるか → 同意できれば任意入院 2. 同意できない場合、自傷他害のおそれがあるか → あれば措置入院(急ぐ場合は緊急措置入院) 3. 自傷他害のおそれはないが、医療と保護のために入院が必要か → 家族等の同意があれば医療保護入院、家族等の同意がすぐに得られない緊急時は応急入院 本例は本人が入院を自ら希望し、同意できる状態にある。そのため、本人の意思を尊重した任意入院が適切である。精神保健福祉法でも、精神科病院の管理者は本人の同意に基づく入院が行われるよう努めなければならないとされている。
選択肢考察
- ×a. 応急入院
誤り。応急入院は、本人が入院に同意せず、急いで入院させなければ医療と保護に著しい支障がある一方で、家族等の同意をすぐには得られない場合に用いる。精神保健指定医の診察に基づき、都道府県知事が指定する病院に72時間に限って入院させる制度である。本例は本人が入院に同意しているため、該当しない。
- ×b. 自由入院
誤り。「自由入院」は精神保健福祉法に定められた入院形態ではない。かつては法的な手続きによらない精神科入院を慣例的にこう呼んだこともあったが、1987年に精神衛生法が精神保健法へ改正された際、本人の同意に基づく入院は「任意入院」として法律に明記された。現在、精神科病院への同意入院は任意入院として扱い、手続き(書面での同意、権利の告知など)を踏む必要がある。
- ○c. 任意入院
正しい。任意入院は、本人の同意に基づく入院である。入院時には、退院の請求などの権利を書面で知らせ、本人から書面で同意を得る。本例は幻聴の苦痛を自覚し、自ら入院治療を希望しているため、任意入院が適切である。任意入院の患者が退院を申し出た場合、原則として退院させなければならない。ただし、精神保健指定医が入院の継続が必要と判断したときは、72時間に限って退院を制限できる(特定医師の診察の場合は12時間)。
- ×d. 医療保護入院
誤り。医療保護入院は、精神保健指定医(または特定医師)が医療と保護のために入院が必要と判断したにもかかわらず、本人が入院に同意しない場合に、家族等の同意によって行う入院である。家族等がいない、または意思を示さない場合などは、市町村長が同意する。本例は本人が同意しているため、本人の意思に反する入院形態を選ぶ理由はない。兄が付き添っているが、それだけで医療保護入院になるわけではない。
- ×e. 緊急措置入院
誤り。措置入院は、精神障害のために自傷他害のおそれがある者を、精神保健指定医2名以上の診察結果が一致した場合に、都道府県知事(政令指定都市の市長)の権限で入院させる制度である。緊急措置入院は、その正式な手続きを取る時間がない急迫した状況で、指定医1名の診察により72時間に限って行う措置入院である。本例には自傷他害のおそれを示す所見がなく、本人も同意しているので該当しない。
精神保健福祉法に基づく主な入院形態
・任意入院: 本人が同意する。指定医の診察は入院時には不要。退院の申し出があっても、指定医の判断で72時間(特定医師なら12時間)まで退院を制限できる。 ・医療保護入院: 本人は同意しないが、医療と保護のために入院が必要な場合。指定医1名(緊急時は特定医師、その場合は12時間まで)の診察と、家族等(家族等がいない・意思を示さない場合などは市町村長)の同意で入院させる。2022年の法改正(2024年4月施行)で入院期間が定められ(当初6か月以内、以後は更新の手続き)、家族等が意思を示さない場合にも市町村長が同意できるようになった。 ・応急入院: 本人は同意せず、家族等の同意もすぐに得られないが、急いで入院させる必要がある場合。指定医1名の診察に基づき、知事が指定した応急入院指定病院で72時間まで(特定医師の場合は12時間まで)。 ・措置入院: 自傷他害のおそれがある場合。指定医2名以上の診察結果の一致に基づき、都道府県知事(政令指定都市の市長)の命令で入院させる。本人や家族の同意は不要で、費用は原則公費で負担する。 ・緊急措置入院: 自傷他害のおそれが著しく、急を要する場合。指定医1名の診察で、72時間まで。
入院形態を選ぶ手順
本人が同意する → 任意入院 本人が同意しない+自傷他害のおそれ → 措置入院(急ぐ場合は緊急措置入院) 本人が同意しない+自傷他害のおそれなし+入院が必要 → 医療保護入院(家族等の同意がすぐに得られない緊急時は応急入院)
統合失調症の幻聴
自分の考えや行動を批判したり命令したりする声、自分の考えが声になって聞こえる考想化声、複数の声が自分について話し合う対話性幻聴は、統合失調症に特徴的とされる(シュナイダーの一級症状に含まれるものがある)。
POINT
・本人が入院に同意している → 任意入院が原則である。精神科病院の管理者には、本人の同意に基づく入院に努める義務がある。 ・医療保護入院・応急入院・措置入院は、いずれも本人の同意がない場合の入院形態である。 ・「自由入院」は法律に定められた入院形態ではない。 ・措置入院は指定医2名以上、緊急措置入院・応急入院は指定医1名で、いずれも72時間まで。
