動かない関節の正体を見極める―拘縮・強直・強剛・痙縮の言葉の整理術
第113回医師国家試験 F問題 第10問
国試問題にチャレンジ
骨格筋の器質的な短縮によって生じるのはどれか。
- a.強剛
- b.強直
- c.痙縮
- d.拘縮
- e.振戦
対話形式の解説
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ドクターまとめ
関節の動きにくさを表す用語は、中枢神経障害による機能的な筋緊張亢進と、組織の構造変化による器質的な可動域制限に大別されます。機能的なものには、錐体外路障害で速度に依存しない一様な抵抗を示す強剛(鉛管様・歯車様)と、錐体路障害で速度依存性の抵抗や折りたたみナイフ現象を示す痙縮があります。器質的なものは、筋・腱・皮膚・関節包など関節外の軟部組織の短縮や癒着による拘縮と、骨・軟骨など関節構成体の癒合による強直に分けられ、骨格筋の器質的短縮で生じるのは拘縮です。拘縮は早期なら保存的治療で改善しうる一方、強直は手術を要することが多く、振戦はこれらとは別の不随意運動に分類されます。用語を正確に使い分けることは神経診察やリハビリテーションの計画、さらに長期臥床患者の拘縮予防といった日常診療の質に直結します。
解答・解説
正解はdです
関節が動きにくい、あるいは他動的に動かすと抵抗がある、という所見にはいくつかの用語があり、原因が「神経の働きの異常(機能的)」なのか「組織そのものの変化(器質的)」なのかで区別される。 ・機能的な異常: 筋そのものは正常だが、中枢神経の障害により筋緊張(筋トーヌス)が亢進している状態で、強剛(錐体外路障害)と痙縮(錐体路障害)がある。神経系の状態によって変化し、睡眠中や麻酔下では軽減しうる。 ・器質的な異常: 組織の構造が変化して関節の動く範囲(関節可動域)が狭まった状態で、原因となる組織の位置によって拘縮と強直に分けられる。関節の外にある軟部組織(筋・腱・皮膚・関節包など)が短縮・癒着・線維化したものが拘縮、関節そのもの(骨・軟骨などの関節構成体)が癒合・変形したものが強直である。 本問は「骨格筋の器質的な短縮」、すなわち関節の外にある軟部組織の構造的変化による可動域制限を問うているので、拘縮が該当する。振戦は筋緊張や可動域ではなく不随意運動の分類に属する用語である。
選択肢考察
- ×a. 強剛
強剛(筋強剛、固縮)は筋緊張亢進の一型で、関節を他動的に動かしたとき、動かす速さや方向にかかわらず、可動範囲の全体を通じて一様な抵抗が続く状態である。抵抗が一定の鉛管様強剛と、ガクガクと断続的に抵抗が変化する歯車様強剛がある。Parkinson病などの大脳基底核を含む錐体外路系の障害で生じる機能的な異常であり、筋自体の器質的な短縮によるものではない。
- ×b. 強直
強直は、骨や軟骨などの関節構成体そのものの病変によって関節が癒合し、可動域が著しく制限または消失した状態である。関節面が線維性組織でつながる線維性強直と、骨で連続する骨性強直がある。関節リウマチ、強直性脊椎炎、化膿性関節炎の後遺症などでみられる。原因は関節内部の器質的変化であり、関節外の筋の短縮によるものではない。保存的治療での改善は困難で、関節形成術や人工関節置換術などの手術が必要となることが多い。
- ×c. 痙縮
痙縮は筋緊張亢進の一型で、伸張反射の亢進により生じる。他動運動の速度に依存して抵抗が増し、速く動かすほど強い抵抗を示す。急に動かすと初めに強い抵抗があり、ある程度まで動かすと急に抵抗が抜ける現象を折りたたみナイフ現象という。脳卒中や脊髄損傷などの錐体路(上位運動ニューロン)障害で生じる機能的な異常であり、腱反射亢進や病的反射(Babinski徴候など)を伴う。器質的な筋の短縮そのものではないが、痙縮が長く続くと二次的に拘縮を合併することがある。
- ○d. 拘縮
拘縮は、関節包の外にある軟部組織(筋、腱、皮膚、皮下組織、靱帯、関節包など)の短縮・癒着・線維化といった器質的な変化によって関節可動域が制限された状態である。骨格筋が器質的に短縮すると、その筋が伸ばされる方向へ関節を動かせなくなり、拘縮となる。長期臥床や固定による廃用、麻痺に伴う不動、熱傷後の瘢痕、Volkmann拘縮(前腕の阻血による筋の壊死・線維化)、Dupuytren拘縮(手掌腱膜の肥厚・短縮)などが原因となる。強直と比べると、早期であれば関節可動域訓練やストレッチなどの保存的治療で改善が期待できる。
- ×e. 振戦
振戦は、拮抗する筋群が交互に収縮することで生じる、身体の一部の律動的な往復運動であり、最も頻度の高い不随意運動である。安静時に出現する安静時振戦(Parkinson病に特徴的)、姿勢を保持したときに出現する姿勢時振戦(本態性振戦、甲状腺機能亢進症など)、目標に近づくと増強する企図振戦(小脳障害)などに分類される。筋の器質的な短縮とは無関係である。
関節運動の制限・抵抗に関わる用語の整理
・強剛: 機能的(錐体外路障害)。速度に依存しない一様な抵抗。鉛管様・歯車様。 ・痙縮: 機能的(錐体路障害)。速度依存性の抵抗、折りたたみナイフ現象。腱反射亢進を伴う。 ・拘縮: 器質的。関節外の軟部組織(筋・腱・皮膚・関節包など)の短縮・癒着による可動域制限。保存的治療に比較的反応する。 ・強直: 器質的。関節構成体(骨・軟骨)の癒合・変形による可動域制限。線維性強直と骨性強直がある。手術を要することが多い。
拘縮の主な分類(原因組織による)
・皮膚性拘縮: 熱傷後や外傷後の瘢痕によるもの ・結合組織性拘縮: 腱膜・靱帯などによるもの(Dupuytren拘縮など) ・筋性拘縮: 筋の短縮・線維化によるもの(Volkmann拘縮、長期臥床による廃用など) ・神経性拘縮: 痙性麻痺や疼痛による反射性の筋緊張が持続して二次的に生じるもの
リハビリテーションでの意義
拘縮は臥床や固定によって比較的短期間で生じるため、良肢位の保持、体位変換、早期からの関節可動域訓練による予防が重要である。痙縮に対してはストレッチや装具、薬物療法(抗痙縮薬、ボツリヌス毒素の局所注射など)を行い、二次的な拘縮を防ぐ。
Parkinson病の主要徴候
安静時振戦、筋強剛、無動(寡動)、姿勢反射障害が4大徴候とされる。
POINT
・器質的な可動域制限: 拘縮(関節外の軟部組織、筋の短縮など)と強直(関節構成体の骨・軟骨) ・機能的な筋緊張亢進: 強剛(錐体外路、速度に依存しない)と痙縮(錐体路、速度依存性、折りたたみナイフ現象) ・骨格筋の器質的短縮 → 拘縮 ・拘縮は保存的治療で改善しうるが、強直は手術を要することが多い ・振戦は不随意運動であり、可動域制限とは別の概念
