要介護度を決めるのは誰?―主治医意見書に「書くこと」と「書かないこと」
第114回医師国家試験 C問題 第53問
国試問題にチャレンジ
75歳の男性。脳梗塞の既往があり,通院中である。①右半身に軽度の麻痺があり,②利き手は右手だが左手で食事を摂取している。③杖をついて屋外歩行は可能。④短期記憶は問題なく日常の意思決定は自分で行える。主治医は⑤要介護1と考えた。この患者が介護保険を申請することになった。 下線部で主治医意見書に記載が求められていないのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
介護保険の要介護認定では、市町村の依頼を受けて主治医が主治医意見書を作成し、傷病、特別な医療、心身の状態(利き腕、麻痺、短期記憶や意思決定能力など)、生活機能(屋外歩行、歩行補助具の使用など)、特記事項を記載します。一方、要介護度は認定調査と意見書をもとにしたコンピュータの一次判定を経て、介護認定審査会が二次判定で決定するため、主治医が見込みの要介護度を書く欄はありません。認知機能に問題がない場合も「問題なし」と記載する点、第1号・第2号被保険者の給付要件の違い、更新や区分変更の際にも意見書が必要な点もあわせて押さえておきましょう。主治医は「判定する人」ではなく「医学的情報を提供する人」という役割分担を理解することが、臨床で適切な意見書を書く土台になります。
解答・解説
正解はeです
症例の整理
75歳の男性で、脳梗塞後遺症として右片麻痺が残っている。65歳以上であるため介護保険の第1号被保険者にあたり、原因疾患を問わず要介護状態であれば保険給付の対象となる。麻痺の程度は軽く、本来の利き手である右手ではなく左手で食事をとっていることから、麻痺側が利き手側であり、上肢の巧緻動作に支障が出ていることがわかる。杖を使えば屋外も歩けるので移動能力はある程度保たれている。短期記憶や日常の意思決定能力に問題はなく、認知機能は保たれている。
設問の考え方
介護保険の要介護認定を申請すると、市町村は申請者の主治医に「主治医意見書」の作成を依頼する。主治医意見書は、医学的な立場から申請者の傷病や心身の状態、生活機能の状況を伝えるための書類であり、様式にはあらかじめ記載項目が定められている。本問では、下線部①〜⑤のそれぞれが様式中のどの項目に対応するかを考えればよい。 ①麻痺、②利き腕、④短期記憶・日常の意思決定能力は「心身の状態に関する意見」に、③屋外歩行・歩行補助具の使用は「生活機能とサービスに関する意見」に、それぞれ記載欄がある。これに対し、要介護度(要支援1・2、要介護1〜5の区分)は、認定調査の結果と主治医意見書をもとにしたコンピュータによる一次判定を経て、市町村に置かれる介護認定審査会が二次判定で決定するものである。したがって、主治医が見込みの要介護度を意見書に記載する欄はなく、⑤が正解となる。
選択肢考察
- ×a. ①
右半身の軽度麻痺は記載が求められる。主治医意見書の「心身の状態に関する意見」のうち「身体の状態」の項目に麻痺の有無を記す欄があり、右上肢・左上肢・右下肢・左下肢などの部位と、その程度(軽・中・重)を選択して記入する。麻痺は日常生活動作(ADL)に直結するため、介護の必要量を判断するうえで重要な情報である。
- ×b. ②
利き腕は記載が求められる。「身体の状態」の項目の冒頭に、利き腕(右・左)を選ぶ欄が設けられている。本例のように麻痺が利き手側に生じると、食事・書字・整容などの動作がより大きく障害されるため、麻痺の部位と合わせて利き腕の情報が必要となる。なお、食事行為の自立度(自立ないし何とか自分で食べられる/全面介助)も「生活機能とサービスに関する意見」の栄養・食生活の欄で記載する。
- ×c. ③
杖を用いた屋外歩行の状況は記載が求められる。「生活機能とサービスに関する意見」の「移動」の項目に、屋外歩行(自立/介助があればしている/していない)、車いすの使用、歩行補助具・装具の使用(杖などを用いているか、屋外か屋内か)を記す欄がある。移動能力は転倒リスクや必要な福祉用具・サービスの判断に用いられる。
- ×d. ④
短期記憶と日常の意思決定能力は記載が求められる。「心身の状態に関する意見」の中に「認知症の中核症状」の欄があり、短期記憶(問題なし/問題あり)、日常の意思決定を行うための認知能力(自立/いくらか困難/見守りが必要/判断できない)、自分の意思の伝達能力を評価する。これらは認知機能低下による介護の手間を推定するために用いられ、一次判定のコンピュータ処理にも利用される。
- ○e. ⑤
主治医が想定する要介護度は、主治医意見書に記載する項目に含まれていない。要介護度は、認定調査員による訪問調査の結果と主治医意見書の一部の項目をもとにしたコンピュータ判定(一次判定)を経て、保健・医療・福祉の専門家で構成される介護認定審査会が二次判定で決定する。主治医の役割は判定の材料となる医学的情報を提供することであり、要介護度そのものを判断・記載することではない。
要介護認定の流れ
1. 本人または家族などが市町村に申請する(地域包括支援センターや居宅介護支援事業者による代行も可能)。 2. 市町村の認定調査員が訪問し、心身の状況について全国共通の項目で認定調査を行う。同時に市町村が主治医に主治医意見書の作成を依頼する(主治医がいなければ市町村の指定する医師が診察して作成する)。 3. 一次判定:認定調査の結果と主治医意見書の一部項目をコンピュータで処理し、介護に要する時間(要介護認定等基準時間)を推計する。 4. 二次判定:介護認定審査会が一次判定結果、主治医意見書、認定調査の特記事項をもとに審査し、要介護度を決定する。 5. 市町村が結果を通知する。原則として申請から30日以内に行う。
主治医意見書の構成
1. 傷病に関する意見:診断名(生活機能低下の直接の原因となっている傷病)、発症年月日、症状の安定性、治療内容など 2. 特別な医療:過去14日間に受けた点滴、透析、ストーマ処置、酸素療法、人工呼吸器、気管切開、疼痛管理、経管栄養、モニター測定、褥瘡処置、カテーテル管理など 3. 心身の状態に関する意見:日常生活の自立度(障害高齢者の日常生活自立度〈寝たきり度〉、認知症高齢者の日常生活自立度)、認知症の中核症状(短期記憶、日常の意思決定を行うための認知能力、自分の意思の伝達能力)、認知症の行動・心理症状、その他の精神・神経症状、身体の状態(利き腕、身長・体重、四肢欠損、麻痺、筋力低下、関節拘縮、関節痛、失調・不随意運動、褥瘡、その他の皮膚疾患) 4. 生活機能とサービスに関する意見:移動(屋外歩行、車いすの使用、歩行補助具・装具の使用)、栄養・食生活、現在あるいは今後発生の可能性の高い状態とその対処方針、サービス利用による生活機能の維持・改善の見通し、医学的管理の必要性、サービス提供時の医学的観点からの留意事項、感染症の有無 5. 特記すべき事項
介護保険の被保険者
第1号被保険者は65歳以上で、原因を問わず要介護・要支援状態であれば給付を受けられる。第2号被保険者は40歳以上65歳未満の医療保険加入者で、脳血管疾患や初老期における認知症など、加齢に伴う16の特定疾病が原因の場合に限り給付対象となる。
有効期間と区分変更
認定には有効期間があり、期間満了前に更新申請を行う。更新時にも主治医意見書が必要となる。状態が変化して現在の区分が実情に合わなくなった場合は、有効期間内でも区分変更申請ができ、この際にも主治医意見書が求められる。
POINT
・主治医意見書には、傷病、特別な医療、心身の状態(利き腕・麻痺・認知症の中核症状など)、生活機能(移動・歩行補助具・食事など)、特記事項を記載する。 ・要介護度は主治医が決めるものではなく、介護認定審査会が二次判定で決定する。主治医意見書に要介護度の見込みを書く欄はない。 ・一次判定はコンピュータ判定、二次判定は介護認定審査会が行う。
