体幹に広がる水疱をみたら何を聞く?―水痘を疑う医療面接の「2つの柱」
第114回医師国家試験 D問題 第70問
国試問題にチャレンジ
7歳の男児。体幹の皮疹を主訴に祖母に連れられて来院した。昨日,体幹に数個の皮疹が出現し,皮疹が増加したため受診した。体温36.5℃。脈拍80/分,整。呼吸数20/分。体幹に水疱を主体とした皮疹を認める。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。咽頭に発赤を認めない。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。体幹の写真を別に示す。 医療面接上,重要な項目はどれか。2つ選べ。

- a.出生時の状況
- b.成長・発達の状況
- c.排尿・排便の状況
- d.予防接種の接種状況
- e.周囲の感染症の流行状況
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
体幹中心に紅斑・丘疹・水疱・痂皮といった異なる段階の発疹が混在していれば水痘を考え、発熱がなく発疹が少ない場合はワクチン接種後のbreakthrough水痘も念頭に置きます。医療面接では、診断を固める情報として水痘ワクチンの接種歴(2014年から定期接種、1〜3歳未満に2回)と罹患歴を、感染拡大防止の情報として学校や家庭での流行状況・約2週間前の接触歴を優先して聴取します。出生時の状況や発達歴、排泄状況は小児の病歴聴取の基本ですが、全身状態良好な学童の急性発疹の診断には寄与しにくい項目です。水痘は空気感染する強い感染力を持ち、すべての発疹が痂皮化するまで出席停止、妊婦や免疫不全者への配慮、アスピリン回避などの注意点もあります。疑う疾患に応じて聴取の優先順位をつける姿勢は、OSCEから実臨床まで通じる医療面接の基本です。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・7歳男児。前日に体幹へ数個の皮疹が出現し、1日で数が増えている。急性の経過である。 ・体温36.5℃、脈拍・呼吸数も年齢相応で、全身状態は良好である。 ・皮疹は体幹に分布し、水疱が主体である。写真では紅斑、丘疹、水疱、痂皮といった異なる段階の発疹が同時に混在している。 ・結膜充血、咽頭発赤、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫はなく、皮疹以外に目立つ所見はない。
診断へのプロセス
体幹(中心性)に始まり、短期間で次々と新しい発疹が出現し、紅斑→丘疹→水疱→痂皮の各段階が同時にみられるのは水痘の特徴である。鑑別として以下が挙がるが、いずれも合わない。 ・伝染性膿痂疹(とびひ):黄色ブドウ球菌などによる皮膚の細菌感染で、水疱・びらんと厚い黄色の痂皮を作り、掻破により周囲へ拡大する。夏季に多く、顔面や四肢など露出部から始まることが多い。 ・虫刺症:露出部である四肢に多い。 ・手足口病:手掌・足底・口腔内に小水疱を生じ、体幹主体ではない。 ・単純ヘルペスウイルス感染症:限局した部位に集簇する小水疱が典型で、小児の初感染では歯肉口内炎を伴うことが多い。 以上から水痘と考えられる。なお、本例は発熱がなく発疹数も比較的少ないため、ワクチン接種後に軽症で発症する水痘(breakthrough水痘)の可能性もある。
設問の考え方
水痘を疑った小児の医療面接では、①診断の確からしさを高める情報と、②感染拡大防止(登校の可否、周囲のハイリスク者への対応)に必要な情報を優先して聴取する。具体的には、水痘ワクチンの接種歴と過去の水痘罹患歴、そして家庭・学校・地域での水痘の流行や患者との接触歴(潜伏期間はおよそ2週間、10〜21日)である。一方、出生時の状況や発達歴、排泄状況は、全身状態良好な7歳児の急性の発疹性疾患の診断にはほとんど寄与しない。
選択肢考察
- ×a. 出生時の状況
在胎週数や出生体重、新生児期の経過などは、乳児期の疾患や先天性疾患・発達の問題を評価するときには重要である。しかし、7歳の健康な小児に急性に出現した水疱性発疹の診断や感染対策には直接関係せず、本例で優先して聴取すべき項目ではない。
- ×b. 成長・発達の状況
身長・体重の推移や乳幼児健診での発達評価は母子健康手帳などで確認でき、小児の診療では一般に有用な情報である。しかし、急性の発疹性疾患である水痘の診断・対応を決めるうえでの重要度は低い。
- ×c. 排尿・排便の状況
脱水の評価や消化器・尿路疾患の診断では重要だが、本例はバイタルサインが安定し、腹部所見も正常で、皮疹以外の症状に乏しい。水痘の診断や対応に関わる情報ではなく、優先度は低い。
- ○d. 予防接種の接種状況
水痘はワクチンで予防できる疾患であり、水痘ワクチン(弱毒生ワクチン)の接種歴は重要である。日本では2014年10月から定期接種となり、1歳以上3歳未満の間に2回(3か月以上の間隔、標準的には1回目の6〜12か月後に2回目)接種する。接種歴があれば軽症の発症(breakthrough水痘:発熱が軽く、発疹数が少なく、水疱になりにくいなど非典型的)を考慮でき、接種歴がなく罹患歴もなければ典型的な水痘の可能性が高まる。母子健康手帳での確認が確実であり、過去の水痘罹患歴とあわせて聴取する。
- ○e. 周囲の感染症の流行状況
水痘は空気感染(飛沫核感染)・飛沫感染・接触感染で広がり、麻疹・結核と並んで空気感染する代表的な疾患で、感染力が非常に強い。学校や家庭、地域での水痘の流行や、約2週間前(潜伏期間10〜21日)に患者と接触したかどうかは、診断の大きな手がかりとなる。また、本人が周囲(妊婦、免疫不全者、ワクチン未接種の乳児など)へ感染を広げる可能性を評価し、出席停止や接触者への対応を判断するためにも欠かせない。
水痘の概要
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV、ヒトヘルペスウイルス3型)の初感染で発症する。潜伏期間は約2週間(10〜21日)。発疹出現の1〜2日前から、すべての発疹が痂皮化するまで感染力がある。
臨床像
発熱とともに、頭皮・体幹を中心に発疹が出現し、紅斑→丘疹→水疱→膿疱→痂皮と数日で変化する。新しい発疹が次々に出るため、各段階の発疹が混在するのが特徴である。かゆみが強い。口腔粘膜や頭皮にも生じる。
合併症
皮膚の二次性細菌感染(黄色ブドウ球菌、A群溶血性レンサ球菌)、肺炎(特に成人)、小脳失調・脳炎などの神経合併症がある。免疫不全者では重症化・内臓播種を起こしうる。アスピリンの使用はReye症候群の危険があるため避け、解熱薬にはアセトアミノフェンを用いる。妊娠初期の母体感染では先天性水痘症候群、分娩前後の母体発症では新生児の重症水痘の危険がある。
治療
基礎疾患のない小児では対症療法で軽快することが多い。重症化リスクのある場合や成人などでは、発症早期(皮疹出現後おおむね48時間以内)にアシクロビルやバラシクロビルなどの抗ウイルス薬を用いる。免疫不全者や重症例ではアシクロビル静注を行う。
予防と感染対策
・水痘ワクチン:2014年10月から定期接種(1〜3歳未満に2回)。曝露後72時間以内の緊急接種で発症予防・軽症化が期待できる。 ・学校保健安全法:第二種学校感染症で、すべての発疹が痂皮化するまで出席停止。 ・感染症法:5類感染症(小児科定点からの報告に加え、入院例は全数届出)。 ・院内では空気感染予防策(陰圧個室など)を行う。
帯状疱疹
初感染後に知覚神経節へ潜伏したVZVが再活性化して起こる。デルマトームに沿った帯状の水疱・疼痛を呈する。50歳以上を対象に帯状疱疹ワクチンが用いられる。
POINT
・異なる段階の発疹(紅斑・丘疹・水疱・痂皮)が体幹中心に混在 → 水痘。 ・水痘を疑ったら、ワクチン接種歴(と罹患歴)、周囲の流行・接触歴を聴取する。 ・水痘は空気感染する(麻疹・結核と同様)。 ・水痘ワクチンは2014年から定期接種(1〜3歳未満に2回)。接種後の発症は軽症・非典型的になりやすい。 ・学校はすべての発疹が痂皮化するまで出席停止。
