40歳を過ぎて手元がぼやける理由―老視の主役は「硬くなるレンズ」
第113回医師国家試験 E問題 第6問
国試問題にチャレンジ
眼の加齢による調節力の低下に関与するのはどれか。
- a.角膜
- b.虹彩
- c.水晶体
- d.硝子体
- e.網膜
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
調節とは、見る距離に応じて眼の屈折力を変え網膜上にピントを合わせる働きで、その主役は水晶体です。近見時には副交感神経支配の毛様体筋が収縮してチン小帯が緩み、水晶体が自らの弾性で厚くなって屈折力が増します。加齢により水晶体の核が硬化して弾性を失うと十分に厚くなれず、40歳代ごろから近くが見えにくくなる老視が生じ、凸レンズで矯正します。角膜は最大の屈折要素ですが曲率が一定で調節には関与せず、虹彩の縮瞳は補助的役割にとどまり、硝子体の液化や加齢黄斑変性は調節とは別の加齢変化です。「屈折を担う構造」と「屈折を変える構造」を区別し、各構造の加齢変化を対応づけて理解することが、眼科の基礎と日常診療の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
加齢に伴う調節力の低下、すなわち老視(老眼)の原因となる構造を問う問題である。 調節とは、見る対象までの距離に応じて眼の屈折力を変え、網膜上にピントを合わせる働きである。近くを見るときは、動眼神経(副交感神経)の刺激で毛様体筋が収縮し、毛様体と水晶体をつなぐチン小帯(毛様小帯)が緩む。すると水晶体は自らの弾性によって厚く丸みを帯び、屈折力が増して近くにピントが合う。遠くを見るときはこの逆で、毛様体筋が弛緩してチン小帯が張り、水晶体は薄くなる。 この仕組みのうち、屈折力を「変化させる」主役は水晶体である。水晶体は生涯にわたって線維が追加され続け、中心部(核)は年齢とともに硬く弾力を失っていく。そのため毛様体筋が収縮してチン小帯が緩んでも水晶体が十分に厚くならず、調節力が低下する。これが老視であり、40歳代ごろから手元の文字が見えにくくなるという形で自覚される。 したがって、加齢による調節力低下に関与する構造として水晶体を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 角膜
誤り。角膜は眼球全体の屈折力の約3分の2を担う最大の屈折要素であるが、その曲率は固定されており、見る距離に応じて屈折力を変える機能はもたない。したがって調節には関与せず、加齢による調節力低下の原因にもならない。角膜の加齢変化としては、内皮細胞密度の減少や角膜周辺部の老人環(脂質沈着)などがあるが、いずれも調節力とは無関係である。
- ×b. 虹彩
誤り。虹彩は瞳孔の大きさを変えて眼内に入る光量を調節する組織である。近くを見る際には輻湊(両眼の内寄せ)、調節、縮瞳が同時に起こる(近見反応)が、縮瞳は焦点深度を深くする補助的な役割にとどまり、屈折力そのものを変えるわけではない。高齢者では瞳孔が小さくなる傾向(老人性縮瞳)があるが、調節力低下の原因ではない。
- ○c. 水晶体
正しい。調節で屈折力を変化させるのは水晶体である。水晶体は加齢とともに核が硬化して弾性を失うため、毛様体筋が収縮してチン小帯が緩んでも十分に厚みを増すことができなくなり、調節力が低下する。これが老視の本態である。調節力は若年期に最も大きく年齢とともに直線的に減少し、近点(はっきり見える最も近い距離)が遠ざかって、40歳代で読書距離(約30cm前後)にピントを合わせにくくなる。老視は凸レンズ(老眼鏡)で矯正する。なお水晶体の加齢変化が進んで混濁すると白内障となるが、これは老視とは別の病態である。
- ×d. 硝子体
誤り。硝子体は水晶体と網膜の間を満たす透明なゲル状組織で、眼球の形状保持に関わるが、屈折力を変化させる働きはない。加齢によってゲルが液状化し(液化)、やがて網膜から剝がれる後部硝子体剝離を起こし、飛蚊症の原因となるが、調節力の低下とは関係しない。
- ×e. 網膜
誤り。網膜は光を受けて電気信号に変換する感覚組織であり、ピントを合わせる働き(屈折)には関与しない。網膜の加齢変化としては、黄斑部が障害される加齢黄斑変性があり、視力低下や変視症(ゆがんで見える)をきたすが、調節力の低下とは別の問題である。
調節の仕組み
近くを見るとき:毛様体筋が収縮(副交感神経:動眼神経)→ チン小帯が弛緩 → 水晶体が自らの弾性で厚くなる → 屈折力が増す 遠くを見るとき:毛様体筋が弛緩 → チン小帯が緊張 → 水晶体が薄くなる → 屈折力が減る
近見反応(近見三徴)
近くを見るとき、輻湊・調節・縮瞳の3つが連動して起こる。
老視
・原因:加齢による水晶体の硬化(弾性低下)。毛様体筋の機能低下の関与も考えられているが、主因は水晶体である。 ・調節力は小児期に最も大きく、加齢とともに減少して60歳代ではほとんど失われる。 ・40歳代ごろから近くの文字が見えにくくなる、手元を離して読むようになるなどの症状で自覚される。遠視の人は早く、近視の人は遅く自覚しやすい。 ・矯正:凸レンズ(老眼鏡、遠近両用眼鏡など)。
眼の主な構造と加齢変化の対応
角膜:老人環、内皮細胞減少 虹彩:老人性縮瞳 水晶体:硬化による老視、混濁による白内障 硝子体:液化、後部硝子体剝離(飛蚊症) 網膜:加齢黄斑変性
POINT
・調節で屈折力を変えるのは水晶体である。 ・近見時は毛様体筋収縮 → チン小帯弛緩 → 水晶体が厚くなる。 ・老視は加齢による水晶体の硬化・弾性低下が主因で、凸レンズで矯正する。 ・角膜は最大の屈折要素だが曲率は一定で、調節には関与しない。
