瞳孔の左右差は脳からのSOS―意識障害の患者で眼を診る本当の意味
第114回医師国家試験 E問題 第5問
国試問題にチャレンジ
意識障害のある患者の眼の診察で,最も緊急性が高い所見はどれか。
- a.眼脂
- b.翼状片
- c.眼球結膜の出血
- d.眼瞼結膜の充血
- e.瞳孔径の左右差
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
意識障害の患者における眼の診察は、眼の病気を探すためではなく、瞳孔の大きさ・左右差・対光反射などから脳幹機能や頭蓋内圧の状態を推測するために行います。意識障害に瞳孔不同を伴う場合は、頭蓋内圧亢進による鉤ヘルニアで動眼神経表層の副交感神経線維が圧迫され、病変側の瞳孔が散大していると考え、直ちに頭部CTと減圧などの処置を行う必要があります。眼脂、翼状片、結膜下出血、結膜充血は眼表面に限られた所見で、意識障害の緊急度判断には直結しません。両側縮瞳なら橋出血や中毒、散瞳を伴う動眼神経麻痺なら動脈瘤といった瞳孔所見と病変の対応を理解しておくことは、救急外来や病棟で迅速に重症度を見極めるための基本的な力となります。
解答・解説
正解はeです
意識障害の患者を診るとき、眼の診察は単に眼の病気を探すためではなく、頭蓋内で何が起きているかを推測するための重要な手がかりとなる。特に瞳孔(大きさ・左右差・対光反射)、眼位、眼球運動は、脳幹の機能や頭蓋内圧亢進の程度を反映するため、意識レベルやバイタルサインとともに必ず評価する。 意識障害の患者で瞳孔径に左右差(瞳孔不同)を認めた場合、まず考えるべきは、頭蓋内の占拠性病変(急性硬膜外血腫・急性硬膜下血腫・脳内出血・脳腫瘍など)や脳浮腫で圧が高まり、側頭葉内側の鉤(uncus)がテント切痕を越えて下方へ押し出される鉤ヘルニア(テント切痕ヘルニア)である。鉤ヘルニアでは、テント切痕付近を走る動眼神経が圧迫され、その表層を走る副交感神経線維がまず障害されるため、病変側の瞳孔が散大し対光反射が鈍くなる。さらに進むと中脳・延髄が圧迫されて呼吸停止に至るため、画像検査と血腫除去・減圧などの処置を一刻も早く行う必要がある。 一方、眼脂、翼状片、結膜下出血、結膜充血はいずれも眼表面に限られた局所の所見で、意識障害の原因や生命予後に直結するものではない。したがって、最も緊急性が高いのは瞳孔径の左右差である。
選択肢考察
- ×a. 眼脂
緊急性は低い。眼脂(めやに)はムチンを主成分とする分泌物に、炎症細胞や細菌、剥がれた上皮などが混じったもので、主に結膜炎などの眼表面の炎症で増える。性状により膿性(細菌性結膜炎など)、漿液性・水様性(ウイルス性・アレルギー性など)、粘液性に分けられる。眼局所の所見であり、意識障害の原因や頭蓋内の状態を示すものではない。
- ×b. 翼状片
緊急性は低い。翼状片は、球結膜が主に鼻側(目頭側)から角膜に向かって三角形に伸びてくる慢性の増殖性病変である。高齢者や屋外作業者に多く、紫外線曝露が関係すると考えられている。年単位で徐々に進行し、瞳孔領に及んで視力に影響する場合に手術を行う。急性の変化ではなく、意識障害とも関係しない。
- ×c. 眼球結膜の出血
緊急性は低い。眼球結膜の出血は通常、結膜下の細い血管が破れて起こる結膜下出血を指す。白目が鮮やかな赤色に染まるため目立つが、出血は結膜の下にとどまって眼球内には及ばないため、視力に影響せず、多くは1〜2週間程度で自然に吸収される。咳やいきみ、外傷、高血圧、抗凝固薬内服などが誘因となる。頭部外傷に伴う場合でもそれ自体が救急処置の対象となるわけではない。
- ×d. 眼瞼結膜の充血
緊急性は低い。眼瞼結膜(まぶたの裏側の結膜)の充血は、主に細菌性・ウイルス性・アレルギー性結膜炎などでみられる。眼科的に緊急性のある充血としては急性閉塞隅角緑内障(急性緑内障発作)、細菌性角膜炎、淋菌性結膜炎、眼窩蜂巣炎などがあり、感染拡大防止の観点からは流行性角結膜炎(アデノウイルス)にも注意が要る。ただし、これらは眼局所の疾患であり、意識障害の原因とはならない。なお、中枢神経に関連する眼の充血として内頸動脈海綿静脈洞瘻(球結膜の充血・浮腫、拍動性眼球突出などを示す)があるが、瞳孔不同を伴う意識障害ほど一刻を争う状況ではない。
- ○e. 瞳孔径の左右差
最も緊急性が高い。意識障害に瞳孔不同を伴う場合、頭蓋内圧亢進による鉤ヘルニア(テント切痕ヘルニア)を強く疑う。圧迫された動眼神経の副交感神経線維が障害されて病変側の瞳孔が散大し、対光反射が消失・減弱する。放置すれば脳幹が圧迫されて呼吸停止・死亡に至るため、直ちに頭部CTなどで原因を確認し、血腫除去や減圧処置、浸透圧利尿薬(マンニトールなど)による頭蓋内圧の管理を行う必要がある。瞳孔所見は意識レベルとともに経時的に観察し、変化を見逃さないことが重要である。
意識障害患者の瞳孔所見と主な病変部位
・一側の瞳孔散大(対光反射消失):鉤ヘルニアによる動眼神経圧迫、内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤による動眼神経圧迫 ・両側の縮瞳(ピンホール状、対光反射は保たれる):橋出血、オピオイド中毒、有機リン中毒 ・両側の散大・固定:重度の脳幹障害、脳死、心停止後、抗コリン薬中毒など ・中間位で固定:中脳の障害 ・一側の縮瞳(眼瞼下垂、発汗低下を伴う):Horner症候群(交感神経経路の障害。原因として延髄外側の梗塞〔Wallenberg症候群〕、頸動脈解離、肺尖部の腫瘍〔Pancoast腫瘍〕など)
鉤ヘルニア(テント切痕ヘルニア)
頭蓋内の占拠性病変や脳浮腫で側頭葉内側の鉤がテント切痕から下方へ押し出される状態である。初期には病変側の瞳孔散大がみられ、進行すると意識障害の悪化、片麻痺(多くは病変と反対側。大脳脚が対側のテント縁に押し付けられると病変と同側の麻痺となることもある)、除脳硬直、呼吸パターンの変化などが現れる。Cushing現象(血圧上昇と徐脈)は頭蓋内圧亢進のサインである。
瞳孔不同をきたすその他の病態
・生理的瞳孔不同:健常者の一部にみられ、左右差はおおむね1 mm以内で対光反射は正常。 ・動脈瘤による動眼神経麻痺:散瞳を伴う動眼神経麻痺は、内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤の増大や切迫破裂を示唆し、緊急性が高い。これに対し、糖尿病による動眼神経麻痺では瞳孔が保たれることが多い(瞳孔回避)。 ・Adie症候群(緊張性瞳孔):一側の散瞳、対光反射の減弱と近見反応の相対的保持(対光-近見反応解離)、深部腱反射の低下を伴うことがある。 ・その他:散瞳薬・縮瞳薬の点眼、眼外傷、眼科手術後、急性緑内障発作(中等度散瞳)。
意識障害患者の診察で眼に関して確認すべきこと
瞳孔の大きさと左右差、対光反射、眼位(共同偏視など)、眼球運動(人形の目現象など)、角膜反射、眼底(うっ血乳頭、網膜出血など)。
POINT
・意識障害患者の眼の診察では、瞳孔の大きさ・左右差・対光反射を必ず確認する。 ・意識障害+瞳孔不同(一側散瞳)は鉤ヘルニアを疑い、直ちに画像検査と減圧処置を行う。 ・眼脂、翼状片、結膜下出血、結膜充血は眼局所の所見で、意識障害の緊急度判断には直結しない。 ・散瞳を伴う動眼神経麻痺は動脈瘤による圧迫を、瞳孔が保たれる動眼神経麻痺は糖尿病を考える。
