「休んでも治らない背中の痛み」は危険信号―機械的疼痛と非機械的疼痛を見分ける
第113回医師国家試験 F問題 第37問
国試問題にチャレンジ
安静による改善が乏しい背部痛をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.脊柱側弯症
- b.大動脈解離
- c.転移性脊椎腫瘍
- d.腰部脊柱管狭窄症
- e.腰椎椎間板ヘルニア
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
背部痛は、運動器への負荷で生じ安静で軽快する機械的疼痛と、姿勢や活動に関係なく持続する非機械的疼痛に分けて考えると整理しやすくなります。腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、変性側弯症は機械的疼痛で、姿勢の工夫や安静で症状が軽くなります。一方、血管壁の損傷による大動脈解離や、骨破壊による転移性脊椎腫瘍は原因が安静で取り除かれないため、安静時痛・夜間痛として持続します。「時間や活動性に関係のない痛み」は腫瘍・感染・血管疾患・内臓疾患を疑うred flagsであり、癌の既往、発熱、体重減少、神経症状などとあわせて評価することが重要です。医療面接で増悪・寛解因子を丁寧に聞く習慣が、命に関わる背部痛の見逃しを防ぐ土台になります。
解答・解説
正解はb, cです
問われていること
背部痛・腰痛のうち、「横になって休んでもあまり良くならない」痛みを生じる疾患を選ぶ問題である。
考え方:機械的疼痛と非機械的疼痛
背部痛は、その性状から大きく2つに分けて考えると整理しやすい。 ・機械的疼痛:椎間板・椎間関節・筋・靱帯などの運動器に負荷がかかることで生じる痛み。動作や姿勢で増悪し、安静や負荷の少ない姿勢(臥位など)で軽快する。腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、変形性脊椎症、変性側弯症など、多くの整形外科的疾患がこれにあたる。 ・非機械的疼痛:腫瘍や感染による骨破壊・炎症、あるいは内臓・血管の病変から生じる痛み。姿勢や活動に関係なく持続し、安静時痛・夜間痛を伴う。 腰痛診療では、「時間や活動性に関係のない痛み」は重篤な疾患を疑う危険信号(red flags)の一つとされる。悪性腫瘍の脊椎転移や化膿性脊椎炎などの脊椎疾患、大動脈解離・腹部大動脈瘤破裂、腎・膵疾患などの内臓疾患がその代表である。本問の選択肢では、大動脈解離と転移性脊椎腫瘍が安静で改善しにくい背部痛をきたす。
選択肢考察
- ×a. 脊柱側弯症
該当しない。思春期に多い特発性側弯症は通常、痛みを伴わない(強い痛みを伴う側弯では腫瘍などの二次性の原因を疑う)。中高年にみられる変性側弯症では、椎間板変性や椎間関節の変形による腰痛を伴うことがあるが、これは負荷によって生じる機械的疼痛であり、安静にして負担を減らせば軽快する。
- ○b. 大動脈解離
該当する。大動脈の内膜に亀裂が入り、中膜が裂けて偽腔が形成される疾患で、突然発症する激烈な胸背部痛が典型である。解離の進展に伴って痛みが胸部から背部・腰部へ移動することがある。痛みの原因は血管壁そのものの損傷であり運動器由来ではないため、体位や安静によって軽減しない。治療の基本は降圧(収縮期血圧100〜120mmHgを目標)と鎮痛であり、上行大動脈に解離が及ぶStanford A型では原則として緊急手術、B型では合併症がなければ内科的治療が選択される。
- ○c. 転移性脊椎腫瘍
該当する。肺癌・乳癌・前立腺癌・腎癌・甲状腺癌などが脊椎に転移しやすい。腫瘍による骨破壊や骨膜への浸潤で痛みが生じるため、体位を変えたり休んだりしても原因は取り除かれず、安静時痛や夜間痛が特徴となる。椎体の骨皮質が破壊されたり病的骨折を起こしたりすると疼痛は増強し、脊髄・神経根の圧迫が加わると麻痺やしびれを生じる。癌の既往がある患者の持続する背部痛では、本症を念頭に画像検査を行う。
- ×d. 腰部脊柱管狭窄症
該当しない。加齢による椎間板の膨隆、椎間関節の肥厚、黄色靱帯の肥厚などで脊柱管が狭くなり、馬尾や神経根が圧迫される疾患である。典型的な症状は神経性間欠跛行で、立位や歩行(腰椎の伸展)で下肢のしびれや痛みが増悪し、前かがみや座位(腰椎の屈曲で脊柱管が広がる)で軽快する。腰痛自体は比較的軽度のことが多く、負荷を減らせば症状は軽くなる。
- ×e. 腰椎椎間板ヘルニア
該当しない。変性した椎間板の髄核が線維輪を破って突出し、神経根を圧迫して腰痛や片側の下肢痛(坐骨神経痛)を生じる。椎間板内圧は前かがみの座位や前屈・重量物挙上で上昇し、臥位で最も低くなるため、痛みは動作で増悪し臥床安静で軽快しやすい。多くは保存療法で改善する。
腰痛の危険信号(red flags)
腰痛診療ガイドラインなどで、重篤な脊椎疾患(腫瘍、感染、骨折など)を疑う所見として以下が挙げられている。 ・発症年齢が20歳未満または55歳を超える ・時間や活動性に関係のない腰痛(安静時痛・夜間痛) ・胸部痛を伴う ・癌、ステロイド治療、HIV感染の既往 ・栄養不良、原因不明の体重減少 ・広範囲に及ぶ神経症状(膀胱直腸障害、両下肢の麻痺など) ・構築性脊柱変形 ・発熱
安静で改善しにくい背部・腰痛をきたす主な疾患
・脊椎疾患:転移性脊椎腫瘍、多発性骨髄腫、化膿性脊椎炎、脊椎カリエス(結核性脊椎炎) ・血管疾患:大動脈解離、腹部大動脈瘤の切迫破裂・破裂 ・内臓疾患:急性膵炎、膵癌、腎盂腎炎、尿路結石、十二指腸潰瘍の穿通など ・リウマチ性疾患:強直性脊椎炎(炎症性腰痛は安静で増悪し、運動で軽快するのが特徴)
機械的腰痛の代表疾患と症状の変化
・腰椎椎間板ヘルニア:前屈・座位で増悪、臥位で軽快。下肢伸展挙上テスト(SLRテスト)陽性(L4/5、L5/S1レベル)。 ・腰部脊柱管狭窄症:腰椎伸展・歩行で増悪、前屈・座位で軽快(神経性間欠跛行)。閉塞性動脈硬化症による血管性間欠跛行は姿勢に関係なく立ち止まるだけで軽快する点で区別する。
POINT
・運動器由来の機械的腰痛(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変性側弯症など)は安静で軽快する。 ・安静で改善しない痛み、夜間痛は red flags であり、腫瘍・感染・血管疾患・内臓疾患を疑う。 ・転移性脊椎腫瘍:骨破壊による持続痛、安静時痛・夜間痛。癌既往に注意。 ・大動脈解離:突然発症の激烈な胸背部痛、痛みの移動。体位で変化しない。
