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「息をしているように見える」が一番危ない―乳児CPRの数字と死戦期呼吸

第114回医師国家試験 C問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第114回 C問題 第3問

乳児の心肺蘇生法で正しいのはどれか。

  1. a.胸骨圧迫の深さは胸の厚さの約1/2である。
  2. b.胸骨圧迫は60~80回/分の速さで行う。
  3. c.死戦期呼吸を認めたら蘇生行為を開始する。
  4. d.2人の救助者で行う場合の胸骨圧迫と人工呼吸の比は30:2である。
  5. e.脈拍の触知は大腿動脈で行う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳児の一次救命処置、つまりBLSの問題だ。流れは成人と同じだけれど、乳児には特有の数字や手技がある。どの数字が成人と共通で、どこが乳児で変わるのかを整理しながら見ていこう。まず、心停止をどう判断するかから確認しようか。
医学生医学生
反応がなくて、呼吸がなければ心停止と判断してCPRを始める、ですよね。
ドクタードクター
そう。ただし大事なのは「普段どおりの呼吸がなければ」という点なんだ。死戦期呼吸って聞いたことはあるかな。
医学生医学生
救急の講義で出てきました。しゃくりあげるような呼吸ですよね。でも一応呼吸はしているので、様子を見てしまいそうです。
ドクタードクター
まさにそこが落とし穴だね。死戦期呼吸は心停止直後に脳幹の反射で起こる、不規則でゆっくりした喘ぐような呼吸で、有効な換気はほとんどできていない。見た目は呼吸しているように見えるから、心停止の見逃しにつながりやすい。だからガイドラインでは「呼吸なし」として扱い、年齢を問わず直ちにCPRを始めるよう定めているんだ。判断に迷う場合もCPRを開始してよい。
医学生医学生
だから死戦期呼吸を認めたら蘇生を始める、という記述が正解なんですね。
ドクタードクター
その通り。では残りの数字を確認しよう。胸骨圧迫の深さはどうかな。
医学生医学生
胸の厚さの1/2というのは、さすがに深すぎる気がします。
ドクタードクター
いい感覚だね。乳児・小児では胸の厚さの約1/3、乳児でおおむね4cmくらいだ。1/2まで押すと肋骨骨折や内臓損傷の危険が高まる。圧迫のたびに胸を元の位置まで戻すことも忘れずに。速さはどうだろう。
医学生医学生
OSCEの練習で、成人は100〜120回/分と叩き込まれました。乳児はもっとゆっくりなんですか。
ドクタードクター
いや、速さは成人も小児も乳児も共通で100〜120回/分。60〜80回/分では十分な拍出が得られない。ちなみに「60」という数字は別の場面で出てくる。医療従事者が評価して、乳児・小児の心拍が60回/分未満で循環が悪ければ、心停止に準じて胸骨圧迫を始めるんだ。混同しないようにね。
医学生医学生
圧迫と人工呼吸の比は、30:2で全年齢共通だと思っていました。
ドクタードクター
成人なら人数にかかわらず30:2だね。乳児・小児では、救助者1人なら30:2だけれど、医療従事者など熟練者2人以上で行う場合は15:2になる。乳児の心停止は不整脈よりも呼吸不全やショックによる低酸素が原因のことが多いから、人工呼吸の比率を上げているんだ。なお市民向けの手順では、覚えやすさを優先して小児・乳児にも30:2が使われる。
医学生医学生
原因が違うから比率も変わるんですね。脈拍の確認は大腿動脈ではなく、上腕動脈でしたっけ。
ドクタードクター
正解。乳児は首が短くて脂肪が多いので頸動脈が触れにくい。だから上腕の内側で上腕動脈を触れる。1歳以上の小児なら頸動脈か大腿動脈だ。いずれも医療従事者の手順で、10秒以内に終え、はっきりしなければ心停止として圧迫を始める。
医学生医学生
整理すると、深さは1/3、速さは成人と同じ、2人法は15:2、脈は上腕動脈、そして死戦期呼吸は呼吸なし、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。手技についても補足しておこう。乳児の圧迫部位は両乳頭を結ぶ線のすぐ下の胸骨。1人なら指2本で押す方法が従来使われてきて、2人なら両手で胸郭を包み込んで両母指で押す方法が推奨されている。こちらのほうが深く安定した圧迫ができる。人工呼吸は救助者の口で乳児の口と鼻を同時に覆い、胸が軽く上がる程度に約1秒かけて吹き込むんだ。
医学生医学生
小児科の実習で乳児の人形を使った練習をしましたが、口と鼻を一緒に覆うのが意外と難しかったです。AEDは乳児にも使っていいんですか。
ドクタードクター
使っていいよ。未就学児には小児用パッドか小児用モードを使い、なければ成人用で代用してよい。その場合はパッドが重ならないよう胸と背中に貼るなど工夫する。年齢区分としては1歳未満が乳児、1歳から思春期までが小児で、出生直後の新生児は新生児蘇生法という別の体系に従う。現場では数字を迷っている時間はないから、成人との違いを体に染み込ませておこう。

まとめ

乳児の一次救命処置でも、反応がなく普段どおりの呼吸がなければ心停止と判断し、死戦期呼吸は「呼吸なし」として直ちにCPRを開始します。胸骨圧迫の深さは胸の厚さの約1/3、速さは成人と同じ100〜120回/分で、圧迫と換気の比は1人法で30:2、熟練者による2人法では15:2です。乳児の心停止は低酸素によるものが多いため人工呼吸の比重が大きく、脈拍は頸動脈ではなく上腕動脈で10秒以内に確認します。圧迫部位は両乳頭を結ぶ線のすぐ下で、2人なら胸郭包み込み両母指圧迫法が推奨され、AEDも乳児に使用できます。成人との共通点と相違点を正確に押さえておくことが、いざという場面で迷わず蘇生を始めるための土台になります。

解答・解説

正解はcです

乳児(1歳未満)の一次救命処置(BLS:basic life support)の手技を問う問題である。基本の流れは成人と同じで、反応と呼吸を確認し、心停止と判断したら直ちに胸骨圧迫から心肺蘇生(CPR:cardiopulmonary resuscitation)を始める。そのうえで、乳児・小児に特有の数値と手技の違いを正確に覚えておく必要がある。 日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドラインに基づく乳児CPRの要点を整理する。 ・心停止の判断:反応がなく、「普段どおりの呼吸」がなければ心停止とみなす。死戦期呼吸は呼吸なしとして扱う。 ・脈拍の確認(医療従事者のみ):乳児では上腕動脈で行い、10秒以内にとどめる。 ・胸骨圧迫:両乳頭を結ぶ線のすぐ下の胸骨を押す。深さは胸の厚さの約1/3、速さは100〜120回/分である。 ・胸骨圧迫と人工呼吸の比:救助者が1人なら30:2、医療従事者などが2人以上で行うなら15:2である。 乳児の心停止は、成人のような心室細動などの不整脈よりも、呼吸不全やショックの結果として起こる低酸素性のものが多い。そのため、人工呼吸の重要性が成人より高く、2人法では人工呼吸の比率を上げた15:2が用いられる。各選択肢の数値をこの基準と照らし合わせれば、正しいのは死戦期呼吸に関する記述だけであるとわかる。

選択肢考察

  1. ×a.  胸骨圧迫の深さは胸の厚さの約1/2である。

    誤り。乳児・小児の胸骨圧迫の深さは、胸の厚さ(前後径)の約1/3である。乳児ではおおむね4cm、小児では約5cmに相当する。1/2まで押し込むのは過剰であり、肋骨骨折や内臓損傷の危険が高まる。また、圧迫のたびに胸壁を元の位置まで完全に戻すこと、剣状突起(胸骨の下端)を押さないことも重要である。

  2. ×b.  胸骨圧迫は60~80回/分の速さで行う。

    誤り。胸骨圧迫の速さは、成人・小児・乳児とも共通で100〜120回/分である。60〜80回/分では心拍出量が十分に得られない。なお、「60回/分」という数値は別の場面で登場する。医療従事者が評価して、乳児・小児の心拍が60回/分未満で、かつ循環が悪い(皮膚色不良など)場合は、心停止に準じて胸骨圧迫を開始する。これと混同しないようにする。

  3. ○c.  死戦期呼吸を認めたら蘇生行為を開始する。

    正しい。死戦期呼吸(あえぎ呼吸)は、心停止の直後にみられる、しゃくりあげるような不規則でゆっくりした呼吸である。脳幹の反射によるもので、有効な換気や酸素化はほとんど得られない。外見上は呼吸しているように見えるため、心停止を見逃して蘇生が遅れる大きな原因となる。そのため、ガイドラインでは「普段どおりの呼吸ではない」=呼吸なしとして扱い、成人・小児・乳児を問わず直ちにCPRを開始するよう定めている。呼吸の有無の判断に迷う場合も、CPRを開始すべきとされる。

  4. ×d.  2人の救助者で行う場合の胸骨圧迫と人工呼吸の比は30:2である。

    誤り。乳児・小児のCPRを2人以上の救助者(医療従事者など熟練者)で行う場合、胸骨圧迫と人工呼吸の比は15:2である。30:2は救助者が1人の場合の比率で、成人では人数にかかわらず30:2となる。乳児・小児では低酸素による心停止が多いため、2人法では人工呼吸の頻度を高めている。なお、市民向けの手順では、覚えやすさを優先して小児・乳児にも30:2が用いられる。

  5. ×e.  脈拍の触知は大腿動脈で行う。

    誤り。乳児の脈拍は上腕動脈(上腕の内側)で確認する。乳児は首が短く脂肪が多いため頸動脈を触れにくく、圧迫で気道を狭める心配もある。1歳以上の小児では、成人と同様に頸動脈か、あるいは大腿動脈で確認する。脈拍の確認は医療従事者が行う手順で、10秒以内に終える。脈拍がはっきりわからなければ、心停止として胸骨圧迫を始める。

年齢区分

JRC蘇生ガイドラインでは、1歳未満を乳児、1歳から思春期(おおむね中学生)までを小児として扱う。新生児(出生直後)の蘇生は別の新生児蘇生法(NCPR)に従う。

成人・小児・乳児のCPRの比較

・圧迫部位:成人と小児は胸骨の下半分、乳児は両乳頭を結ぶ線のすぐ下の胸骨。 ・圧迫の深さ:成人は約5cm(6cmを超えない)。小児・乳児は胸の厚さの約1/3。 ・速さ:すべて100〜120回/分。 ・圧迫と換気の比:成人は30:2。小児・乳児は1人法で30:2、熟練者の2人法で15:2。 ・脈拍の確認:成人と小児は頸動脈(小児は大腿動脈も可)、乳児は上腕動脈。

乳児の胸骨圧迫の手技

救助者が1人の場合は、指2本で圧迫する方法が従来用いられてきた。救助者が2人の場合は、両手で胸郭を包み込み、両母指で圧迫する方法(胸郭包み込み両母指圧迫法)が推奨される。両母指圧迫法のほうが、より深く安定した圧迫が得られる。

乳児の人工呼吸

頭部後屈あご先挙上で気道を確保し、救助者の口で乳児の口と鼻を同時に覆って息を吹き込む(口対口鼻人工呼吸)。胸が軽く上がるのを確認できる程度の量を、1回約1秒かけて吹き込む。

AED

未就学児には小児用パッドまたは小児用モードを用いる。ない場合は成人用を使用してよい(パッドが重ならないよう、胸と背中に貼るなど工夫する)。乳児にもAEDの使用は認められている。

POINT

・死戦期呼吸は「呼吸なし」と判断し、直ちにCPRを開始する。 ・乳児・小児の胸骨圧迫の深さは胸の厚さの約1/3、速さは100〜120回/分である。 ・乳児・小児の圧迫と換気の比は、1人法で30:2、熟練者の2人法で15:2である。 ・乳児の脈拍は上腕動脈で確認する(小児は頸動脈または大腿動脈)。 ・乳児の胸骨圧迫は、1人なら2本指、2人なら胸郭包み込み両母指圧迫法で行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。