StudyMed医師国家試験

血便と便秘、そしてリンゴの芯―S状結腸癌の術式は「場所」で決まる

第113回医師国家試験 D問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第113回 D問題 第28問

72歳の女性。2か月前から便に血液が付着し,便秘傾向になったため来院した。腹部は平坦,軟で,腫瘤を触知しない。下部消化管内視鏡像(A)及びCTコロノグラム(B)を別に示す。胸腹部造影CTで他臓器やリンパ節への転移を認めない。  術式として適切なのはどれか。

第113回 D問題 第28問の問題画像
  1. a.S状結腸切除術
  2. b.横行結腸切除術
  3. c.右半結腸切除術
  4. d.大腸全摘術
  5. e.直腸切断術

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、大腸癌の部位を画像から読み取り、それに見合った術式を選ぶ問題だ。ポイントは「腫瘍がどこにあるか」と「転移があるかどうか」の2つ。まず、数か月続く血便と便秘傾向という症状から、どのあたりの病変を考えるかな。
医学生医学生
便秘になるということは、内腔が狭くなっている左側の大腸でしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。下行結腸やS状結腸は内腔が細く、便がすでに固まっているから、腫瘍で狭くなると便秘や便が細くなる症状として現れやすい。出血も肛門に近いぶん、便に付いた血として気づかれやすいんだ。
医学生医学生
逆に右側の大腸癌は、貧血で見つかることが多いと消化器内科の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。盲腸や上行結腸は内腔が広く便も液状なので、狭窄症状が出にくい。じわじわ出血して鉄欠乏性貧血や腹部腫瘤で見つかることが多いね。では画像を見ていこう。内視鏡では、全周性に隆起した不整な腫瘤があって、表面は出血しやすく、内腔が高度に狭くなっている。
医学生医学生
全周性で内腔を狭めるほどなら、早期癌ではなく進行癌ですよね。
ドクタードクター
そう考えていい。粘膜下層を越えて深く浸潤した進行大腸癌を示唆する所見だ。次にCTコロノグラフィ。これは炭酸ガスで大腸を膨らませてCTを撮り、大腸全体を立体的に再構成する検査なんだけど、S状結腸に短い区間だけ強くくびれた狭窄が見える。
医学生医学生
芯だけ残ったリンゴみたいな形ですね。apple core signって放射線科の実習で教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。全周性の腫瘍で腸管がくびれた、進行大腸癌に典型的な形だ。CTコロノグラフィは、狭窄で内視鏡が通らないときに口側の大腸を評価できるのも利点だよ。そして造影CTで遠隔転移もリンパ節転移もない。ここまでで診断はどうなる?
医学生医学生
遠隔転移のない進行S状結腸癌です。転移がないので、手術で根治を目指せますね。
ドクタードクター
その通り。遠隔転移のない大腸癌では、腫瘍を含む腸管を十分な安全域をとって切除し、腫瘍の栄養血管に沿ったリンパ節を郭清するのが標準だ。どこを切るかは腫瘍の場所で決まる。S状結腸癌ならS状結腸切除術で、下腸間膜動脈の根部方向へリンパ節を郭清し、残った下行結腸と直腸をつなぐ。
医学生医学生
直腸に近いので、直腸切断術も候補になるのかと一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこはしっかり区別しよう。直腸切断術、いわゆるMiles手術は、肛門に近い下部直腸癌や肛門管癌で、肛門括約筋を残せないときに直腸と肛門をまとめて取り、永久人工肛門をつくる術式だ。今回はS状結腸の病変で、肛門を温存して切除・吻合ができるから、あえて肛門まで取る理由はない。
医学生医学生
横行結腸切除術や右半結腸切除術は、部位がまったく違うので外れますね。
ドクタードクター
そう。横行結腸切除術は横行結腸の中央付近の癌で中結腸動脈領域を郭清する術式、右半結腸切除術は盲腸から上行結腸、肝弯曲部付近の癌に対して回結腸動脈や右結腸動脈の領域ごと切除する術式だ。どちらもS状結腸の腫瘍は取り除けない。
医学生医学生
大腸全摘術は、潰瘍性大腸炎の手術で見たことがあります。
ドクタードクター
いい経験だね。大腸全摘は、内科治療が効かない重症の潰瘍性大腸炎や、癌を合併した潰瘍性大腸炎、家族性大腸腺腫症などが対象になる。単発のS状結腸癌に対しては切除範囲が大きすぎるし、排便機能も大きく損なわれるから選ばない。
医学生医学生
部位ごとに支配血管と術式がセットになっている、ということですね。
ドクタードクター
その理解が大切だ。発展として、リンパ節郭清の範囲も押さえておこう。腸管傍リンパ節までがD1、中間リンパ節までがD2、栄養動脈の根部にある主リンパ節まで取るのがD3。固有筋層を越える進行癌が疑われる場合はD3郭清が推奨され、現在は腹腔鏡下で行われることが多い。
医学生医学生
術前CTでリンパ節転移がなければ、病期はもう決まっているんですか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だね。大腸癌の最終的な病期は、切除標本の壁深達度とリンパ節転移を病理で評価して確定する。術前CTで転移がなくても、術後に微小な転移が見つかることはあって、その結果で術後補助化学療法を検討することになる。だから術前の段階では「遠隔転移のない進行癌」と表現するのが正確なんだ。
医学生医学生
血便と排便習慣の変化を見たら左側の大腸癌を疑って、画像で場所を決め、場所に合わせて術式を選ぶ、という流れで覚えます。

まとめ

数か月続く血便と便秘傾向などの排便習慣の変化は、内腔が細く便が固形化している左側結腸や直腸の癌を疑わせる症状です。内視鏡で全周性の不整な易出血性腫瘤と高度狭窄を認め、CTコロノグラフィでS状結腸にapple core様の限局性狭窄があり、遠隔転移やリンパ節転移を認めなければ、根治切除の適応となる進行S状結腸癌と判断できます。術式は腫瘍の部位で決まり、S状結腸癌では下腸間膜動脈領域のリンパ節郭清(進行癌ではD3郭清)を伴うS状結腸切除術を行います。右側結腸癌には右半結腸切除術、括約筋を温存できない下部直腸癌には直腸切断術(Miles手術)、潰瘍性大腸炎や家族性大腸腺腫症には大腸全摘術と、部位・疾患と術式を対応づけて理解しておくことが重要です。最終的な病期は切除標本の病理評価で確定するため、術前は画像所見の範囲で表現を慎重に選ぶ姿勢も臨床では欠かせません。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・72歳の女性、2か月前からの便への血液付着と便秘傾向:数か月単位で続く血便と排便習慣の変化は、左側結腸(下行結腸・S状結腸)や直腸の大腸癌を強く疑わせる症状である。左側結腸は内腔が細く、便がすでに固形化しているため、腫瘍による狭窄が便秘や便柱狭小として現れやすく、出血も肉眼で気付かれやすい。 ・腹部は平坦・軟で腫瘤を触知しない:腹膜炎や腸閉塞をきたしている所見はない。なお、進行癌であっても腫瘤を触れないことは珍しくない。 ・下部消化管内視鏡像(A):全周性に隆起した不整で易出血性の腫瘤があり、内腔は高度に狭窄している。表面が不整で出血しやすく、管腔を全周性に狭める腫瘤は、粘膜下層を越えて深く浸潤した進行大腸癌を示唆する所見である。 ・CTコロノグラム(B):CTで撮影した大腸の立体像で、S状結腸に短い区間に限局した高度の狭窄が描出されている。全周性の腫瘍によって腸管が芯を残したリンゴのように細くくびれた、いわゆるapple core様の狭窄であり、進行大腸癌に特徴的な形態である。 ・胸腹部造影CTで他臓器・リンパ節転移なし:画像上は遠隔転移もリンパ節転移もない、局所に限局した病変である。

診断

以上から、遠隔転移のない進行S状結腸癌と診断できる。

設問の考え方

遠隔転移のない大腸癌に対しては、腫瘍を含む腸管を十分な距離(安全域)をとって切除し、腫瘍の栄養血管に沿う所属リンパ節を郭清する根治手術が標準である。どこを切除するかは腫瘍の存在部位で決まり、S状結腸癌では下腸間膜動脈の領域に沿ってリンパ節を郭清し、S状結腸を切除する術式が選ばれる。他の術式は対象となる部位や疾患が異なる。

選択肢考察

  1. ○a.  S状結腸切除術

    適切である。腫瘍の局在がS状結腸であり、遠隔転移を認めないため、根治を目指した切除の適応となる。S状結腸切除術では、腫瘍の口側・肛門側にそれぞれ十分な腸管をつけてS状結腸を切除し、S状結腸動脈から下腸間膜動脈根部方向へのリンパ節郭清を併せて行い、残った下行結腸と直腸を吻合する。進行癌であることから、所属リンパ節を広く取る郭清(D3郭清)が基本となり、現在は腹腔鏡下で行われることが多い。

  2. ×b.  横行結腸切除術

    適切でない。横行結腸の中央部付近にある癌に対する術式で、中結腸動脈の領域のリンパ節を郭清する。本例の病変はS状結腸にあり、横行結腸を切除しても腫瘍は取り除けない。

  3. ×c.  右半結腸切除術

    適切でない。盲腸・上行結腸・横行結腸の右側(肝弯曲部付近)の癌に対する術式で、回腸末端から横行結腸右側までを、回結腸動脈・右結腸動脈・中結腸動脈右枝の領域のリンパ節とともに切除する。病変部位がS状結腸である本例には該当しない。

  4. ×d.  大腸全摘術

    適切でない。大腸全体を切除する術式で、内科治療が無効な重症・難治性の潰瘍性大腸炎、大腸癌を合併した潰瘍性大腸炎、家族性大腸腺腫症などが適応となる。単発のS状結腸癌に対しては切除範囲が過大であり、排便機能を大きく損なうため選択されない。

  5. ×e.  直腸切断術

    適切でない。腹会陰式直腸切断術(Miles手術)のことで、肛門に近い下部直腸癌や肛門管癌など、肛門括約筋を温存できない場合に直腸と肛門をまとめて切除し、永久人工肛門(S状結腸人工肛門)を造設する術式である。本例は直腸ではなくS状結腸の癌であり、肛門を温存して切除・吻合が可能であるため適応とならない。

大腸癌の部位と症状

・右側結腸(盲腸・上行結腸):内腔が広く便が液状のため狭窄症状が出にくく、慢性出血による鉄欠乏性貧血や腹部腫瘤で見つかることが多い。 ・左側結腸(下行結腸・S状結腸)・直腸:血便、便秘、便柱狭小、腹痛、腸閉塞などを生じやすい。大腸癌はS状結腸と直腸に多く発生する。

大腸癌の部位別の標準術式

・盲腸・上行結腸癌:回盲部切除術、右半結腸切除術 ・横行結腸癌:横行結腸切除術(部位により右半または左半結腸切除術) ・下行結腸癌:左半結腸切除術、下行結腸切除術 ・S状結腸癌:S状結腸切除術 ・直腸癌:(高位・低位)前方切除術、括約筋間直腸切除術(ISR)、腹会陰式直腸切断術(Miles手術)など、肛門からの距離と括約筋温存の可否で選択する

リンパ節郭清

・D1:腸管傍リンパ節、D2:さらに中間リンパ節まで、D3:主リンパ節(栄養動脈の根部)まで郭清する。 ・術前に固有筋層を越える深さが疑われる進行癌や、リンパ節転移が疑われる場合はD3郭清が推奨される。

病期について

大腸癌の最終的な病期は、切除標本での壁深達度とリンパ節転移の病理学的評価で確定する。術前CTでリンパ節転移がなくても、術後に微小な転移が見つかることがある。

CTコロノグラフィ

炭酸ガスで大腸を拡張させてCTを撮影し、内視鏡のような画像や大腸全体の立体像を再構成する検査である。腫瘍の部位を正確に把握でき、狭窄のため内視鏡が通過できない場合に口側の大腸を評価するのにも有用である。

POINT

・慢性の血便+便秘(排便習慣の変化)→ 左側結腸癌・直腸癌を疑う。 ・内視鏡で全周性狭窄、CTコロノグラフィでS状結腸の限局性狭窄 → 進行S状結腸癌。 ・遠隔転移のない大腸癌は、部位に応じた腸管切除+リンパ節郭清で根治を目指す。 ・S状結腸癌 → S状結腸切除術、右側結腸癌 → 右半結腸切除術、下部直腸癌で括約筋温存不能 → 直腸切断術(Miles手術)、大腸全摘術は潰瘍性大腸炎・家族性大腸腺腫症など。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。