StudyMed医師国家試験

40歳を過ぎて手元がぼやける理由―老視の主役は「硬くなるレンズ」

第113回医師国家試験 E問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第6問

眼の加齢による調節力の低下に関与するのはどれか。

  1. a.角膜
  2. b.虹彩
  3. c.水晶体
  4. d.硝子体
  5. e.網膜

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、年齢とともに近くが見えにくくなる「老視」の原因となる構造を問う問題だ。カギは「調節とは何をする働きか」を正しく理解すること。眼の中でピントの位置を変えているのはどこか、という視点で考えてみよう。
医学生医学生
屈折というと角膜が一番大きいと習ったので、角膜かと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこがよくある引っかけだね。確かに角膜は眼全体の屈折力の約3分の2を担う最大の屈折要素だ。でも角膜のカーブはほぼ一定で、見る距離に応じて屈折力を変えることはできない。調節とは「屈折力を変える」働きのことだから、主役は別にいるんだ。
医学生医学生
では、厚みを変えられる水晶体ですね。生理学の講義で毛様体筋とチン小帯の話を聞きました。
ドクタードクター
その通り。仕組みを順に整理しよう。近くを見るときは、動眼神経を通る副交感神経の刺激で毛様体筋が収縮する。すると毛様体と水晶体をつなぐチン小帯が緩み、水晶体は自分の弾性で厚く丸くなって屈折力が増す。遠くを見るときはその逆で、筋が緩んでチン小帯が張り、水晶体は薄くなる。
医学生医学生
筋肉が縮むとチン小帯が緩む、というのが直感と逆で、CBTの勉強のときに何度も混乱しました。
ドクタードクター
毛様体筋はリング状に並んでいて、収縮すると輪が小さくなり、水晶体との距離が縮まるからチン小帯がたるむ、とイメージするとわかりやすいよ。さて、加齢で何が起こるかというと、水晶体は一生にわたって線維が追加され続け、中心の核がだんだん硬くなって弾力を失っていく。
医学生医学生
だから毛様体筋がちゃんと縮んでチン小帯が緩んでも、水晶体が膨らみきれないわけですね。
ドクタードクター
まさにそれが老視の本態だ。調節力は小児期に最も大きく、年齢とともにほぼ一直線に減っていく。はっきり見える最も近い距離、つまり近点が遠ざかり、40歳代ごろには読書距離の30cm前後にピントが合わせにくくなる。毛様体筋の機能低下の関与も考えられているけれど、主因は水晶体の硬化と押さえておこう。
医学生医学生
虹彩も近くを見るときに縮瞳しますよね。近見反応の三徴で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。輻湊・調節・縮瞳の3つが連動するのが近見反応だ。ただ縮瞳は焦点深度を深くする補助的な役割で、屈折力そのものは変えない。高齢者では瞳孔が小さくなる老人性縮瞳もあるけれど、調節力低下の原因ではないんだ。
医学生医学生
硝子体と網膜はピント合わせに関わらないので外れますね。でも加齢変化はどちらにもあった気がします。
ドクタードクター
その整理が大事だよ。硝子体は加齢でゲルが液化し、後部硝子体剝離を起こして飛蚊症の原因になる。網膜では加齢黄斑変性が起こり、視力低下や変視症をきたす。角膜にも老人環や内皮細胞の減少がある。どれも「加齢変化」ではあるけれど、調節とは無関係だ。
医学生医学生
構造ごとに加齢変化を対応させて覚えると、紛らわしい選択肢にも強くなりそうです。
ドクタードクター
そうだね。もう一つ、水晶体の加齢変化には「硬くなる」老視と「濁る」白内障の2つがあって、別の病態だということも区別しておこう。
医学生医学生
眼科の臨床実習で、白内障手術で眼内レンズを入れた患者さんが「手元用の眼鏡が要る」と話していたのを思い出しました。
ドクタードクター
いいエピソードだね。単焦点の眼内レンズは厚みを変えられないから調節ができず、手元用の眼鏡が必要になることが多い。老視の矯正は凸レンズ、つまり老眼鏡や遠近両用眼鏡が基本だ。それから、遠視の人は元々ピント合わせに調節力を使っているので早めに老視を自覚しやすく、近視の人は遅めに自覚しやすい。外来で「最近手元が見にくい」という訴えを聞いたら、年齢と屈折状態をあわせて考えるといい。
医学生医学生
屈折を担う構造と、屈折を変える構造を分けて考えるのがポイントなんですね。
ドクタードクター
その通り。その区別ができれば、この分野の問題はぐっと解きやすくなるよ。

まとめ

調節とは、見る距離に応じて眼の屈折力を変え網膜上にピントを合わせる働きで、その主役は水晶体です。近見時には副交感神経支配の毛様体筋が収縮してチン小帯が緩み、水晶体が自らの弾性で厚くなって屈折力が増します。加齢により水晶体の核が硬化して弾性を失うと十分に厚くなれず、40歳代ごろから近くが見えにくくなる老視が生じ、凸レンズで矯正します。角膜は最大の屈折要素ですが曲率が一定で調節には関与せず、虹彩の縮瞳は補助的役割にとどまり、硝子体の液化や加齢黄斑変性は調節とは別の加齢変化です。「屈折を担う構造」と「屈折を変える構造」を区別し、各構造の加齢変化を対応づけて理解することが、眼科の基礎と日常診療の両方に役立ちます。

解答・解説

正解はcです

加齢に伴う調節力の低下、すなわち老視(老眼)の原因となる構造を問う問題である。 調節とは、見る対象までの距離に応じて眼の屈折力を変え、網膜上にピントを合わせる働きである。近くを見るときは、動眼神経(副交感神経)の刺激で毛様体筋が収縮し、毛様体と水晶体をつなぐチン小帯(毛様小帯)が緩む。すると水晶体は自らの弾性によって厚く丸みを帯び、屈折力が増して近くにピントが合う。遠くを見るときはこの逆で、毛様体筋が弛緩してチン小帯が張り、水晶体は薄くなる。 この仕組みのうち、屈折力を「変化させる」主役は水晶体である。水晶体は生涯にわたって線維が追加され続け、中心部(核)は年齢とともに硬く弾力を失っていく。そのため毛様体筋が収縮してチン小帯が緩んでも水晶体が十分に厚くならず、調節力が低下する。これが老視であり、40歳代ごろから手元の文字が見えにくくなるという形で自覚される。 したがって、加齢による調節力低下に関与する構造として水晶体を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  角膜

    誤り。角膜は眼球全体の屈折力の約3分の2を担う最大の屈折要素であるが、その曲率は固定されており、見る距離に応じて屈折力を変える機能はもたない。したがって調節には関与せず、加齢による調節力低下の原因にもならない。角膜の加齢変化としては、内皮細胞密度の減少や角膜周辺部の老人環(脂質沈着)などがあるが、いずれも調節力とは無関係である。

  2. ×b.  虹彩

    誤り。虹彩は瞳孔の大きさを変えて眼内に入る光量を調節する組織である。近くを見る際には輻湊(両眼の内寄せ)、調節、縮瞳が同時に起こる(近見反応)が、縮瞳は焦点深度を深くする補助的な役割にとどまり、屈折力そのものを変えるわけではない。高齢者では瞳孔が小さくなる傾向(老人性縮瞳)があるが、調節力低下の原因ではない。

  3. ○c.  水晶体

    正しい。調節で屈折力を変化させるのは水晶体である。水晶体は加齢とともに核が硬化して弾性を失うため、毛様体筋が収縮してチン小帯が緩んでも十分に厚みを増すことができなくなり、調節力が低下する。これが老視の本態である。調節力は若年期に最も大きく年齢とともに直線的に減少し、近点(はっきり見える最も近い距離)が遠ざかって、40歳代で読書距離(約30cm前後)にピントを合わせにくくなる。老視は凸レンズ(老眼鏡)で矯正する。なお水晶体の加齢変化が進んで混濁すると白内障となるが、これは老視とは別の病態である。

  4. ×d.  硝子体

    誤り。硝子体は水晶体と網膜の間を満たす透明なゲル状組織で、眼球の形状保持に関わるが、屈折力を変化させる働きはない。加齢によってゲルが液状化し(液化)、やがて網膜から剝がれる後部硝子体剝離を起こし、飛蚊症の原因となるが、調節力の低下とは関係しない。

  5. ×e.  網膜

    誤り。網膜は光を受けて電気信号に変換する感覚組織であり、ピントを合わせる働き(屈折)には関与しない。網膜の加齢変化としては、黄斑部が障害される加齢黄斑変性があり、視力低下や変視症(ゆがんで見える)をきたすが、調節力の低下とは別の問題である。

調節の仕組み

近くを見るとき:毛様体筋が収縮(副交感神経:動眼神経)→ チン小帯が弛緩 → 水晶体が自らの弾性で厚くなる → 屈折力が増す 遠くを見るとき:毛様体筋が弛緩 → チン小帯が緊張 → 水晶体が薄くなる → 屈折力が減る

近見反応(近見三徴)

近くを見るとき、輻湊・調節・縮瞳の3つが連動して起こる。

老視

・原因:加齢による水晶体の硬化(弾性低下)。毛様体筋の機能低下の関与も考えられているが、主因は水晶体である。 ・調節力は小児期に最も大きく、加齢とともに減少して60歳代ではほとんど失われる。 ・40歳代ごろから近くの文字が見えにくくなる、手元を離して読むようになるなどの症状で自覚される。遠視の人は早く、近視の人は遅く自覚しやすい。 ・矯正:凸レンズ(老眼鏡、遠近両用眼鏡など)。

眼の主な構造と加齢変化の対応

角膜:老人環、内皮細胞減少 虹彩:老人性縮瞳 水晶体:硬化による老視、混濁による白内障 硝子体:液化、後部硝子体剝離(飛蚊症) 網膜:加齢黄斑変性

POINT

・調節で屈折力を変えるのは水晶体である。 ・近見時は毛様体筋収縮 → チン小帯弛緩 → 水晶体が厚くなる。 ・老視は加齢による水晶体の硬化・弾性低下が主因で、凸レンズで矯正する。 ・角膜は最大の屈折要素だが曲率は一定で、調節には関与しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。