StudyMed医師国家試験

禁煙指導は「検査」じゃない―POMRの初期計画を3つの箱で整理する

第114回医師国家試験 B問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第114回 B問題 第13問

咳嗽を主訴に受診した,喫煙をしている25歳男性の問題志向型医療記録〈POMR〉に基づいた診療録の一部を以下に示す。  記載する場所が誤っているのはどれか。

第114回 B問題 第13問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、問題志向型医療記録、いわゆるPOMRの書き方を問う問題だ。症例の医学的な診断ではなく、「どの情報をどの欄に書くか」がテーマになっている。カギは、初期計画の診断的計画・治療的計画・教育的計画という3つの箱に、それぞれの行為を正しく振り分けられるかどうか。
医学生医学生
臨床実習で毎日カルテを書いていましたけど、SOAPばかり意識していて、初期計画の分け方はあまり考えたことがありませんでした。
ドクタードクター
そういう人は多いね。まず全体像から確認しよう。POMRは、Weedが提唱した問題志向型システム、POSの考え方に沿って書く診療録だ。基礎データ、問題リスト、初期計画、経過記録、退院時要約という流れで構成される。
医学生医学生
経過記録がSOAP形式で書かれる部分ですね。問題リストには確定診断を書かなきゃいけないんでしょうか。今回は「乾性咳嗽」と症状のまま書かれていますが。
ドクタードクター
そこはよく出る疑問だね。問題リストには、診断がついていなければ症状や検査異常をそのまま挙げてよいんだ。診断が確定した段階で病名に書き換えればいい。だから主訴の乾性咳嗽を#1に置くのは適切だよ。さらに言えば、医学的な問題だけでなく、独居で服薬管理が難しいといった心理・社会的な問題も問題リストに含める。
医学生医学生
では初期計画のほうですね。診断的計画には胸部エックス線や血液検査が並んでいて、これは咳の原因を調べるためなので納得です。
ドクタードクター
そう。胸部単純エックス線は、肺炎や肺結核、肺癌、気胸、間質性肺疾患などの有無を確認して鑑別を進める検査だから、診断的計画で正しい。診断を確定・除外したり、重症度を評価したりする目的の行為がここに入る。では、同じ診断的計画の欄に入っている禁煙指導はどうかな。
医学生医学生
喫煙は咳の原因になりうるので、原因へのアプローチという意味で診断的計画に入れても良さそうな気がしたんですが……。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。考えるべきは「その行為が何のためか」。禁煙指導は、喫煙という生活習慣を改めるよう患者に働きかける指導であって、病気を診断したり病状を評価したりする行為ではない。だから診断的計画に書くのは誤りで、本来は教育的計画に入れるべき項目なんだ。
医学生医学生
なるほど、禁煙指導自体が不要なのではなくて、書く場所が違うということですね。
ドクタードクター
その通り。喫煙者の咳嗽なら禁煙の働きかけはむしろ必須だ。問われているのはあくまで記載場所。残りも確認しよう。鎮咳薬の処方はどうだろう。
医学生医学生
咳という症状を和らげる薬物療法なので、治療的計画で正しいと思います。
ドクタードクター
正解。薬物療法、処置、手術、リハビリテーション、看護ケアなど、問題を解決・軽減するための介入は治療的計画に入る。最後に、禁煙外来への通院を勧めることは?
医学生医学生
禁煙という行動変容を支援する助言なので、教育的計画ですね。こちらは場所が合っています。
ドクタードクター
よくできた。教育的計画には、病状や検査・治療の説明、生活指導、服薬指導、食事指導などの患者教育が入る。覚え方としては、診断的計画は「調べる」、治療的計画は「治す・和らげる」、教育的計画は「伝える・指導する」と整理するといい。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも禁煙を勧める場面がありましたが、カルテ上はあれが教育的計画になるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。最後に臨床での意義も押さえておこう。POMRで問題ごとに思考過程を明示しておくと、医師だけでなく看護師や薬剤師など医療チーム全体で情報や方針を共有しやすくなる。誰が読んでも「この問題に対して何を調べ、何を治療し、何を説明したか」が一目で分かるのが強みだ。記録の監査や教育にも役立つ。
医学生医学生
経過記録のSOAPのPも、同じように3つに分けて書くことがあるんですよね。
ドクタードクター
その通り。PもDx、Tx、Exに分けて書くと抜けが減る。特に教育的計画は忘れられがちだから、意識して書く習慣をつけておくといいよ。

まとめ

問題志向型医療記録(POMR)は、基礎データ・問題リスト・初期計画・経過記録(SOAP)・退院時要約から構成され、初期計画は問題ごとに診断的計画・治療的計画・教育的計画に分けて記載します。診断的計画には鑑別や病状評価のための検査、治療的計画には薬物療法や処置などの介入、教育的計画には病状説明・生活指導・患者教育を書きます。禁煙指導は喫煙者の咳嗽に必要な対応ですが、診断のための行為ではなく生活指導であるため、教育的計画に記載するのが正しい位置です。また問題リストには、診断未確定なら症状のまま記載してよく、心理・社会的問題も含めます。各行為を「何のために行うか」で分類する視点は、チーム医療で伝わる診療録を書くための基本となります。

解答・解説

正解はcです

本問は、問題志向型医療記録〈POMR:problem oriented medical record〉の「問題リスト」と「初期計画」の書き分けを問う問題である。

提示された診療録の構成

問題リストには「#1 乾性咳嗽①」が挙げられ、初期計画は #1 乾性咳嗽に対して次のように立てられている。 ・診断的計画:胸部単純エックス線撮影②、血液生化学検査、アレルギー検査、禁煙指導③ ・治療的計画:鎮咳薬処方④、吸入薬処方 ・教育的計画:禁煙外来への通院助言⑤

考え方

初期計画は、各問題(プロブレム)ごとに次の3つに分けて書く。 ・診断的計画(Dx:diagnostic plan)…診断を確定し、鑑別疾患を除外し、重症度や病状を評価するために行う検査・観察 ・治療的計画(Tx:therapeutic plan)…薬物療法、処置、手術、リハビリテーション、看護ケアなど、問題を解決・軽減するための介入 ・教育的計画(Ex:educational plan)…患者・家族への病状や検査・治療の説明、生活指導、患者教育 したがって、各下線部が「何のために行う行為か」を考え、それが上の3分類のどれに当たるかを照合すればよい。禁煙指導は喫煙という生活習慣を改めるよう患者に働きかける指導であり、診断や病状評価のための検査ではない。そのため、診断的計画の欄に書かれている③が記載場所の誤りであり、本来は教育的計画に書くべき項目である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    「乾性咳嗽」は本患者の主訴であり、医療者が解決に取り組むべき問題そのものである。問題リストには、確定診断がついていなくても症状・徴候・検査異常をそのまま問題として挙げてよい(診断が確定した段階で病名に書き換える)。したがって問題リストの #1 に記載するのは適切である。

  2. ×b.  ②

    胸部単純エックス線撮影は、咳嗽の原因となる肺炎、肺結核、肺癌、気胸、間質性肺疾患などの有無を調べ、鑑別を進めるための検査である。診断を確定・除外する目的で行う検査は診断的計画に属するため、記載場所は適切である。

  3. ○c.  ③

    禁煙指導は、喫煙者である患者に生活習慣の改善を促す患者教育・生活指導であり、診断を確定したり病状を評価したりする行為ではない。したがって診断的計画に記載するのは誤りで、教育的計画に記載すべきである。喫煙は咳嗽の原因・増悪因子となるため禁煙指導自体は必要だが、問題は「書く場所」である。

  4. ×d.  ④

    鎮咳薬の処方は、咳嗽という症状を和らげるための薬物療法である。薬物投与・処置・ケアなど問題を解決・軽減するための介入は治療的計画に属するため、記載場所は適切である。

  5. ×e.  ⑤

    禁煙外来への通院を勧めることは、患者が禁煙という行動変容を達成できるよう情報を提供し支援する助言であり、生活指導・患者教育にあたる。したがって教育的計画への記載は適切である。

POS と POMR

問題志向型システム〈POS:problem oriented system〉は、患者の抱える問題を全人的にとらえ、それを系統的・論理的に解決していこうとする診療の考え方で、Weed が提唱した。この考え方に基づいて診療録を書く方式が POMR である。

POMR の構成

1.基礎データ:主訴、現病歴、既往歴、生活歴・社会歴、家族歴、医療面接で得た情報、身体診察所見、臨床検査所見など 2.問題リスト(プロブレムリスト):基礎データから抽出した問題を番号(#1、#2…)を付けて列挙する。医学的な問題に限らず、心理的・社会的・経済的な問題(例:独居で服薬管理が困難、経済的困窮など)も含める。診断が未確定なら症状や検査異常のまま記載してよい。 3.初期計画:問題ごとに診断的計画・治療的計画・教育的計画を立てる。 4.経過記録:SOAP 形式で記載する。 5.退院時要約(サマリー):入院患者では退院時に速やかに作成する。

SOAP

・S(subjective):主観的情報。患者が訴える自覚症状や病歴 ・O(objective):客観的情報。身体所見、検査所見など ・A(assessment):評価・考察。S と O をもとにした医療者の判断 ・P(plan):計画。検査・治療・患者教育の計画(P も診断的・治療的・教育的に分けて書くことがある)

POMR の利点

患者の問題を見落としなく整理でき、問題ごとに思考過程が明示されるため、医師・看護師・薬剤師など医療チーム内での情報共有や方針の統一が図りやすい。また、記録の監査(オーディット)や医学教育にも役立つ。

POINT

・初期計画は問題ごとに「診断的計画(検査・評価)」「治療的計画(薬物療法・処置・ケア)」「教育的計画(説明・生活指導・患者教育)」に分ける。 ・禁煙指導、食事指導、服薬指導などの生活指導・患者教育は教育的計画に書く。 ・問題リストには主訴などの症状をそのまま挙げてよく、医学的問題以外(心理・社会的問題)も含める。 ・経過記録は SOAP 形式(S:主観的情報、O:客観的情報、A:評価、P:計画)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。