抗癌薬も放射線も効きにくい癌―腎細胞癌の多発肺転移に「まず」何を選ぶか
第113回医師国家試験 C問題 第50問
国試問題にチャレンジ
51歳の女性。左腎細胞癌に対して根治的左腎摘除術を受けている。術後10か月で,両肺に径1cm未満の肺転移が複数出現した。 肺転移に対して,まず行うべき治療として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.手術
- b.分子標的薬
- c.放射線照射
- d.ホルモン療法
- e.インターフェロン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腎細胞癌は静脈内に進展しやすく血行性に転移するため、遠隔転移の最多部位は肺です。殺細胞性抗癌薬や放射線には抵抗性である一方、VEGFを介した血管新生への依存と高い免疫原性という特徴があり、転移性腎細胞癌の全身療法は分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬、mTOR阻害薬)と免疫療法が柱となります。転移巣切除は無病期間が長く少数転移で完全切除可能な場合に有効ですが、術後早期の両側多発肺転移ではまず全身療法を行い、放射線は骨・脳転移などの症状緩和に、ホルモン療法は前立腺癌や乳癌などに用いられます。出題当時はインターフェロンも標準的な選択肢でしたが、現在は免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法が一次治療の中心です。腫瘍ごとの感受性の違いを理解することは、治療法が更新されても通用する臨床判断の土台になります。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
・51歳女性、左腎細胞癌に対して根治的腎摘除術後 ・術後10か月という比較的早期に再発 ・再発部位は両側の肺で、径1cm未満の小結節が多発
病態の把握
腎細胞癌は静脈内へ進展しやすく、腎静脈→下大静脈→右心系→肺動脈という経路で血行性に転移するため、遠隔転移の最多部位は肺である。本例は腎摘除後の異時性多発肺転移であり、全身に腫瘍細胞が散布された状態(転移性腎細胞癌)と考える。
治療方針の考え方
腎細胞癌は一般的な殺細胞性抗癌薬(従来型化学療法)がほとんど効かず、放射線感受性も低い。その一方で、①血管新生にかかわる VEGF(血管内皮増殖因子)経路や mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)経路が腫瘍の増殖に深く関与していること、②免疫療法が効きやすい「免疫原性の高い」腫瘍であること、という特徴をもつ。このため、転移性腎細胞癌に対する全身療法の柱は分子標的薬と免疫療法である。 また腎細胞癌は、他の癌と異なり、転移巣を完全切除できれば生存期間の延長が期待できる数少ない癌である。ただし手術が適応となるのは、無病期間(腎摘除から再発までの期間)が長く、転移が孤立性または少数で完全切除が可能な場合に限られる。本例は再発までが10か月と短く、両側肺に多発しているため、完全切除は見込めない。 したがって「まず行うべき治療」は全身療法であり、選択肢の中では分子標的薬とインターフェロン(サイトカイン療法)が該当する。全身療法で病勢を制御・縮小させたのち、残存病変が限られて完全切除可能となれば、手術を追加することが検討される。
選択肢考察
- ×a. 手術
腎細胞癌の肺転移切除が予後を改善するのは、無病期間が長く、転移巣が少数で完全切除できる症例である。本例は術後10か月と早期の再発で、病変は両肺に多発しているため、すべてを取り切ることは困難である。不完全な切除では生存上の利益が乏しく、最初に選ぶ治療ではない。全身療法で縮小・制御が得られた後に、限られた残存病変に対して検討される位置づけである。
- ○b. 分子標的薬
転移性腎細胞癌の全身療法の中心となる薬剤である。腎細胞癌(特に淡明細胞型)では VHL 遺伝子の異常により低酸素誘導因子(HIF)が蓄積し、VEGF などが過剰に産生されて腫瘍血管新生が亢進している。これを標的とするチロシンキナーゼ阻害薬(スニチニブ、パゾパニブ、アキシチニブ、カボザンチニブなど)や mTOR 阻害薬(エベロリムス、テムシロリムス)が用いられ、手術不能・多発転移例でまず選択される。現在では免疫チェックポイント阻害薬との併用も標準的に行われている。
- ×c. 放射線照射
腎細胞癌は放射線感受性が低い腫瘍であり、両肺に散在する多発転移に対して根治や病勢制御を目的とした初期治療として放射線照射を行うことはない。放射線治療は、骨転移による疼痛の緩和や病的骨折の予防、脳転移の制御など、症状緩和や局所制御を目的に用いられる。
- ×d. ホルモン療法
ホルモン療法(内分泌療法)は、増殖がホルモンに依存する腫瘍、すなわち前立腺癌(アンドロゲン遮断療法)、乳癌(抗エストロゲン薬、アロマターゼ阻害薬など)、子宮体癌(黄体ホルモン療法)などが対象である。腎細胞癌の増殖はホルモン依存性ではなく、有効性は示されていない。
- ○e. インターフェロン
インターフェロンα(およびインターロイキン2)を用いるサイトカイン療法は、腎細胞癌が免疫療法に反応しやすい性質を利用した治療で、分子標的薬が登場する以前は転移性腎細胞癌の薬物療法の中心であった。特に肺転移のみで病変が小さく数が少ない症例では効果が期待しやすいとされ、本例のような径1cm未満の肺転移はよい適応と考えられた。効果は分子標的薬に比べて劣るものの、出題当時は選択肢となりうる全身療法であった。なお現在では免疫チェックポイント阻害薬の登場により、使用される場面は大きく減っている。
腎細胞癌の概要
・腎実質(主に近位尿細管上皮)由来の悪性腫瘍で、組織型は淡明細胞型が約7〜8割を占める。 ・危険因子:喫煙、肥満、高血圧、長期透析(後天性嚢胞性腎疾患)、von Hippel-Lindau(VHL)病など。 ・古典的三徴(血尿・側腹部痛・腹部腫瘤)がそろうことは少なく、現在は健診などの画像検査で偶然見つかる例が多い。 ・腫瘍随伴症状として発熱、赤血球増多(エリスロポエチン産生)、高Ca血症(PTHrP産生)、Stauffer症候群(転移のない肝機能障害)などがある。 ・静脈内腫瘍塞栓を形成しやすく、血行性転移が多い。転移部位は肺が最多で、次いで骨、リンパ節、肝、脳など。
腎細胞癌の治療の特徴
・限局癌:腎部分切除術または根治的腎摘除術が基本。 ・殺細胞性抗癌薬はほぼ無効、放射線感受性も低い。 ・転移巣でも完全切除できれば予後改善が期待できる(転移巣切除の意義がある数少ない癌)。 ・転移・再発例の全身療法の変遷: サイトカイン療法(インターフェロンα、インターロイキン2) → 分子標的薬(VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬、mTOR阻害薬) → 免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アベルマブなど)の登場 ・現在の進行・転移性腎細胞癌(淡明細胞型)の一次治療は、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用、または免疫チェックポイント阻害薬とチロシンキナーゼ阻害薬の併用が中心となっており、リスク分類(IMDC分類など)も参考に選択される。
ホルモン療法の対象となる主な癌
前立腺癌、乳癌、子宮体癌など。
POINT
・腎細胞癌は肺への血行性転移が多い。 ・抗癌薬(殺細胞性)・放射線に抵抗性で、全身療法は分子標的薬と免疫療法(サイトカイン療法、免疫チェックポイント阻害薬)が中心。 ・転移巣切除は、無病期間が長く少数転移で完全切除できる場合に限って有効。多発転移ではまず全身療法を行う。 ・放射線治療は骨転移・脳転移などの症状緩和・局所制御目的。 ・ホルモン療法は前立腺癌・乳癌・子宮体癌が対象で、腎細胞癌には用いない。
