首で聞こえる「ザーッ」の正体―血管雑音を生む3つの仕組みと、仲間外れの甲状腺機能低下症
第113回医師国家試験 E問題 第22問
国試問題にチャレンジ
頸部で血管雑音を有する成人患者で考えにくいのはどれか。
- a.頸動脈狭窄
- b.甲状腺機能低下症
- c.高安動脈炎〈大動脈炎症候群〉
- d.動静脈瘻
- e.貧血
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血管雑音は血流が層流から乱流に変わることで生じ、その原因は「内腔の狭窄」「血流量の増加や粘稠度の低下(高心拍出状態)」「動静脈の短絡」の3つに整理できます。頸動脈狭窄や高安動脈炎は狭窄、貧血は高心拍出と低粘稠度、動静脈瘻は短絡によって頸部の血管雑音を生じ、動静脈瘻では連続性雑音が特徴です。一方、甲状腺機能低下症は徐脈と心拍出量の低下をきたし、いずれの機序にも当てはまらないため血管雑音の原因とはなりにくく、頸部で雑音を生じるのは逆の甲状腺機能亢進症(バセドウ病)です。頸動脈雑音は無症状でも心血管イベントのリスクを示すサインであり、大動脈弁狭窄症の放散雑音や静脈コマ音との区別も重要です。「なぜ音が鳴るのか」という仕組みから考える習慣は、聴診所見の解釈全般に応用できます。
解答・解説
正解はbです
頸部で聴取される血管雑音(bruit)の成り立ちを理解しているかを問う問題である。 血管雑音は、血管内の血流が本来の層流から乱流に変わったときに生じる。乱流が起こる状況は大きく次の三つに整理できる。 1.血管の内腔が狭くなり、狭窄部で血流速度が上がる(例:動脈硬化による頸動脈狭窄、血管炎による狭窄)。 2.血流量そのものが増える、あるいは血液の粘稠度が下がって流れやすくなる(例:貧血、甲状腺機能亢進症、発熱、妊娠などの高心拍出状態)。 3.高圧の動脈から低圧の静脈へ、毛細血管を介さずに血液が直接流れ込む短絡がある(例:動静脈瘻)。 頸部では総頸動脈や内頸静脈が皮膚の浅いところを走るため、聴診器で血管雑音を捉えやすい。選択肢の各疾患について、上記のどの機序に当てはまるかを考えると、甲状腺機能低下症はいずれにも該当しない。甲状腺機能低下症では代謝が低下し、心拍数や心拍出量が減って甲状腺自体の血流も増えないため、血管雑音の原因とはならない。血管雑音を生じやすいのは、逆の病態である甲状腺機能亢進症(バセドウ病)である。
選択肢考察
- ×a. 頸動脈狭窄
動脈硬化(アテローム硬化)などで頸動脈、特に総頸動脈から内頸動脈が分かれる分岐部の内腔が狭くなると、狭窄部を通過する血流が加速して乱流となり、収縮期を中心とした血管雑音が聴かれる。頸部血管雑音の代表的な原因である。ただし、狭窄がきわめて高度(閉塞寸前)になると血流量が減って逆に雑音が小さくなったり消えたりすることがあり、雑音の大きさと狭窄の程度は必ずしも比例しない。頸部血管雑音を認めた場合は頸動脈超音波検査で狭窄の有無と程度を評価する。
- ○b. 甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの不足により代謝が低下し、徐脈や心拍出量の減少を生じる。甲状腺そのものの血流も増加せず、血管の狭窄や短絡も起こさないため、頸部血管雑音の原因にはならない。頸部で血管雑音を生じるのは逆に甲状腺機能亢進症であり、特にバセドウ病では腫大した甲状腺の血流が著しく増えるため、甲状腺上で連続性の雑音(thyroid bruit)が聴かれることがある。加えて高心拍出状態による頸動脈の雑音もみられる。
- ×c. 高安動脈炎〈大動脈炎症候群〉
高安動脈炎は、大動脈とその主要な枝(鎖骨下動脈、総頸動脈、腎動脈など)に起こる原因不明の大血管炎であり、若年女性に多い。血管壁の炎症と線維化によって動脈が狭窄・閉塞、あるいは拡張し、狭窄部で乱流が生じるため、頸部や鎖骨上窩で血管雑音を聴取する。上肢の脈拍が触れにくくなる(脈なし病)、左右の上肢で血圧差がある、といった所見とともに診断の重要な手がかりとなる。
- ×d. 動静脈瘻
動静脈瘻は、動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接つながった状態であり、外傷や医原性(カテーテル穿刺など)、先天性の血管奇形などで生じる。頸部では、外傷後の頸動脈と内頸静脈の短絡などがある。高圧の動脈から低圧の静脈へ収縮期にも拡張期にも血液が流れ込むため、連続性雑音を聴取し、触診でスリル(振戦)を触れることもある。透析用に作製したシャント(内シャント)で聴かれる雑音と同じ原理である。
- ×e. 貧血
貧血では、組織への酸素供給を保つために心拍出量が増え、さらに血液の粘稠度が低下するため、血流が速くなって乱流を生じやすい。そのため心尖部や心基部での機能性収縮期雑音に加えて、頸部でも血管雑音を聴取することがある。また、高度の貧血では内頸静脈の血流増加による静脈コマ音(venous hum)という連続性雑音を右鎖骨上窩付近で聴くこともある。
頸部で聴かれる主な雑音
・頸動脈雑音:頸動脈狭窄(動脈硬化)、高安動脈炎など。収縮期を中心とする。 ・甲状腺の血管雑音:バセドウ病などの甲状腺機能亢進症で、腫大した甲状腺の血流増加による。 ・静脈コマ音(venous hum):内頸静脈の血流による連続性雑音。小児や妊婦、貧血、甲状腺機能亢進症で聴かれやすく、座位で強くなり、仰臥位や頸静脈の圧迫で消えるのが特徴である。病的意義に乏しいことが多い。 ・心雑音の放散:大動脈弁狭窄症の収縮期駆出性雑音は頸部へ放散するため、頸動脈雑音との区別が必要である。 ・動静脈瘻の連続性雑音。
頸動脈雑音の臨床的意義
無症状でも頸動脈雑音を認める人は、認めない人に比べて脳梗塞や心筋梗塞、心血管死のリスクが高いことが知られており、全身の動脈硬化の指標となる。一方で、雑音の有無だけでは狭窄の程度を正確に判定できないため、頸動脈超音波検査、CT血管造影、MR血管造影などで評価する。
甲状腺機能亢進症と低下症の循環器所見の対比
・亢進症:頻脈、心房細動、脈圧の増大、高心拍出、甲状腺血管雑音。 ・低下症:徐脈、心拍出量低下、心嚢液貯留、拡張期血圧の上昇、脂質異常症(高LDLコレステロール血症)。
POINT
・血管雑音は乱流で生じる。原因は「狭窄」「血流量増加(高心拍出・低粘稠度)」「動静脈短絡」の三つ。 ・頸部血管雑音:頸動脈狭窄、高安動脈炎、動静脈瘻、貧血、甲状腺機能亢進症。 ・甲状腺機能低下症は心拍出量が低下するため、血管雑音の原因とならない。 ・動静脈瘻は連続性雑音。
