押すより「離す」が痛い―反跳痛は指先で、診察は痛くないところから
第114回医師国家試験 E問題 第11問
国試問題にチャレンジ
触診による腹膜刺激徴候の確認で誤っているのはどれか。
- a.患者の表情に注意する。
- b.自発痛がない部位から始める。
- c.打診で痛みを訴える部位には慎重に行う。
- d.腹膜刺激が顕著な部位の触診は必要最小限にする。
- e.反跳痛〈rebound tenderness〉は手掌全体で押さえて確認する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
腹膜刺激徴候は、体性神経に支配される壁側腹膜の炎症を反映する所見で、筋性防御、板状硬、反跳痛、打診痛などがあり、腹膜炎を示唆します。触診では患者の表情を観察し、痛みのない部位から始めて痛む部位を最後にし、打診痛のある部位は慎重に、所見が明らかなら触診は最小限にして検査・治療へ進むのが原則です。反跳痛(Blumberg徴候)は手掌全体ではなく2〜3本の指先でゆっくり圧迫して急に離し、局在を評価する手技です。負担の少ない咳嗽試験や踵落とし試験も活用し、正確な所見と患者の苦痛軽減を両立させる姿勢は、急性腹症の診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はeです
腹膜刺激徴候とは、腹腔の内側を覆う壁側腹膜に炎症が及んだときに、腹壁への刺激で誘発される痛みや反射的な筋緊張のことであり、腹膜炎を示唆する重要な身体所見である。壁側腹膜は体性神経(脊髄神経)の支配を受けるため、痛みは鋭く、部位がはっきりしており、体動・振動・圧迫の解除によって増強する。 腹部の触診では、正確な所見を得ることと、患者に不要な苦痛を与えないことの両立が求められる。そのための原則は、(1) 患者の顔を見ながら行う、(2) 痛みのない部位から始めて痛む部位を最後にする、(3) 打診など軽い刺激で痛みが出る部位では強い刺激を避ける、(4) 腹膜刺激が明らかになったら診察を必要以上に繰り返さず検査・治療へ進む、である。 反跳痛(Blumberg徴候)は、腹壁を指先でゆっくり深く圧迫し、急に手を離したときに、押していたときより強い痛みが生じる所見である。圧迫を急に解除すると炎症のある壁側腹膜が急激に動かされて痛みが出る。限局した部位を評価するため、手掌全体ではなく指先(2〜3本の指)で行うのが原則であり、本問ではこの点が誤っている。
選択肢考察
- ×a. 患者の表情に注意する。
正しい記述。腹部の触診中は手元ではなく患者の顔を見る。圧迫や手を離した瞬間に顔をしかめる、身を固くするといった反応は、言葉による訴えよりも客観的に痛みの有無や程度を示し、圧痛点や反跳痛の判定に役立つ。意識障害や高齢者など訴えがはっきりしない患者では特に重要である。
- ×b. 自発痛がない部位から始める。
正しい記述。最初に痛む部位を触ると、患者は痛みへの警戒から腹壁全体に力を入れてしまい(反射的な筋攣縮が広く誘発される)、その後はどこを触っても緊張が強く、筋性防御や圧痛の範囲を正しく判定できなくなる。そのため自発痛の部位から最も離れた所から始め、痛む部位は最後に診察する。
- ×c. 打診で痛みを訴える部位には慎重に行う。
正しい記述。打診は本来、鼓音・濁音から消化管ガスや腹水、肝脾腫などを評価する手技だが、軽く叩くだけで痛みを訴える場合(打診痛)は、その部位の壁側腹膜に炎症が及んでいる可能性が高い。打診程度の刺激で痛む部位を強く押すと強い苦痛を与え、患者がそれ以降の診察に協力しにくくなるため、触診はごく軽い圧から慎重に行う。
- ×d. 腹膜刺激が顕著な部位の触診は必要最小限にする。
正しい記述。腹膜刺激徴候が明らかであれば、消化管穿孔や虫垂炎の穿孔などによる腹膜炎の可能性が高く、緊急性のある病態であることが多い。所見がすでに十分得られているのに繰り返し強く押しても診断上の利益は少なく、苦痛を増すだけである。触診は必要な範囲にとどめ、血液検査や画像検査(CTなど)、外科へのコンサルトを速やかに進める。
- ○e. 反跳痛〈rebound tenderness〉は手掌全体で押さえて確認する。
誤った記述であり、これが正解である。反跳痛は、指先(2〜3本の指)で腹壁をゆっくり圧迫し、すばやく手を離したときに、圧迫時より強い痛みが生じるかをみる手技である。手掌全体で押すと圧が広い範囲に分散し、痛みの局在を特定しにくくなるうえ、急に離したときの刺激が広範囲に及び不必要な苦痛を与える。なお反跳痛は患者への負担が大きいため、打診痛や咳嗽・踵落としによる痛みなど、より負担の少ない方法で腹膜刺激を確認することも多い。
腹痛の種類
・内臓痛:管腔臓器の伸展・攣縮などによる。自律神経(内臓神経)を介し、部位がはっきりしない鈍い痛みで、正中付近に感じることが多い。 ・体性痛:壁側腹膜や腸間膜への炎症・刺激による。脊髄神経を介し、鋭く局在が明瞭で、体動で増強する。腹膜刺激徴候は体性痛の表れである。 ・関連痛:内臓からの刺激が同じ脊髄レベルの皮膚領域に投影される痛み(例:胆嚢疾患での右肩痛)。
主な腹膜刺激徴候
・筋性防御(defense musculaire):触診時に腹壁の筋が反射的に緊張する。 ・板状硬(筋硬直):汎発性腹膜炎で腹壁全体が板のように硬くなる。消化管穿孔などで典型的。 ・反跳痛(Blumberg徴候):圧迫を急に解除したときの痛み。 ・打診痛:軽い打診で痛みが出る。 ・咳嗽試験、踵落とし試験(heel drop test):咳や、つま先立ちから踵を落とす振動で腹痛が増強する。
腹部診察の順序
視診 → 聴診 → 打診 → 触診の順に行う。触診や打診を先に行うと腸蠕動が変化し、聴診所見に影響するためである。診察は仰臥位で膝を軽く曲げさせ、腹壁の緊張を除いて行う。手を温めておくことも筋緊張を防ぐ工夫である。
POINT
・反跳痛は指先でゆっくり押し、すばやく離して確認する(手掌全体ではない)。 ・触診は痛みのない部位から始め、痛む部位は最後にする。 ・触診中は患者の表情を観察する。 ・打診痛は腹膜刺激を示唆し、患者への負担が少ない有用な所見である。 ・腹膜刺激が明らかなら触診は最小限にして、検査・治療へ速やかに進む。
